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神木セイユ
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Novels by 神木セイユ

Load of Merodia  記憶喪失の二人

Load of Merodia 記憶喪失の二人

ドラゴン討伐中、空中戦から落ちたリラは、一命を取り留めるも記憶喪失となってしまう。パーティの仲間ともはぐれ、二ヶ月が経過した頃、拾われた村の酒場でステージに立つ『狐弦器』奏者のセロと出会う。リラの中で何かが覚醒し、即興での演奏を披露する事に ! リラの持つ魔法石は歌魔法の使える希少石だったのだ。セロの音色に依存したリラと 、リラの歌声に依存したセロ。 吟遊詩人としてのスタートを切るが、セロは極度の女嫌い。更に旅の資金0 !! 貧乏で純愛な異世界ミュージック︎生活。 更に元のパーティはスパダリ揃いの溺愛系ヒーロー。 リラは記憶のあった頃のメンバーの距離感とセロと旅をしてきた信頼度に悩み、溺れていくことになる。
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Chapter: 96.エピローグ -2
「セロのやつ、酒場に行ったきり帰って来ねぇぜ ? 」 あちゃ。 今回ステージを貸してくれた店主や店員さん、皆んな男性だったもんなぁ。 女性と違って、相変わらず相手が男性だとセロ自ら懐く。「なんでその半分が女性に向けらんないのかなぁ〜 ? 」「はは。セロらしいじゃん」「飲まされてないといいけど……」「……一昨日はマジで……一口でぶっ倒れたからな」「わたしもびっくり 。そう言えば、リコもアルコールはダメだったな」「体質も変わるもんなんだな」「そうみたい」「これ、運ぶぜ ? 」 カイは衣装の入った箱をヒョイと持ち上げると、宿を出る。「レイとエルとさぁ、なんか喋った ? 」 もう、またデリカシーバグってるし。「話したけど……」「なんて ? 意外と二人とも機嫌いいし、なんでなん ? もっとギスギスパーティになるかと思ってた」「なんでと言われてもねぇ。 というか、あんたこそマイペース。シエルでさえ何かしらに気を使ってる」「何かって ? 」「新しいメンバーとか」「セロはなんか無害だし分かりやすくねぇ ? レイの方が謎なんだけど」「じゃあ、そのレイとわたしが昔馴染みだった件は ? 」「恋人を昔馴染みで片付けてるあたり、問題ないべって思うわ」「エルとレイの契約とか……仲間として」「レイがエルの魂取るって死後だろ ? そんときゃ、俺らもヨボヨボ爺さんって事だよなぁ〜。 アレ ? じゃあ、お前とレイって不老不死 !? マジで !? 狡ぃ〜 !! 」 もう聞くのやめよ。「俺らは俺らだし、なんも変わんないし、変わりたくもないね」「……それは言えてるね」 □□□□
Last Updated: 2025-09-07
Chapter: 95.エピローグ -1
「ボウガンは久しぶり。まぁ矢を魔法で出すわけだし、何も変わらないんだけどね」 茂みの中、わたしはスコープを覗いたままひたすら変化の無い切り出った岩壁を見つめる。 場所はプラムから北。 わたしが遭難した山脈で、丁度雪山の村と反対斜面にある栄えた氷の町。「いつもの魔銃とは飛距離が違うし。我慢だな」 隣ではレイが同じく双眼鏡を覗きながら周囲を警戒する。「今回はマーキング付けるだけだし。そんな難易度高い依頼じゃないからね。 それにしても、まさかゴルドラとシルドラの番を飛竜一族が欲しがるなんて……」「奴らだってヴァイオレット大陸にいた最古の一族だ。恐ろしいもんだね、お互いにな」 魔王が追い出した先住民。 その飛竜一族が例の夫婦ドラゴンを飼い慣らす為に引き取る事で話が付いた。「そんな簡単なら最初から声かければ良かったのに」「馬鹿。野生のドラゴンだ。連中だってそう簡単に使役出来るわけじゃないんだよ」「ふーん」「……」 ああ、いつまでも会話が辿り着かない。 話したいのはこんな話じゃないのに。 二人きりになるチャンス……みんなでいるとなかなか無いし、今ちゃんと話さなきゃ。「レイ……あのさ。旅に出て、わたしが自由になってからでも…………過去の事を話してくれれば良かったのに……」 レイは双眼鏡から顔を離すと、無言で空を見上げた。「なんて ? 『俺、魔王だよ』って ? 違うだろ ? 『元彼だよ』の方だよな ? 」 ハッキリすぎる。 恥ずかしすぎて顔見れない。 でも、そう。その話。ってか、何最初の。「魔王だよ 」 ? 知らねぇよって ! もう !「わっ ! 」 急にバサッと音を立ててレイが防寒布をわたしに
Last Updated: 2025-09-06
Chapter: 94.アナタと
「リラ ! 」 今度は年下組か。「おめぇ、ちゃんと休めよ ! 」「大丈夫大丈夫。もう平気だし、エルとレイも鬱陶しそうだから振り切って来たの。 酒場の集計結果、もう見た ? 」「ま、まだだよ。僕たちも今来たところ。セロは関係者だから、僕らここから張り出されるのを見るしかないし」 キヨさん、随分張り切って作ってくれたのね。新村長就任の時のパーティレベルで飾り付けされてるわたしとセロの名前。そして、リコの名前も。「お前、セロんとこ行くの」「うん。一緒にくる ? 」「え……邪魔じゃねぇの ? 」「別に」「ちょっとカイ……」「行く行く ! 裏口って特別感あるよなぁー ! 」 カイとシエルを連れて酒場の裏へ回る。「リラさん ? リコさん ? 」 キヨさんが不思議そうにわたしに声をかけてくる。「リラよ。表のボード見たわ。凄いわね」「張り切っちゃった ! わたし、大工になろうかと長年迷っていて……でも、踏ん切りがついたの ! 」「そうなの !? 一大決心ね。 ん〜確かに。あれだけ出来るんだもの、きっといい大工になるんだろうなぁ。 ねぇ、セロいる ? 」「あ、います。でも貯蔵庫が気に入ったのか、全然出てこなくて」「静かな所好きだからね」「俺らやっぱり外で集計見るわ。行くぞ、シエル」「ここまで来て !? だったら3点 ! いや、気付いただけでも4点 !? 」「シエルさん、大人なんですね」「カイがデリカシー無しの馬鹿なんですよ、キヨさん」 酒場の厨房を通り抜け、貯蔵庫のむしろを捲る。「セロ」「……リラ…… ! 」「ごめ
Last Updated: 2025-09-05
Chapter: 93.決意
「……」 あれ…… ? わたし寝ちゃってた…… ? ベッドから起きて直ぐに壁に付いた鏡に目が行く。酷い顔。冷やせば良かった。これ、今日は部屋から出れなくない ?「リコ……」 あの子がいないのが普通だった。 自分の意識がハッキリして気が付いたら、あの子がいた。 わたしは白い部屋にボンヤリと浮いている様な感覚……漂ってたみたいな。時間と共に、視界や聴覚が途切れ途切れに共有してきた。でもそれは限定的な状況下でだけ。リコに戦闘が必要になった時だけ。 もしわたしが今、歌う必要が出たら ? リコがでてくる ? 答えがNOなのは自分でわかってる。 DIVAストーンがわたしに反応してるもの。「海の城 ブルーリア……」 平和な国だった。 王だけじゃない。皆がわたしを受け入れてくれた。 ヴァイオレット大陸に近いって事もあったのかもしれない。船乗りが魔物に助けられたりという前例のある海域だった。「レイ……」 彼がグリージオにいるのは知っていたのにグリージオと不仲な国にいたのも運が悪ったわね……。 レイとは……ちゃんと向き合わないといけない。 けれど、その前にエルにも事情を知って貰わないと。レイはその辺をどう考えてるんだろう。 何よりセロも。 もうセロにはわたしと一緒にいる理由がない。リコはわたしが奪ってしまった。 でも、どうして…… ? ──セロと別れたくない。 リコが執着した理由が今ならよく分かる。 演奏中の深い深呼吸、息使い。 弦とわたしにしか向かない視線。 
Last Updated: 2025-09-04
Chapter: 92.迷子
「リラ」 目を覚ますと、シエルがわたしを不安そうに覗き込んでた。「シエル。わたし…… ! 」 どうすればいいの !? レイはわたしの過去の恋人だった。 エルは契約通りなら、死後魂をレイにとられる。 セロは……リコと旅を始めたのに。 今、わたしの内のリコの気配は完全に消えた。「……っ」 涙が止まらない。 自分が何に泣いているかも分からない。「リラ、この部屋を使って。今日はゆっくり休んで」 シエルがわたしをベッドまで誘導する。「記憶に感情が……追いつかない…… ! リコが……いなくなった…… ! 」「そっか……。 キツい魔術だからね。食事は宿の人に頼んで運んで貰う。ゆっくり休んで」 □□「シエル。リラは ? 」 レイの部屋に戻ったシエルを見て、全員が目を丸くする。「……無理に記憶を引き摺り出すようなものだからね。相当消耗してる。休ませてあげて」 そう言い終えるとシエルはすぐに気付いた。「あれ、セロは ? 」「あいつは酒場の方の集計結果に顔出してるよ」「……そう。ちょっと行ってくる」「急ぎの話しか ? 」 ベッドに座っていたレイがシエルを見上げる。 この時──リラには伝えていないが、術者のシエルにも全てリラの追体験が視えている。「……うん。ちょっとね」 レイが今回過敏に反応するのは当然の事だ。 自分の編成隊まで送って来たリラの失踪騒動。 レイの契約もリラの存在あってこそ確立するもの
Last Updated: 2025-09-03
Chapter: 91.わたしのリコ
見たことある城に歩いた事のある庭園……。「グリージオ王、お呼びでしょうか ? 」場面が飛んだ。王都 グリージオ。……これは、エルの記憶ね。今より若い……十代後半くらい ? 一緒にいるのが父親、先代のグリージオ王……こんな風貌だったのね……。でも、なんだか……いえ、エルと似てるせいよね。会ったことは無いはず……。「はぁ……階段は一番こたえる。エルンスト、座りなさい」「はい」二人は城内へ戻り、長い廊下を歩くと二階の一室に入った。ここは王の自室ね。 ベッドもあるし。プライベートな空間だわ。エルが椅子に座るとグリージオ王は考え込むように口を開く。「わたしの病もこれまでだ。床に伏せる前に言い残した事があってな」「そんな……世界中から医療に長けた者たちが志願してグリージオへ来ています」「まぁ、それはそれで良いのだが。エルンスト、地下牢の女と懇意にしているようだな」「……っ。それは……あの、好奇心でして……」「子供の頃も、忠告したはずだ。あの女の歌は聞かんようにと」「……あれが誰で、何故あの場にいるのか……書物で確認しましたが、肝心の彼女の……何故グリージオの城内で管理されているのか。それについては何も……。どうして記録がないのでしょうか ? 元からですか ? それともその部分だけ誰かが…… !? 」「落ち着きなさい。女王 DIVAについての記述は、わたしが子供の頃から無かった。しかしあの女がここへ来たのが六
Last Updated: 2025-09-02
PSYCHO-w

PSYCHO-w

葬儀屋の息子 涼川 蛍は、ある日謎の組織にデスゲームとして監禁される。富豪の狂乱として観覧される中、どんどん猟奇的なものへと加速する。 更にゲームマスター ルキは早々に蛍のサイコパスを見抜いていたが、蛍には人に言っていない犯行が存在する事を知らない。傾いたまま続いていく関係の二人のサイコパス。 数多くのサイコパスを飼い慣らしてきたルキと少年猟奇殺人犯の蛍。 果たしてどちらが本当のサイコパスなのか。
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Chapter: 後書き&参考文献
参考文献 +診断名 サイコパス(ロバートDヘア) +図解 眠れなくなるほど面白い 犯罪心理学(越智啓太) +図解 サイコパスの話(名越康文) +面白いほどよくわかる 犯罪心理学(高橋良彰) +死体と話す NY死体調査官が見た5000の死(バーバラ・ブッチャー) +大事件ゆっくり解説 様https://youtube.com/@incident_of_yukkuri_commentary?si=vNLHW1NF77Z8ymWEここまで読んで下さった読者様及び支えてくださった担当様に感謝致します。完結に出来て寂しい反面、ケイとルキはまだまだあのままでいて欲しい気持ちが強かったのでラストはあんな感じで集結しました。サイコパスを書くにあたり多方面から情報を取り入れ、中でも強く影響を受けたものを上記に記述させていただきますm(*_ _)mそれでは(・ω・)ノシ
Last Updated: 2025-09-29
Chapter: game - END. 二人のサイコパス 2
ルキはMの仕事の大半を引き継いだ。ゲームマスターをしている暇は無くなったという訳だ。「以前言ってたろ ? 俺のゲームは直接殺しが出来ないからつまらないって」しかし、蛍は悩みもせず一蹴した。「言ったけど、案外あんたのも悪くなかったかな。Mのが殺せるルールだったじゃん。でも、あれになんの意味があるのか疑問に思っちゃった。俺は自分で殺れればいいんだ」そして悩み込む。「でも……そうだね。俺も顔を売りたい訳じゃないし……。取材も椿希に丸投げしようかな」「狩り場を変えればいいのに」「嫌だね。狩りの為に生活を変えるなんて」「湊周辺じゃ限界だ。歴代のシリアルキラーだって一つの町に留まり続けない奴も多い。大事なのは、免許と車を手にするタイミング、そして使用する日と犯行日時だ。前に言ったろ ? 俺のゴーストに乗った……中野の時、車で下見に来れたのは良かったって」「……まぁ、便利なアイテムではあるけれど……」「無免許で捕まっちゃ仕方ないし、車もそれなりの物に乗るといい。検問で中から死体が出てきたなんてことがあったら……」「あるし」「ん ? 」車好きのルキは御託を並べたい。だが蛍はそこまでこだわりが無い上に、ルキの車の趣味が悪いことを知っている。「うちに『それなりに高級で俺が乗って、死体を入れててもおかしくない車』あるから」勘づいた結々花がブフッと吹き出す。「え ? どういう事 ? 」「アッハハハ ! そりゃ高級でしょうよ ! 」ガチャ !そこへ美果がやってきた。「香澄ちゃん両親帰りました。なんの話し ? 」「美果ちゃん、ケイ君の家で『高級で死体が乗っててもおかしくない車』ってなーんだ ? 」「……
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: game - END. 二人のサイコパス 1
ガシャッ …… !蛍はVRゴーグルを放り投げる様に外した。「……」内線電話を握ると結々花にかける。「すぐに応接間に通して ! なんで入れたんだよ ! 」『〜〜〜っ ! ……っ ! 』結々花は反抗的な割にルキには逆らわない。今回もルキの方が無理にフィールドへ入ってきたんだろう。 それにしても、第一ゲームの加害者と実行犯、被害者遺族が揃うとは恐ろしい事だ。そばにいた美果が不安そうにする。「大丈夫 ? 」「……案内、代わりやって。香澄の両親、まだ見学してるから」「わかったわ。 本当に大丈夫 ? 」「うん。ごめん美果」事業立ち上げから、蛍は少々丸くなった。 美果を気遣うのもそうだが、世渡りの必要性。それには今のままの性格ではやっていけないと。幸い椿希がやる事全て詐欺の塊だが、愛想だけは妙にいいのだからこれほどモデルに相応しいものはいない。少なくとも自分以外を、内か外か選別する程度には。以前は自己以外全てが外だったのだから大きな進歩である。 蛍はエレベーターで一階へ向かう。ポーン♪「あ ! スミス !! 」扉が開くと、丁度スミスが横切った瞬間だった。「なんで今日ルキが来たんだよ ! 止めてよ、そういうの ! 困る ! 」「蛍さん !! いや、あの……結々花に許可は頂いて……一応真面目に見学という事で……」「真面目に見学ぅ〜 ? 」「ルキ様はMの墓標を建てませんでしたからね。真理さんの事も考え、てここを見たいと……」「え ? あぁ、そういうこと ? 」そうなれば話は別だ。 真理自身が来てくれれば希望を叶えられるが、なかなか死ぬ為の準備を生きてるうちに始める……というのはまだまだ根強い文化とまではいかない現状。「予約してくれれば良かったのに。なんで今日の朝言わなかったんだろ」「今日の……朝…… ? ルキ様は真理様の御自宅へいたはず……あ
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: game - END.PSYCHO - we.4
『と、ここまで進化した最新の墓標はいかがでしょうか ? 今回は展示という事で込みの価格が表示されていると思いますが、普段は無いですよ〜。まさか売り物じゃあるまいしねぇ ? 』『ははは』  結局、客前でトークするのは椿希の役目になってしまった。  蛍も最初こそ無愛想にしていたが、途端その技術が必要と理解すると、すぐに吸収していった。 だが今日は突然の来訪者が顔を出した。  それにより、客人に合わせメタバース霊園を見るようになったのだ。『凄いね。現代的だ』『ええ。それに、あんな小さかった蛍君がこんなに立派になるなんて ! 嬉しい……』 アポ無しでたまたま飛び込んできた夫婦。  商店街で花屋を営む、涼川葬儀屋の契約生花店の二人だ。  つまり──香澄の両親だった。 回線を三人だけにし、蛍が対応していた。『俺も驚きました。  その……聞くに聞けなくて。お墓の場所とか……』『そうよね。葬儀は蛍君のところでしたけれど、その後どうしても……。納骨するのが寂しくて今まで……』 香澄の死後。  両親は四十九日、百か日を過ぎても娘の死を受け入れられなかった。四十九日の法事は重明が取り仕切り、するだけの事はしたが、納骨には至らず参列者にテンプレ通りの挨拶を述べるだけで精一杯だった。  香澄の骨壷はずっとダイニングで共に食事の際にも置かれ続け、就寝の時も両親が寝室へ運んでいた。 その後、蛍の知る通り、花は毎日学校へ持たせ誰かに飾らせ、自分たちは香澄の死の真相を探り続けた。  転機はMの提示した湊駅周辺でのゲームだった。『他にもここを検討してる人、沢山いてね〜』『そうそう。被害者の会でよく話題に上がるのよ』 蛍の起こしたテロと椎名、久岡、そして真理の無差別殺人事件。  これにより墓が急激に売れる始末。中でも、未だ墓地を持たず尻込みしているのが、子供を亡くした家庭だった。  その混乱の中、香澄より幼くして亡くなった多くの命。それを見るうち、両親の中で香澄の死は今回の騒動の一端だったのではないかと心の整理が付いたのだ。  子の多くは集合住宅の飲水やプールの給水で亡くなった。  酷いテロの混乱を目の当たりにして、急激に冷静になったのかもしれない。  それを引き起こしたのが蛍だとも知らず。『パソコンから画像だけでも見れ
Last Updated: 2025-09-26
Chapter: game - END. PSYCHO - we 3
 残された蛍と結々花は無言のまま。 ポンっと音が鳴り、エレベーターの扉が開く。  最上階ルームはエレベーターから直接、一歩踏み出すとワンフロアを贅沢に使ったゲストルームだ。霊園だとは思えない温かみがありながら、どこか近代的な造り。 結々花はガラス屋根を見上げながら、つい先日この場で行われたショーに関して呟く。「まさか先日、この天井に人がぶら下がってたとは……今日のお客様は知る由もないわね……」「だってダリの最後の晩餐は、いるじゃん。上に。半裸の人」「んー。絵ってあんまり興味無いし、ダリが最後の晩餐描いてたのも知らなかったわ。  あの日、ケイ君がぶら下げ始めた時、観覧者から凄い歓声が上がったわよね」「……客の声なんてオフになってるから聴いてないよ」「美果ちゃんはどうして、ダリの最後の晩餐をここのモチーフにしたのかしら ? だって一応、最初は海玄寺の宗派を受け入れる方針だったじゃない ? 仏門に関する絵じゃないんだ〜って思ったわ」「そう言えば美果は ? 」「来てるわよ。聞いてみよっか」 結々花は半分暇を持て余し、意味無く美果にコールする。数分後、倉庫から美果が飛んできた。「ごめんごめん。つい夢中になっちゃってて」「卒業制作上手くいってる ? 」「すっごい便利 ! まさか秘書室という名のアトリエが貰えるなんて ! 」 美果は結局、涼川葬儀屋へ就職となった。結々花がマンション墓地やスポンサー等との橋渡しなど、重明とあまり関わらない日陰の部分に暗躍するのと違い、美果ははっきり葬儀屋で外へ発信できる人材として存在する予定だ。  このマンション霊園の概ねのデザインもそうだが、位牌や仏壇、ペット用のメモリアルグッズなどを手掛けることで、合法的にこの場にアトリエを持てているのだ。「ただ絵を描いてただけなのに、今は小さい仏壇や神棚を考えて、小物作って、内装をデザインして、宗教も勉強して……人生分からないわ。本当に」「わたしもキャリアを捨てて悪の手先になるなんて思って無かったんだけどねぇ〜」 美果も結々花もぼんやりとガラス越しに朝日を浴びる。 □□□□□□ 第四ゲーム終了時──それは蛍が椿希とコンテナ船へ到着してからの話に遡る。「真理さんは ? 」 コンテナ船の最下部。  会議室のような縦長のコンテナの中、蛍と椿希が並べられた椅子
Last Updated: 2025-09-25
Chapter: game - END . PSYCHO - we.2
 ドンドン、ドンドンドンドン !! 「けーい、けいけいけい〜 ! 起きてるー ? 」「うるさいな !! いるよ !! 」「うぉ、今日は元気 ……あ」 椿希は蛍が開けた玄関の隙間から、ルキの靴をみて納得する。「うん。そっかぁー。俺お邪魔かぁ〜」「別に。もう出るよ」「あ、椿希君。入りなよ」「ルキさん早よーっす。じゃあ、お邪魔します」「え、いや。俺の部屋なのに、なんであんたらで完結してんの ? 」 蛍が騒ぎ立てる中、椿希はルキに通されると、まっすぐコレクション棚へ向かう。「うぉ〜、今日もあんね。Mの首〜。こういうのって、キメェけど慣れてくると見ちゃうよね〜」「……」 椿希は蛍に向き直ると、さも当然の如く炬燵に潜り込む「なぁ、こないだあのマンション墓地でゲームしたろ ? あれなんだったの ? 」 蛍と第3ゲームに出た椿希が墓地を経営すると聞き付けた烏達は、少しの興味を示してきた。稼ぐ金など烏からすれば微々たるものだが、死者が絡むと合っては何やら期待が大きいようだった。  そこで、ルキが景気付けにデモンストレーションとして蛍にショーをさせた。 内容は第一回目の人体アートと同じルール。  そして場所は蛍と椿希が建てたマンション墓地の最上階。 ガラス屋根で光に満ち溢れた空間。遺族がエントランスで指定したキーを打つと、位牌が最上階ルームに排出されて、墓参りすることが可能なのである。 そしてそのビルのイメージデザインを手掛けたのが美果だ。「死体並べてるだけにしか見えなかった。あれ、何がよかったの〜 ? 」 不貞腐れている椿希の作品は最下位だった。意外な事に、椿希は殺すことは出来ても、遺体が苦手らしく全く使い物にならなかった。これから海玄寺の業務を継ぐかもというのに、蛍もルキも一抹の不安を覚えるが、葬式で見るような遺体と違うのは言うまでもない。蛍がズレているだけなのだ。「ケイは最初に参加した時、ダビンチの最後の晩餐をモチーフにしたんだ」「…… ??? じゃあ今回は ? 」「今回も最後の晩餐をやったってわけ。一回目を知ってる観覧者からすると、今回は伏線あって、更に完成されたなー……って感じかな。そう言う見世物だったんだよ」「最後の晩餐って……あんなんだったっけ ? もっとテーブルで飯とか並んでなかった ? 」「そうそう。レオナルド
Last Updated: 2025-09-24
大衆中華  八本軒〜罪を喰う女〜

大衆中華 八本軒〜罪を喰う女〜

路地裏に佇む、大衆中華 八本軒。その店に入ったが最後、必ず罪は裁かれる。 ある日、三人の殺人を終えた男が自主をする前に八本軒に立ち寄った。男の他にも凶悪な仲間がいると知った女店主 黒月 紫麻は犯人を待ち伏せする為に擬態する。 海洋生物の守護天使 カシエルが、ミミックオクトパスの姿で堕天したのが紫麻である。 蛸特有の能力を活かし、今日も中華鍋を振りながら獲物を待ち構える。 クリーチャー×痛快リベンジ ※本作品はフィクションです。暴力行為、私刑、過激な自警行為を推奨するものではありません。
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Chapter: 4.青椒肉絲と麻婆豆腐の二人
「ヘヨン、お待たせ」『全然待ってないよ ! リカコ ! 』 紫麻はメニューを開く気の無さそうなリカコをにっこりと見つめたまま。  一方、カウンターには運悪く鹿野がいるのだ。「おー ! これ、あれだろ ? なんだっけ ? つまりテレビ電話だろー ? 今は会議とかもこれでやるんだよなぁ ? 」「そうです。  あ、そうだった ! お姉さん ! 天津飯をお願い ! 」「天津飯ですね。かしこまりました、少々お待ちください」 紫麻が大きな中華鍋を火にかけ、黒くギラつく表面がチリチリと音をたてた頃、卵のジュッ ! っと言う豪快な音が店内に響く。「あんたリカコってのかァ。  ほんで、これが彼氏さんかい ? いい男じゃねぇか」 鹿野の言葉にリカコとヘヨンは満更でもなさそうだった。  鹿野は散々ヘラヘラ絡んだ後、再びお気に入りの席へ戻った。これで泥酔レベル50%だ。『綺麗な所だね ? 今どこにいるの ? BAR ? 』「職場近くの中華屋さんなの」『へ〜、なんか中華版魔法使いの部屋って感じ』 そこへ紫麻が天津飯をサーブしてきた。「お待たせいたしました。天津飯でございます」「わ、早っ ! ありがとうご……ざいます……」 リカコの視線が天津飯に釘付けになる。  リカコの挙動に気付いた紫麻が思い出したように、張り紙を指さす。「そうでした。最初に言っておくべきでした。  わたしがアレルギーでして、うちに海産物のメニューやお出汁はありません。故に……餡かけに蟹などは入れることが出来ないのです。  別なメニューを作り直しましょうか ? 」「あ、いいえ ! 大丈夫です ! お、美味しそうだし ! 」 リカコはレンゲを持つと、少し躊躇った様子でトレイを自分の方へ寄せる。  天津飯──とは言い難い。例えるなら巨大なおむすびに大きな卵焼きを乗せて餡をかけただけの……何かだ。 事実、紫麻の料理は八割が不味いのだ。
Last Updated: 2025-11-10
Chapter: 3.春画と神父
翌日。 早朝から仕込みを初め、それが終わり次第、十一時の開店まで紫麻の休憩時間だ。 『夏休みの学生さんが多いですね〜 ! 最高気温も三十五度越えですよぉ〜 ! 』 『暑そうですね〜 。CMのあとは、熱中症対策グッズの紹介 ! 今年はアレが目白押し〜 ! 』 この時間に遅めの朝食を摂り、ワイドショーを観ながら新聞を読むのが日課だ。 『高齢者住宅での殺人事件』 『面識なし、押収したスマートフォンから闇バイト仲間であった可能性』 『二日前に自主した崎森被告の共犯か、捜査滞る』 『「旅行中で良かった」と家主の夫婦がコメント』 「〜〜〜♩♩〜〜っ♩」 「随分ご機嫌じゃないか」 開店前の店内。L時型カウンターの一番影になるような席に男がいた。 大通りにある教会の神父である。 老齢で白髪と無精髭。ローマンカラーを付けたままのカソック姿。 常連を極めに極めたこの男は神父でありながら、開店前から酒を浴び、趣味の春画を眺めている。 「お腹が満たされたからな。気分がいい」 紫麻は唯一、この男にだけは素で付き合える間柄だ。先に自宅で読んで来た新聞の内容を思い出し、神父は紫麻へ声をかけた。 「カシエル……どうせ食うなら綺麗に食えばいいんだ。なんで食い散らかすかねぇ。昨日ここに、刑事が来てたろ ? 」 「美味しい部分だけ食べたいんだ、ヒズキエル。それに今は紫麻と名乗っている」 「俺もその名はもう名乗れねぇんだよ。今は人間、鹿野 敦夫だ。 長いな、俺たちも。人の世界に堕ちてから……」 紫麻は紙タバコに火を付けると、紫煙をくゆらせて新聞に視線を落としたまま。 「人間のルールは守るさ。 けれどわたしはこう考える。悪質な者は滅びるべき、とな。特に海にゴミを捨てるような者は特にだ。何故なのか、ゴミの不法投棄で人を殺していい法律は無いらしい」 「当然
Last Updated: 2025-11-09
Chapter: 2.油淋鶏と中華そば
「まぁ、お巡りさん」 件の事件から数日後、二人の刑事が八本軒を訪れていた。いつにも増して柔らかな口調が藍色のチャイナドレスと相まって妖艶に見える。チャイナドレスと言ってもなにかイヤらしさのないデザインだ。 「刑事課の鏡見と」 「柊と申します ! 」 どちらも若い刑事だ。有り余るエネルギーを制服で抑えているような印象。 「店主の黒月 紫麻さんで間違いないですか ? 昨日の崎森の自主の件で、もう一度経緯をお伺いしたいのですが」 「ご苦労様です。どうぞ、暑いので中に」 「あ、お気遣いありがとうございます」 警察署から近い立地だ。勿論二人もこの店を知っていた。 だが、実際に入店したのは初めてだった。 店内には客がいない。 現在は16:00。 八本軒は15:00〜17:00までは中休憩がある。 紫麻は仕込みの手を止め、鏡見と柊をテーブル席へ案内し冷水を差し出す。 「外は暑いでしょう。温暖化は深刻な問題です」 「ええ〜。もう本当に真夏は日差しが強いですね」 柊がケラケラと話す。 一方、鏡見は仕切りに指で背広の胸元を擦りながら、銀縁眼鏡の鋭い瞳で店内をチラチラと観察。神経質そうな男──というのが、世間一般での鏡見の印象だろう。 鏡見がふと、雑誌置き場にある風変わりな物に目を止めた。紫麻はそれを敏感に察知し鏡見へと話を振った。 「春画は違法ですか ? 」 「え ? あぁ、少し気になっただけです……。 あ……。まぁ。ここは食堂なので似つかわしくはないかと……見方によっては猥褻物になる可能性もありますが……。 いや、しかし春画は文化的なものですからね……どうでしょう」 「これは残念な事なのですが、この店にはお子様連れのお客様は滅多にいらっしゃらないので、つい。 配慮が足りませんでしたね。すぐ別な場所に移動しますので」 「え、ええ。でも、凄い量ですね」 「常連客の方で、お読みになる方がいますので。芸術的観点で興味があるようです」 「そ、そうですか。 ところで黒月さん、実はこの女性はご存知ですか ? 」 鏡見が懐から一つの写真を取り出す。 紫麻は即答した。 「一ヶ月程前にここへ。夜間は二十二時まで営業しています。閉店の頃、暖簾を下げようと外に出ましたら、裸足で立っていらしたので驚きました」 「
Last Updated: 2025-10-25
Chapter: 1.海の底から来たモノ
剥き出しの刃物に動じる事なく、店主の女は真っ赤な口紅をペロりと舐めただけだった。 微笑を浮かべたまま、静かに男の次の言葉を待つ。 「俺がよ……。食い終えたら……ちょっと電話貸してくんねぇか ? 警察呼びてぇんだ」 「自主でしょうか ? 」 「ああ。そういうことだ」 「分かりました。 どうぞ、ゆっくり召し上がって下さい。ご飯はおかわり可能です」 「あぁ……じゃあ、もう一杯頼むよ。 ……姉ちゃん、驚かねぇんだな。なんつーか、ここにパトが来られちゃ迷惑だろうに」 動じる様子の無い女店主に、男性の方が拍子抜けし気を緩めてしまう。 「ここで待たせて貰う事にしようとしてるんだが……いいのかい ? 」 「ふふ。大通りの警察署と教会、この先の国道から数キロ先には刑務所。 こういったお客様は、よくお見かけしますので」 「マジかよ。世も末だな」 「そうですね。まさに世界の終末でございますね。 人間はとても身勝手な生き物で……。しかしわたしはこうも思います。 人をそう創った神も疑問だ、と」 「ほんと。そうだよなぁ……はは。違いねぇ。だがよ。全部が全部を、神や仏のせいにしてらんねぇだろうよ。 実は俺ぁ、ここに来るまで三人殺ってんだ」 男性は下を向きながらも、血走った目をしていた。 「そうでしたか。ですが、自主の判断は素晴らしいです」 犯行後に『素晴らしい』等と言われても気休めや、気が変わらないようにする為の言葉だと、男は思わず苦笑いを女店主へ向けた。 「いやいや、素晴らしいとは言わんだろ。 でも……逃げたところで……時効が無い今、人生詰んでんだろ……」 「事情を聞いても ? 」 「なぁに簡単な事だ。歳の割にゃ釣り合わねぇ話に乗っちまったのよ。去年職場が倒産してな。SNSで『ドライバー募集』なんてDMしてくる怪しいアカウントに誘われて話に乗っちまった」 「闇バイトと言うものですか」 男性は頷くと、再び目の色が変貌する。 「奴ら…… ! 俺を消そうとしやがったんだ ! どの道共犯だってのに、強盗で押し入る先で誰が行くか揉めに揉めて。ドライバーが運転だけで、現場に行かねぇのはおかしいだろって言い出しやがった。俺が運転だけの仕事だと言い張ると、激昂して俺を殺そうとしやがった」 「では正当防衛です」 「おいおい。そん
Last Updated: 2025-10-24
Chapter: 0.後悔の洋葱肉絲
「おい ! おめぇ、何者だ !? 」 暗い屋敷の廊下。 押し入り強盗の懐中電灯で照らされたソレは、光りに気付きゆっくり振り返る。 顔は女人。 首下も人間。振り返った拍子に、裸体の豊満な乳房が上下に弾む。 だが男はその不可解な異形に、思わず懐中電灯を落とし声を漏らした。 「ヒッ !! 」 女の瞳の瞳孔は山羊のように横長で妖しく吊り上がり、玩具のように真っ赤な唇が笑みを浮かべる。その唇は何かを咀嚼している。転がった懐中電灯が照らす女の口の端に、まだピクりと動く人の小指が引っかかっていた。 一緒に来た強盗仲間の青年に馬乗りになり、血肉を咀嚼しながら、人間とは思えぬ冷笑を浮かべる。 女の下肢は大きな蜘蛛のようで、床に粘膜を撒き散らしながら這いずる。黒々とした縞模様が蠢いて、青年の臓物を次々と口に運ぶ。 壁に当たって止まった懐中電灯が、天井にまで飛び散った血飛沫を照らした。 男は堪らず腰を抜かして尻もちを付いて命乞いをするのだった。 「頼む !! 命だけは !! 」 「……今まで老人達にそう言われた時、あなたは命を助けたか ? 藻屑め」 「……んな事、言われたって…… !! 」 「とは言え、とても美味そうだ」 □□□□□ 海の日。 七月のその日、洗ったばかりでペトペトのシャツを着た中年男性がふらふらと歩いていた。 男の背のベルトには、たった今使用したばかりの包丁が挟まれていた。 都会から程遠い田舎町だが、新幹線の駅街が出来るとたちまち人口が増えた市街地になった。 駅前通りは華やかではあるが、駅裏は些かまだ商業施設は少なく、代わりに市役所や警察署が大通りに建ち並んでいる。 交差点の教会を住宅地方面へ曲がれば、すぐに地元民しか立ち寄らないような寂れた路地裏が四方に伸びている。 男性は一度立ち止まり、辺りを見渡す。 その路地裏の一角に町中華の看板が見えたのだ。 真っ赤な下地に黄金色の筆字で書かれた『大衆中華 八本軒』という、ケバケバしくもどこかレトロな存在感。 店先に並んだプランターの朝顔が、何本も綺麗に軒先まで延びてグリーンカーテンになっている。 男性は古くても手入れの行き届いていそうな店だと思った。背の包丁を黄ばんだシャツで簡単に隠し、暖簾をくぐった。 「いらっしゃいませ」
Last Updated: 2025-10-24
黒と白の重音

黒と白の重音

人間界に初めて来た世間知らずのヴァンパイア 霧香。唯一制限の許された音魔法でバンド活動を開始 ! しかし、結成後すぐにヴァンパイアである事がバレてしまい、ギタリストで引きこもりのサイ、デリカシー無し男のドラマーのケイと契約する事に。 地獄で定められているヴァンパイアの契約者制度は五人。メンタル補佐から護衛まで多種多様。更に同居が義務 ! ヴァンパイア×ミュージック×スパダリ
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Chapter: 21.リリーホワイト - 3
「ピアニスト ? 中学生の子 ? ど、どうかな…… ? 」「やっぱり押しかけ禁止っすかね ? 」「あー……いや、そんな事ないと思うよ。 ただ、楽屋にはお母さんも来てると思うんだけど……厳しい人だから……。 一緒に行くわ」 そう言い、真理は楽団員で溢れかえる廊下へ霧香と恵也を通す。途中「モノクロだ ! 」と声が上がり、霧香は会釈を返す。ここにいる数十人があの公開配信に来てくれていた人間達だ。「この部屋よ。 わたし、ここで待つね。嫌われてるの」 真理が霧香にゴメンのポーズ。 霧香は一度深呼吸をするとノックをするが、鉄製の防火扉のような作りだ。中に聞こえるはずもない。 仕方なく、数センチ開けて声をかけるしかないが……。「なんなんだ ! 今日の演奏は !! 」 とてつもない女性の声量と罵声に思わず肩が飛び上がる。「ご、ごめんなさい ……ごめんなさい」「くだらない演奏すんじゃないよ ! 何やらせても駄目だな」 それと同時にパンッと乾いた音が響く。 霧香はドアノブを見つめたまま、固まってしまう。だが、廊下の雑音は中にも届いている。 扉が空いていることに気付いた母親がガバッと扉を開けると、霧香にキツい視線を向ける。「あらやだ。 何か御用でしょうかぁ ? 」 突然の豹変に霧香も恵也も硬直する。「あ、あの希星さんの演奏が素晴らしかったので、少しお会いできないかと思って」「あらーありがとうございますぅ〜。じゃあ、私はお邪魔かしら ? 」「いえそんな事は……」「どうぞ」 母親は扉を開けると、機嫌良さそうに出ていった。 あの母親がどんな人間か、大人なら誰でもすぐに理解出来る。「青い髪のお姉ちゃん
Last Updated: 2025-11-11
Chapter: 20.リリーホワイト - 2
 □□□「ここでやるんだね。お客さんと楽団の人が一緒にトイレとかロビーに溢れてるの不思議だね」「確かにな。根本的に団体競技だし、ファンが殺到するって無いのかもな」 殺到することも勿論ある。 だが一般の楽団員に限っては追っかけなどはいない。 複数の人間に囲まれている奏者はいるが、恐らく部活の後輩や、友人知人、そんなところだ。「ピアノまだやってるかな ? 」「十二時までだろ ? 今、十一時。最後の二、三組くらいじゃね ? 」 二階に上がり、大ホールの扉を開け放つ。 聴こえて来る可愛らしい曲調のピアノ。「前の方は身内でいっぱいだね。後ろで見よ」(静かに ! ) 四歳程の幼女だ。 小さな掌で一生懸命、鍵盤を押し込む。 霧香のテンションが上がっていく。(可愛い ! )(静かにって言ってんだろ ! ) やがて演奏が終わると水色のドレスを来た天使はぽてぽてと下がって行った。(はぁ〜。なんかこういうのも新鮮)(確かに。ちょっと癒されたよな) 次に、あの子犬を転がしたような幼女の余韻が消えぬうちに次の少年がスタンバイに入る。(あと何人だっけ ? )(確かプログラムに……) ーーーーーーー♪ーーーーーーーー 刻が止まる。 それは生き物の本能か。 それとも服従してしまう程の攻撃力なのか。 少年の演奏が始まり、霧香も恵也も一瞬で五感を支配される。 激しい連弾と力強い鍵盤の押し込み。 絶妙なペダルのタイミングと会場全体に溢れ満ちる音。 何より中性的で可憐な面持ちの少年に、つい見入ってしまう。(おい、キリ) 霧香は立ち上がり、最前列近くまで移動する。 少年の叩く鍵盤を見ながら……いや、ステージから湧いてくる
Last Updated: 2025-11-10
Chapter: 19.リリーホワイト - 1
 霧香と恵也が出た頃、蓮もバイトへ向かう。車のキーがポケットにある事を確認し、玄関の姿見で襟をただす。 その時、薄らと写り込む背後の人影にギョッとする。「お前……」 彩が立ってた。「何 ? 今日は俺をドッキリさせる動画とか撮ってる ? 」「え ? いや、違うけど ? 俺も出かけてくる」「こんな朝から珍しいな」「ミミにゃんから連絡来たから会ってくる」「へ〜。ミミ……ミミにゃん !!? 」 蓮が彩の肩を揺さぶる。「正気か ? まだ何も聞いてないし……って言うか…… ! 」「一人で女性と喋れるのか ? 」と言うところを慌てて飲み込む。霧香の話では、仕事と割り切った時は案外いけるようだと聞いていたからだ。言ってしまったら急に意識してしまうかもしれない。「ま、まぁ。なんて言うか。頼むぜ。が……頑張れリーダー」 蓮の渾身の励ましを聞き流し、どこか上の空の彩だ。「……あのさぁ」 彩は眉を寄せ、口をウィっと横に広げて蓮を見上げる。「『ミミにゃん』って、『ミミにゃんさん』って呼べばいいの ? どうなの ? そう言う社会性、俺知らない」「あ〜。最初は『ミミにゃんさん』でいいんじゃない ? で、相手が『ミミにゃんでいいですよ』とか『かしこまらなくてください』とか言われたら、後は雰囲気でさ」「雰囲気……」 かなり不安そうではあるが、蓮も仕事。ハランは先にシフトに入っている。恵也も霧香もいないのだから仕方がない。これが彩の仕事である。「気になるけど気が重い」 蓮は時刻を確認すると、ふらふらと出て行った彩を呼び止める。「どこまで ? 」「楓JAPAN芸能の隣のスタジオだってさ」「 ? ああ、地下
Last Updated: 2025-11-09
Chapter: 18.白鼠 - 2
 屋敷のエントランスのピアノのそば。 腕組みをするシャドウと、ピアノの椅子に腰掛けた恵也が話し込んでいた。「気をつけてな」「ああ。でもジャンクダックの連中が来るような場所じゃないし……」「分からんだろ。とにかく霧香を一人にするな」 午前九時。 ピアノの練習をしている子供もみたいと霧香に言われ、早目の出発となった。 恵也が準備を終え、先にエントランスで待っていたらシャドウがピアノの上で猫になり寝ていることに気付いた。だがシャドウは恵也を見るなり人型に変わる。 恵也は猫型のシャドウを構いたくて仕方が無いのだ。シャドウはそれが煩わしい。「シャドウくん……なんであんな強ぇんだ ? 」「元々野良だからな。食べ物一つで命懸けだ」「でも、猫の餌ばら蒔いてる奴とか結構いるじゃん ? 」「ああ言うのは一時だけなんだ。他の人間に注意されると突然来なくなったり、ポケットに入る量しか持ってこなかったり不安定だ。それに子供も苦手だ。何故か今はそうでも無いが、当時は……仲間を拐っていくやつもいた」「飼うからじゃないの ? 」「いいや。次の週には公園に……。死んで行った仲間が多い」「え ? それ犯罪だよな ? 」「……人間は恐ろしい。昨日まで何でも無かった奴が、急激に変わったり、動物に八つ当たりしたりする」「…………」「常に外は危険だ。公園という小さな世界ですら、色んな人間を見た」 極端かもしれないが、シャドウの見てきた人間の社会は酷く悪意に満ちていた。 当時、彼の指す公園では子供の連れ去りや高校生の虐め、サラリーマンの自害など、色々な事が起こっていた。 シャドウは保護猫カフェに引き取られてからは外に出ていない。 今も屋敷の敷地からは越えられない結界があるのだ。「
Last Updated: 2025-11-08
Chapter: 17.白鼠 - 1
「ぎゃ ! 」 霧香がスタジオを出たところで吃驚して声を上げる。 ドアのすぐ側に彩がボーッと立っていた。 霧香の声を聞きつけて、廊下に顔を出した蓮も少し驚く。「え ? お前……ずっといたの ? 声掛ければいいのに」「いや、よく分かんないけど入りにくい気がして」「別になんもしてないよ」 彩がそう感じた、というだけで、音や声が漏れていた訳では無い。霧香の繊細な感情だけ伝わって、何となくとどまったのだ。「出直そうか、迷ったんだけど……もう徹夜で頭グラグラするし階段登りたくない。無駄に広くて歩幅狭い階段何アレ辛い……」 流石にあまり眠らない彩もお疲れ様モードである。「キリ、部屋のドアノブに服掛けといた。蓮、キリの化粧、頼んでいい ? 」「いいけども。じゃあ飯食ってから呼んで。何時出発 ? 」「分かんない。ケイに聞いて」「なんでお前が知らないんだよ」 彩は蓮に向き直ると、妙に真剣な面持ちで声をかけた。「蓮、ちょっといいか ? 」 そう言い、二階を指差す。彩が部屋に来て欲しいと言う。自ら部屋に誰かを呼ぶのは珍しい事だった。「わたしリビング行ってる〜」 霧香が興味無さげに朝食へ向かう。 蓮が意外そうに彩を伺う。「……込み入った話 ? 霧香が出掛けてからでも……」「何となく……早い方がいいかなって。 あと、曲の相談も少し。ハランは歌詞書けるけど曲は作らないって言うし」「ん。おっけー」 彩と蓮。二階へ向かう。「俺が何してたか、分かってて開けなかったんだろ ? 」「……キリと契約してから匂いにも敏感になった。キリの感情も流れて来るし……正直、案外アンタとキリの距離
Last Updated: 2025-11-07
Chapter: 16.ガマズミ - 3
 本来、駅でストリートピアノを弾いている存在を知っているかを聞きたかったのだが、思い付かなかった。その代わり、その日の不快な思い出を口にする。「蓮はさ。Angel blessはフェードアウトしていくんでしょ ? 年齢的にももう誤魔化せないし……。モノクロでしばらく人間界に残るんでしょ ? 」「ん ? なんの話 ? 」「わたし、このままモノクロームスカイを続けて写真とか撮られてたら、いつかこのバンドのファンの子の記憶とか消して……新しい人生を始めなきゃならないのかなって」 ハランが霧香に吹き込んでいた話だ。 寿命がない自分達の生きるすべ。 記憶操作魔法で自分の年齢を曖昧に、存在も曖昧に感じるよう魔法をかけ、あたかも初めて見た人だと認識させる……古来から人里で暮らす寿命の無い者が使う術である。「記憶操作か」「うん。いつかそうなるでしょ…… ? でも、抵抗があるんだ。モノクロのKIRIが居なくなってしまう気がして。お客さんの記憶操作なんてするなら、やっぱり顔も出さずにVTuberでやればいいじゃない ? 仮面とかもカッコイイし」 蓮は顔を上げると、先程まで霧香の首筋にかかっていた髪をサラりと戻す。霧香が何に悩んでいるのか理解しきれない様子で静かに隣に座る。「海外とか……モノクロを知らない人が多い地域に行けばいいじゃん。現にハランは人間界にいる他の天使の養子縁組で身分証作ってるから、あいつは最初韓国にいたんだよ」「あ……李って、じゃあ親の姓なんだ」「そう。身分は病院の息子。医療魔法を仕事にしてる天使だよ」「それって……完璧じゃん !? 」「まさか。使える魔法は限られてるから万能じゃない。でも、その『せめてこうだったら』って一つの症状で死ぬのが病気だからな。やっぱり、完璧かな ? 」「うん。全ての医者と患者が欲しい魔法だよね&
Last Updated: 2025-11-06
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