雪乃はまだ反応しきれないまま、ひんやりとした香りに包まれた。
顔を上げると、そこにあったのは――懐かしすぎる顔だった。
風真が彼女の手首を強く掴んだまま、離そうとしなかった。
その目は真っ赤に腫れ、大粒の涙が次々と頬を伝う。
「篠原……お前、もう充分仕返ししただろ?もう帰ろう……俺と一緒に……!」
「ちょっ……」
雪乃が手を振り払おうとした瞬間、温かくて力強い腕が彼女を引き寄せ、風真を突き放した。
「西園寺さん、それはあまりにも失礼です」
瑠宇が白のスーツに身を包み、短く整えた髪を揺らしながら、神々しさすら感じさせる姿で二人の間に割って入った。
その瞳は冷たく、全身から敵意がにじみ出ていた。
「この三年間、君が雪乃をどれだけ傷つけてきたか……忘れたわけじゃない。もう君たちは離婚している。何の権利があって、彼女を連れ戻そうとする?」
過去の雪乃がどれだけ傷ついてきたかを思い出し、瑠宇は今にも西園寺の顔面を殴りつけそうな勢いだった。
「違うんだ……俺はこれから――」
風真がさらに一歩踏み出そうとした。雪乃が再び消えてしまうのではないかという恐怖に飲み込まれていた。
「これからって?分かってないな。雪乃とはもう『これから』なんて存在しないんだよ」
瑠宇は一歩も引かず、厳しい声音で断ち切った。
だが風真は瑠宇の声などまるで耳に入らないように、彼の背後の雪乃だけを見つめていた。だが、その雪乃の目は――まるで他人を見るような、冷たくて遠いものだった。
あの三年間、すべてなかったことにされたかのような目だった。
本当は雪乃に聞きたいことが山ほどあった。どこにいたのか、何をしていたのか、なぜ一言もなく姿を消したのか――
でも、口を突いたのはたったひとつ。
「……どうして俺から離れた?」
雪乃は思った。自分はこの顔を見れば、きっと感情が揺さぶられるだろうと。だけど実際、胸は驚くほど穏やかだった。
「奥様から聞いてないの?私たちの結婚は、最初から恩返しだったのよ」
「恩返し……?」
風真が怒りに震えながら彼女の肩を両手で強く掴む。
「篠原、お前、俺をバカにしてるのか?恩返しで命まで懸けられるわけがないだろ!?三年間……お前が一度も俺を愛してなかったって、そんなの信じられるかよ!」
彼女はその手を振りほどき、深く息を吐き、まっすぐ風真の