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Novels by Mr.Z

異常のダイバーシティ

異常のダイバーシティ

― 2030年、AI総理が誕生して激変した大阪  受験が迫る高3のザイは、最近梅田に出来たばかりの新大阪大学へとオープンキャンパスに来ていた。    解剖医兼外科医の一人娘スアと、大学構内を見て回っている途中、ある人物がいるのを見かける。  それは、先日ここに来ていたとされる同級生二人と、数日前に突然行方不明になったという、大阪府知事の日岡知事だった。  後を付けてみると、【ProtoNeLT ONLY】と書かれた謎の場所へ入って行き、自分たちもこっそり入ってみる事にする。  そこには、謎の人型最新AIの"ProtoNeLT"が多数設置されており、さっき見かけた3人も含まれていた。  翌日、その違和感から全てが始まる⋯⋯
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Chapter: 18. 復光≪AnomalyLight≫
「やっぱこうなるじゃねぇか、気まずいだろうが⋯⋯」  助手席に座ったケンが呟いた。 「だからって、放って行く訳にもいかないだろ」 「⋯⋯っせぇ。俺は"偽プロ"と違って一人でもやれる」  不貞腐れたように、暗闇へ染まった夢洲都市を見つめるケン。さらに奥には、煌びやかではなくなったカジノが微かに見える。 「あのー、さっきは助けて頂いて、ありがとうございました⋯⋯」  その気まずさを裂くように、モアが一言置く。 「⋯⋯おう」  そういえば、さっきケンは"銃らしきもの?"を持ってたっけ。ちょっと聞いておくか。 「なぁ、ケン。さっき銃を使ってなかったか?」 「はぁ? お前知らねぇのか?」 「⋯⋯何がだ?」 「ついさっきの最新アップデートで、プロ専用のハイスマートグラスが、"簡易小型銃"になるようになったのを」  ⋯⋯そんなのあったっけ?  後ろに座る女子二人も全く知らない様子だった。  この情報はどこを調べても出回っていない、一部しか知らないらしい。 「まぁ、いきなりだったから、見てねぇヤツがほとんどか。今度からは常にチェックしとけ、死にたくねぇならな」 「あ、あぁ⋯⋯」  高低差での有利を活かすために、ハイスマートグラスをよくカスタマイズしているこいつにとっては、このくらい朝飯前だったのかもしれない。  そのアップデート内容とやら、今のうちに確認しておくか。 「ってか、スアちゃんごめんな。後で話したいって言っときながら、いきなりキャンセルしちまって」 「あ、ううん⋯⋯全然いいよ。⋯⋯⋯ケン君、私たちは天王寺駅に向かってるけど、このまま一緒でもいい?」 「⋯⋯俺は途中で降りるわ。スアちゃんの邪魔したくねぇし」 「別にそんな⋯⋯ねぇ、みんな? せっかく助けてもくれたし」  俺は、そっぽ向いたままのケンの方を向いた。 「今だけ睨み合うのはやめようぜ。嫌かもしれないが、協力する時じゃないか」 「⋯⋯ちっ、安全になったらすぐ抜けるからな。んな事より、天王寺駅まで行って何すんだ?」 「知り合いの先輩が迎えに⋯⋯」  その時、一つのメッセージが入った。大会延期のお知らせだった。いくら全体の主催がAI総理とはいえ、運営側が中止を申し出たようだ。  当然だ、明日の大会なんてものは気にしていられない。  そもそもこのイベント自体、"
Last Updated: 2025-09-01
Chapter: 17. 出口≪Exit/Escape≫
 ネット上でウワサだけは聞いていた。  AIだけで作られた近未来な高校があると。  まさかこんなとこに、しかもうちの学園のだったなんて⋯⋯  ⋯⋯そこに"アイツら"がいるのもさらに意味不明だ。  そういえば、あまり考えてなかったけど、全てAIによって賄われているアフターバンパクシティで、警備員がいるって事はそれほどヤバいって認識でいいんだよな。  ⋯⋯この状況からして、それしかないか  一呼吸し、無理やり息を整える。 「あと残り10階降りれば、地上の方のホテル出口から出られる。西出口にタクシーが来てるから、そこを目指そう」 「うん⋯⋯ごめんね、取り乱して」 「すみません⋯⋯」 「しゃぁねぇって、あんなの見たら⋯⋯俺もまだ気が狂いそうだし⋯⋯」  ⋯⋯とにかく、あと10階だ  25階から下は、アフターバンパクシティの地下ホテルの方へと切り替わるため、そっちには行く必要は無い。つまり、1~24階は地下、25~50階が地上という構造になっている。  それにしても、警備員以外には誰とも会わないな⋯⋯  律儀に部屋に籠っているのだろうか。まぁそりゃそうか、殺人鬼が付近にいるかもしれないのだから。  でも、気付く奴は気付いてる。この異常事態の中、警察が来ることすら既に怪しい。なぜなら、大阪から出ようとした人たちを、止めている警察もいるという点がどうも引っかかる。  もしかすると、日岡知事の指示のよって動いている部隊と、従わない部隊で内乱が発生しているんじゃないか?  リアルタイムに流れてくるSNS情報を見るに、そう仮定していいはず。  と考えを巡らせながら、工事中の"大阪都波裏学園/夢洲校"から脱出するエスカレーターへと乗った。  ちなみに、この高校はホテルハブのような役割もしていた。  これまで降りる途中、何ヶ所か簡易的なハブポイントはあったが、この高校が一番大きなハブといっていい。  さっき俺たちは最上階の4つ出口のうちの1つから出たが、それらは独立しており、他の出口とは繋がっていない。だから、"撃ったアイツ"とまた遭遇、なんて事はそうそう無いわけだ。  34階へと降り、また客室廊下が始まった瞬間だった。 「な⋯⋯ッ! 停電!?」  突如フロア全体が真っ暗になり、何も見えなくなっ
Last Updated: 2025-08-28
Chapter: 16. 隙間≪Abyss/Space≫
 よりによって50階ってのが⋯⋯  まずはエレベーターまで行くしかないな。  俺が水色のハイスマートグラスを構えると、また海銃へと変化した。  何やら構えるとこの姿になるらしく、コイツをリアルでも活用するしかなさそうな感じがする。  ⋯⋯頼む。今だけでもいい、俺たちを守ってくれ  それからは慎重に、なるべく足音を立てないよう、歩く事にした。  この辺にもまだいるかもしれない。俺とスアが見たあの人型AIは、夥しい量だったからな⋯⋯  だが意外とエレベーター前へはすぐ辿り着き、非接触パネルから下降ボタンをタッチする事に成功した。そしたら⋯⋯ 「⋯⋯なんでだ? これ、動いてないぞ⋯⋯?」  いくら押そうと、微動だにしない様子が見て取れた。 「え、そんな⋯⋯そんなわけ」  スアも俺と同様に下降ボタンを押しまくっているが⋯⋯  ⋯⋯最悪だ、ここ以外で考えるしかない 「先輩! あっちのエスカレーターなら動いてるみたいです!」  そう言うと、モアは俺たちをそっちへ誘導した。 「ここなら階段よりは早いはずですよね⋯⋯!」 「だな。こっから行こう」  俺たち3人はエスカレーターを突っ走り、素早く降りて行った。  これによって、どうにか40階までは一気に来る事が出来た。  しかし、40階からは"新設予定の学校?"が入っているらしく、それが35階辺りまで続いているようだった。 「これってさ、高校⋯⋯っぽいよね⋯⋯? ザイ、知ってた⋯⋯?」 「いや、全然知らねぇ⋯⋯」  L.S.から館内マップを見ても、"工事中により立ち入り禁止"とだけある。  そういや、さっきのエスカレーターは非常時用だったけど、ここに繋がってるのか。  ここからさらに降りるには⋯⋯ 「えっと、左に曲がって、広間みたいな場所にエスカレーターがあるみたいだよ。もっと奥にエレベーターっぽいのがあるけど⋯⋯たぶん動かないよね」  展開したL.S.で何かを確認しながらスアが言った。  今日の大会で酷使していた、超小型ドローンのバッテリーが復活したらしく、それを使って先を見ているそうだ。 「さすがです、スア先輩⋯⋯!」 「なんとか間に合ってよかったよ~。モアちゃんのドローンはまだ充電が必要そ?」 「そうですね⋯⋯
Last Updated: 2025-08-27
Chapter: 15. 極室≪PentHouse/Suite≫
 三人で一旦俺の部屋へと集まり、状況を確認する事にした。  さっきの警備員が、実は"ProtNeLT"というアレだった事も伝えると、スアの顔は青ざめていった。 「ねぇどうしよ⋯⋯ここにいても、また来るかもしれないよ⋯⋯」 「⋯⋯このホテルから出た方がいいか」 「待ってください! その"ProtoNeLT"というのはなんですか?」 「あ、あぁ、モアは知らないんだったよな。昨日、新大阪大学にオープンキャンパスに行ってきたんだよ。そこに"赤と青の謎のドア?"があって、中には"訳分からない人型のAI"が大量に並んでたんだ。それが"ProtoNeLT"って名前が付いてた。確かあれは略された名前で、本当の名前は"Prototype/Next time Living the Things"だったような⋯⋯」 「な、なんですかそれ⋯⋯?」 「俺たちもよく分かってない。ただ、あの場所で見ただけで⋯⋯」  話してる途中、スアが後ろから抱き着いてきた。 「な、なにして!?」 「ごめん、ちょっと許して⋯⋯。ザイの首筋の匂い嗅ぐとね、落ち着くの⋯⋯」 「そのクセまだ治って無かったのかよ!?」 「うん。我慢してただけ⋯⋯」  スアが俺の首元で大きく深呼吸し、その度になんとも言えない感覚が走る。  モアはというと、口をポカンと開けたまま、唖然とこっちを見ている⋯⋯。  これはこいつの昔からのクセで、こうすると何事も上手くいくような落ち着きを得られるそうだ、意味分からなすぎる。  高校生になってから治ったと思ってたのに、全然治ってねぇし⋯⋯!  でも嫌いってわけでもないから、別にいいんだけど⋯⋯  ⋯⋯もしかして、エンナ先輩に頭嗅がれたせいで戻ったんじゃ  あ、そういや先輩の方は何も起きてないよな⋯⋯?  俺はスアに嗅がれながらも、L.S.ですぐさまXTwitterを確認した。  すると、なんとここだけでなく、各所で"常軌を逸した事件"が多発しているという情報が流れ込んできた。  いきなり殴られたというところもあれば、ナイフで刺されそうになったところも、爆炎が起こったなんてのもある。  さっきまでいた竜星天守閣内でも、同様の事で混乱しているようだった。  さらにヤバいのが、大阪以外には連絡が取れなくなっているらしく、その上、大阪から出ようとしたところ
Last Updated: 2025-08-26
Chapter: 14. 対峙≪Confrontation≫
 ⋯⋯よし、誰もいない 急いで露天風呂の方に走った俺は、何事も無くスアの近くへと辿り着く事ができた。「その声⋯⋯ほんとに来たの!?」「当然だろ。この階は何とも無さそうだから、今のうちに着替えて部屋に戻るぞ」「分かった。モアちゃん、行こ!」「はい⋯⋯!」 その間、俺は辺りを警戒しながら、風呂の出入口付近の壁にもたれかかって息を整えた。 疲れと緊迫感とが混ざり合い、全身からさらに汗が噴き出る。 まさか間近で殺人事件に遭遇するなんて⋯⋯よりによってなんでこんな時に⋯⋯とにかく冷静に、冷静にだ。きっと三船コーチだったら、絶対そうする。 ⋯⋯そうだ、三船コーチに連絡してみるか? こんな時にどうするのか、あの人の方法を聞きたい。 そう思い、すぐさま通話を飛ばしてみた。 すると⋯⋯「⋯⋯なんで、こんな出ない事無いのに⋯⋯!」 一向に出る気配が無く、メッセージの返信も全くない。 これまで一度もそんな事無かったのに⋯⋯もしかして、"東京の方"でも何かあった⋯⋯!? その気持ちに畳みかけるようにして、俺が走ってきた奥角の方から不穏な足音がした。 ⋯⋯こっちに⋯⋯来てる⋯⋯? 徐々に近付いてくる足音に、鼓動がさらに激しくなっていく。 なんで⋯⋯こっちに⋯⋯ ついに足音が壁一枚隔てた先まで来た時だった。 スアとモアが女子更衣室から現れ、二人の足音が響いてしまった。 俺が静かにするよう合図するも遅く、真横で響いていた足音は静かになってしまった。 バレ⋯⋯たか⋯⋯?『そこで何をしていますか? 部屋から出ないようにとお伝えしましたよね?』 防弾着のような厚めのチョッキに、全身黒の服装、左手には赤く光る警棒。 唐突に入って来たのは、どうやらここの警備員で、ここまで安全の見回りに来てくれたらしい。「さっきまでお風呂に入っていまして、突然アナウンスが⋯⋯」『それは災難でしたね。私が付いて行きますので、安全なうちに部屋へ戻りましょう』 スアに対して笑顔で対応する警備員。 ⋯⋯ふぅ、なんだよ。てっきり、殺人犯が来たかと思って焦ったじゃねぇか⋯⋯ モアが俺の傍へと寄ってくる。「(入って来た時はびっくりしましたね)」「(いやまじ焦りすぎて冷や汗かいたわ⋯⋯)」 そして部屋へ戻ろうと、出入口から廊下へと出た時にある事が起こった。『ところで、一
Last Updated: 2025-08-25
Chapter: 13. 新策≪NewDiversity≫
「あ、帰って来た! 何の用だったの?」 「明日の打ち合わせ的な」 「な~んだ。それじゃ、豪華ホテルへGO~!」 「楽しみですね⋯⋯!」  嬉しそうにスアとモアが先を歩いて行く。  ふと、スアがこっちを向いてきた。 「なに後ろで一人ニヤニヤしてるの?」 「ん、なんでもねぇよ」 「もしかして、まだ何かあったりするぅ~?」 「なんもねぇって」 「宿泊券以外なんかあるでしょ! 早く出してぇ~!」 「だからなんもねぇって!」  そうこうしている内に、宿泊券に記載された豪華ホテルへと辿り着いた。  これが凄い事に、用意されていたのは"最上階の部屋"だった。 「こんなにいい部屋、本当に泊まっていいの⋯⋯!? ザイ、一体何やったの!?」 「⋯⋯俺にも、何が何やら」 「スア先輩! こっちに貸切の露天風呂ありますよ!」 「わぁ!? モアちゃん一緒に入る?」 「はい! 入りましょう!」  そこからは各々の部屋へと分かれ、二人は早速露天風呂へ。俺は一人ベッドに横たわった。  さて、もうすぐAI総理のスペシャル対談が始まる。L.S.から配信でも見れるから、待機しておこう。  竜星天守閣内で待ってる人も多い。なんたって、生でAI総理を見られるのは今回初だ。それを体験できるのは今後無いかもしれないと囁かれている。  まぁでも、俺はそこまで興味も無い上、疲れたからホテルに帰る選択を取った訳だけど⋯⋯  これがメインイベントではあるが、俺たちAR e-Sportsプロをメインに来た人もいるだろうし、人によって目的は違うしな。  そして、この対談配信は前半が無料になっていて、後半からは有料に切り替わる。サミットの入場券を購入した人、招待されている人は全て見られるようになっているため、俺のように帰宅しながら見る人もいると思う。  ただ一つ他と違うのは、家から配信だけを見る事も可能だが、それは"大阪府民のみ"に限られているところ。このサミットは、全体的に何かと"府民が優遇されているもの"となっているらしい。  そんな中、未だ対談相手は発表されておらず、かなり意外な人物が出てくると予想されている。  誰が来るのか気になるとこだけど⋯⋯それよりも、俺は"さっきのあの人とのバトルシーン"で脳内が埋め尽くされていた。 ♢「またやろうな、ザイ。今まで一番仕上
Last Updated: 2025-08-21
フォールン・イノベーション -2030-

フォールン・イノベーション -2030-

"2030.06.01" 世界初のある事が日本にて行われた。 "最新型AIの総理大臣就任" 衝撃的ニュースから3か月後、"大学3年の三船ルイ"はやる事を終え、"幼馴染のユキ"と会って久しぶりに外食をしている時、『AI総理大臣は新たな経済対策を発表しました』という意味深な速報を目にする。 直後、"AIアンドロイドに人が食われて死ぬ"というありえない事件を目にした二人は、この新経済対策の"本当の恐怖"を知る事になる――。
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Chapter: 101. 密会
「あ、男子全員いる。おはよ」 男4人で朝食を取っていると、ユキを筆頭に女子たちが2階バイキングへと降りて来た。 ヒナとノノはまだ眠そうな顔をしている。「何食べてるの? それ」「ん、これは"赤毛和牛筋カレードーナッツ"」「え、めっちゃ美味しそう。私もそれ欲しいな」「んなら、これやるよ。来たら欲しがると思って、多めに取っといたから」「さっすがルイ。隣、座っていい?」「いいよ」 持っていったカレードーナッツ2個を半分ずつにし、4人でそれぞれシェアしているようだ。1個が結構大きいため、女子にはそれくらいの方がいいかもしれない。「ん~! こんな美味しいカレードーナッツ、食べた事無いわ!」「だろぉ!? これマジで最高だよなぁ!」「シンヤ君に言ってない」「は!? 朝からひどっ!?」 二人のやり取りに、アスタとカイが笑っている。 朝から騒がしいなこいつら。「シン君ってさ、新崎さんにそんな対応取られてるんだね」「んだよ、二人でそんな笑いやがって。ルイにはクソ甘々なくせに、俺にはいつもこうなんだよなぁ」「まぁ、ルイ君相手は仕方ないよ」「おいおい、あのアスタが諦めんのかぁ?」「だって、彼は"超宇宙人"だから、"蝶"だけに、ね」 ⋯⋯昨日の俺と同じ事言ってるぞ カレードーナッツを食べ終わった女子4人は、次のドーナツを取りに行った。ただニイナだけは、一瞬俺の方を向いてニヤりとした。 ⋯⋯あいつ、俺が逃げたから勝った気になってやがる バカラサバイバルで負けたのがよっぽど悔しかったらしい。 そんなに本気で勝負する必要あったか⋯⋯?「ニイナとなんかあった?」「いいや、バカラで遊んでただけ」「え、違法賭博?」「んなわけねぇだろ」「ルイ君がしてくれたら面白いんだけどなぁ」「お前弁護士やめろ」  俺とアスタの間に、シンヤが割り込んできた。「おい! 弁護士やめたら俺とAR部門プロやろうぜ! おめぇならすぐなれるからよぉ!」「それも面白そうだね」「そのプロを雇ってる"事務所の社長が俺"だろうが」「そうなんだよなぁ。このルイとかいう"一番終わってる野郎"がやってんだよ。こいつプロの大会で優勝しすぎて、今出禁扱いされてんだぜ」「ぷっ」 突然アスタが飲んでいた水を噴き出しそうになった。「きったねぇな、人の出禁で笑うんじゃねぇ」「アス
Last Updated: 2025-08-07
Chapter: 100. 紅囲
 男湯から上がると、「あ、出てきました」「やっほー、ルイ兄」 いつの間にか、ニイナとノノもここに来ていた。女子4人でアイスを食べている。「ここのアイスドーナッツ、甘さ控えめでおいしいわ。男三人衆も食べる?」「せっかくだし、頂こうかな」「僕も貰います!」 ユキの誘いに、アスタとカイが釣られていく。「ルイは食べないの?」「さっき食べた分で腹いっぱいだわ」 俺は近くのマッサージチェアに座り、目を瞑ろうとすると、こそこそとノノが来た。「最後に会ったのって、10年前くらい? ルイ兄とユキ姉が小5で自分は小2、あの時は大きく見えたなぁ」「急に引っ越して行きやがって」「しょうがないじゃん~、急に離婚だのなんだのってさ、バカ親父に付いていく事になっちゃったもん」「すっげぇ嫌だよな、子供の時の離婚って。ある程度大きくなってくれば、それがなんでなのかは理解し始めるんだけど」「うん。その問題とユキ姉の口癖が重なってさ、反抗期の口の悪さヤバかった」「今は?」「⋯⋯また少し戻ってんだよね。ELに選ばれなくてさ、選ばれたヤツらは私たちを見下しているようで、クソ腹が立ってたから。だから自分がA.ELになれた時、やっと見返せるなってなった。まずは周りに舐められないようにしようって。でもそれ、ELのヤツらと同じような事しちゃってたんだなって、ユキ姉たちが来たおかげで気付けた」「ちゃんと気付けるなんて、大きくなったなぁ」「ん~、"胸の大きさ"はユキ姉といい勝負?」「"そこの大きさ"じゃねぇよ」「ちょっと揉んどく? 今ならバレないよ!」「ばーか、妹みたいなお前にそんな事できねぇよ」「(⋯⋯好きだったんだけどなぁ、ルイ兄の事)」「は!?」 あ、あいつ!? 耳元で囁いた後、ノノはあっちに行ってしまった。「もう1個食~べよ!」「それ、私が残してたのに!」「ユキ姉が遅いからだよ~!」 それからもノノは、ちらちらとジト目でこっちを見てきた。 昔のようにじゃれてきただけだと、自分に言い聞かせ、あえて視線をそらす。 こんな時は目を瞑ればいい、ノノは俺の慌てる素振りを見たいだけなんだ⋯⋯ しばらくして、金星ドーナッツ部屋へと戻って来た俺は、ベッドへと寝っ転がった。 やっと一人になれたぞ、人で玩具のように遊びやがって⋯⋯結局、ここが一番落ち着くな。 
Last Updated: 2025-07-26
Chapter: 99. 混浴
 30階に着くと、そこには"金の宇宙?"が広がっていた。さっきの受付ロビーと雰囲気から全く違い、その壁には金のドーナッツが銀河を漂っている。 そんな訳分からない場所には、2種類のドアだけがあった。一人部屋と四人部屋、俺たちはこっち側だ。 ⋯⋯なぁ、これボス部屋じゃないよな⋯⋯? もう、そうにしか見えないぞこれ。 "金のウロボロスドーナッツ型のドア?"とでも言えばいいのだろうか、よく分からない謎のモノの前に俺たちは立っている。 横の女子二人は興奮冷めやらぬ状況。この後、本当にボス戦が始まったら、こいつらは一体どうなっちまうんだ。「⋯⋯それじゃ、開けるぞ」「うん!」「はい!」 期待した目で二人が見ている。 どんなのが待っているのか⋯⋯ゆっくり開けると⋯⋯ ― 黄白色のモコモコした壁、天井には大きな金星ドーナッツ風の埋め込み照明、さらに金星ドーナッツの模様がたくさん入った床やベッドや冷蔵庫等「サンプル通りね! いいじゃない!」「わ~い♪ 金星ドーナッツだぁ~!」 ユキとヒナはベッドへと突っ伏した。その勢いで、二人のピンク色のパンツが見えたのは黙っとこう。そんな短いスカート履いてるのに、そんな事する方が悪い。「そういやヒナって、肋骨4本ヒビいってたのに、元気なの凄いな」「あー、かなりの劇薬を飲みましてぇ」「劇薬?」「"3週間効く痛み止め"を飲んだんです。副作用に、効き目が切れた後に1週間寝てしまうらしいんですけど」「はぁ!? 1週間!?」 ヒナはその薬を取り出した。真っ黒の液体が半分飲んであり、中心に横線で"ココマデ"とある。「⋯⋯こいつを1回分飲んだのか」「はい」「そうするしか、あの時は方法が⋯⋯」 ユキがヒナの背中をさすりながら言う。 俺がいなかったせいで、ヒナがこんなのを飲むはめに⋯⋯ この副作用をどうにかする方法はもう無いのか? 効き目は凄いが、ヒナの身体に相当な負担を掛けているはず。 ⋯⋯くそ、調べても何もいい情報は無い 副作用の始まりが20日ほど先と考えて、それまでに全てを終わらせないといけないかもしれない。ヒナ無しでは相当キツいだろう上に、1週間見守り続けるのも容易ではない。 ⋯⋯そこまでが、俺たちが動ける最終リミットと考えるべきか「俺が不甲斐ないせいで⋯⋯ごめん。その副作用が始まる前に、全てを終
Last Updated: 2025-07-21
Chapter: 98. 金星
 ラウンジから出て、第2ターミナル直結ホテルへ向かおうとした時だった。「こんなとこにいやがったっ! 何置いて行ってやがるっ!」 まさかのシンヤがいた。「あ、起きたのか」「あ、じゃねぇ! 声掛けろよ! 夜飯一緒に行く約束だったろ!?」「いや、めっちゃ気持ち良さそうにしてたから、邪魔したら悪いかなって」「なんでだよ!? ⋯⋯おい、もしかして、二人と飯食った帰りじゃねぇだろうな!?」「あ、うん」「あ、じゃねぇ!! 一人で食って来いってか!?」「悪かったって。あっちにある"スーパーファーストクラスラウンジ"ってとこ使ってみろよ。一人でも充分楽しいから。なぁ、ユキ? ヒナ?」 隣にいるユキとヒナが頷く。「なかなか入れないと思う、あんなところ。行っておいでよ」「シンヤさん! 是非行ってみてください!」 満足そうな顔で言う女子二人。「⋯⋯この輪の中に俺がいないっておかしいだろ!?」「まぁそう怒んな、明日行こうぜ明日。この休みの間の飯代は全部払ってやるから」 俺の言葉に、シンヤが大きく深呼吸した。「⋯⋯今日の分もか?」「今日の分も」「⋯⋯どれだけ高いモン食ってもか?」「いいよ。好きなだけ豪遊してこい」「⋯⋯後で文句言うんじゃねぇぞぉ?」 そう言い残し、少し笑顔に変わったシンヤは、"スーパーファーストクラスラウンジ"へと向かって行った。 あの顔、絶対とんでもない量食おうとしてるだろ、高いやつばかりで。まぁ全然いいんだけど、こうなるだろうと思ってたし。 さっき飯代と言ったが、金掛かるものは全部俺が出すつもりだ。こんな金持ってても使わないしな、200億も。 そもそも、頑張った皆のおかげで貯まったもの。皆で好きに使って欲しい。 そして俺たち三人はというと、改めて第2ターミナル直結の新しいホテルへと向かった。 1階の"あのドーナッツ模様のドア"の先だな。某有名ドーナッツ店が経営しているっていう、ちょっと楽しみになってきた。 そういや、アスタとカイはもうホテルで寝てるだろうか? 上に"珍しい温泉"あるらしいんだけど、一緒に行かないかな。「ねぇヒナ、今日泊まるとこ、"リアルドーナッツ温泉"っていうのがあるの知ってる?」 お、ユキも把握済みらしい。「え、なにそれ!?」「この後行くけど、行く?」「行く行く~!」 ヒナは調べながら
Last Updated: 2025-07-20
Chapter: 97. 三人
「なぁ、もうこのままでもいんじゃね?」「だな」 シンヤに返事すると、誰かの手が頭に触れた。目を開けると、俺の頭を撫でるユキが立っていた。隣に座るシンヤは、寝たまま"睡眠空旅"をまだ満喫している。「(⋯⋯何やってんだ)」「(そろそろご飯行きたいなーって)」 どんな呼びかけ方だよ、それ。他にも体験中の人がいるため、俺たちは小声で話す。ってか、今何時だ? ⋯⋯深夜の1時!? 時間を見ると、≪2030.09.27 AM 01:12≫になっていた。小一時間だけ体験してから飯に行こう思っていたら、ありえないくらい経っていた。 睡眠空旅、終わってんな⋯⋯やり始めたら時間が一瞬で溶けちまう。寝てるのに、空を飛んでる臨場感、いろんなゲームの先行体験、さらには周りを歩いてるだけでも様々な景色を楽しめる。 これが無料で出来るのはレベルが高すぎる、やる人が多い訳だ。 ⋯⋯シンヤはこのまま放っとこう「(んじゃ、行くか)」「(シンヤ君はいいの?)」「(腹減ったらくるだろ)」 バレないようにこっそり立ち、ユキと機内から出ようとすると、「(あ、ニイナとノノがいる。いつ来たんだろ)」「(なんちゅう顔して寝てんだ)」 二人が頭を合わせるようにしながら、口を開けて寝ていた。 もうただの仲良しじゃん。もちろん起こすような事はしない。 第2ターミナル内へと戻ってくると、こんな時間でもかなりの人が往来していた。 この流れを見るだけで、"現実の羽田空港"にいるんだと実感する。 ≪二蝶万物≫の非渋谷から帰って来たあの時、ユキは泣き続けていた。皆に心配されていたが、疲れが溜まってただけと適当にごまかしていた。 その理由は"俺だけ"しか知らない。あの"違う渋谷"で一緒にいた俺だけしか⋯⋯ 肉体的にも精神的にも休んだ方がいいと思い、明日明後日はここに泊まる予定にしている。二日くらい休んだっていいんだ、焦るのもよくない。「せっかくだし、一番いいラウンジ行ってみる?」 こんな澄ました顔で言ってきているが、さっきまで泣きじゃくってたんだよなぁ。腫れた目はもう引いてるっぽいが。 二人で国際線NJAスーパーファーストクラスラウンジへとやってきた。どうやらここは無料ではなく、"新経済対策後の累計収入額の多さ"に応じて、入れるかどうか決まっているらしい。そのように入口横に大きく書
Last Updated: 2025-07-19
Chapter: 96. 十二
 ※この話以降は【三船ルイの視点】となります 静かな風が辺りを包んだ。巨大な紫月がこの渋谷スカイを照らし始めると、あの時の事が蘇った。何も出来ず、こいつに殺された、あの時の事が。あんなに何も出来ない事は初めてだった。 自慢じゃないが、俺は一度も負けた事が無かった。ARやXRは、VRと違ってリアルの繊細な動きと判断が物を言う。ただ鍛えればいい、ただ慣れればいい、その時代は終わり、AIを使って常に最新の動きと対策を研究し、独自の動きへと、自分のAIへフィルターをかける必要がある。肌に合っていたのがこの環境だった。 こんな意味不明な経済対策が始まった時、その経験がこんなに活きるなんて、人生何があるか分からないと思った。でも、最期はこいつと会って、今までの経験全てを否定されたかのようだった。 遥か先を行った見た事無い動き、5年の歳月はあまりに大きさな差を生んでいた。 でも、今は違う。一度見たのは脳裏に焼き付いている。死んでから何もかも失って、何もかも捨てて、その代わりのものを持ってきた。 それは誰でもない、ユキたちのおかげ。だから、またここに立っていられる。 次はもう無い。今度こそ、どちらかがこの世から消える。『⋯⋯』 ヤツの両手に銃剣が握られた。このヘリポート上へと散る、0と∞、白と黒の時間粒子。"真の不死蝶"という存在が、辺りを震撼させる。 白空羽田空港の時のように、話してかけてくれそうにない。アドバイスもくれそうにない。俺を本気で殺すという意志だけが、そこには立っている。 ヤツの背中から七色蝶の羽根が広がると、ヤツは一瞬で俺へと迫って来た。お互いの銃剣が激しくぶつかった時、俺の銃剣から"新たな粒子"が舞う。 "前と違う異変"を察知したのか、ヤツが動きを変えようとする。その背には、薄っすらと浮かぶショウカさんが目を瞑り、ヤツを包んでいた。 ショウカさん、そこで見てるんだろ? 俺が代わりに持ってきた、この"全虚無限涅槃蝶の銃剣"で、あんたらを連れて帰るからな。「ルイ⋯⋯!!」 ユキの叫ぶ声が後方から伝う。「大丈夫だ。手に持ってる"それ"、任せたからな⋯⋯!」 ユキが持つ、あの"白黒カプセル"。それをどうするのか、全てユキに委ねている。 けど、そんな他の事を考える暇は今無い。目で認識出来ない攻防が続く中、死んで得た"コレ"が正しいのか
Last Updated: 2025-07-15
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