「本気で、俺が一度失敗したことを二度も繰り返すほど愚かだと思ってるのか?」
冬城の言葉に、小林はその場で凍りついた。
彼は冷淡なまなざしで言葉を続けた。「あの酒は、一滴も飲んでいない。あの夜、お前の部屋に入ったのも俺じゃない。そこまで言わないと、まだ引き下がれないのか?」
この数日間、冬城おばあさんは小林を本邸に住まわせ、屋敷の様子を学ばせていた。数日前、小林は薬を盛った酒を冬城の書斎に運び込んだ。しかし冬城は、その裏に冬城おばあさんの策略があることを早くから察していた。冬城おばあさんの顔を潰さないようにと、彼は中井に命じてその酒をすり替えさせ、飲んだふりをして小林を部屋から帰らせた。
その後、何があったかは一切知らない。
ましてや、小林の部屋に入ったのは自分ではない。
「そ、そんな……そんなはずない……大奥様は、確かにそう仰ってたのに……!」
「――冬城が夜にあなたの部屋に入ったのは、あなたに気がある証拠って、そう言われたのか?バカな子だな。本気で、あの冬城おばあさんが、いつか冬城をあなたの夫にしてくれるとでも思っていたのか?」
そもそも、冬城おばあさんが小林を近くに置いたのは、真奈に対する冬城の意識をそらすためだった。だが、いまや彼と真奈の復縁が決まった今となっては、小林という駒は、ただの使い捨てでしかなかった。
真奈が一歩前に出て、静かに言った。「その話、本当かどうかは、ご自分で冬城おばあさんに尋ねてみたらどうかしら?きっと、真実を教えてくれると思うわよ」
小林は信じられないといった様子で、一歩、また一歩と後ずさりし――そのままエレベーターへと駆け込んだ。メイドたちが、何かあってはと不安げにそのあとを追っていく。
冬城は唇を引き結び、低くつぶやいた。「……真奈」
「説明は要らないわ。あなたは同じ場所で二度も転ぶような人じゃないことくらい、よくわかってる」
真奈は冬城を見据えて言った。「ただね、私たちの契約が順調に進むようにするためにも、身のまわりのお相手たちはきちんと整理しておいて。無用な騒ぎはご勘弁願いたいわ。……もし、どうしても我慢できないなら――せめて秘密は守ってちょうだい」
その言葉のあと、真奈は少しだけ笑ってみせたが、それはどこまでも冷たく、どこまでも他人行儀だった。冬城は眉をひそめる。「……本当に、こんなふうでなければい