黒澤が顔を上げたとき、箱の中にある一脚の折りたたみ椅子に気づいた。彼はくすっと笑いながら尋ねた。「お嬢様、この椅子の用途は……?」
「待ち時間が長くて疲れると思ったから、自分用に椅子を準備したの」
そう言いながら、真奈は箱から椅子を取り出し、にこにこと笑みを浮かべながら黒澤の横にそっと置いた。
「黒澤様、頑張ってくださいね」
その笑顔を見た黒澤は、思わず彼女のぷっくりした頬をつまみながら、柔らかく言った。「わかった。できるだけ嫁さんを待たせないようにするよ」
彼はそのまま柱の下に視線を戻し、手にした道具で敷石を軽く叩いた。すると次の瞬間、石がパリッと音を立てて簡単に割れた。「どうやら、ここは本当に百年もの間、手入れされてなかったみたいだな」
「うん?」
真奈も気になってそばへ寄り、砕けた敷石を覗き込んだ。確かに、まるで脆くなった砂糖菓子のように、地面はあっさりと崩れていた。
真奈はしばらく考え込んだあと、ぽつりと呟いた。「このレンガ、結構高かったはずよ」
「弁償する」
黒澤は言葉を交わしながら、柱のそばに積まれていた土レンガを一つずつ取り除いていった。すると、そこから姿を現したのは、しっかりと密封された赤木の箱。落ち着いた光沢を放ち、まるで時を超えてそこに眠っていたかのような、百年物の風格を漂わせていた。
「この赤木の箱、細工が精巧で、きっと高価なものだ」
「百年経てば、立派な文化財だね」
箱には、小ぶりながらも装飾の凝った錠前がついていた。その錠を見つめながら、真奈は少し眉をひそめた。「この鍵……おじさんも持ってないと思うわ」
真奈は父がそんな小さな鍵を持っていた記憶もない。ということは、父でさえこの柱の下に何かがあるとは気づかなかったのだろう。箱にこびりついた長年の埃が、それを物語っていた。
「俺に任せて」
黒澤はそう言って箱を手に取り、錠前を一瞥すると、首にかけていたネックレスを外し始めた。ネックレスの装飾の一部から、彼は手際よく一本の極細の針金を取り出す。
以前は気づかなかったが、黒澤の首のネックレスにはこんな細い針金が隠されていたのかと、真奈は思った。
黒澤はその針金を錠前の鍵穴に差し込み、軽やかな指先の動きで、音もなく――カチリ、と銀の錠が開いた。
傍らでじっと見ていた真奈は、目を丸くしながらぽつりと問いかけた。「錠