「紹介はできますが、寒河江さんが気に入るかどうかまでは保証できません。あの人は好みがうるさいですし、気難しくて読めませんから......」
小林爺も悠良にそれ以上無理に求めることはなかった。
「いいだろう」
それを聞いた悠良はもうここに長居するつもりはなく、さっと立ち上がる。
「では、莉子にまだ連絡します」
家を出ると、一気に空気が軽くなった気がした。
さっきまで中にいたときは息が詰まるほどだったのに、今はそれが嘘みたいだった。
思わず額の傷に触れると、痛みで顔をしかめる。
「つっ......」
莉子、本気でやってきたな。
でもまあ、自分もそれなりにやり返したからいいか。
スマホを取り出してタクシーを呼ぼうとしたとき、ふと葉からメッセージが届いているのに気づいた。
【今日、父親のお誕生日で実家に帰ってるの?】
悠良は葉が何か用事があるのかと思い、手早く返信した。
【うん。どうかした?】
するとすぐに葉から怒った顔文字と短いメッセージが送られてきた。
【石川のSNS見てみて】
悠良はSNSを開いた。
半時間前に投稿されたものだった。
【これからの誕生日は毎年、最愛の人と一緒に】
その下には写真が一枚添えられていた。
玉巳が海辺で後ろ向きに男と手をつないでいる写真だった。
顔は見えなかったが、その手には見覚えがありすぎる。
史弥だった。
結婚指輪は外していても、指にはまだくっきりとその跡が残っていた。
悠良は皮肉に唇をゆがめて笑った。
これが史弥の言っていた「立て込んでいる」というやつか。
史弥は小林家での態度を知っている。
自分がいないとき、雪江や莉子がどんな風にふるまうかもわかっていたはずだ。
それでも史弥は玉巳との時間を選び、悠良をひとりその場に置き去りにした。
そのことに改めて気づかされ、悠良は玉巳のSNSを閉じるとタクシーを呼び出した。
車中で再びスマホを取り出し、葉にメッセージを送る。
【最近の寒河江さんのスケジュールを調べてもらえない?】
葉はいつも快諾してくれるから、悠良も気楽に頼める。
【わかった。五分待ってて】
その言葉に悠良はほっと息をついた。
きっと葉には手立てがあるはずだ。
葉はかつて史弥に玉巳を優先するために解雇されたが、それでも悠良には頼れる存在だった。
業界に長く