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神木セイユ
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Novels by 神木セイユ

PSYCHO-w

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葬儀屋の息子 涼川 蛍は、ある日謎の組織にデスゲームとして監禁される。富豪の狂乱として観覧される中、どんどん猟奇的なものへと加速する。 更にゲームマスター ルキは早々に蛍のサイコパスを見抜いていたが、蛍には人に言っていない犯行が存在する事を知らない。傾いたまま続いていく関係の二人のサイコパス。 数多くのサイコパスを飼い慣らしてきたルキと少年猟奇殺人犯の蛍。 果たしてどちらが本当のサイコパスなのか。
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Chapter: 4.不安定な嫉み
「あら、わたしはお邪魔ね。  じゃあねケイ君」 結々花と入れ違いに、美果が怪訝そうに蛍を見詰め近付いて来た。「生きてた……って事は、あの男たちも全員生きてるのね ? 追われてたみたいだけど。部下の一人とはこないだ会ったけど……」「はい。美果さんは車で脱出したんでしたよね ? 無事で何よりです」「まぁ……ね。  ……ねぇ、ちょっといい ? 少し貴方と話したいと思ってたのよ」「構いませんが」 美果はむっすりとしたまま、誰もいない小さな多目的ルームに蛍を招き入れた。  途中、受付に戻っていた結々花は愉快そうに二人の様子を見て微笑んでいた。「もしかして、結々花さんに呼ばれてここに来ましたか ? 」「え ? 結々花って誰 ? あぁ、さっきの人 ? 全然。知り合いなの ? 」「いえ……」「絵の具なんか使うし、賃貸で汚したくないから、たまにこの多目的室を借りるの。これ抱えて移動するのしんどいけどね」 新しく建てられた図書館の裏手には、古い時代の建物がそのまま残されている。その一角を、こうしたペイントやDIYなど多少汚しても許されるルームがあるのだ。  室内の机は端に寄せられ、床のブルーシートの上に大きなキャンバスがあった。他にもキャンバスは持ち帰らない者もいるようで、壁の棚に何枚も立てかけられていた。 目の前にあるのは美果の絵だ。殴るような力強い筆使い。インパクトが強い色合い。「わたしの作品よ。何が描いてあるか分かる ? 」 赤い玉と黒い何か。そしてなんとも言えないミミズのような線が一本。「いいえ。芸術にはあまり触れてこなくて」「本当に ? 」 美果はトートバッグの中から一冊のコピー紙を取り出すと、それを開いてイーゼルに立てかける。  大きく限界まで印刷された『最後の晩餐』の絵画だった。「…………」「わたしね。納得いかないのよ
Last Updated: 2025-05-04
Chapter: 3.生存者
「はぁい。来たわね、ケイ少年 ! 学校近くなのに遅くない ? 」 来てみてから後悔する。  そもそも図書館に来れなかった理由はこれだ。  ルキからの監視者、咲良 結々花の得体が知れない。  見つからなければ大丈夫かと踏んだ蛍だったが、受付にいるのでは隠れようがない。以前は別の男性が座っていたはずだが、恐らく無理にねじ込まれて来たのだろう。「本を読みに来ただけ。あんたに用は無いよ」 蛍は結々花からそっぽを向いて、他の学生たちとは違う本棚へと向かう。「あれれ〜 ? 」 その後をぬらりと艷めくハイヒールが追いかける。「てっきり、ルキ君の事でも聞きに来たのかなーって思ったんだけど ! 」 聞きたいのは図星だ。  だが蛍は自分がルキに興味が向いていることを、誰にも悟られたくないのだ。「どっか行って。気が散る。図書館で司書がべらべら喋んないでよ」「ツンデレってやつよね ? わたしが美人だからでしょ ? 」「それ持ちネタなの ? 美人だとは思うよ。でもつまんないかな。好みじゃないし」「うぅ……むぅ……。び、美人っては思うんだ。  まぁまぁ。仲がいいまともな大人が知り合いにいるのって、君の為になると思うんだ〜」 その言葉には裏がある。監視を楽にするために、結々花としては蛍を懐かせた方が手っ取り早いと思うのだろう。  蛍は一度ため息をつくと、隣に並んだ結々花を見上げる。  結々花の美しい黒髪は仕事中、編み込まれて纏め上げられている。纏めるのが勿体ない程の針の様なストレートヘアなのだが、これはこれで華やかだ。  その髪が側に来ると、蛍の鼻腔を芳しくくすぐる。  結々花は本棚を見上げ、背表紙をさらりと撫で付けながら目を通す。「……行動心理学……プロファイリング入門、無差別殺人鬼の獄中記、犯罪心理学 ?  いつもこのジャンルを読んでるの ? 」「いや……そういう訳では……」 次のゲームの備えに。  その一言が出ない。普通では望ん
Last Updated: 2025-05-03
Chapter: 2.仏花と親友
 七月中旬──日々野高等学校。  本格的な夏を目前に、蛍は古川家から託された仏花を手に登校していた。  香澄の死。  あれから一ヶ月が経とうとしていた。「蛍君。いつもありがとう」 一人の女子がその花を受け取りに、下駄箱へ来ていた。清楚な制服の着こなしに、腰まである長い三つ編み。指紋ひとつない丸い眼鏡が印象的な女子生徒。  蛍に頭を下げ両手で花を持つ。「別にいいよ。香澄の親からだしさ」 彼女は手の中に収まる纏まった菊を、鬱屈な瞳で見下ろした。「今日は白ね。ピンポンマムが可愛い」 剃刀のような瞳が僅かに揺らぎ、小さく微笑む。 生徒会役員 山王寺 梅乃。  香澄の唯一、親しかった女友達だ。付き合いこそ蛍ほどでは無いが、中学、高校と同じ時間を共に過ごして来た。  その容姿の特徴はなんと言っても刺すように鋭い、凍りつくような目付きだ。本人のコンプレックスだと言う梅乃だが、クールで賢い彼女のファンは多い。「ありがとう蛍君。じゃあ花瓶に入れてくる」 切れ長の瞳が、眼鏡の奥で一瞬だけとろんと下がり、はにかむのを隠すように下を向く。「梅乃さん……俺もやろうか ? 」「えっ ? 」「いや、いつも……悪いし……。俺もちょっとやらないと落ち着かないし」「あ……う、うん。じゃあ、花瓶を取りに行きましょうか」 二人並んで廊下を歩く。  既に学校は元の活気を取り戻してきた。香澄も大きな友人グループに身を置いていた訳では無い。至って地味目な生活だった上に、一番懇意な友人が、この梅乃だけ。  学校の中でも目立たない女子生徒二人。 その片割れが亡くなったと集会で知った時、生徒たちは初めこそ動揺していた。しかし、現実は残酷だ。  今や教室の片隅、香澄の花瓶の手入れをする者は減っていくばかり。それで最後に残ったのが梅乃だったという事だ。  花瓶を抱えた胸がふにっと押され、柔らかな様を、目ざとい男達の視線を集める。 &nbs
Last Updated: 2025-05-02
Chapter: game-2 1.監禁
 目が覚めた中年男性は、直ぐに上半身を起こした。部屋を見回し、汗だくで目の前に座り込んだ少年を見て悲鳴を上げた。「うっ !! うわぁっ !! 助けてくれ !! 頼む ! なんでもする ! 」 見知らぬ場所。 閉ざされたドア。 窓が無く、カメラだらけのコンクリート壁。 無機質な空間だった。 ひと目でわかる密室。 空調は小さな配管のみ。通れるのはネズミ程の生き物だけだろう。 男性は誘拐されてきた自分に、災厄が襲って来るのが確定しているかのように怯えていた。 しかしそばにいた少年もまた、起きたばかりだった。目をシパシパとさせ、明るい蛍光灯の光に顔を歪めていた。 そして男の方をゆっくり見上げる。 ぼうっとしていて、いまいち状況を理解していない様子だったが、錯乱した男性を見て連鎖するように取り乱した。「え……? えぇ !? あの…… ! 違います ! その ! 僕も今、目が覚めたんです ! お兄さん、お願い ! 僕をほっといて ! こっちに来ないで ! 僕は何も…… !! ……あ……うぅ……頭が痛い…… ! 」 さらりとした黒髪に、どんぐりの様な瞳。 本当にただの子供じゃないかと、男は一度生唾を飲み込んだ。 少年の無害そうな素振りに、男も少し状況が見えてくる。 怯えきった少年を、壁に張り付きながらもう一度まじまじと見つめた。 子供。 自分よりずっと年下の……高校生の制服少年。「あ、頭…… ? だ、大丈夫か ? 殴られたのか ? ここに来る時、なにかされたのか…… ? 」「あ……。
Last Updated: 2025-05-01
Chapter: 11.それぞれの朝
美果は駅前に車を乗り捨て、まだ営業している居酒屋の中でも明るい店を選び入って行った。「いらっしゃいませ ! 」「一人。空いてる ? 」「どうぞ ! 」 何となく、人のいる明るい場所へ身を置いた。あのまま一人暮らしのアパートに帰るのが怖かったのだ。「それでさぁ。盆には帰省するからぁ、お袋がすげぇ息子に玩具とか買うんだよぉ」「分かるわぁ。嫁がうるせぇのなんの……無限オヤツとかなぁ。俺に言うなっつーの」 泥酔したサラリーマン達が、目前に迫る長期休暇を想像し不貞腐れていた。 些細な日常的の会話だ。 小さな個室に通された美果は、襖を隔てた隣の会話を耳に流し、落ち着きを取り戻していった。 少しのお通しと、冷や奴にレモンサワー。 全く酔わない頭で、空になったグラスを置き再びメニューに目を通す。 少しほろ酔いになった頃、ようやく周囲を見る余裕が出てきた。 手描きのメニューのデザイン文字。よく洗練されている味のある書体だ。 壁に貼られたビールのキャンペンガールの水着。清楚なイメージはそのままにセクシーに大胆に、ビールの色合いとマッチした色調。 狭いテナントでありながら、所狭しと並ぶ個室と賑やかなカウンター席の共生空間。ユニークな間取りと窓の数。仕切りを襖にして音が漏れるのも悪くない。路上からでも、繁盛さが分かる明るい接客の声。 美果の目には全てがデザインの世界で映る。 そして冷静になった時。 ふと思い出し、疑問を抱いてしまったのだ。 ──涼川 蛍の作品は本当にアートだっただろうか ? 壁に画鋲で付けられ垂れ下がっただけの物が、パーティルームとは笑わせる。 空間を使うアートならば、縦も横も、奥行も全てが審査対象。 蛍の最初の部屋は天井や、画鋲の使えない窓際は手薄だった。 使えるアイテムは言えば黒服が持ってくる。 パーティ用のリボンでもオーナメントでも、用意されたはずなのだ。 既製品なら時間の短縮にもなる分、もっと豪華に仕上げられたのでは無いか ? 異常な状況で、感覚が鈍っていたのか ? 同じ作業をするならば、自分の方が上手く飾れたはず。 だが、その発想が出てこなかったのは事実だ。 でも、やはり。 涼川 蛍の三世界。 あれは総合点での評価。 一部屋ずつ見れば、何の
Last Updated: 2025-04-24
Chapter: 10.二人の視線
 ルキと蛍は校舎の裏手から急な斜面を下る。 校舎正門側の国道は人通りは少ないながらも、追ってが来るとしたら十分な道幅だ。カーナビを使ったらまず最初に誘導する道がここだろう。 その反対側。 防風林の杉を越え、小高い丘一つ降りれば、地元民も夜間は普段使わない農道がある。 蛍は枝木を一本折り手にすると、それを目の前で八の字に動かし進む。小さな虫や蜘蛛の巣などはこれにかかり随分歩きやすくなる。「公的機関は丸め込んでるって話じゃ無かったのか ? 」 蛍は前を見たまま、苛立ちを隠して背後のルキに問う。「今来てる連中ね。警察とか、そういうんじゃないのさ。 俺たちの母体を潰したい他の奴ら」「どちらにしても、ろくな奴じゃないだろうな」「そう言うなよ」 スマートフォンのライトだけで斜面を歩く。 闇深く、流石に二人分の足元全部とはいかない。 チラチラ照らされる部分をパズルのように繋ぎ、記憶しながら足場を探す。「おとと。それにしても、参加してくれて礼を言うよ。ケイが拒絶したら、俺の見込み違いかと思っちゃうところだったんだ」「……それさ」「ん ? 」 ふと、蛍の足が止まる。「俺、そんな分かりやすいのか ? 」 ルキは直ぐにその言葉を理解した。「周りにはバレてないんじゃないの ?  現に香澄ちゃんと仲良くしていたのは、自分を普通に見せる為の擬態だったんだろう ? でも、今日の一件を見た観覧者と俺たち運営、あとは美果ちゃんもかな。 この全員の目には、君は確かな異質に見えたかもしれないね」「異質……」「普通に暮らしたいなら、身の回りから固めるとかね。一般人と同じ暮らしさ」「やってる。でも親父が……」 そこまで言い、口を紡ぐ。 ルキが何を仕出かすかまだまだ読めたものじゃないからだ。蛍としても父親の重明にそこまでの恨みは無いのだ。 単純に詮索されたくないだけ。蛍が異常にしても、普通の親子と関係性は変わらない。思春期らしい悩みなのだ。「親御さんかぁ……誤魔化すのは容易じゃないね。成程」「忘れてくれ」「ふふ。分かってるよ。別に何もしないし、俺は何も止めもしない」 木に掴まりながら足場を踏みしめ、二人は再び歩き出す。「……いつからこんな事を ? 」「先代がしてた事はよく知らないけれど、俺は七年前から引き継いだんだ。以前は金持ち
Last Updated: 2025-04-23
Load of Merodia  記憶喪失の二人

Load of Merodia 記憶喪失の二人

ドラゴンの背から落ちたリラ。運良く一命を取り留めるも記憶喪失となってしまう。パーティの仲間ともはぐれ、二ヶ月が経過した頃、酒場のステージに立つ『狐弦器』奏者のセロと出会う。リラの中で何かが覚醒し、即興での演奏を披露する事に ! その音色に依存したリラと 、リラの歌声に依存したセロ。 二人は記憶を取り戻すために吟遊詩人としてのスタートを切るが、セロは極度の女嫌い。更に一から出直す二人の資金は0 !! 貧乏で純愛な異世界ミュージック︎START
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Chapter: 6.詠唱
 太陽が雲にかかり、白く光る。  雪の反射でチカチカしなくて、このくらいが歩きやすい。  手付かずの綿のような雪が真ん丸と河原の岩に乗っている。  温薬樹と言う木を煎じた物を持たされて来た。その煮出す前の物も。これは人間の体感温度を調整するもので、雪国では重宝されている。飲むだけで寒さを体感しにくくなるほど体温維持が出来る。わたし、こういう知識は残ってるんだよね……。他の雪国にも、旅した事……あったのかもな。  セロは相変わらず無言モード。  でもこれが彼の普通だから、もう既に慣れてきた。さっきの会話もそうだけど単純に不器用なんだな。「出発が昼過ぎだったし、今日は早めに場所を考えないとね。きっとこの雪山じゃあ、暗くなるのも早いもん」「ああ。麓の村まで早い人でも一日はかかるのらしいからな。  そういえば、魔法で焚き木に火とか……出来る ? 」「無理無理。魔法の使い方覚えてないもん」「あ、そうか……。大丈夫だ。火打ち石は持ってるし。食料は ? 」「遭難してもこれ一本みたいなクッキーをね。村長の奥さんに貰ったよ」 袋から取り出して見てみるけど、どうにも成人のわたしたちが満足するような量じゃない。  そばの清流を見ると薄氷の隙間から魚影が見える。「あの魚……釣れないかな ? 」「前にジルがやってたけど、釣りは慣れないと難しいらしい。一日粘って釣果は一匹だったよ。レオナが勝ち取って……あの時はすごく怖かった……」「あの二人って……」「多分、網か何かで仕掛けを作らないと無理だ。素人の垂らした餌なんか見向きもしない。  俺、なんか食えそうなもの探してくる」「え、最強クッキーじゃ駄目かな ? 」「それはいざと言う時の物だろ ? 」 いざと言う時……に、なりたくないけど。「分かった。じゃあ、わたし火を起こしておく。火打ち石貸してくれる ? 」「そうしてくれ。戻る時も目印になってありがたい」 セロはわたしに剥き出しの火打ち石を渡すと、藪の中に入ってい
Last Updated: 2025-05-03
Chapter: 5.DIVA
 まず通常の魔法石の知識よね。同じならちょっと安心。「魔法使いは『魔石』……地方によっては『魔法石』を六つ持つ。六芒星の紋の上に、契約した精霊から魔石を貰って使う。  合ってる ? 」「俺もそう聞いてる。でも魔法石、見た事なかった。ギルドでも魔法使いって週に一人見かければ運がいい方ってジルが言ってた」「確かに、あのギルドにも魔法使いっていなかったな。  わたしはベルトに付いてるよ。コレ」 インナーを捲ってベルトの六芒星を見せる  た。「ヒッ !! 」 セロは清流沿いの道中、巨大な岩石に手を付いて震え出した。 何もしないよ ! 「……ねぇ。会話の流れ的にちゃんと見ようよ」「急に腹を出すから何事かと……」 何事でも無いの ! 「続けるね ?  武器屋のおじさんに聞いたら、タリスマンが一つに、四個が火属性、一個が水属性なんだって。火に全振り状態なのが意味わかんないけど……まぁ、この六芒星が無いと魔法は発動しない仕組みだよね ? 」「ああ。そう。  なんで歌の魔石は単体で使えたのかって聞きたいのか ? 」「分かってんじゃん。教えてよ」「……。見てもいい ? 」「うん」 わたしは首からネックレスを取り出すと、その石をセロの手に乗せる。「……〜〜〜」「え !!? なんか首とか顔……急に湿疹出てるけど…… ? 」「石が体温で生暖かくて、ゾッとした」「……そう」 わたしだって生きてるんだから、仕方ないよ。  直接触れた訳でもないのに……。た、確かに今の今まで胸の間にあったけど……。「これは希少石で『DIVA』って呼ばれてる。名前のまま、歌姫の石」「ディーヴァ……」「産出地不明。ただ伝承は残ってて、石が採掘された時、その国は極めて不安定だった。最初はなんでもない石だったけど、採掘場の男の一人が持ち帰り、研磨すると綺麗な青色の輝石だった。男は自分の娘に石を持たせると、娘は突然次の日から大人たち全員を歌一つで魅了し、やがて王家の人間まで上り詰めた。  この石は……持ち主を意のままに歌人にし、聴く全てを虜にする呪いがあるらしい。  そんな伝承がある」「呪い…… ? こないだ聴いてたお客さんはなんともなかったけど……暗示みたいな事なのかな ?  それにしても、おとぎ話みたいな伝承だね……。セロはそういう話、他にも覚えてる
Last Updated: 2025-04-29
Chapter: 4.雪原の旅立ち
 無理なんじゃないかな。  どちらかって言うと無理じゃなくて、絶対無理なかって。「よし、村長の紹介状持ったな ? 」 天気は晴天 !  降り積もった雪が真っ白で、目がチカチカするくらい日光を浴びている。すぐ側には砕いた氷のような雪山が連なってる。  村を出て道を川沿いに歩けば麓の村に着く。 とは言え、記憶のないわたしにとって初心者の雪中行群だよ。しかも問題はそれだけじゃない。「う……。あの……流石に今日から急に二人きりって無理があるんじゃないかと思うの」 レオナの勢いに乗せられて、今日からセロと二人で旅をする事になった。  なんで ?  いえ、わたしが知りたいくらい。「一箇所に留まってるより、あちこち動いた方がいい ! 掲示板に張り紙して仲間を探した方が絶対早いって。  掲示板の情報は、まとめて情報屋が各ギルドに配り歩くシステムなんだから、いずれ仲間が見たら気付くだろ ? 」 聞きたいのはそっちじゃない。「セロとあの夜の後、一度も話してないんですよ ? 会うの二回目が出発当日って ! 魔物がいるような地域で外に放り出されるなんて ! 気まずいじゃないですか ! 」「いやいや。あいつは何回顔合わせても気まずいからさ。どーせ喋らないし。  あいつはそういう……草 ? とか〜……ん〜小動物 ? とか、そんな風に見てればいいでしょ。無害よ無害 ! 」 必要な物は辛うじて揃ってたからいいとして、まだ見ぬ「カイさん」の双剣も持った。でも魔法用の魔石は使い方が思い出せないし、戦闘能力は皆無に等しいわたし。  それから……歌魔法の魔石。  装備の中、胸元に光る青い煌めき。歌った時は確かに金色だったのに。この詳細も全く分からない。「大体、セロの方が歌の旅に出ようってあんたを指名して意気込んでる訳だしさ。  いやぁ〜、あたしもジルも最初はびっくりしたくらいだよ。あいつにそんな自立心あったんだってさぁ〜。  ま、変な下心を持つタイプじゃないと思うよ」「会話も成り
Last Updated: 2025-04-28
Chapter: 3.セロ
「始まるね。あいつにとっても初めてのステージだ」 一部の客席がステージを見上げる。 ドクンッ !! 「……っ !! 」 セロがステージに上がった時、心臓が跳ねる。 この感覚って何 ? 一挙一動……なにか分からないけど……既視感 ? まさか。 それは無い。 わたしは彼を知らない。 セロが弓を大きく振りかぶり、第一音を鳴らす。たった一つのチューニング音。 それだけで酒場全体の時が止まる。比喩じゃない。みんなセロを見上げて次の音に耳を立てている。 透き通るような音色。 女性嫌い ? 本当に ? そんな精神状態でステージって立てるものなの ? 荒くれ者みたいな人も多いし、異性と遊びに来て楽しんでる人も多いのに、音楽って聞いて観て貰えるものなの ? セロの狐弦器が鳴る。 唸りをあげるという方が強い。 音が重い……。切なくて、地を這うようなスローなメロディ。 シンプルに言えば、暗い曲だよね。 でもこの曲の雰囲気。 嫌いじゃない。「……」「……無理だよ……」 舞台上からわたしへの、セロの鋭い視線。さっきまでは目も合わせなかった癖に。 でも、分かるよ。 あいつ。わたしを探ってる。音楽の好み ? それともステージへ上がる意思 ? 冗談じゃない。わたしは冒険者。吟遊詩人じゃないもの。 でもこの衝動は何 ? 巧みにさばかれるピッチング。 弓のテンポが上がる。 もっと。 もっと聴きたい 。 側で永遠に。 この音色は……ずっと聞いていられる。「来たな」「……自分でもわからないの」 わたしは、気がついたらセロのそばにいた。 歌いたいとかじゃない。でも、この音色を側で聞くにはわたし以外にいない。 いないはず。 この思いってなに ? 「思い切り声量あげて。音は合わせる」 出来る。何故 ? 分からないけど、わたしならセロの音楽に見合った歌を当てられる。根拠の無い自信。 大きくブレスを挟むと、思いのままに喉を震わせた。「うぉ〜 !! いいぞぉ〜 ! 」 酔ったおじさんが拳を突き上げる。その場のノリでも
Last Updated: 2025-04-25
Chapter: 2.レオナとジル
「やっほーーー ! お姉さん ! エール二つお願い ! 」「かしこまりましたぁ」 う、凄い煙。と、お酒の匂い。 なんか想像と違いすぎる。 ……そういえばギルドに食堂は隣接してるし、独立した酒場に入るのは初めてかも。 天井が眩しい。 ここはランプじゃなくて魔石に光の魔法をチャージして使ってるのね……。 それにしても、この村にこんなに人がいたなんて。 冒険者じゃない女の子……踊り子よね。凄い……ギルドであんな綺麗な人見たことない。綺麗なドレス……。「あぁーん。会いたかったぁ〜ん」 こっちの女戦士が抱きついてるのは男性。胸元まであけたシャツに艶のある短髪。こんな人、昼間の村では見かけないのに……ここでお客さんとってるんだ。 完全に夜の世界。「さ、こっちこっち」「レオナさん、わたし……やっぱりこの空気は……」「大丈夫大丈夫。 こいつ、あたしの連れでジルっての」 ジルも愛想よくわたしを見上げて握手を交わした。「リラです」「ジル ! よろしく !  なになに ! レオナ、ギルドで女の子ナンパしたの ? 」「ばーか。違うよ。 この子さぁ、掲示板の子だよ。話したらやっぱり境遇がセロと似てると思って連れてきたんだ」 そう言って、ジルの隣にいた男性を指差す。 多分、年はわたしと同じくらい。 曇り空のような銀髪に陶器のような白い肌。着衣はなんの素材か分からないけどオールホワイト。なんだか生命力が儚げって感じに見える。「こいつはセロ。あたしも知らないんだけどさ。港町で知り合ったんだ。あんたと同じく、記憶ないの。 ねぇ、こいつと知り合いだったりする ? 」 セロと呼ばれた白い男性。 お互いにポカンと全身を見る。 でも知らない。見たことない人……だよね。「いいえ。すみません」「俺も……。そもそも女性は苦手だし……」 苦手…… ? じゃあ、絶対違うじゃん。目も合わせようともしないもん。 ピンと来ないし、やっぱり思い出せない。「流石にそんな偶然はないだろ」「記憶が無いんだもんなぁ〜。身体の感覚も違うだろう ? でもいいじゃないか、確認するくらい。 リラ、セロは口数少ないんだけど、何故か狐弦器の扱いだけは達者でね」 狐弦器。 大牙狐の髭やしっぽと木で作られた弦楽器だよね ? ……あれ、わたし……。記憶が無いのに、楽器は覚え
Last Updated: 2025-04-24
Chapter: 1.雪山のギルド
「浮かないね」 この人も知らない。結構、年上だよね ? でも……凄い腹筋と綺麗な歯。褐色肌が雪原地域のここじゃ、全員の目を惹いてる。凄く引き締まった腹筋なのに、釣り合わない程の大きな胸。 それに……ニヤッとしてるけど、嫌味がない笑顔だわ。「あんた、ずっと一人だよね ? この村に来た時から気になってたんだ」「え…… ? ……一人客なんて他にも……」 ギルドの酒場。 わたしは毎日ここに通い続けた。 もうドラゴンの上から落ちた記憶しかない。自分がどう生きてきたのかも、どんな武器を使っていたのかも思い出せなかった。「この辺り、結構討伐報酬高いしさ。良ければあんた誘うおうとしてたんだけど、毎日居る割りに湿気たツラしてるからさ」「……そうでしたか。実はパーティのメンバーが戻らなくて……」 ギルドにさえ出入りしていれば仲間だった人に見つけて貰えるかもしれない……そう思って毎日欠かさずここへ来てた。 いつかパーティの仲間が………… ?  仲間だった人…… ?  それも思い出せない。でもこの地帯は高レベルのモンスターしかいないし、女性一人の冒険者は稀だとみんなが言う。だから、きっと仲間はいるはず。「へぇ。そうなの ? はぐれて今日で何日 ? 」 こういう質問を受けるのは初めてじゃない。 わたしの装備が結構質がいいみたいで、実力を見込んで声をかけて来る人がいる。でも身体はもう、どう動けばいいのか覚えてない。「二ヶ月です」「二ヶ月ぅ !? そりゃ……あんた…………」 自分でもわかってる。 多分、置いていかれたか、全員殉職したかしかない。でも前者は絶対ない ! じゃあ、何 ? その人達はどうなったの ? 何もかも整理ができてない !「あ……ごめんよ。そんなつもりじゃ……」「いえ。討伐中の事故のせいで記憶が曖昧になってしまって……。空から落ちたみたいなんです。 今はもう戦えなくて。仲間の記憶も曖昧なんです……」「仲間って、連中の名前は ? あたし海の方からここに来たけど……」「実は、それも覚えてないんです……。 あ、申し遅れました。わたしリラ · ウィステリアです。ギルドのジョブプレートは持ってて」 木低札に名前と登録ギルド名。グランドグレー大陸発行の紋章が付いてるけど、グランドグレー自体が広大な土地過ぎてとてもじゃないけど出身地
Last Updated: 2025-04-24
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