真奈と黒澤は、持仏堂の中を二周りして隅々まで見て回った。けれど、そこは拍子抜けするほど何もなく、役に立つ情報どころか、価値のありそうな物すら一つも見当たらなかった。
「無駄な努力はやめよう。もし本当に何か価値のあるものがあったとしたら、とっくにお前の叔父が持ち去ってる」
黒澤は、調べ終えた位牌を丁寧に元の位置に戻した。
さっきまで、位牌の一つひとつに至るまで調べ尽くし、床まで這いつくばるようにして探したというのに――結局、持仏堂には何もなかった。
「まさか……家族に隠された秘密って、全部嘘だったの?」
真奈は言葉を失い、ふっと黙り込んだ。
これほどの歳月が経っているというのに、もし本当に海城に何か宝のような存在があるのだとすれば、すでに誰かが見つけに来ていたはずだ。もっと騒がれていてもおかしくない。
「宝が嘘なんじゃない。きっと、先祖が本当に上手く隠しただけなんだ」
黒澤は目の前にずらりと並ぶ位牌たちを見渡しながら、落ち着いた声で言った。「今日はこれで帰ろう。鍵はもう俺たちの手にある。戻ろうと思えば、いつでも戻ってこれる」
「遼介……私、なんだかすごく不安なの」
真奈の声はかすかに震えていた。その表情にただならぬ緊張が浮かんでいるのを見て、黒澤は黙って彼女を優しく抱きしめた。「大丈夫、余計なことは考えるな。俺がいる。絶対に、お前を傷つけさせない」
真奈は黒澤の胸に身を預けながら、ふと視線を彼の背後にある朱塗りの柱へと向けた。その瞬間、脳裏にひとつのひらめきが走る。「遼介、この柱の下に何かあるんじゃないかしら?」
その声に、黒澤は真奈からそっと腕を離し、柱の方へと振り返った。
「瀬川家の持仏堂は、昔からずっとここにあって、百年間一度も手が加えられてないの。修繕もされてないし、梁の上にも、床下にも、壁の向こうにも何もなかった……だとしたら、この柱の下に、何かが隠されてるのかもしれない」
持仏堂の中は、隅々まで調べ尽くした。それでも唯一、手つかずの場所――それがこの柱の下だった。
黒澤は静かに柱のもとへ歩み寄り、膝をついて身をかがめ、柱の土台部分をじっと見つめた。築百年を超える建物とは思えないほど、基礎はしっかりしていた。
彼は拳で地面を軽く叩き、そして言った。「この下……空洞だ」
真奈も彼の傍にしゃがみ込み、言った。「下が空洞ってことは