悠良は気まずそうに視線を逸らした。
「......別に大丈夫です」
顔を背け、気恥ずかしさに唇をきゅっと結びながら、つくづく情けない気分だった。
こっそり見ていただけなのに、その場で気づかれるなんて最悪だ。
伶は腕時計に目をやり、ぽつりと言った。
「このあと俺は会議がある。隣の診察室に白川を呼びに行ってやろうか?」
悠良は苦笑する。
「寒河江さん、本当に冗談がお上手ですね」
今この状況で史弥を呼びに行かせるなんて、それこそ自分から恥をかきに行くようなものだ。
「じゃあ俺はもう行くよ」
伶はそう言って、椅子の背にかけていた上着を取ると立ち去ろうとした。
そのとき悠良は思わず声をかけた。
「寒河江さん、ちょっとお話したいことがあるんですけど、5分だけ時間いただけませんか?」
今ここで逃したら、きっともう簡単には連絡も取れない相手だと思った。
オアシスプロジェクトは急ぎ進めなければならないのだから。
伶は振り返らずに低い声で答えた。
「もし俺に、早く白川と契約させてプロジェクトの全権を君に任せろと言いたいなら、聞いてやってもいい」
悠良は眉をひそめる。
「どうしてですか?」
すぐに付け足す。
「大丈夫ですよ。特別扱いされてるなんて思ってませんから」
伶はわずかに顔を横に向けた。
「能力もないようなぶりっ子と仕事するのは、俺にとって時間の無駄だからな」
悠良は納得した。
「そのままお伝えします」
伶は細く長い指で病室のドアを開き、そのまま出て行った。
悠良はつい考え込む。
史弥は疑い深い性格だ。
もし伶の言葉をそのまま伝えたら、自分と伶に特別な繋がりでもあると勘ぐるに違いない。
それでも今はそんなこと気にしていられなかった。
玉巳が計画に関わっているとしたら、それこそ不安でたまらない。
せっかくのプロジェクトがまたかき回されるなんてごめんだった。
――
隣の診察室では寿美の診察が終わり、玉巳が母親を支えて出てきた。
「お母さん、今後は体調に変化があったらすぐに私に言って。我慢しないで」
「ええ。それにしてもさっきの人、一体どういうことだったのかしら?聞いてるうちにますます分からなくなったよ。史弥の奥さんは一体誰なの?」
玉巳は内心ひやりとしつつも、母があまりよく理解していないことに少し安堵した。
「気