夕暮れが空を茜に染め始めるころ、星野が部屋へ戻ってくると、聡はさっそく話を切り出した。
その内容に、星野は目を見張った。思いもよらない人物――雅之からの贈り物だったからだ。
彼と雅之のあいだには、過去に少し因縁がある。特に、里香との関係が微妙だった頃には、互いに何かと牽制し合っていた。
まさかそんな彼から、祝いの品が贈られるとは夢にも思わなかった。あまりに意外で、言葉も出ない。
だが、聡は嬉しそうに笑いながら言った。
「社長からの贈り物だもの、受け取らないわけにはいかないわよ。ねえ、明日休みでしょ?別荘、見に行こうよ」
もし気に入ればそのまま引っ越せばいいし、もし合わなければ売って別の場所に住めばいい。それだけの話だ。
「……いいですよ」
胸の奥に湧き上がる複雑な感情を押し殺し、星野は静かに頷いた。
その夜、ふたりとも落ち着かなかった。
翌日、昼も近くなってようやく出発し、車を走らせ別荘地に到着すると、入り口には厳重な警備が待ち構えていた。警備員に登録を求められ、さらに身分証明の詳細情報まで入力させられるほどの徹底ぶりだった。
だが、聡はこういう厳しさがむしろ気に入った。
車の窓を少し開けて、「顔認証にしたら?登録した所有者だけが出入りできるように。顔認証なら便利だし、余計な人も入れないでしょ」と提案した。
警備員はそのアイデアを気に入り、すぐに管理会社に報告すると応じた。
手続きを終えると、ようやく通行が許可された。
別荘の立地は申し分なかった。小区画の中央に位置し、周囲の敷地も広々としている。
聡はひと目見ただけで心を奪われた。
「ここがいい!ここを、うちらの新婚のおうちにしようよ!」
くるりと振り返り、そう言って笑う。
星野は小さく笑いながら頷いた。
「全部、君の好きにしてください」
聡は嬉しそうに彼の頬に軽くキスをして、別荘の中をくまなく見て回りながら、あちこちで「ここには何を置こうか」と想像を巡らせていた。
一日中、ふたりはまるで夢の中にいるかのように過ごした。
陽が西の空に沈みはじめた帰り道、星野がぽつりと口を開いた。
「俺たちのこと……母に話しました。すごく、喜んでくれてました」
運転席の横で、聡はシートベルトをぎゅっと握りしめた。
「……ほんとに?」
「はい。本当に。ようやく、息子を引き受けてくれ