Chapter: ep36 昼下がりの出来事【11】留学まで残りあと僅かとなったある日。午前の授業を終え、いったん自室に戻ったリザレリスは、はたとする。「俺...わたしは、なにマジメに王女やってんだー!」ここのところのリザレリスは、日々ルイーズの授業を受けながら、城内と城の近辺だけで過ごしていた。留学したら自由にできると思って、今は大人しくしていたというのもある。ヘタに何かをやらかして留学の話が飛んでしまったら元も子もない。だが、そろそろ限界を来していた。「留学はマジで楽しみだ。なんせ前世でも経験したことないんだから。だから今は遊ぶのも我慢してたけど......もう遊びてー!!」リザレリスは叫んだ。前世の人格から飛び出した、まさしく魂の叫びだった。「てゆーか最近はエミルの奴もあんまり絡んでくれないし。そうだ。エミルを連れ出して、また一緒に外へ遊びに行こう!」思い立ったが吉日。リザレリスはドタドタと部屋を飛び出した。「エミル・グレーアムですか?外に行っておりますが。場所は確か......」臣下のひとりに教えてもらい、リザレリスは廊下を駆け抜け城を出ていく。召使いに命令して呼び出したほうが楽なのに、リザレリスは自分で探しに行った。そうしたかったから。
Last Updated: 2025-05-05
Chapter: ep35 もうひとつの変化【10】王子来訪以来、エミルは城外にある人気のない空き地によく足を運ぶようになっていた。リザレリスを取り巻く状況が変化したことと並行して、エミルの心境も変化していた。もっとも彼の場合は、個人的な感情に起因していた。「精が出るな。エミル」そこへディリアスがやってきた。すでに空は夜に染まっていた。「ディリアス様。お忙しいところ、こんな時間にお呼び立ていたしまして申し訳ございません」エミルは動作を止めて、ディリアスに体を向けた。綺麗なエミルの白い顔は火照り、汗が滴り落ちている。「今は私たちだけだ。そんなに堅い言葉使いはしなくていい」「そうですね、先生。それでは早速ぼくと手合わせ願いませんか?」エミルは意気込んで構えるが、肩で息をしていた。ディリアスは吐息をつく。「少し休憩を取りなさい」「嫌です」生贄の美少年は、熱い青少年の眼差しを向けた。「すぐにやらせてください」「そん
Last Updated: 2025-05-04
Chapter: ep34 状況変化【9】王子ふたりが来訪してからしばらくの間に、リザレリスを取り巻く状況は変化していた。まず、ドリーブの策略によって危ぶまれたディリアスの地位は、以前にも増して安泰した。これはリザレリスにとっても好ましい状況変化といえる。「この度は、誠にありがとうございました......」ディリアスに深々とお辞儀をするドリーブのタヌキ面は、悔しさに満ちたものだった。結果として、ディリアスがドリーブの失策を挽回した形となったからだ。ディリアスがフェリックス王子と王女留学の話をまとめたことにより、ドリーブも救われた格好となったのである。もちろんドリーブ自身リスクは重々承知していた。失敗に終わったこと自体は素直に受け入れている。要するに、政治生命を救われたとはいえ、ディリアスに借りを作ってしまったことが不本意でならないのだ。「し、失礼いたしました......」奥歯を噛み締めてドリーブが部屋から辞去していくと、ディリアスは吐息をついた。「ドリーブ卿は、一番の政敵である私に借りを作ってしまって悔しいだろうな」「これで大人しくなってくれればいいですね」何の他意もなく部下が言うと
Last Updated: 2025-05-03
Chapter: ep33 帰国【8】城を後にした王子たちは、早々に帰国の途についていた。島国の〔ブラッドヘルム〕の港から、〔ウィーンクルム〕の港までは、船でニ時間あまりを要する。すでに夜だったが〔ウィーンクルム〕が誇る魔導式船舶であれば何も問題はない。だからフェリックスの意見で少しでも帰国を早めたのだった。誰もウィーンクルムとブラッドヘルムを行き来する商船に、王子二人が乗っているとは思いもしないだろう。入国も出国も、いずれもフェリックスの指示で、部下のグレグソンが手配した。第一王子にとって、お忍びでブラッドヘルムを行き来することは容易かったのである。「つーかよ」王子用に用意された客室の中、レイナードは正面に座るフェリックスへ切り出した。「マジで兄貴は何がしたいんだ?」弟の顔には当惑の色が浮かんでいた。兄はふっと頬を緩めて、穏やかに微笑む。「ディリアス様とお話したことがすべてだよ?」「どうせ俺に説明してもわからねーってことか」ふんっと弟は腕を組んで顔を背けた。「物事にはタイミングというものがあるからね」とフェリックス。
Last Updated: 2025-05-02
Chapter: ep32 王子の提案「驚かせてしまったようだね」フェリックス王子は、そのままゆっくりと階段を降りてくると、リザレリスを丁重におろした。「ケガはないかい?」「あ、ありがと」さすがのお転婆プリンセスも、しおらしく素直に感謝する。「これはフェリックス王子に一本取られたな。エミル」遅れてディリアスが彼らのもとへ歩いてきた。はたとしたエミルは、即座にフェリックスへ向けて跪く。「た、大変申し訳ございませんでした」「いやいや、悪いのは僕だから。君の動きがあまりに素晴らしかったからね」「い、いえ」頭を垂れたままのエミル。「フェリックス王子は有数の魔導師でもあるんだ」ディリアスが言った。それからディリアスは、侍女姿のリザレリスに視線を移すと、どうしたもんかと考える。フェリックス王子は、彼女が王女だと気づいているのだろうか?気づいていないのなら、このままやり過ごすこともできるが......。そこへディリアスの方針を固める出来事が起
Last Updated: 2025-05-01
Chapter: ep31 絵画ドリーブは疑問を浮かべ、エミルの耳元へ口を寄せる。「ど、どういうことなんだ?」「これにはちょっとした経緯がありまして......とにかく、王女殿下だということはバレていないようです」エミルの返答に、ドリーブは希望を取り戻し、顔色も取り戻した。「そ、そうか。レイナード王子は、ただの侍女だと思っているということだな」「はい。それはそれでまた別の問題がありますが」「確かに......」 一国の王子が他国の侍女に指を突きつけられているなど、ありえないことだ。ドリーブはひやひやしながら王子と侍女を見守る。「ったく、ここじゃ侍女の教育もままなっていねーのか?」「そんなことより、指輪を渡せよ!」「なーんでこの俺がお前に渡さなきゃならねーんだ。買ったのは俺だ」「割り込んだのおまえだ!」「メンドクセー女だな」「あんだ
Last Updated: 2025-04-30