Chapter: 獣人少女 中盤 《sideジュリア》 ボクは強くなりたい。 だから、どうすれば強くなれるのか教えてほしかった。「強くなりたい? 僕は平凡だからね。獣人の強さを教えられるかわからないけど、いいかい?」「それでもヒントがほしい」 フライ以外に頼れる人がいないから……。「わかったよ」 どんなにしんどくても、どんなに難しい修行でも、頭のよいフライが教えてくれるなら耐えるつもりだった。だけど、フライが提案した内容は、それほど難しいものではなかった。「まずは、部分的に変化できるところを見せて」 ボクは言われるがままに、右手を獣化させた。「くっ?! モフモフワンコの腕だと! これは破壊力がヤバい! 可愛すぎる!」「ふざけてる?」 ボクは強くなりたいのに、フライは考えること、意味を知ることを優先した。「いや、はは。ふざけてないよ。うーん、獣化って、筋肉を増強したり、毛の量を増やしたりできるんだよね?」「あとは、爪や牙を強化できる」「うん。要は人族としての遺伝子と、獣の遺伝子が混じり合っているのが獣人ってことで、獣化は獣の遺伝子を魔力によって操作して、人体の部分的な成長を促すことなんだね」 一人でブツブツ呟いて、難しいことを考える。ボクにはわからないけど、部分的な変化の使い方を考えてくれているんだと思う。 それに腕を変化させただけで、フライは何かを理解したようにブツブツと一人で呟きだした。 フライは自分の中で考え、わかりやすく説明してくれるために声に出して、頭の中を整理しているんだと思う。「よし。要は獣化も使いようだ。ジュリアは、どうして自分が全身獣化できないのか理解しているかい?」「ううん」 ボクは首を横に振る。「単純に獣化に必要な遺伝子が……いや、つまり、ジュリアは全身獣化ができない体なんだよ」「全身獣化ができない……」 断言されてしまうと、落ち込んでしまう。「まぁ、落ち込まないで。代わりに部分獣化ができる体質の方が、普通の獣人よりも珍しいと思うよ」「そうなの?」「多分ね。獣人は獣化を途中で止めることはできるって、聞いたことがある?」 フライに問いかけられて、お母さんに教えてもらったことを思い出す。「えっと、獣化は三段階あって、人、獣人、獣化の三種類」「うん。つまり、普段の姿を獣人状態とするなら、人になるか、獣になるかの二択なんだ
Última actualización: 2026-08-02
Chapter: 獣人少女 前半 《sideジュリア》 ボクの世界は、とても冷たくて暗いものだった。獣人は強さを重んじる。強い者が族長になり、強い者が決めたルールのもとで生活をする。 強いオスはメスを自由にできて、弱いオスはただの労働者としてこき使われる。 ボクの父は弱いオスで、母が別のオスに蹂躙されても守ることができず、ボクを奴隷として売り飛ばした。 だからボクは強くなりたくて、自分のことをボクと言うようになった。 最初は子供だったこともあり、体を無理やり求められることはなかった。だけど、学園都市という獣人王国から遠い場所に連れてこられて、成長を始めたボクをメスとして売ろうとしている奴隷商人がいた。 怖い。嫌だ。だから必死に逃げた。 ボクは、どうしてこんなにも弱いんだ。 隠れて、逃げて、でもお腹が空いて、誰も助けてくれなくて……。悪いことだとわかっていたけど、捨てられたゴミをあさるだけでは足りなくて、食堂の料理を食い逃げした。 身なりが汚いから正面から入らずに裏から入り、できた料理を盗んだ。 だけど、すぐにバレて追いかけられた。 追い詰められた時には、もう駄目だと思った。「謝りに行こう。お金は出してやるから」「えっ? 馬鹿なの?」「はは、そうかもね」 初めてだった。優しくされたのも、叱ってくれたのも、一緒に謝ってくれたのも、とても嬉しかった。でも、どうしたらいいのかわからなくて、お腹は空いていて、本当にいいのかわからないまま、フライ・エルトールの名前でご飯を食べた。 食堂の店主も最初は「嘘だろ!」と怒鳴ったけど、次の日から、ご飯は本当に食べられるようになった。 食堂の店主の方から「もっとどんどん食べろ。お前が食べた分を貴族様に請求できるからな」と言って、どんどん豪華な食事を与えてきた。 そんな生活が続いていた時、あいつのメスがボクを捕まえた。「あなた、フライ様の隣にいるなら、きれいにしなさい!」 メスたちに無理やり体を洗われた。久しぶりに入るお風呂はとても気持ちよくて、全身がドロドロになっていたから、ボクは……。「そう、あなたは奴隷なのね」「うっ」 奴隷には、奴隷紋と呼ばれる紋章が背中に浮かび上がる。ご主人様から逃げても、この紋章がある限り、奴隷の身分から抜け出すことはできない。 ボクの人生は、弱くて、虐げられて、強いオスに無理やり奪われる人生
Última actualización: 2026-08-01
Chapter: 十六歳の勝負師 《sideボートレース運営者》 あり得ない。とてつもない勝負師が現れた。 長年、魔導ボートの運営をしているが、勝ち続ける者など見たことがない。 魔導ボートは、木でできた小さな船を用意した水槽に浮かべ、水槽に埋め込まれた二本の杭の周りを、八の字を描くように三周させる。 もともとは魔導士の訓練用に、魔力操作とコントロール、さらに物体を動かすという三つの魔力訓練を行うために開発された技術だった。 それを学園都市に通っていたある生徒が競技として考案し、現在は学園都市の名物ギャンブルとして、また、学生のアルバイトと訓練を兼ねたものとして、学園都市にも認めてもらった。 さらに、学園都市に税金を納めることで、公認の競技として認めてもらうことができた。 その運営を担うワシは長年、この仕事をしているが、客の勝率はよくて五割だ。 勝率がよい者でも、五割勝てれば御の字なのだ。しかも、オッズとして表れている勝率は、魔力量やコントロール評価、魔導ボートの実戦経験などを踏まえて、こちら側が提示している。 それは公平な能力値から算出しているので、決して客側に不利になるようなことはしていない。たまに、貴族のお偉い方や他国の者をお膳立てするために八百長をすることもあるが、それはあくまで大事な場面のみだ。 普段は学生たちがしのぎを削り、己の魔力を駆使して、いかに勝つのかを競い合う。魔法を使ったスポーツとして運営している。 だが、ワシはとんでもない人間を見た。 ふらりとやってきた時は、どこぞの貴族様で、遊ぶためにやってきたのだろうと高をくくっていた。そこそこ負ければやめるか、のめり込んでお金をつぎ込んでくれる。 今までもそうだった。五割当てて、大穴を取れば勝利をもぎ取れる。それがギャンブルだ。 だが、十割当てられたならばどうなるのか? 大損害じゃ。「うーん、次は彼の魔力に揺らぎがあるね。それに、隣の子は勝つ気はあるけど、気負いすぎかな」 後ろに立って、ブツブツと何やら呟いているのを聞いても、さっぱりわからん。「う
Última actualización: 2026-08-01
Chapter: 若かりし日の狂王 《sideブライド・スレイヤー・ハーケンス》 我は生まれながらの強者であった。 歳を重ねるごとに気づくのだ。我は他者とは違う。あまりにも強く優秀であり、他を凌駕するだけの力を持っている。 誰かが我を狂人の皇子、ブライド・スレイヤー・ハーケンスなどと言うが、狂人、変人、奇人、大いに結構ではないか。 他者とは違った能力を持ち、それを遺憾なく発揮する。 平凡でつまらない者たちよりも面白い人生を生きている。素晴らしいことだ。 確かに我は幼少期から、他者を圧倒するカリスマ性と、絶対強者としてのオーラを発揮していた。 あれは十歳の時だったか? 我は帝国軍の訓練場を訪れた。 そこで、帝国最強の騎士と呼ばれる剣聖と戦った。 さすがの我も、最初は勝つことができなかった。だが、面白かった。負けるという経験があれば、相手を打ち負かした際の喜びは、初めから勝ってしまった時の何倍も大きい。 だからこそ、毎日のように大人たちに交じって訓練に明け暮れた。 十五歳になった時、再び剣を交えることになった。「全力を出さないならば、貴様の命に価値はない」 そう告げて、本気で戦わせた。結果は、我の勝利であった。 五年の歳月をかけて、我は帝国最強の剣聖に剣で勝った。なんと心地よく、甘美なことか。 戦いの後、訓練場の全員が跪き、畏怖と称賛を込めて「皇帝の剣」と口にした。 帝国には、あるしきたりがある。「皇子は成人の儀で王獣を討伐する」 古い伝統だが、面白い。 我は十五歳の成人の儀で、王獣を討伐しなければならない。 最近では形式だけのものとなり、我が兄上殿は精鋭の騎士たちが討伐に向かい、弱らせた王獣にとどめを刺した。 それで獰猛な魔獣を制圧したと言っていた。 だが、我は一人で十分だ。 獅子型の王獣を倒して帰還し、王獣の心臓を父上へ差し上げたのだ。「この心臓を捧げ、我が父上への忠誠を証明します」 皇帝や貴族たちは喜んでくれていたが、一部の者たちからは「なぜ、そこまで冷徹で残酷なのか」と恐れられたものだ。 我と同等の魔獣を仕留めている者などいないであろう。我以上となれば、ドラゴンしかあり得ぬのだからな。 年齢を重ね、剣術だけでなく、戦略、戦術、魔術にものめり込んでいった我は、単に冷酷な恐怖だけで人を統治するのでは駄目だということに気づいた。「帝国は弱き者
Última actualización: 2026-08-01
Chapter: 学生ギャンブルはボートが一番 入学してから、僕はまだ一度も学校の授業に出ていない。 フラフラと学園都市を歩き回って楽しんでいる。 いや、この街には誘惑が多くて楽しすぎないか? お金があれば何でもできてしまう。 食事も、お酒も、遊びもやりたい放題。 この世界のしがらみを忘れて、もうあれだな。 ダメな大学生時代を思い出してしまうんですよね。 学園都市全体が学生たちの訪れることを前提に作られているので、大勢で集まれる飲み屋がたくさんあり、魔法を使った遊び場も数多く存在する。 しかも、異世界独自の遊びがたくさんあるので、僕は目移りしてしまう。 魔力を使ったボードゲームや、最近のお気に入りはボートレースだ。 室内に巨大な水槽が用意されていて、木で作られた六艇の船を六人の魔導士たちが操作し、魔力で浮かせて競争させるのだ。 酒場で開かれている、お金を賭けるギャンブルなのだが、これが本当に面白い。 人が魔力を使って行っているので、八百長は当たり前。 選手たちの中には本気でやっている者もいるのだが、八百長をしている者と、していない者を見極めるのが本当に面白い。 人を見る目も養えるというわけだ。 人を見て賭けるという、シンプルながらも奥深い面白さがある。 実は学園都市に来る前、遊ぶところなんて存在しない、つまらない勉強ばかりの場所じゃないかと思っていた。 実際は、エルトール領よりも面白い! エルトール領にも、ここに負けないカジノが存在する。だが、行ったことはない。 だけど、今後はお金がたくさんあるので、そっちにハマるのもありかもしれない。 前世では、節制するためにギャンブルはやったことがなかった。 どうして大勢の人がハマるのか理解できた。これは実に面白い。 本来、魔力コントロールを訓練するためのものだった魔導具を、まさかこんな形で使ってギャンブルにしてしまう人の発想がすごい。 開発者も思っていなかっただろうな。 学生の発想とは自由そのものだ。「いた!!」「うん? ジュリアじゃないですか。どうしたんだい?」 以前助けた獣人の女の子は、その日から何だか僕に懐いてしまっていた。 僕が街をふらついていると声をかけてくるようになり、一緒に食事をするようになった。親しくなると遠慮なく一人でも食事をしているようで、何度か店から請求を受けた。もちろん、全てお支払いしてあげ
Última actualización: 2026-07-31
Chapter: ストーリーを思い出して さて、物語の主人公たちに出会ってしまった以上は、自分の立ち位置をハッキリとさせておかないといけないな。 メインのストーリーは、彼らが学園を卒業した後の戦乱にこそある。 始まりは、ブライド皇子が帝位簒奪をするところから始まる。 ブライドは皇太子である兄を殺して、皇帝を引きずり下ろし、帝国にとって最も望ましい形で皇帝の座に就いた。 ただの狂人というだけでなく、知恵も、戦略も、武勇も、野心も、全てを持ち合わせたブライドは、そのカリスマ性をもって貴族の半数を味方につけた。 その上で能力の高さを示し、さらに王国の一部を奪い取ることで、貴族たちに新たな土地を与えて、報酬の確保も同時に行う。 さらに、貴族の子息を次々に取り立てて、新たな役職に就けた。それは反発した者たちを殺して空いた席に座らせただけではあったが、帝国は大きな変革に成功する。 だが、これに反発したのが、王国の王子アイスだ。 彼はかねてより、ブライドと反発を繰り返していた。そこに王国の土地を略奪されたことで、反帝国同盟を立ち上げて、王国を代表とした組織を作り上げていく。 これにより、帝国と王国、いや、反帝国同盟の対立が生まれ、その戦火は次第に大陸全土へ広がっていくのだ。「こういう戦記物は、読んでいる時には面白いけど、実際に目の前に差し迫ると、恐ろしく感じるものだよね」 傍観者でいたいと思うが、自分だけは生き残りたい。 そんなふうに思うが、フライ・エルトールというキャラが登場していない以上は、戦乱が始まる前に死んでしまう恐れがある。 つまり、この学園内で死ぬ可能性が高いということだ。「ふぅ、学園の描写は小説の中でも少ないんですよね。それぞれの記憶の断片に学園というワードが出てきて、『あの時の確執が!』的な感じなので」 屋敷に戻ってから、物語を思い出しながら書き記してみるけど、この世界に転生して十五年ほどの時が経ったせいで、随分と朧げになってしまった。「大筋は覚えていますが、細かなところはわかりませんね」 今、思い出せることは書き記した。何よりも、僕が死ぬ前に読んでいた時は途中までだったので、全てを理解することは無理ですね。「さて、学園生活がどうなるのか? 不安ではありますが、異世界の学校に通えるというだけでワクワクしますね。それに、小説の中に登場した人たちが実際に生きている世
Última actualización: 2026-07-31