author-banner
根上真気
根上真気
Author

Novels by 根上真気

婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様

婚約してから始まる恋~炎の魔女と氷の公爵様

運悪く親友の修羅場に巻き込まれて刺殺されてしまったコハクは異世界の魔女に転生する。転生後、彼女はある目的のために〔魔女の里〕へとやってきた若き公爵・クローと出会う。魔女の力を目撃したクローは、病気の弟を救うために彼女を連れ帰りたいと言う。それから二人はやむを得ず婚約を交わし〔魔女の里〕を後にする。やがてコハクの心は、黒髪の貴公子(クロー)の蒼い瞳に惹き寄せられていく。そして病の美少年(クローの弟)にも出会い、コハクの恋と運命は大きく揺れ動いていくことになるのだった。
Read
Chapter: ep45 青天の霹靂
「えっ?」コハクが部屋に戻りながらクローに疑問の目を向けると、クローはそのまま執務机まで歩いていって引き出しを開けた。「コハクお嬢さま」メアリーがコハクに駆け寄ってくる。「申し訳ございません。私がコハクお嬢さまを動揺させてしまいました」メアリーが頭を下げてきた。コハクは迷う。何と言葉をかけるべきなのか。メアリーに対して悪感情の欠片もない。むしろ逆だ。メアリーこそが一番の味方になってくれる存在だということを身をもって証明された気分だった。まるでアンのように。「メアリー。ボクのことを一番に考えてくれてありがとね」コハクはやさしく微笑みかけた。直後、メアリーがその目を見開いてじっと見つめてきた。普段はいつも伏し目の彼女が、なぜそんな顔をするのだろうか?「あ、アンさま......」「えっ、ボクはコハクだよ?」「あっ、いえ、大変失礼いたしました」はたとしてメアリーは再び頭を下げた。コハクはきょとんとする。そこへクローが一枚の書類を出してコハクへ持ってきた。「コハク、これを見てくれ」「この紙?」受け取ると、コハクは文面に視線を落とした。色々と書いてあるが、即座に目を引いたのはひとつの固有名詞。「それは魔法大学に関する書類の一部だ」クローからそう言われても、コハクの頭は理解が追いつかない。「ええと......なぜこれをボクに??」コハクが小首を傾げると、クローよりも先にメアリーが口をひらいた。「特別入学が許可されたのですね」「これでまたひとつマギアヘルム領主には借りができてしまった」クローとメアリーの交わす会話は、明らかに何かがあらかじめ水面下で進行していたことを物語っている。「どういうことなの?」コハクは目を丸くしてクローとメアリーを交互に見る。クローはメアリーに許可を取るような視線を送ってから、コハクに向けて真相を明かした。「これから私とコハクとで、魔法大学に入学することになる」「......はっ!?」晴天の霹靂。あまりの急展開にコハクは絶句する。魔女の末裔のボクが、魔法大学に入るだって!?「このような形でお伝えすることになってしまい大変申し訳ございません」メアリーが言う。「もし入学が許可されなかった場合に、コハクお嬢さまへご迷惑を被らないための配慮だったのです」「そうなんだ」クローも言う。「これは裏技を使った、いわば裏口
Last Updated: 2026-04-12
Chapter: ep44 原因
今日、ルーが体調を崩したのは、昨日のことが原因だった。それが判明したのは、クローの要請により緊急来訪した医者の往診を受けた後のこと。「病状が悪化したわけではないので、安静にしていれば普段の状態に戻るでしょう。その点はまずご安心ください」医者はこう言ってから、クローに対して厳しい顔を向けた。「いくら彼女の力で普段より症状が楽になったからといっても、体力は落ちたままです。今後はくれぐれも無理をさせないように」こうして医者は厳重な注意を与えて、グレイシャ家から引き上げていった。「私が甘かった」とクローは素直に反省していたものの、複雑な心情は隠しきれていなかった。「あんなに元気なルーの姿を見たのは本当に久しぶりだったんだ。だから本人の意志を尊重して遊ばせてやりたかった」クローは執務室の窓から遠くを眺める。いつも通りのクールな彼だが、その青い瞳にはやるせない悔しさが滲んでいるように見えた。執事のフランツは執務机の側に控えたまま黙して語らなかった。「あ、あの......」重苦しい雰囲気の中、コハクはクローに向かって口をひらく。誰よりも複雑な胸中を抱えていたのはコハクだった。「コハク?」クローが振り向く。「ボクが......」コハクは下唇を噛む。「昨日、ルーを連れ回しちゃったからこうなっちゃったんだよね?」「違う。コハクのせいじゃない」「帰ってからもボクがルーといっぱいお喋りしちゃったからこうなっちゃったんだよね!?」「それは違うぞ。すべては私のせいだ」クローがコハクに向かって歩き出す。コハクの自責を止めさせるためだろう。だが、彼よりも一歩先にコハクを止めたのは別人物だった。「この一件はコハクお嬢さまが反省すべきことではございません」メアリーが素早くコハクに寄り添った。「で、でも」とコハクが続けようとすると、メアリーはコハクの口元に手を当てた。それから何をするのかと思ったのも束の間、メアリーはクローに向かって鋭い視線を投げつけた。「グレイシャ様」「なんだ?」クローが立ち止まる。「もしも今後、同じような事態が繰り返され、コハクお嬢さまの心が苦しめられるようであれば、私はコハクお嬢さまを〔マギアヘルム〕へ連れ帰りたいと存じます」メアリーの発言に、誰よりも驚いたのはコハクだった。「えっ......?」「コハクお嬢さま。私の主人は貴女です。私にとっ
Last Updated: 2026-04-11
Chapter: ep43 歯がゆい気持ち
  【7】「コハク、体の調子に変化はないか?」コハクがグレイシャ家にやって来てから三日目の朝。廊下で顔を合わせるなりクローが様子を窺ってきた。「念のためボクもお医者さんに診てもらって大丈夫だったじゃん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」コハクはにっこりと笑って返した。「そうか。何か少しでも変化があればすぐに言ってくれ」クローの顔は真剣そのものだ。本当に本気で心配してくれている。病気の弟に対してと同様に。「うん、そうする」コハクは笑顔のまま頷いた。朝食の時間になる。コハクが居間に入っていくと、すでにルーがテーブルに着いていた。「おはよう、コハク」「おはよう、ルー」コハクは内心ほっと安堵した。ルーは引き続き調子が良さそうだ。昨日は長々と散歩に連れ出してしまったし、夜は夜でいっぱいお喋りした。ルーが望んでそうしたとはいえ、もしその影響でまた調子が悪くなってしまったら......とコハクは心配していたのだ。「どうしたの?」ルーが疑問を浮かべた。「あっ、いや、何でもないよ」コハクは微笑み返してから席に着いた。杞憂に終わって良かったと思った。「コハクお嬢さま」コハクの食事はメアリーが運んできた。コハクの身の回りの世話についてはメアリーの専任だ。「ありがとう、メアリー」コハクはメアリーにも微笑んで応える。それをルーは興味深そうに眺める。「コハクは、伝説の魔女の御令嬢なんだよね?」「そうだよ?」「なんだろう、良い意味で全然そうは見えないというか......」「それは確かにそうだな」とここでクローがやって来て席に着いた。「良い意味で庶民的だからな」「自分ではあんまりよくわからないけどね......」苦笑する。なにせ自分に宿る魂は前世のものだ。庶民的も何も、庶民そのものなのだから。「庶民的、か。なるほど、確かにそうだね」ルーはうんうんと頷く。「まだ〔マギアヘルム〕に滞在していた時に一度、私はコハクから料理を振る舞われたことがある」兄のその告白は、弟の目を輝かせた。「本当に??」「ああ。さらにコハクは私の上着のボタンを直してくれたな」クローの視線がコハクへ運ばれる。いつも通り凛々しくクールだが、やさしい目をしている。「そ、そういえば、そんなこともしたよね」コハクはつい恥ずかしくなってはにかんだ。でも、なんか嬉しい。「ねえコ
Last Updated: 2026-04-10
Chapter: ep42 医者
  【6】「そちらの彼女が、ですか......」医者はただただ驚嘆する。魔法にも精通した彼は極めて優秀なベテラン医師で、ルーのかかりつけ医だ。彼は定期的にグレイシャ家を訪れてはルーを診ている。「コハクがやってくれたんです」ルーが診察を受けながら微笑む。ところが医者はグレイシャ兄弟を睨みつけた。「なぜ私の立ち会いを待たずにやったのですか」「申し訳ございません」と執事のフランツが口を挟んだ。「先生の許可はいただけないと判断したからです」「それで私の目を盗んで強行したというわけですね......」医者はため息をついた。しかし、その表情は複雑だった。感心できないやり方とはいえ、確かにルーの容体は改善している。「しかし、決して私は無謀な挑戦をしたとは考えていない」クローが言った。「確かに理論も理屈も間違ってはいない」医者は眉根を寄せつつも理解を示す。「魔力硬化症は、自らの魔力の流れが停滞し淀んでしまうことで身体を蝕んでいく病気。現在もっとも有効とされている治療法は、医療魔法師なり魔法薬で患者の魔力を操作し、その停滞を緩和させる方法なのだが」「特別に強い魔力を持った者にはその効果は薄い」クローがルーを一瞥する。「その通り。あなたの弟さまは、類い稀なる強力な魔力を所持しています。それは魔法使いにとっては誰もが羨む財産だが、魔力硬化症患者にとっては致命的な特徴となってしまう。なぜなら、魔力が強すぎて外的な操作を受けつけないからです。無理に操作しようとすれば、する側にもされる側にも危険が伴う。魔法薬も、早い段階でその効能が薄らいでいき、やがて効かなくなってしまう」「ルーも散々試してきたが、結局どれも有効なものにはならなかった」クローの視線がコハクへと移る。「そして私は彼女を見つけた」コハクは何となく気恥ずかしくなって頬をポリポリと掻いた。そこへ医者の視線が刺さる。「他者の魔力を吸い取る力......ですか。確かに身体を蝕む原因となる魔力そのものを吸い取ってしまえれば、理屈としては治すことは可能です。しかし、その方法はこれまでも幾多の魔法使いが試したが成功はしなかった」医者は興味深くコハクの紅い瞳を凝視する。「魔力硬化症患者は魔法が使えなくなり、その魔力を他者によって奪わせることもできない」クローが言葉を続けた。医者は大きく頷く。「それは現代魔法に
Last Updated: 2026-04-09
Chapter: ep41 治療
ぶっつけ本番だった。クローが今日まで具体的な方法の説明をしてこなかったからだ。彼がなぜそうしたのか、理由はわからない。だが、それゆえにコハクとしてはクローに言われた通りを忠実に実行するだけだった。それ以外にやりようがないのだから。それに、なぜだか安心感もあった。クローの声を聞いて、コハクの肩の力は抜けていた。「!!」一同は大きく目を見張る。コハクとルーのまわりだけが激風に揺れる。明確に何かが起こり始めた。まるでコハクの両手から、何かが吸い込まれているように見える。「これは......」ルーは驚愕する。今まで様々な治療を受けてきた。魔法を用いた試みも幾度となく体験した。しかし、そのどれとも比較にすることができないほどの感覚、あるいは過去の治療や試みのどれもが記憶の彼方へ吹き飛んでしまうほどの劇的な感覚が、彼の全身を鮮烈に駆け巡った。「もういい、そこまでだ!」ここでクローがコハクの両手をルーから離させた。何かがおかしい。コハクは焦ってジタバタしている。「と、止められないよ!」  「大丈夫だ、落ち着け」クローは自らの両の手を、コハクの両の手に握り合わせた。互いに手を握り合わせて二人は見つめ合う。「く、クロー?」「私の目を見ろ」「は、はい」コハクの紅い瞳と、クローの青い瞳が交錯する。「大丈夫だ。落ち着いて、力を解くイメージをしろ。あの時みたいに」「あの時みたいに......」「そうだ、コハク」「うん......」やがて風は収まる。やや間を置いてから、コハクは無事、自分の力が収まったことを自覚する。その途端、安堵と脱力で腰が砕けそうになった。「コハク」とクローがコハクを抱き寄せる。コハクの立った姿勢は維持された。クローと密着することによって。「あっ、ご、ごめんなさい」コハクはあたふたとする。「大丈夫か? 立っていられるか?」「だ、大丈夫だよ、ありがとう」「離しても平気か?」「う、うん」ぴったりと密着していた二人の体が離れた。クローはまだコハクを見つめてきたが、コハクは視線を逸らした。「コハク」「な、なに?」「顔が赤いぞ? 今ので熱が出たのか?」「で、出てないし、大丈夫だから」コハクは体ごと背けて顔を見られないようにした。ちなみにクローの言った「今ので」とは、コハクがルーに対して行った魔法行為(治療行為)のことであっ
Last Updated: 2026-04-08
Chapter: ep40 不治の病
グレイシャ家の敷地内には、庭園とはまた別に公園と呼べるほどの大きく整えられた広場がある。その中心にコハクたちは集められた。コハクは車椅子のルーの背後に立ち、傍にはクローが、やや離れてフランツとメアリーが彼らを見守っている。「ここならば、何かあっても心配はないだろう」クローが辺りを再確認しながら言った。「もちろん私がいるし、フランツも頼りになる男だ」「でも、本当にボクにできるのかな......」コハクは自らの両の掌を見つめる。昨日は最善の努力を尽くすと言ったものの、自信があるわけではない。「コハク、安心して」ルーが肩越しに微笑んだ。「どういう結果になろうと僕は受け止めるから。だからどういう結果になろうとここまで来てくれたコハクには感謝しかないよ」ルーの優しい言葉にコハクの顔にも微笑が浮かんだ。「あ、ありがとう」クロー・グレイシャの弟、ルー・グレイシャは不治の病に冒されている。それは〔魔力硬化症〕と呼称されている病気で、強い魔力を持った人間がごく稀に罹るとされていた。通常、魔力持ちの人間の身体は、魔力が枯渇した場合を除き、絶えず魔力が循環している。しかし〔魔力硬化症〕を患うと、魔力の循環が滞り、魔力が淀んでしまう。魔力の淀みも短時間ならば問題はない。しかしこれが長時間・長期に渡って常態化してしまうと、その身体を著しく蝕んでいく。具体的には、筋力低下や体力低下を皮切りに免疫機能や心肺機能等あまねく身体機能を低下させる。
Last Updated: 2026-04-07
転生吸血姫

転生吸血姫

遊び人男が女に刺殺されて転生したのは吸血鬼の王女。城に住み臣下がいて美少年に愛され幸せに見えたが...国の経済状況はひっ迫していた。何とかするにはある国との関係回復が必須。その国には三人の王子がいる。どれも一筋縄ではいかないイケメン王子様!絶世の美少女となった主人公が遊び人だった前世を活かし彼らを虜にして国を救う!? 男女逆転(TS)転生!ロマンスコメディ・ゴシックファンタジーが幕を開ける!
Read
Chapter: おまけ
「リザさま。おはようございます」起きるなり若くて美しい侍女がやさしく声をかけてきた。「おはよう。マデリーン」リザレリスが応えると、マデリーンは満面の笑みを浮かべた。「本日も朝からリザさまはとってもお可愛くていらっしゃいます」「マデリーンのほうこそ朝から美人だな」元遊び人らしくリザレリスも調子良く返した。するとマデリーンの顔がトロけるようにほころぶ。「そ、そんな、リザさまからそのようなお言葉をいただけるなんて」気をよくしたリザレリスは、マデリーンの頬にそっと手を触れる。「こんな綺麗な侍女がいてくれて、俺...わたしは幸せだぜ」「はあ!」マデリーンは膝から崩れ落ちた。「まったく朝から何をやっているんですか」後ろからルイーズが呆れながらやってきた。
Last Updated: 2025-07-07
Chapter: ep101 エミルとルイーズ
【25】夜、皆が帰っていった後。リザレリスが自室に戻っていってから、居間でエミルはルイーズに訊ねた。言うまでもなくマデリーンについてのことだ。確かに彼女は、まるで人が変わったようにリザレリスへ従順になった。しかし彼女がリザレリスを傷つけたことは事実。それなのに侍女として彼女を迎え入れたのはどういうことなのか。「もちろん無条件に受け入れたのではありません。マデリーン・ラッチェンは、私の課した試験に合格したので採用しました」これがルイーズの回答だった。そして彼女はこうも付け加えた。「マデリーン・ラッチェンは、何もかも正直に話してくれましたよ。その上で彼女はリザレリス王女殿下の侍女になりたいと申しました。そんな彼女に対し、私は通常よりも遥かに厳しく試験と審査を行いました。しかし彼女は合格しました。ハッキリ言いましょう。彼女は優秀です。今後、彼女は必ず役立ってくれると私は判断しました」その説明は、エミルを納得させるに余りあるものだった。ルイーズという人間のことをエミルはよく知っている。彼女の課す試験と審査というものが、どれだけ厳しいのかを知っていた。エミルにとって彼女は、真の信頼に足る人物だった。彼は彼女を尊敬もしていた。「ルイーズさんがそう言うなら、そういうことなのでしょう」エミルが納得して見せると、ルイーズは口元を緩めた。
Last Updated: 2025-07-06
Chapter: ep100 サプライズ
こうしてすっかり楽しい雰囲気となった彼らへ、サプライズが起こったのは夕食の時だった。食卓に着いた彼らのもとへ、ルイーズの指示に従い侍女が料理を運んでくる。最初は誰も気にしなかったが、ふと皆の視線が彼女に貼りついて固まった。ルイーズが満を持してといった具合に、咳払いをひとつする。「彼女は、本日から新しく侍女として入って参りました。マデリーン・ラッチェンです」侍女姿となったマデリーンは、リザレリスたちに顔を向け、挨拶する。「改めまして、本日よりリザレリス王女殿下の侍女としてこちらに勤めさせていただきます、マデリーン・ラッチェンです。どうぞよろしくお願いいたします」部屋に沈黙が訪れる。誰にも理解が追いつかない。皆が口を半開きにする中、フェリックスが吹き出した。「これは参ったな。さすがに僕にも予想外だったよ」笑い声を上げるフェリックスに、マデリーンが体を向ける。「フェリックス様の温情ある措置があったからこそ、今の私があります。本当にありがとうございました」彼女の謝意に対しフェリックスが会釈した時、ようやくリザレリスたちも一斉に声を上げた。「えええー!?」
Last Updated: 2025-07-05
Chapter: ep99 王女のおかげ
放課後、肩を落として校舎から出てくるリザリレスを待っていたのは、レイナードとフェリックスだった。このタイミングでこのふたりが待っていたということは、理由はひとつだろう。「リザも聞いていると思うけど」とフェリックスは前置きして、リザレリスの反応を窺ってきた。リザリレスは無言で頷く。それを確認すると、彼は申し訳なさそうな顔を浮かべた。「彼女が自分自身で決めたことだから、これ以上は僕にもどうにもできない」そんなフェリックスに、レイナードは言う。「いや、兄貴は最大限のことをやってくれた。俺なんか最初からなんもできてねえ」レイナードは悔しさに唇を噛んだ。空気が重くなっている彼らを、周囲の生徒たちは不思議そうに眺めていた。いったい王子ふたりが一年生と何を話しているんだろう、という目で。マズイと思ったエミルとクララが視線を交わし合う。「早く参りましょう!」エミルとクララに促され、リザレリスたちは歩き出した。一行が乗り込んだ馬車がリザリレスの屋敷に到着すると、クララが遠慮がちに口をひらく。「ほ、本当に、私までよろしいんですか?」「当たり前じゃん。こんな日だからこそ今日はみんなで楽しみたいんだよ。クララもいてくんなきゃ困る」
Last Updated: 2025-07-04
Chapter: ep98 決めたこと
人気のない校舎の裏庭までやって来ると、マデリーンが立ち止まり、こちらへ振り向いた。彼女は周囲を見まわしてから、クララへ顔を向ける。「巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」自分への謝罪にびっくりしたクララは、慌てて手を横に振った。「わ、私は、むしろ加害者側で」「違う。貴女も私の被害者よ。それに貴女がいなければ本当に取り返しのつかないことになっていたかもしれない」「そ、そんな、私は」「ごめんなさい。そして、ブラッドヘルム王女様を救ってくれてありがとう」「わ、私は、できることをやっただけです」クララは複雑な胸中で恐縮するが、マデリーンの様子には安堵していた。それからマデリーンは、改まってリザリレスの方へ向く。「ブラッドヘルムさん。いえ、リザレリス王女殿下」「は、はい」やけに畏まった様子にリザリレスはやや戸惑うが、このあとさらに困惑させられる。マデリーンが跪いてきたのだ。「この度は、多大なご迷惑を
Last Updated: 2025-07-03
Chapter: ep97 焦燥の悪役令嬢
【24】シルヴィアンナと取り巻きは、教室で呆気に取られていた。あの日の翌日以降、リザリレスが何も気にしていないからだ。怒るでもなければ怖がるでもなし。文句すら言ってこない。ただ何事もなかったように、教室でも外でも普通に明るく楽しく過ごしている。「どういうことなんでしょう......」取り巻きが言うと、シルヴィアンナはふんと鼻を鳴らす。「それよりもラッチェン先輩の停学処分が気になるわ。あの人、いったい何をやったの?」「さあ。あのあと私たちはそのまま帰ってしまいましたから......」「そういう約束だったからそれは仕方ないわ。ただ、あの人の停学処分の理由がわからないと、何となくわたくしたちも大人しくせざるをえないじゃない」マデリーン・ラッチェン停学については、一年生の間でも噂が広がっていた。何せマデリーンは第二王子の恋人だった女。その彼女が停学処分となったのだから、何かと勘ぐられ、囁かれてしまうのは仕方がないことだろう。ただし噂はどれも憶測レベルで、信憑性に欠けるものだった。 「し、シルヴィア様の、おっしゃるとおりです」おずおずと取り巻きは答えた。そうとしか答えようがなかった。シルヴィアンナは苛立ちを滲ませる。
Last Updated: 2025-07-02
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status