風真はここ数日、病院で綾音につきっきりだった。
ブローチで手をかすった程度の傷だが、彼はどうしても彼女を入院させて、経過を見てもらいたかったのだ。
五日経ってから、風真はふと雪乃の怪我のことを思い出した。
彼は秘書を呼びつけると、無表情に命じた。
「篠原はどこだ?すぐに呼べ」
秘書はためらいながら、慎重に言った。
「西園寺さま、それが、篠原さんは……出て行かれました」
風真は眉を寄せる。
出て行った?
彼はまた彼女が拗ねているのだと思った。前回、彼が先に綾音を病院へ連れて行った時も、雪乃は数日間姿を消していた。
しかし今回は、雪乃自身が「綾音さんを先に見てあげて」と言ったはずだ。
人前では物分かりのいいフリをしておきながら、実際はこの程度のことで拗ねるのか。
風真は苛立ち、スマホを取り出して雪乃に連絡しようとした。
だが、画面には雪乃からの未読のメッセージがあった。
五日前に送られてきたものだ。
無造作に開いた瞬間、風真の瞳が震えた。
【離婚届の手続きが完了しました】
――誰が離婚だ?
その次の瞬間、彼の心に何かがよぎり、動揺が全身を駆け巡った。
そういえば一週間ほど前、雪乃が海外へ行く話を自分にしていたような気がする。だがその時の彼は、綾音のことで頭がいっぱいだった。雪乃の言葉など耳に入っていなかった。
雪乃も随分と度胸がついたな、まさか自分に離婚を切り出すとは。
そうすれば自分の関心を引けるとでも思ったのだろうか?
風真は雪乃がただ機嫌を取ってほしいだけだと信じて疑わなかった。
いずれ放っておけば、また自分から戻ってくるだろう。
なにせ雪乃は自分を愛している。命さえも惜しまないほどに。
そう思うと、風真の心は落ち着きを取り戻し、秘書に無関心に手を振った。
「行きたきゃ行かせておけ」
秘書は何か言いたげだった。
今回の篠原さんの出て行き方は、これまでとは違う気がする。
しかし彼女は黙って頭を下げ、そのまま退室した。
……
数日が経ち、風真はようやく時間を空け、小林姉妹と食事をした。その時、彼はふと何かを思い出したように秘書に尋ねた。
「篠原はまだ戻っていないのか?」
隣でスープを飲んでいた結衣の動きが止まった。
雪乃がまだ帰っていない?
あの日、雪乃が出て行ったとき、結衣もまた彼女が単に注意を引