「小林」
伶の声は低く、どこか冷ややかさも混じっていた。
「......え?」
彼女は反射的に返事をした。
伶は温かい指先で彼女の顎をつまみ、鷹のように鋭い瞳でじっと見据えながら問いかけた。
「俺は君の秘密を口外してないのに、君は先に俺を売ったな?小林家は一体何をくれた?」
悠良は伶をごまかせないと分かっていた。
この男はいつだって洞察力が鋭く、自分が何を企んでいるかすぐに見抜く。
だったら、隠すより正直に話したほうがいい。
すると伶は何かに気づいたように頷き、皮肉めいた声で言った。
「俺は君の所有物か?よくも、自分が押し付けた女に俺がなびくと思えたな」
悠良は思わず顔をそらし、つい口をついて出てしまった。
「莉子がダメだっていうのですか?じゃあどんなのが好み?石川さんみたいにすぐ泣いて、男に媚びる小動物タイプ?」
彼女としては、莉子の性格や背景は確かに微妙だけど、自分にだけ当たりが強いだけかもしれないと思っていた。
顔立ちに関しては申し分なく、両親の容姿をしっかり受け継いでいて、華やかで整った美人だ。
まるでドラマの中のわがままなお姫様タイプ。
多少気が強いのも魅力のうちだと、彼女は思っていた。
だが、伶は何か違和感を覚えたのか、眉をひそめて胸元を押さえた。
その様子に悠良はすぐに駆け寄り、彼の体を支えた。
「どうしました?別にいやなら断ってくれていいのに......まさかここまで怒るとは......」
伶のような一匹狼タイプは、家族の言うことさえ聞かないのだから、自分のようなほとんど他人に等しい人間の言葉など届くわけがない。
そう思っていた。
ところが彼は突然息苦しそうにし、額には汗がにじみ始め、彼女の手首をがっしりと掴んできた。
「小林......これは君が撒いた種だ。自分で責任を取れ」
悠良は呆然とした顔で問い返した。
「どういう意味ですか?」
伶の呼吸はますます荒くなり、その瞳に熱が宿る。
「この状態......君なら見覚えがあるはずだ」
悠良の頭に雷が落ちたような衝撃が走り、全身が凍りついた。
まるで時間が止まったように、口も動かず、やっとの思いで言葉を絞り出す。
「......薬を盛られた?誰が?」
伶はぐったりと彼女の肩に頭をもたれかけ、熱を帯びた息が彼女の耳に触れ、その刺激に全身がぞわっ