Chapter: 4.岩井 剣 紫麻は無言でわざとらしく広げた新聞を読んでいる。見た目の美しさに反して、そんな子供のような仕草をする紫麻が、海希は親しみ深くて仕方がなかった。 鹿野に対して、ゴミを溜め込んでいたのもそうだ。 完璧超人などいない事を目の当たりにし、自身の精神バランスを保っている。海希は元の元気を取り戻しつつあった。「紫麻さん、海から人型で上がっ来たなんて人魚姫みたい ! 一番最初に何に驚きました ? 車とか !? 料理とか ! ?」 紫麻は即答した。「煙草だな。水中では火が使えんから驚いた」「……聞くんじゃなかった……。そんな不健康でヤサグレた紫麻さんの話 !! 紫麻さんは人魚姫ってより、浦島太郎を振り回す乙姫様っぽいです ! 」「わたしは構わないが ? 魚人でも、乙姫でも。だが乙姫も神じゃないか」「うぅぅ〜 ! 開き直ってるぅ〜 ! 」「わたしが乙姫なら浦島太郎に玉手箱いっぱいの煙草をプレゼントするな。 さて、そろそろ十一時だ。暖簾を出す。 鹿野、いつもの席に行ってくれ」 鹿野はブツブツと浮世絵集を見ながら、カウンター席の隅に座る。「玉手箱の煙が煙草〜 ? そりゃあ老化も激しいでしょうよ……」 海希は赤いエプロンを着けると、卓をアルコールスプレーで綺麗に拭きあげて行く。 紫麻が暖簾を出してから暫くして、そろそろ昼時と言う時だった一人の男性が八本軒の引戸を開けて入店した。 カラリンッとベルが鳴る。「いらっしゃいませ」 紫麻が厨房から声をかけると同時に、海希が驚いた顔で「いらっしゃいませ」と小さく呟く。「あれ…… ? ヒロミ ? 」 男性は海希を見て動揺していた。「う、うん。もうあそこ辞めたから。今はここでお世話になってんの」「あ、ごめん。じゃあ……海希ちゃんだっけ ? 」
Terakhir Diperbarui: 2025-12-16
Chapter: 3.メルカバーの守護天使「ところで、紫麻さんの変身 ? って魔法なんですか ? 魔法使いなの ? 」 この質問には鹿野もスッと顔を上げた。 ただいま泥酔レベル20%だ。まだ酒は回っていないが、近所の煩わしいオッサンレベルだ。「世には色々な宗教があるだろう ? 人間は信仰の違いで争いになる事もあるようだが、実際にはどこの宗教の神も互いに認識しあっている。『隣の家の○○神さん』くらいのものなんだ」「へぇ……神様同士で争ったりしないんですね」「昔は対立もあったし、そもそも一つの宗教の中に悪がいるパターンもあるから、争いの相手はそっちの方が主だ。 つまり天使と悪魔というものがまさにそれらだ」「なるほど〜。えー ? でも仏教って悪魔いなくないですか ? 」「厳密に言えば仏教にも『修行の妨げをするよう仕向けるモノ』がいるが……。 まず、悪役が無い宗教は無い。何故なら宗教ってのは悪の心を収め、正しい道を照らすものだ。悪を説明出来なければ、例えが俗物的になってしまう」「あぁ〜宗教とかはあたし、よく分かんないですね。 で ? お二人はどんな存在なんですか ? 」「聖書の天使に、ガブリエルという大物がいてな……」 紫麻が煙草を咥えると、鹿野が取り上げる。「俺に副流煙を吸わすな ! 緩やかに自傷行為するな ! 」「煙草は自傷行為じゃないし、それで言うとお前の酒もどうかと思うが ? 」 このままでは話が逸れてしまう。海希が慌てて聞き返す。「あ ! ガブリエルって知ってる。ゲームで聞いたことあるかも ! 」「その大天使に仕えていたのが我々二人だ。 わたしは『神の願いを現す者』、鹿野は『力と知恵の調和を現す者』として存在し、神器である『神の戦車』を守護していた」「戦車 ? 神様が戦車を運転するんですか ? 」「神の戦車は『メルカバー』と呼ばれている。その存在は先日見た通りだ。 わたしが鹿野に乗る事で『メルカ
Terakhir Diperbarui: 2025-12-15
Chapter: 2.愚痴愚痴 10:30──仕込み完了。 深緑色のチャイナドレスを着た紫麻は新聞を広げ、少し出遅れた朝のニュースをホールのテレビ下で聴いていた。『続いてのニュースです。 砂北市で小学四年生の女児の行方が昨日から分からなくなっており、警察が現在も捜索を続けています』 紫麻がふとテレビを見上げる。「近所じゃないか……」 八本軒がある住所がまさに砂北市なのだ。全国放送で流されるその慌ただしさに、不気味さを感じた。煙草を持つ手を灰皿の上に止め、川をさらう警官たちの映像を見つめる。『行方が分からなくなっているのは、砂北市内に住む 十歳の森野 風花さん で、昨日夕方、小学校から帰宅途中に行方が分からなくなり、家族が夜になって警察に届け出ました』「……」 険しい顔で画面を見つめていた紫麻が、今度は手にした新聞を地方記事へ捲る。 そこには放送中の女児ではない、別の女児死亡の記事が載っていた。「……『何者かに襲われた可能性……』。 こういう屑は何度でも湧いて出るようだな……」 冷たく呟く。 刹那、ホールの電飾がブゥンと音を立てて暗くなる。『警察はどんな些細な情報でも構わないとして、市民に情報提供を呼びかけています』 だらりと垂れ下がった提灯の赤。紫麻の白い顔を照らす。 紫麻の脳裏に蘇る十六年前の記憶の欠片。 唯一、喰い損ねた巨悪の存在。片腕だけは喰ったが、結局逃げられてしまった女児好きの男。「……まさか、な」 時間が経過し過ぎている。同一人物ではないだろう。 不気味な程に光量の落ちたホールの中、二人の存在が突然騒ぎ出した。「なになに !? 急に暗い ! 停電 !? でも提灯はちゃんとついてるし、何これ !!? 」 海希だ。 そしてそのそばで鹿野が呆れた顔で本を捲っていた。
Terakhir Diperbarui: 2025-12-14
Chapter: 2章+++1.窓 今から十六年前──当時十四歳だった鏡見 彰人は下校中だった。 比較的勉学の成績に問題のない彰人の家庭は母子家庭で、塾に行くなら手伝いをしろという母親の教育方針だった。 彰人も別段不満はなかった。 運動神経は平均値で、今から成績の良い運動部に入るには些か出遅れと感じたこともあり、活動時間の短い科学部に入部していた。 その日も活動は小一時間程で帰宅は各自自由となり、すぐに学校を飛び出した。 はやく帰りたい理由。 それは当時小学六年の妹、朱音《あかね》の存在だった。 年が近くとも不器用な兄の彰人をフォローする大人な一面もあるが、まだまだ子供らしく甘えたい盛り。母親はほぼ家を空けている時間が長く、朱音が下校し彰人が帰るまでしか家にいない。艶の無い髪をまとめ、必死に働く母に二人は何も言わず乗り越えて来た。 その日、自分の公営住宅まで来ると、台所のある三階の小窓を見上げた。 灯りが点いている。 母親が夜勤に行く前に、今から夕飯を作っている証だ。機嫌良く階段へ向かい、再び台所とは反対にある妹の部屋の窓を見上げる。恐らく母親にドヤされ、宿題をやらされてむくれているだろうとクスりと微笑んでしまう。 しかし、見上げた一瞬で急に全身の血の気が引いていった。 妹の部屋の窓。 そのカーテンが半分閉じ、そこへ何やら赤黒い液体が付着しているのが分かった。 付着……とは大まかな表現で、飛び散っているといった方が正しいかもしれない。 カーテンはアイボリー色だった。そんなおぞましい柄など記憶になかったのだ。「な…… ? あ…………っ ! 」 ガクガクとその場で立ち尽くす彰人の足はまだ動かない。 次の瞬間。 ガラス窓にパーンッと何かが張り付くのが見えた。 その奇怪な蛇のようなモノは、鱗が無く、伸びたり縮んだりをし、何か丸い吸盤が沢山ついていた。「はぁっ……はぁっ !! あ、朱
Terakhir Diperbarui: 2025-12-13
Chapter: 24.まかない予告「改めて、先日はありがとうございました」 カウンター席。 鹿野のそばに座った海希は二人に頭を下げた。「キャリーケースの中身を見た時、もっと心配しておくべきでした。本来、あのロープを見て、そのまま帰すべきではありませんでしたね。 そして、まさか他の勢力から被害を受けるとは……」「あたしもびっくりしました。祐君が横島って人が知り合いか友人にいるみたいだなって……一緒に住んでて知ってたけど、リカコの旦那さんだったなんて」「嘘に嘘を重ねていたのですね」 紫麻は苦い笑みで海希を厨房から見下ろした。「海希さんはいつから気付いていたのですか ? 」「えっと……去年の秋にあたしがキャバを辞めて、繋ぎにコンカフェのバイトに入ったんですけど……。そこ凄く楽しくて ! 結局最近は多めにシフト入れてたから生活に余裕はあったんです。でも、入った当初は流石に薄給で…… その時ですね。祐君がリカコと出会って、あたしに冷たくなったの。 浮気されてこのまま捨てられるのかなって……思って。あたし祐君のスマホ、見ちゃったんです」「何が書いてあった ? 」 鹿野の深追いは当然の問いだ。海希は肩をギュッと抱えて震え始めてしまった。「祐君が……あたしの一つ前の元カノを、あの現場で埋めた事……。他にも。なんか今までもやってた感じで」「なんてこった……。警察には ? 」「言えませんでした。スマホ見た事とか、紫麻さんのことも。 でもあの現場は調べるはずだし、あたしが言わなくても……」「冷静な対処です。取り乱して祐介さんにスマホを見たことを告げていたら、もっと早くに危険な目に遭っていたかもしれません」 紫麻の言葉に海希は今一つ浮かない顔をした。
Terakhir Diperbarui: 2025-12-12
Chapter: 23.杞憂「何事も無神経に生きるくらいがちょうどいいよねぇ〜」 カプセルホテルの小さなベッドの上で、海希はレンタルタブレットを持ったまま呟いた。 警察署を出た海希の行く宛ては無く、現場から警察が回収した、身分証明書と僅かな金の入った財布だけが帰ってきた。 とはいえ、このまま住み着く訳にもいかない。「いや、別になんて言うか挨拶しに行くだけだよねぇ。ほら、助けて貰ったし」 海希は八本軒に行くかどうか考えあぐねていた。「いやいや、あたし紫麻さん料理してるとこ裏切って見ちゃったしなぁ〜。怒ってるかな…… ? でも助けて貰ったよね ? 」 ドン !! 不意に隣人に薄い壁を叩かれる。(す、すみません〜) 現在二十一歳。 綺麗なミルクティー色に染めた髪もそろそろプリンになってしまう。 家出少女だった彼女にとって、自立して生活をするのは容易いほど根性はあった。 ホテルに来てから減り続けているだろうキャッシュカードの中身を考え職業情報誌を手に取ったが、問題は現住所だ。 今まで稼ぎに稼いだ海希の金は祐介を通し横島へ……更にその上の者に流れてしまっている。取り返しがつかない。 最初に思いついたのは八本軒で鹿野に言われた気遣いだった。「教会のお手伝いかぁ。住み込みって言ってたし……もう選んでる場合じゃないよね。でも、鹿野さんも……だよね ? 鹿 ? カモシカ ? あっ !! だから『鹿野』なんだ」 ドン !!(やべ !! すみません ! ) だとすると、紫麻から生えた触腕を思い起こし確信する。(蛸……だよね ? 烏賊 ? うーん、でも紫麻さんってオクトパックス推しだし、やっぱ蛸の……なんだあれ。化け物 ? なんで鹿と蛸 ??? 一緒に住んで大丈夫なのかなぁ〜。はぁ〜……)
Terakhir Diperbarui: 2025-12-11
Chapter: 28.山吹色 - 2 ここからは再びゲームの話に戻って行く。 本日はコメントを解放してあるのだ。 追い切れない楽しげなファンのコメントに、チェックをしていた木村はホッとする……と言うより、感動していた。 ネットの炎上に良いイメージなど無いからだ。 毒薬変じて薬となると言うものか陰徳あれば必ず陽報あり……か…… 。「昨日ゲームしながら喋ってた奴いた ? 」「キラと恵也。すっげーうるさかった」「よく喋れんな。RPGとかならギリ喋れるけどさ、リズムゲームって集中するしさぁ」「VEVOが配信スタートしたら、ちょっと実況はしてみようかな」「あぁ、それは楽しそう」「やっぱミミにゃんでプレイした方が面白そうだな。ミミカーになるかもしれないし」「なりませんよ」 ミミにゃんは口を尖らせて否定するが、ゆかりはカメラの外で何やら必死にメモを取っている。ミミにゃんは嫌な予感しかしない。 □□□□□ 川から戻った霧香の異変に、彩はすぐ気付く。「……」 緊張とも落胆とも違うその感覚は、遠い昔……一度感じた様な……彩にとってはそのくらいの理解度だった。 しかし、耳は聴こえていないはずだ。 彩はスケッチブックの端に『何かあった ? 』と書いた。 恵也に限ってそんなことは無いはずだが、水着で出かけた霧香の異変に何も干渉しない訳にはいかない。『何も無いよ』 そう書き返した霧香だが、顔が赤い。 そこで彩は思い出す。 人の恋心は動揺したり、複雑な気持ちになることを。そしてすっかり自分とは疎遠になったそれらを実感して静かに落胆する。「あ〜……」 霧香が彩に振り向いて、考えながら話すように言葉を探す。「耳、あんか、ちょっともろって来たかも」「早いな。ヴァンパイアの体質のせい ? 」「んあ〜、ヴァンパイアだから ? って言った ? 」 やはり途切れ途切れにしか聞こえないし少しボンヤリとしていて聞き分けるの
Terakhir Diperbarui: 2025-12-17
Chapter: 27.山吹色 - 1「霧香さんて、KIRIで活動している時とギャップがあるじゃないですか ? わたしは年下なので、あのインスタのロリータこそ作られた霧香さんだと思ってたんですけど。 実際話したら、普段はほんとに温厚でお嬢様って感じで。でも歌ってる時は確実に別人じゃないですか !? 」 Angel blessとミミにゃんのトークも主に霧香の話題で埋まる。全員がここにはいないはずの霧香を案じて、口をついて出てしまうのだ。 ミミにゃんの疑問には全員爆笑。 特に千歳も同意で疑問を投げる。「俺もどっちかなって思ってたけど、案外歌ってる時が素かなぁーって思った。 だって普段からふにゃふにゃしてたら……ハランはまだ分かるけど、蓮は一緒に住むのキツくない ? 」 問われた蓮はまずまず同意。 千歳も「やっぱり」と大きく頷く。「俺も勤め先の電気屋で実感したんだけどさ。女性もさ。ずっと可愛いわけじゃないじゃん ? 俺ねシフト終わった後、可愛いと思ってたバイトの子がさ、めちゃくちゃ疲れた顔してエナジードリンク飲んでるの見てさ。……世の中の可愛いって自然体じゃないだなって」「その子は普通だよ。 みんな仕事明けは疲れるよ」「千歳さんは女性に夢を見るタイプなんですねぇ」「お前、アイドルは老廃物出さないと思ってるタイプ ? 」「そうだけど ? 」「うえ〜……」 全員、言わない。千歳の生活は所帯染みて来たのに、未だ浮いた話を聞かないな……とか。 ハランが切り替えて行く。 ここからは水戸マネージャーと口裏合わせした方向へと進む。ミミにゃんの本性を暴露し、更に人気に火を付けたい。「いや、女性は怖いよ。表と裏がね。特にこう言うメディアに出る人はキャラクターってモノもあるしさ」 蓮の追撃。「キャラクターね。 俺、昨日霧香を連れて戻った時さ、フロントに実々夏さんがいて…&h
Terakhir Diperbarui: 2025-12-16
Chapter: 26.蒲公英 - 3「ま、せっかくの休みだし……。 あ、そうだ管理人さん」 料理を運んでいた高齢の女性に恵也が声をかける。「側にある川で釣りがしたいんすけど、なんかダムみたいなのがあって上に行けなかったんですよね」「あ〜。釣りはね。旅館の裏手から行くんだわ。裏道あるからさ。そこ登って行くと丸太を渡ってその上に行くと滝壺があるからさ」「はぁーなるほど ! ありがとうございす ! レンレンとハラン配信だし、彩は夜の用意か。 キリとキラ、釣り一緒に来る ? 」 希星はスケッチブックに恵也の言葉を書くと、霧香は笑顔で頷く。「管理人さん、そこも水浴び出来る ? 」「滝の真下はダメだよ。少し離れれば大丈夫だけど」「やった ! 」 盛り上がる三人を後目に、千歳と京介はだらりと椅子に持たれる。「あう〜……午前中なんて頭回んねぇよ」「午前はわたしも出るんですから。しっかりしてください ! 」 ミミにゃんは相変わらず厳しい。「実々夏さん、やっぱりネコミミ外すと凶暴化しますね」「え ? そうなの ? 」「何それ面白い。なんか喋って」「はぁぁっ !? 訴えますよ ! 」「え、急な拒絶キツ〜」 その発言を興味深く水戸マネージャーも聞き逃さず観察する。「昨日、俺超足踏まれた。連打。踏みつけ連打」「ぎゃはは ! 」 □□□□□□□ 恵也は釣竿を持つと希星に使い方を説明していた。 岩の上で真剣に釣竿と格闘する希星を、霧香は川岸で見守っていた。 水が柱となり高所から落ち、飛沫を上げる。一応水着は着てきたが、足だけ水の中に入れる。 音は聞こえなくとも、その強い振動は身体に伝わるほど力強く、飛沫がミストになり全身を冷んやりと包み込む。 ゆかりの印刷してくれたモノクロファンの言葉の綴りに目を通す。 涼しい
Terakhir Diperbarui: 2025-12-15
Chapter: 25.蒲公英 - 2「動画のはあくまでパフォーマンスだよ。それに全員好意を持っててもいいと思よ。霧香が選ぶか選ばないか分かんないしさ。 じゃあ……実々夏さんから見て、モノクロで誰が好みとかあります ? 」「はぁ ? そういうところですよ ! イケメンなのにデリカシー無いんですね〜」 手強い。 ネコミミを外したミミにゃんは中学二年とは思えない悪女のような発言をしてくる。「いや。ほら、ゆかりさんは霧香と恵也のコンビが、一番理解出来ないって言ってたらしいんで。 実々夏さんから見たらどうなのかなって。参考にです。 って言うか、俺にだけ当たりが強くないですか…… ? 」「ん〜。そうですね。ケイさんはトークが上手いのでモノクロには必要ですよね……。 あ、でも恋愛パフォーマンスとして霧香さんとくっ付けるのに向きの方って事ですよね ? えーと、じゃあ。深浦さんじゃないですか ? 」「彩 ? へ〜……」「深浦さんが一番霧香さんの事を考えてるし、甘やかして無いと思いますし。しっかりした方だなと。 でも、あの二人が恋愛パフォーマンス ??? は……完全に向いてないですね〜」 蓮は意外なミミにゃんの返答に言葉に詰まる。「霧香さんも聞いてみましょうよ」「はぁ" ? 」 これには蓮がミミにゃんの足を踏みたいところである。「だって蓮さんは御自身に自信があるようですし。何より本音を知りたいでしょう ? 」「え……じゃあさ。例えば今日の夜、ガールズトークとかで聞き出してくれない ? 」「うわ ! 一番最低 !! ガールズトークに男が首突っ込んでくるとか変態すぎ」「何この子……辛すぎる」『モノクロで好きなメンバー誰ですか ? 』 霧香はミミにゃんのスマホを読むと、満面の笑みでス
Terakhir Diperbarui: 2025-12-14
Chapter: 24.蒲公英 - 1 パーキングエリアのベンチでロイと合流する。「霧香さんにダメージが言ってしまうなんて……本来我々の問題なのに……」 ロイは申し訳なさそうに頭を抱えた。 ロイの診察は独特だった。いや、相手がヴァンパイアだったから躊躇いなく魔法を使ったのだろう。霧香の頭、首、肩、腕をポンポンと触れていき常人には視えない魔法陣を浮かばせた後、診察は終了した。「内臓とか、脳に以上は無いね。外耳も中耳も炎症が無い。 やっぱり心因性難聴だね」 暖かい缶のポタージュを持たされたまま、霧香はボンヤリと駐車場のトラックの群れを眺めている。「炎症が無い場合、治療は…… ? 」「内服薬は同じだけど、安定剤も出そうか……でも、噂が落ち着いてくれるのが一番なんだけどね」「そうですね」 蓮はまだネットを見ていなかった。 時刻は0時を越える。 着信。 京介からだった。「あ、すみません」「どうぞ」「京介 ? 」『なぁってば !! ネット見た !? 』 何やら興奮した様子で喋り出す京介に思わず、顔を顰めて受話音量を下げる。「何 ? 」『だーかーらー、樹里から連絡来て言われたの ! X見たかって聞いてんの ! っつーかチャンネル登録者回復してるぜ ? 』「はぁ !? いや……だってさっきまで……」『とにかく見てみ ! 』 一方的に切られる。 蓮が通話中、そのそばでロイが霧香に筆談で尋ねる。『家に居た方が楽かい ? 』 質問の意図が見えず、霧香は顔を上げてロイを見る。『自分が一番居たい場所にいるのが一番だから。入院も出来るけどどうしようか ? 』「あー……」 それを読んで霧香は考える。 自分の居たい場所とは…… ? 蓮はモノクロのチャンネルを開くと、既に十万人まで回復していた。訳が分からない。 Xを開いたところでようやく把握し
Terakhir Diperbarui: 2025-12-13
Chapter: 23.杏の花 - 5 その頃、シャドウは一人残された屋敷でのんびり過ごしていた。 何日間も一人きりで過ごすのは初めてだった。 今日はその初日。 ちょっぴりテンションの上がったシャドウはいつもより多い重量のステーキをギコギコと貪り、猫型に戻ると恵也に置いていって貰った特上にゅ〜るを舐めながらテレビを観ていた。 希星が自宅で作ったと言って持ってきた、添加物無しの猫用ミルクアイスを舐め出したところでインターフォンが鳴る。 これにシャドウは驚き、猛スピードで壁際に寄る。 人型に戻り、カーテンの隙間から外を伺うが、そこから玄関は見えなかった。 そもそも、招待していない客が来ることは有り得ない屋敷である。 許可されているのは血成飲料の配達人くらいだが、それらも来るのは昼だし事前連絡がある。 敵か。 シャドウは上着を脱ぎ、肩の関節と筋肉を解しながら、ソッと明かりを点けずに玄関ホールに立つ。 だが、インターフォン越しに液晶に映った一人の男の姿に、たじろぎながらもすぐにドアを開けた。「す、すぐに対応出来ず申し訳ございませんでした ! 」 深々と頭を下げるシャドウに、男は眉一つ動かさずにエントランスに入る。「構わん。それがお前の役目だ。万全を期せ。 霧香はいないのか ? 」 黒く長い髪に長身、そして整っていてもどこか冷酷そうなその面持ちは、ふと誰かに似ていると誰もが思うだろう。 蓮の実兄。 黒百合の王族 ヴァンパイア領土統括者 ディー · 二グラム。 だが蓮とは違い、潔癖そうな仕草となんの感情も無さそうな鋭い瞳が印象的だ。似てはいるが、血縁関係とは思えない程に。「いつ帰る ? 」「予定通りですと、五日後です」「それまで待たせてもらう。客室はあるか ? 」 あるにはあるが、既に皆のシェアハウス状態になっているため、空いているのは一番ショボイ景色も見えない部屋である。「空き部屋は非常に使い勝手が悪いかもしれませんが&
Terakhir Diperbarui: 2025-12-12
Chapter: 後書き&参考文献参考文献 +診断名 サイコパス(ロバートDヘア) +図解 眠れなくなるほど面白い 犯罪心理学(越智啓太) +図解 サイコパスの話(名越康文) +面白いほどよくわかる 犯罪心理学(高橋良彰) +死体と話す NY死体調査官が見た5000の死(バーバラ・ブッチャー) +大事件ゆっくり解説 様https://youtube.com/@incident_of_yukkuri_commentary?si=vNLHW1NF77Z8ymWEここまで読んで下さった読者様及び支えてくださった担当様に感謝致します。完結に出来て寂しい反面、ケイとルキはまだまだあのままでいて欲しい気持ちが強かったのでラストはあんな感じで集結しました。サイコパスを書くにあたり多方面から情報を取り入れ、中でも強く影響を受けたものを上記に記述させていただきますm(*_ _)mそれでは(・ω・)ノシ
Terakhir Diperbarui: 2025-09-29
Chapter: game - END. 二人のサイコパス 2ルキはMの仕事の大半を引き継いだ。ゲームマスターをしている暇は無くなったという訳だ。「以前言ってたろ ? 俺のゲームは直接殺しが出来ないからつまらないって」しかし、蛍は悩みもせず一蹴した。「言ったけど、案外あんたのも悪くなかったかな。Mのが殺せるルールだったじゃん。でも、あれになんの意味があるのか疑問に思っちゃった。俺は自分で殺れればいいんだ」そして悩み込む。「でも……そうだね。俺も顔を売りたい訳じゃないし……。取材も椿希に丸投げしようかな」「狩り場を変えればいいのに」「嫌だね。狩りの為に生活を変えるなんて」「湊周辺じゃ限界だ。歴代のシリアルキラーだって一つの町に留まり続けない奴も多い。大事なのは、免許と車を手にするタイミング、そして使用する日と犯行日時だ。前に言ったろ ? 俺のゴーストに乗った……中野の時、車で下見に来れたのは良かったって」「……まぁ、便利なアイテムではあるけれど……」「無免許で捕まっちゃ仕方ないし、車もそれなりの物に乗るといい。検問で中から死体が出てきたなんてことがあったら……」「あるし」「ん ? 」車好きのルキは御託を並べたい。だが蛍はそこまでこだわりが無い上に、ルキの車の趣味が悪いことを知っている。「うちに『それなりに高級で俺が乗って、死体を入れててもおかしくない車』あるから」勘づいた結々花がブフッと吹き出す。「え ? どういう事 ? 」「アッハハハ ! そりゃ高級でしょうよ ! 」ガチャ !そこへ美果がやってきた。「香澄ちゃん両親帰りました。なんの話し ? 」「美果ちゃん、ケイ君の家で『高級で死体が乗っててもおかしくない車』ってなーんだ ? 」「……
Terakhir Diperbarui: 2025-09-28
Chapter: game - END. 二人のサイコパス 1ガシャッ …… !蛍はVRゴーグルを放り投げる様に外した。「……」内線電話を握ると結々花にかける。「すぐに応接間に通して ! なんで入れたんだよ ! 」『〜〜〜っ ! ……っ ! 』結々花は反抗的な割にルキには逆らわない。今回もルキの方が無理にフィールドへ入ってきたんだろう。 それにしても、第一ゲームの加害者と実行犯、被害者遺族が揃うとは恐ろしい事だ。そばにいた美果が不安そうにする。「大丈夫 ? 」「……案内、代わりやって。香澄の両親、まだ見学してるから」「わかったわ。 本当に大丈夫 ? 」「うん。ごめん美果」事業立ち上げから、蛍は少々丸くなった。 美果を気遣うのもそうだが、世渡りの必要性。それには今のままの性格ではやっていけないと。幸い椿希がやる事全て詐欺の塊だが、愛想だけは妙にいいのだからこれほどモデルに相応しいものはいない。少なくとも自分以外を、内か外か選別する程度には。以前は自己以外全てが外だったのだから大きな進歩である。 蛍はエレベーターで一階へ向かう。ポーン♪「あ ! スミス !! 」扉が開くと、丁度スミスが横切った瞬間だった。「なんで今日ルキが来たんだよ ! 止めてよ、そういうの ! 困る ! 」「蛍さん !! いや、あの……結々花に許可は頂いて……一応真面目に見学という事で……」「真面目に見学ぅ〜 ? 」「ルキ様はMの墓標を建てませんでしたからね。真理さんの事も考え、てここを見たいと……」「え ? あぁ、そういうこと ? 」そうなれば話は別だ。 真理自身が来てくれれば希望を叶えられるが、なかなか死ぬ為の準備を生きてるうちに始める……というのはまだまだ根強い文化とまではいかない現状。「予約してくれれば良かったのに。なんで今日の朝言わなかったんだろ」「今日の……朝…… ? ルキ様は真理様の御自宅へいたはず……あ
Terakhir Diperbarui: 2025-09-27
Chapter: game - END.PSYCHO - we.4『と、ここまで進化した最新の墓標はいかがでしょうか ? 今回は展示という事で込みの価格が表示されていると思いますが、普段は無いですよ〜。まさか売り物じゃあるまいしねぇ ? 』『ははは』 結局、客前でトークするのは椿希の役目になってしまった。 蛍も最初こそ無愛想にしていたが、途端その技術が必要と理解すると、すぐに吸収していった。 だが今日は突然の来訪者が顔を出した。 それにより、客人に合わせメタバース霊園を見るようになったのだ。『凄いね。現代的だ』『ええ。それに、あんな小さかった蛍君がこんなに立派になるなんて ! 嬉しい……』 アポ無しでたまたま飛び込んできた夫婦。 商店街で花屋を営む、涼川葬儀屋の契約生花店の二人だ。 つまり──香澄の両親だった。 回線を三人だけにし、蛍が対応していた。『俺も驚きました。 その……聞くに聞けなくて。お墓の場所とか……』『そうよね。葬儀は蛍君のところでしたけれど、その後どうしても……。納骨するのが寂しくて今まで……』 香澄の死後。 両親は四十九日、百か日を過ぎても娘の死を受け入れられなかった。四十九日の法事は重明が取り仕切り、するだけの事はしたが、納骨には至らず参列者にテンプレ通りの挨拶を述べるだけで精一杯だった。 香澄の骨壷はずっとダイニングで共に食事の際にも置かれ続け、就寝の時も両親が寝室へ運んでいた。 その後、蛍の知る通り、花は毎日学校へ持たせ誰かに飾らせ、自分たちは香澄の死の真相を探り続けた。 転機はMの提示した湊駅周辺でのゲームだった。『他にもここを検討してる人、沢山いてね〜』『そうそう。被害者の会でよく話題に上がるのよ』 蛍の起こしたテロと椎名、久岡、そして真理の無差別殺人事件。 これにより墓が急激に売れる始末。中でも、未だ墓地を持たず尻込みしているのが、子供を亡くした家庭だった。 その混乱の中、香澄より幼くして亡くなった多くの命。それを見るうち、両親の中で香澄の死は今回の騒動の一端だったのではないかと心の整理が付いたのだ。 子の多くは集合住宅の飲水やプールの給水で亡くなった。 酷いテロの混乱を目の当たりにして、急激に冷静になったのかもしれない。 それを引き起こしたのが蛍だとも知らず。『パソコンから画像だけでも見れ
Terakhir Diperbarui: 2025-09-26
Chapter: game - END. PSYCHO - we 3 残された蛍と結々花は無言のまま。 ポンっと音が鳴り、エレベーターの扉が開く。 最上階ルームはエレベーターから直接、一歩踏み出すとワンフロアを贅沢に使ったゲストルームだ。霊園だとは思えない温かみがありながら、どこか近代的な造り。 結々花はガラス屋根を見上げながら、つい先日この場で行われたショーに関して呟く。「まさか先日、この天井に人がぶら下がってたとは……今日のお客様は知る由もないわね……」「だってダリの最後の晩餐は、いるじゃん。上に。半裸の人」「んー。絵ってあんまり興味無いし、ダリが最後の晩餐描いてたのも知らなかったわ。 あの日、ケイ君がぶら下げ始めた時、観覧者から凄い歓声が上がったわよね」「……客の声なんてオフになってるから聴いてないよ」「美果ちゃんはどうして、ダリの最後の晩餐をここのモチーフにしたのかしら ? だって一応、最初は海玄寺の宗派を受け入れる方針だったじゃない ? 仏門に関する絵じゃないんだ〜って思ったわ」「そう言えば美果は ? 」「来てるわよ。聞いてみよっか」 結々花は半分暇を持て余し、意味無く美果にコールする。数分後、倉庫から美果が飛んできた。「ごめんごめん。つい夢中になっちゃってて」「卒業制作上手くいってる ? 」「すっごい便利 ! まさか秘書室という名のアトリエが貰えるなんて ! 」 美果は結局、涼川葬儀屋へ就職となった。結々花がマンション墓地やスポンサー等との橋渡しなど、重明とあまり関わらない日陰の部分に暗躍するのと違い、美果ははっきり葬儀屋で外へ発信できる人材として存在する予定だ。 このマンション霊園の概ねのデザインもそうだが、位牌や仏壇、ペット用のメモリアルグッズなどを手掛けることで、合法的にこの場にアトリエを持てているのだ。「ただ絵を描いてただけなのに、今は小さい仏壇や神棚を考えて、小物作って、内装をデザインして、宗教も勉強して……人生分からないわ。本当に」「わたしもキャリアを捨てて悪の手先になるなんて思って無かったんだけどねぇ〜」 美果も結々花もぼんやりとガラス越しに朝日を浴びる。 □□□□□□ 第四ゲーム終了時──それは蛍が椿希とコンテナ船へ到着してからの話に遡る。「真理さんは ? 」 コンテナ船の最下部。 会議室のような縦長のコンテナの中、蛍と椿希が並べられた椅子
Terakhir Diperbarui: 2025-09-25
Chapter: game - END . PSYCHO - we.2 ドンドン、ドンドンドンドン !! 「けーい、けいけいけい〜 ! 起きてるー ? 」「うるさいな !! いるよ !! 」「うぉ、今日は元気 ……あ」 椿希は蛍が開けた玄関の隙間から、ルキの靴をみて納得する。「うん。そっかぁー。俺お邪魔かぁ〜」「別に。もう出るよ」「あ、椿希君。入りなよ」「ルキさん早よーっす。じゃあ、お邪魔します」「え、いや。俺の部屋なのに、なんであんたらで完結してんの ? 」 蛍が騒ぎ立てる中、椿希はルキに通されると、まっすぐコレクション棚へ向かう。「うぉ〜、今日もあんね。Mの首〜。こういうのって、キメェけど慣れてくると見ちゃうよね〜」「……」 椿希は蛍に向き直ると、さも当然の如く炬燵に潜り込む「なぁ、こないだあのマンション墓地でゲームしたろ ? あれなんだったの ? 」 蛍と第3ゲームに出た椿希が墓地を経営すると聞き付けた烏達は、少しの興味を示してきた。稼ぐ金など烏からすれば微々たるものだが、死者が絡むと合っては何やら期待が大きいようだった。 そこで、ルキが景気付けにデモンストレーションとして蛍にショーをさせた。 内容は第一回目の人体アートと同じルール。 そして場所は蛍と椿希が建てたマンション墓地の最上階。 ガラス屋根で光に満ち溢れた空間。遺族がエントランスで指定したキーを打つと、位牌が最上階ルームに排出されて、墓参りすることが可能なのである。 そしてそのビルのイメージデザインを手掛けたのが美果だ。「死体並べてるだけにしか見えなかった。あれ、何がよかったの〜 ? 」 不貞腐れている椿希の作品は最下位だった。意外な事に、椿希は殺すことは出来ても、遺体が苦手らしく全く使い物にならなかった。これから海玄寺の業務を継ぐかもというのに、蛍もルキも一抹の不安を覚えるが、葬式で見るような遺体と違うのは言うまでもない。蛍がズレているだけなのだ。「ケイは最初に参加した時、ダビンチの最後の晩餐をモチーフにしたんだ」「…… ??? じゃあ今回は ? 」「今回も最後の晩餐をやったってわけ。一回目を知ってる観覧者からすると、今回は伏線あって、更に完成されたなー……って感じかな。そう言う見世物だったんだよ」「最後の晩餐って……あんなんだったっけ ? もっとテーブルで飯とか並んでなかった ? 」「そうそう。レオナルド
Terakhir Diperbarui: 2025-09-24
Chapter: 96.エピローグ -2「セロのやつ、酒場に行ったきり帰って来ねぇぜ ? 」 あちゃ。 今回ステージを貸してくれた店主や店員さん、皆んな男性だったもんなぁ。 女性と違って、相変わらず相手が男性だとセロ自ら懐く。「なんでその半分が女性に向けらんないのかなぁ〜 ? 」「はは。セロらしいじゃん」「飲まされてないといいけど……」「……一昨日はマジで……一口でぶっ倒れたからな」「わたしもびっくり 。そう言えば、リコもアルコールはダメだったな」「体質も変わるもんなんだな」「そうみたい」「これ、運ぶぜ ? 」 カイは衣装の入った箱をヒョイと持ち上げると、宿を出る。「レイとエルとさぁ、なんか喋った ? 」 もう、またデリカシーバグってるし。「話したけど……」「なんて ? 意外と二人とも機嫌いいし、なんでなん ? もっとギスギスパーティになるかと思ってた」「なんでと言われてもねぇ。 というか、あんたこそマイペース。シエルでさえ何かしらに気を使ってる」「何かって ? 」「新しいメンバーとか」「セロはなんか無害だし分かりやすくねぇ ? レイの方が謎なんだけど」「じゃあ、そのレイとわたしが昔馴染みだった件は ? 」「恋人を昔馴染みで片付けてるあたり、問題ないべって思うわ」「エルとレイの契約とか……仲間として」「レイがエルの魂取るって死後だろ ? そんときゃ、俺らもヨボヨボ爺さんって事だよなぁ〜。 アレ ? じゃあ、お前とレイって不老不死 !? マジで !? 狡ぃ〜 !! 」 もう聞くのやめよ。「俺らは俺らだし、なんも変わんないし、変わりたくもないね」「……それは言えてるね」 □□□□
Terakhir Diperbarui: 2025-09-07
Chapter: 95.エピローグ -1「ボウガンは久しぶり。まぁ矢を魔法で出すわけだし、何も変わらないんだけどね」 茂みの中、わたしはスコープを覗いたままひたすら変化の無い切り出った岩壁を見つめる。 場所はプラムから北。 わたしが遭難した山脈で、丁度雪山の村と反対斜面にある栄えた氷の町。「いつもの魔銃とは飛距離が違うし。我慢だな」 隣ではレイが同じく双眼鏡を覗きながら周囲を警戒する。「今回はマーキング付けるだけだし。そんな難易度高い依頼じゃないからね。 それにしても、まさかゴルドラとシルドラの番を飛竜一族が欲しがるなんて……」「奴らだってヴァイオレット大陸にいた最古の一族だ。恐ろしいもんだね、お互いにな」 魔王が追い出した先住民。 その飛竜一族が例の夫婦ドラゴンを飼い慣らす為に引き取る事で話が付いた。「そんな簡単なら最初から声かければ良かったのに」「馬鹿。野生のドラゴンだ。連中だってそう簡単に使役出来るわけじゃないんだよ」「ふーん」「……」 ああ、いつまでも会話が辿り着かない。 話したいのはこんな話じゃないのに。 二人きりになるチャンス……みんなでいるとなかなか無いし、今ちゃんと話さなきゃ。「レイ……あのさ。旅に出て、わたしが自由になってからでも…………過去の事を話してくれれば良かったのに……」 レイは双眼鏡から顔を離すと、無言で空を見上げた。「なんて ? 『俺、魔王だよ』って ? 違うだろ ? 『元彼だよ』の方だよな ? 」 ハッキリすぎる。 恥ずかしすぎて顔見れない。 でも、そう。その話。ってか、何最初の。「魔王だよ 」 ? 知らねぇよって ! もう !「わっ ! 」 急にバサッと音を立ててレイが防寒布をわたしに
Terakhir Diperbarui: 2025-09-06
Chapter: 94.アナタと「リラ ! 」 今度は年下組か。「おめぇ、ちゃんと休めよ ! 」「大丈夫大丈夫。もう平気だし、エルとレイも鬱陶しそうだから振り切って来たの。 酒場の集計結果、もう見た ? 」「ま、まだだよ。僕たちも今来たところ。セロは関係者だから、僕らここから張り出されるのを見るしかないし」 キヨさん、随分張り切って作ってくれたのね。新村長就任の時のパーティレベルで飾り付けされてるわたしとセロの名前。そして、リコの名前も。「お前、セロんとこ行くの」「うん。一緒にくる ? 」「え……邪魔じゃねぇの ? 」「別に」「ちょっとカイ……」「行く行く ! 裏口って特別感あるよなぁー ! 」 カイとシエルを連れて酒場の裏へ回る。「リラさん ? リコさん ? 」 キヨさんが不思議そうにわたしに声をかけてくる。「リラよ。表のボード見たわ。凄いわね」「張り切っちゃった ! わたし、大工になろうかと長年迷っていて……でも、踏ん切りがついたの ! 」「そうなの !? 一大決心ね。 ん〜確かに。あれだけ出来るんだもの、きっといい大工になるんだろうなぁ。 ねぇ、セロいる ? 」「あ、います。でも貯蔵庫が気に入ったのか、全然出てこなくて」「静かな所好きだからね」「俺らやっぱり外で集計見るわ。行くぞ、シエル」「ここまで来て !? だったら3点 ! いや、気付いただけでも4点 !? 」「シエルさん、大人なんですね」「カイがデリカシー無しの馬鹿なんですよ、キヨさん」 酒場の厨房を通り抜け、貯蔵庫のむしろを捲る。「セロ」「……リラ…… ! 」「ごめ
Terakhir Diperbarui: 2025-09-05
Chapter: 93.決意「……」 あれ…… ? わたし寝ちゃってた…… ? ベッドから起きて直ぐに壁に付いた鏡に目が行く。酷い顔。冷やせば良かった。これ、今日は部屋から出れなくない ?「リコ……」 あの子がいないのが普通だった。 自分の意識がハッキリして気が付いたら、あの子がいた。 わたしは白い部屋にボンヤリと浮いている様な感覚……漂ってたみたいな。時間と共に、視界や聴覚が途切れ途切れに共有してきた。でもそれは限定的な状況下でだけ。リコに戦闘が必要になった時だけ。 もしわたしが今、歌う必要が出たら ? リコがでてくる ? 答えがNOなのは自分でわかってる。 DIVAストーンがわたしに反応してるもの。「海の城 ブルーリア……」 平和な国だった。 王だけじゃない。皆がわたしを受け入れてくれた。 ヴァイオレット大陸に近いって事もあったのかもしれない。船乗りが魔物に助けられたりという前例のある海域だった。「レイ……」 彼がグリージオにいるのは知っていたのにグリージオと不仲な国にいたのも運が悪ったわね……。 レイとは……ちゃんと向き合わないといけない。 けれど、その前にエルにも事情を知って貰わないと。レイはその辺をどう考えてるんだろう。 何よりセロも。 もうセロにはわたしと一緒にいる理由がない。リコはわたしが奪ってしまった。 でも、どうして…… ? ──セロと別れたくない。 リコが執着した理由が今ならよく分かる。 演奏中の深い深呼吸、息使い。 弦とわたしにしか向かない視線。
Terakhir Diperbarui: 2025-09-04
Chapter: 92.迷子「リラ」 目を覚ますと、シエルがわたしを不安そうに覗き込んでた。「シエル。わたし…… ! 」 どうすればいいの !? レイはわたしの過去の恋人だった。 エルは契約通りなら、死後魂をレイにとられる。 セロは……リコと旅を始めたのに。 今、わたしの内のリコの気配は完全に消えた。「……っ」 涙が止まらない。 自分が何に泣いているかも分からない。「リラ、この部屋を使って。今日はゆっくり休んで」 シエルがわたしをベッドまで誘導する。「記憶に感情が……追いつかない…… ! リコが……いなくなった…… ! 」「そっか……。 キツい魔術だからね。食事は宿の人に頼んで運んで貰う。ゆっくり休んで」 □□「シエル。リラは ? 」 レイの部屋に戻ったシエルを見て、全員が目を丸くする。「……無理に記憶を引き摺り出すようなものだからね。相当消耗してる。休ませてあげて」 そう言い終えるとシエルはすぐに気付いた。「あれ、セロは ? 」「あいつは酒場の方の集計結果に顔出してるよ」「……そう。ちょっと行ってくる」「急ぎの話しか ? 」 ベッドに座っていたレイがシエルを見上げる。 この時──リラには伝えていないが、術者のシエルにも全てリラの追体験が視えている。「……うん。ちょっとね」 レイが今回過敏に反応するのは当然の事だ。 自分の編成隊まで送って来たリラの失踪騒動。 レイの契約もリラの存在あってこそ確立するもの
Terakhir Diperbarui: 2025-09-03
Chapter: 91.わたしのリコ見たことある城に歩いた事のある庭園……。「グリージオ王、お呼びでしょうか ? 」場面が飛んだ。王都 グリージオ。……これは、エルの記憶ね。今より若い……十代後半くらい ? 一緒にいるのが父親、先代のグリージオ王……こんな風貌だったのね……。でも、なんだか……いえ、エルと似てるせいよね。会ったことは無いはず……。「はぁ……階段は一番こたえる。エルンスト、座りなさい」「はい」二人は城内へ戻り、長い廊下を歩くと二階の一室に入った。ここは王の自室ね。 ベッドもあるし。プライベートな空間だわ。エルが椅子に座るとグリージオ王は考え込むように口を開く。「わたしの病もこれまでだ。床に伏せる前に言い残した事があってな」「そんな……世界中から医療に長けた者たちが志願してグリージオへ来ています」「まぁ、それはそれで良いのだが。エルンスト、地下牢の女と懇意にしているようだな」「……っ。それは……あの、好奇心でして……」「子供の頃も、忠告したはずだ。あの女の歌は聞かんようにと」「……あれが誰で、何故あの場にいるのか……書物で確認しましたが、肝心の彼女の……何故グリージオの城内で管理されているのか。それについては何も……。どうして記録がないのでしょうか ? 元からですか ? それともその部分だけ誰かが…… !? 」「落ち着きなさい。女王 DIVAについての記述は、わたしが子供の頃から無かった。しかしあの女がここへ来たのが六
Terakhir Diperbarui: 2025-09-02