Chapter: 42. 勧誘「はい、聞いてました」「俺は明日からまた動こうと思う。ヒナは具合はどう?」「肋骨が4本ほどヒビがいってたみたいなんですけど、いけると思います!」「い、いやいや!? ゆっくり休まなきゃダメだろ!? ごめん、俺のせいで⋯⋯」「違いますって! あんなに強い槍貰ったのに、無力だったから⋯⋯でも、さらにコツは掴んだ気がしたので、次はもっと出来るはずです! なので明日私も連れて行ってください! 走る事だけ、まだダメみたいなんですけど」「まぁそんくらいだったらどうにかなるけど⋯⋯いいのか?」「いいリハビリにもなりますから!」「⋯⋯わかった、そしたら俺がずっと傍にいるから、やれる範囲でやろう」「はい!」 実はさっき裏部さんと話そうとする前、ちょうどメッセージが入っていた。「ルイさんが起きないと、私心配で眠れそうにないです」と。俺だけがずっと眠ったままだったようで、ヒナもずっと心配してくれていたらしい。メッセージ履歴や通話履歴を見返すと、ヒナだらけになっていた。 全部で200件以上あるか? もしかしてメンヘラじゃないよな⋯⋯? それでさっきの会話中、ずっとビデオ通話をこっそり付けていた。ヒナに喋らせなかったのは、呼吸器を付けており、あまり喋らせない方が良さそうに見えたからだ。 大声を出すと痛いみたいだし、正解だったな。ヒナにはゆっくり寝るように言い聞かせ、俺も寝る事にした。時間は〈2030.09.22 AM 03:36〉。こんなド深夜に付き合ってくれた裏部さんには感謝しかない。自室まで後もう少しというところまで歩いた時、目の前から5人ほどの集団が歩いてきた。この時間に誰かの見舞いか?「ん? あんた七色蝶か?」 なんだ? 俺に言ってる?「いや、この顔は合ってるよな?」 気の強そうな女性が話しかけて来たかと思えば、おっとりした様子の女性が急接近してきた。「合ってると思います~、この方ですね~」「おぉ、やっぱりか! 会ってみたかったわ!」「七色蝶って、僕ですか?」 なんか謎の女集団に絡まれてるんだが⋯⋯。「あんた以外いないだろ? あんな特徴的なの使ってるヤツは」「はぁ。それで、あなたたちは誰ですか?」「あぁ、すまんすまん。私は倉岩スエって言うんだ、スエでいいぞ! んで、私ら5人はクレセントステラっていうチームを組んでる」「よろしくお願いしま
Last Updated: 2025-05-04
Chapter: 41. 計画 それから俺たちは場所を変えた。何で赤ビルに閉じ込められていたのか、紀野大臣は何をしようとしていたのか、どういう関係だったのか、聞きたい事が山ほどある。「聞きたいって事ですよね。僕がなぜあんなところにいたのか」 意外にも、その話を切り込んだのは裏部さんの方からだった。「紀野さんとは仲が良かったんですか?」「いえ、それが全く。一番UnRuleのモンスターに詳しいのが僕だと、どこからか情報を得たようで、拘束されてあの場所へ⋯⋯君たちも見たと思いますが、彼はただネルトになっただけではありません」 一呼吸置くと、その口から衝撃の一言が放たれた。「⋯⋯覇天鱗ローガハルト。三船君が倒したというあの三翼の天魔神と同じ立ち位置にいるモンスター、それを自分の表面にコーティングさせたんです」「はぁ!? どうやってそんな事出来んだよ!?」 シンヤが食い気味に裏部さんを問い詰める。「大臣クラスには"特殊な金と黒のネルト"が用意されているようで、"最強クラスのUnRuleモンスター"を与えられてる人もいるみたいなんです。そのモンスターに対し、これを使ったんです」 なんだこれ? 赤い注射器?「これを当てると、あれらのモンスターを一定の確率で、皮膚の表面にコーティングさせる事ができるんです。でもそれはゲーム上の話であって、現実世界では何が起こるか不明。それを話したら、部下に実験させ始めたんです」「⋯⋯どうなったんですか?」 気になり、俺が聞くと、「全て失敗し、逆にモンスターに食われました。非常に危険なアイテムと化しているんです、これは。なのになぜか自分なら出来ると、あの人だけは成功させたんです」「⋯⋯そんな事が」 隣の二人も、信じられないという顔をしている。「強力なネルトと最強モンスターの2つの力の持ち主、もうどうしようも無かったです」 紀野大臣は自信に満ち溢れた人だった。AIになってもその性格は受け継がれていた。「そんな大臣クラスには23区エリアを任されているようで、紀野大臣は渋谷区エリアの原宿を管理していて、その管理場所が"あの赤ビル"なんですよ」 赤ビルって、そういう場所だったのか。急に出来たと思えば、そんな事をしていたなんて⋯⋯これに気付いている人はいるんだろうか?「特に都心5区は最近一気に変わって、原宿で"不自然な人通り"があったでしょう?」
Last Updated: 2025-05-03
Chapter: 40. 病院「んで、ここってどこなんだ? みんなは!?」「シブチカセントラル病院っていう渋谷駅地下の病院、みんなも無事だから安心して。飯塚さんのお腹の事と、みんなの事を治療するにはここが一番良さそうだったから」 L.S.でも今の場所を確認する。一瞬で【シブチカセントラル病院】と出てきた。新しく出来たばかりの場所のようだ。「大変だったろ、ここまで来るの。倒れた俺たち担いで渋谷のここまで移動してって」「飯塚さんが全部してくれたわ。予備のプロトロアまで連れてきてくれて、2体が合体するとバイクになるみたいなの。それが2台もあったから、私とシンヤ君がそれぞれ運転して車に戻ってって感じね」「よく運転できたな。壁に強く打ち付けて、頭から血も出てたんだぞ?」「それが案外ね。当たる直前にズノウでなんとかしたから、軽い脳震盪で済んだんだけど、でもまたちょっと痛くなってきたかも」 頭を抑えるユキ。前髪で隠れていたが、包帯が薄く巻いてあった。「今日はもう安静にしとかないと」「うん。あ、そうそう! 大臣の言った通り、裏部さんが隠し部屋にいたのよ。今私たちと一緒に来てるの」「⋯⋯どんな人だった?」「少ししか話してないけど、凄い話しやすい人だった。なんか要点をまとめるのが上手いというか、ルイとは気が合いそうな感じ」「へぇ、気になるな」「なら行ってみる?」 ユキがベッドから立ち上がろうとする。「おいおい、無理すんな」「ん⋯⋯大丈夫よ、歩くくらい。誰かさんと一緒で、じっとしてるのは性に合わないしね」 不敵な笑みを浮かべるユキに連れられるように、真っ暗な病室を抜け出した。廊下に出ると、赤い光だけが点々としており、まるでホラーのワンシーンのようになっていた。「こういう廊下って、なんか出そうで怖いよな」「ちょっと! 変な事言わないでよ⋯⋯」「わりぃわりぃ。でもユキ、ホラー系得意だろ?」「まぁ嫌いじゃないけど⋯⋯リアルとゲームは違うの」 適当に会話をしながら数分歩くと、より広い場所へと出た。ここが中央らへんか? 壁に近付くと、突然案内図と現在地が立体的に浮かび上がった。反対側の壁の下に超小型プロジェクターが搭載されているようで、人に合わせて自動で表示してくれるようになっているらしい。さらにはタッチしてみると、いろんな施設情報が立体的に見れるようだ。 「ここほんと大きいわね
Last Updated: 2025-05-02
Chapter: 39. 横顔「うわぁぁぁぁぁッ!?」 あれ!? 身体が自由に動く!? 手足をひっきりなしに動かしてみる。ちゃんと感覚があり、特に後遺症も無い。痛みも無く、どこも焼けてもいない。 ん? 誰かいる? 暗闇の中、目を凝らすとスウェット姿のユキがいた。微かな寝息を立てて寝ている。こっそり頭を撫でてみた。うん、ちゃんと生きてる。ちょっと顔も触ってみた、今はさっきのが夢だったって事を証明したい。「んー⋯⋯なぁに⋯⋯」 あ。「⋯⋯うーん⋯⋯んー⋯⋯え⋯⋯ルイ⋯⋯? え!?」 彼女は飛び起きると、俺の顔を揉みしだいた。「本物よね!?」「それいがいにゃにがあんにゃ」「よかったぁ! 起きたのねっ! いつ起きたの?」「今」「そっかそっか。なんかね⋯⋯怖い夢を見てたの。そのー、私が死んで、ルイが初めて泣く夢。私は見ている事しかできなくて、触れる事すらできなくて、そんなよく分かんない夢。おかしいよね、そんな事あるわけないのに」 そう、そんな事あるわけない。なのに⋯⋯あの墓の事が脳裏を過った。そんな事あるわけない。なのに⋯⋯「!? どうしたの!?」 涙が出ていた。「あれ、なんで」 悲しいわけじゃない。嫌な事があったわけじゃない。なのに、なんで。「ごめんね、私が変な話しちゃったからかな」「いや違う、身体が勝手に反応して」「⋯⋯ルイでも泣くんだね。なんか嬉しい、初めて見ちゃった」「嬉しいもんでもねぇだろ」「いーや? ちゃんと人間なんだな~って! ルイのそんな様子、今まで一度も無かったから」 そう言うと、ユキは俺を無理やり引き寄せ、頭を撫で始めた。「なっ! いいって子供じゃあるまいし」「いいの、こういう時は。甘える事だって大事なんだから」 い、いやいや!? 2つの柔らかいモノの感触が!? 涙が止まったかと思えば、最悪のタイミングで俺のある部分が膨らみだした。「へぇ~、ルイもちゃんと性欲あるんだね。よかった~」「いや、見んなって!」「やーだ。ルイにそういうのがあって、安心するんだもん」「い、意味分かんねぇ!」「だって大きくなってくれないと、本番できないんだよ?」「それはそれだろ!? もういいってっ!」「あ~、逃げちゃダメ!」 何やってんだろ、ほんと。小学生かよ。他愛ないやり取りを数分した後、俺たちはまた寝っ転がった。そして俺は、ユキと同じよ
Last Updated: 2025-05-01
Chapter: 38. 二蝶「いよいよ明日なんですね」 ⋯⋯ん⋯⋯ここは⋯⋯なんだここ? 研究室? そこになぜか俺は立っていた。体を動かそうとすると全く動かない。今、俺はどうなってる!?「あのー、所長」 所長? え、俺!? なんで所長って呼ばれてるんだ? そんな呼ばれ方なんてされた事無いぞ?「私が行かないでって言ったら、ここにいてくれますか⋯⋯?」 さっきから話しかけてくる"この人"は誰だ? ユキに少し似ているかも。眼鏡を頭にかけ、ラフな格好をしている。 行かないでってなんだ? 意味が分からない。それより、俺って生きてるんだよな!? ついさっきまで、確かに紀野大臣と戦っていた。その感覚は今でも全身に焼き付いている。でもこの身体はなんだ? まるで"他人視点を見ている"ようなこれは。ってか、目の前のこのヤバそうな機械はなんだ?「(⋯⋯うッ!?)」 突如、辺りが強烈な光に包まれた。徐々に光は消えていき、少しずつ目が開けられる。そこは、どこかの墓場だった。打って変わって静寂が漂う。"俺?"が勝手に線香を置き、視線を上げた先には"名前"があった。そこには【 新 崎 ユ キ 】と。「また来てたんですね、こんな夜中に」「⋯⋯」「どうしても、"あの場所"に戻るんですよね」「⋯⋯」「いくら止めても、行くんですよね」「⋯⋯」「だったら私、決めましたッ! 私も一緒に行きますッ!」「⋯⋯」「どうしてダメなんですか!? 私が邪魔だからですか!?」「⋯⋯」「ならどうして!?」「⋯⋯」「⋯⋯所長」「⋯⋯」「分かりました。なら、一つだけ約束してくださいね。必ずまた一緒に研究すること! それまでは私が代わりに、お墓参りしておきますね」 そう言うと、さっきから見かける彼女が他の墓に線香を置き始めた。 【 町 田 ヒ ナ 】 【 有 川 シ ン ヤ 】 【 白 石 ア ス タ 】 【 三 船 ノ ノ 】 この墓はなんなんだ⋯⋯? 分からない、何も分からない。「(うッ!! またッ!!)」 考えていると、また辺りが強烈な光に包まれた。その先はさっきの"研究室?"へと移動していた。"俺?"は勝手に歩き始め、ヤバそうな機械へと近付く。「それでは、準備はいいですか」 ヤバそうな機械が突然動き始めた。あらゆる部分が高速回転し、中心と思われる部分に集約されていく。どうやら数十
Last Updated: 2025-04-30
Chapter: 37. 新生 このUnRuleはそもそも前提が狂っている。何かによってリアル化されてしまった事で、実体への負担があまりに大きすぎる。本当はこんな事なく作られたはずだ。ズノウも身体をここまで酷使せず、ちょっとの動きで実現されていただろう。誰でも出来るようAIアシストが細部まで届き、軽い運動程度の負荷でやっているのが想像に容易い。 それが全て不明瞭になり、その不明瞭なモノで対応しなければならず、いくらAR慣れしていても限界がある。特にヤツと対峙して感じた、あの天魔神よりも強いヤツにこれ以上はもう⋯⋯俺には⋯⋯。 ふらつき、倒れそうになった時、「⋯⋯うッ!!」 またあの頭痛が始まった。いい加減にしろ、どこまで苦しめる? 歪んだ視界の先に、また"白いアイツ"が立っていた。右手には"あの銃剣"。「⋯⋯いい加減にしろ⋯⋯誰なんだお前ッ!!」 ヤツがこっちを見る。その瞬間、銃口が俺へと向けられた。ただ喋らない、静観だけを続けるアイツ。「⋯⋯ッ!!」 どうにか限界の腕を伸ばし、こちらも七色蝶の銃口を突き付けた。二つの銃剣が呼応するように、お互いの蝶羽根が激しく輝く。すると、ユキの笑った顔、ヒナの明るくなった顔、シンヤの嬉しそうな顔が、デジタルサイネージのように空中に浮かび上がって回った。次第にユエさんの顔、"死んでしまったあの人の顔"まで。いろんな人の喜んでいる様子が、俺たちの周りを回り続けている。『⋯⋯わたし⋯⋯いっしょにいたい⋯⋯いきて⋯⋯いっしょに⋯⋯いたいよ⋯⋯』 最後にユキの声が響いた。一緒にいたいって、生きて一緒にいたいって。「⋯⋯俺は⋯⋯」 倦怠感や痛み、寒気や痺れが動きの邪魔をする。どこまでも纏わりつく。それでも引き金を強く握った。「⋯⋯お前もヤツも⋯⋯超えるッ!!」 同時だった。俺とお前、トリガーを引いたのは。 現実世界へ戻ると、俺の銃剣は粉々に割れていた。と感じた時、脳内のズノウが全て搔き消され、一つだけ"消えかかった謎の項目"が残った。 ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ ≪螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕≫ ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ ≪螟ァ陜カ縺九i陌夂┌髯占攜縺ク縺ョ譁ー逕≫ ≪大蝶(だいちょう)から虚無限蝶(きょむげんちょう)への新生≫ それは
Last Updated: 2025-04-29