ドラゴン討伐中、空中戦から落ちたリラは、一命を取り留めるも記憶喪失となってしまう。パーティの仲間ともはぐれ、二ヶ月が経過した頃、拾われた村の酒場でステージに立つ『狐弦器』奏者のセロと出会う。リラの中で何かが覚醒し、即興での演奏を披露する事に ! リラの持つ魔法石は歌魔法の使える希少石だったのだ。セロの音色に依存したリラと 、リラの歌声に依存したセロ。 吟遊詩人としてのスタートを切るが、セロは極度の女嫌い。更に旅の資金0 !! 貧乏で純愛な異世界ミュージック︎生活。 更に元のパーティはスパダリ揃いの溺愛系ヒーロー。 リラは記憶のあった頃のメンバーの距離感とセロと旅をしてきた信頼度に悩み、溺れていくことになる。
View More銀の鱗の上。
翼竜に乗った仲間が叫んだ。「リラ !! 振り落とされんな !! 」
「大丈……。っ !!? みんな、西 !! 別のがいる !! 」
シルバードラゴンにあと一息でトドメというところで、夕日の中に別のドラゴンのシルエットが見えた。
「オスじゃねぇーの !? せっかく引き離したのに !! 」
「戦闘が長引きすぎたな。シエル、回復薬は ? 」
「もう無いよ ! とてもじゃないけど連戦できない ! レイ、どうするの !? 」
「……っ。全員離脱用意。このドラゴン討伐は……諦めるしか……」
この時。
わたしは出来ると思った。 本当はパーティの全員に支えられてきた自信と実力だったのに。 それを過信したんだ。「カイ ! 双剣を貸して !! 」
「はぁ !? 俺、魔銃は使えねぇよ ! 」
「替えの装備あるでしょ !?
わたしがゴルドラの気を引く ! 討伐は続けて !! 」一人、シルバードラゴンの背から魔法を伝い風に乗る。
「風よ ! 」
風で弧を描く身体の先、ブーツから水蒸気の雫が光る。
ギィィィンッ !!
その回転した反動を利用して、敵意剥き出しの雄竜に思い切り刃を向けた時。頭部へ一撃、全力で打ち込んだのに、ゴールドドラゴンは更に鋭い牙をギギッと剥くだけだった。 自分の判断が間違いだと気付いた。「くっ、硬っ !! 」
剣が弾かれる。その直後聞こえた、不穏な風切り音。
ヒュオッと耳の側で鳴った後、視界の端に叩き落とそうとする尾の先が見えた。「リラァッ !! 」
反撃を受けて、魔法が切れる感覚。
真っ逆さまに落ちていく風の音。 冷たい空気。視界の中で、ゴールドドラゴンがシルバードラゴンの背の上目掛けて火を吹いているのが最後の記憶。
その記憶だけを残して。
わたしは仲間の記憶を無くした。
「我らを守りたまえ、水の守護よ ! 」 薄い水のヴェールが馬たちを包む。 シエルはそのまま前方へ杖をもう一度傾け詠唱に入る。 馬車街道の固い土がベキベキと、砂煙を上げながらニョロリと割れていく。 ビュッ !!「っらァ !! 」 シエルに飛びかかった何かを横からカイが切り落とす。 地面に落ちグネグネと動くのは、土竜種の仲間で目や体毛がない魔物である。「加勢します」 馬から降りたレイの兵隊が、シエルに剣を持つことを制止される。「いえ、多分行かない方がいいです。 カイって周り見えて無いから……」 地面から突き出てきた5mはある灰色の触手に、カイの双剣は魔力を纏う。「行くぜ ! 雷神 !! 」 刃が放電してパリパリと音を立てる。 カイの使える属性攻撃魔法はただ一つ。雷撃である。 魔石では無く。武器に使用した魔物の素材だ。魔法を使う魔物から、そのコアを手に入れ武器を作る。カイの双剣は電撃を放つ魔物由来の属性付与があるのだ。 この技法はカイの出身地 アカネ島の伝統技法である。精霊魔法とは違い信仰や魔石が無くても使える。「最後ぉっ !! 」 剣を十字にハサミのように構え、突っ走る。 最後の一匹が飛び込んできたが、横に大きく振りかぶった刃にミミズの胴体は裂かれ、雷撃の熱で異臭を放つ。「……うえぇぇ !! 腐った蒲焼き ! 」 ペーパーで剣の汚れを拭きながら顔を顰めて戻ってくる。その姿に隊員が呆気にとられていた。「つ、強い……。ものの数秒で……」「あれ、どこにでもいますからねぇ〜。戦い慣れてるのもあります」 シエルが隊員に答える。「カイ様の武器はコアを使ってるんですね。シエル様の魔法は精霊魔法ですか ? 」「精霊も使うけど、今の水魔法は龍神の力。魔法は契約した
「魔物に狙われない ? 」「そうみたい」「ふーん」 メル達と別れた後、早速セロに言ってみた。 でもなんだか、どうでも良さそう。何故 ?「まぁ仕方ないわよね。ヴァンパイアだって魔族だもの。確かに魔物から見たら上官みたいなものよ。そりゃ襲われないわけだよね。 何日も歩いて、更には木の実で行き倒れたのに、魔物が寄ってくる気配も無かったし」「あ……でも、蜂はいただろ。あれが無かったら森は消えなかった。脅威だった」「あの蜂は魔物との共存生活…… ? だかで、一緒にいて魔力を浴びた、ただの虫って聞いたことあるわ。幼虫には魔力ないんだって」 別に狙われたいわけじゃないけどさ。なんかこう、いよいよ自分が人間じゃない事実についていけない。「……」「セロ ? 」 なんだろ。やっぱり、流石のセロもそろそろリコが恋しいんじゃないの ? 魔族と狐弦器奏者って、今のわたしたちどんなパーティよ。そりゃセロの弓の腕前も認めたけどさ。魔物なんか出てくるどころか……これから先会わないんじゃ、余計にわたしがセロといる意味ないわ。「……じゃあ、ほぼ戦闘は無いと言うことか…… ? 」「……理屈上はそうかもね。でもリコに戻ったら襲われるわけだけど」「しかし、戦うとなるといつもお前が表面に出てくるよな ? 」「リコがアテにならないし、反応が鈍いせいかな ? そういう時は、何故か意識がはっきりしてきて、視界も広がって、もうヤバいって思い始めると……人格が入れ替わってるんだよねぇ」「つまり、戦うのはリラ。リコでいても危険があればリラになる。リラは魔物に襲われない……」 そうですね……。「よし ! 今すぐ着替えよう」「はぁ !? 」「もう衣装を着て歩こう ! 」「やだよ ! 」 衣装って ! こいつがリコに選んだあの衣装って、魔法使いの装備とドレスをくっ付けたみたいなヒラヒラしたやつでしょ !?「あれ、谷に
「最終地点、どこから来たの ? 」「スカイの町です」 アリアの東か。「川沿いからアリアを目指そうとしたんですけど、川に到着した直後、魔物は強いわ温樹茶を飲む暇もないわで」「俺たちもう三日、寝てないっす」「ずっと戦いっぱなし ? 」「はい〜」 頷き、半ベソをかく勢いで草むらに尻を付く。「二人とも !! 」「メル !! 」「良かった ! 」「リコさんとセロさんよ。彼女たちが助けてくれて…… ! 」「本当にありがとうございます ! 」「あざっす ! 」「いえ。たかだか二、三匹ですけど……お役に立てて良かったわ」 飲まず食わず、寝る暇もなく魔物に会い続けた ? このパーティが弱いから狙われた ? いいえ、関係ない。 プラムでヴァンパイアに言われた通り。 わたしからは魔族の匂いがするのね。 だから魔物には襲われない……襲われそうになったのも全てリコの時だわ。 全部、偶然かと思ってたけど……多分違う……。「ここどこだ ? 」「川からは随分離れたよな ?」 この先はヴァンパイアの巣窟。でも、あの村ならきっと、人を襲うことはないかな。 コデみたいなのも居たけど……この子供たちを野放しには出来ないわね。「ここから引き返すと……」「いや、魔物のレベルを考えると南下した方がいい。遠くはあるが、ここから直下するとゴルファって町がある。そこを目指した方がいい」 セロが急に話し始める。 地図を広げて全員で確認する。確かに危険難易度レベルの色分けは、この辺より一ランク下。けれど、どう見てもスカイやプラムの方が距離的には近い。「プラ
「わたしはリラ。こっちはセロ。喋れるんだけど凄い……あの、あれよ。シャイなの。面倒臭い奴」「い、いえ。そんな ! わたしはメルと言います。ライムランドから来ました」「ライムランドってどこ…… ?」「この大陸の東隣です。アカネ島を経由してこの大陸に入りました」 アカネはカイの出身地だわ。ここから行くのでもかなりの距離。「東にある大陸か。でも、アカネ島からここまで来るだけで、B級まで上がりそうだけど ? 」「いえ〜。あはは。初心者で出発したので、E級スタートで〜。体力も無くて馬車なんかを使いまくって……」「尚更ちゃんと調べて道を選ばないと……。お金があるなら馬車旅も止めはしないけど……経験値は徒歩の冒険者の方が統計的には上がりやすい」「ですねぇ」 遭難したわたしも人の事言えないけれど……。「それで……どうしてアリアに ? 」「ライムでは雪が降りませんので……雪が見たくて ! 」 道理で薄着なわけだわ。 この辺りはもう温樹茶は必要ないくらいだけど、プラムの直前までは凍えるように冷たい風が吹いてた。「雪山の装備は揃えて来たの ? 」「あ……いえ。こんなに寒いと思わなくて……。結局、アリアの手前で引き返す判断に」「懸命ね」「けれど魔物との遭遇率が ! とてもじゃないけど、捌き切れなくて……。村にも辿り着けなかったので、何も補充しないまま連戦で……」 補充ねぇ。わたしたちも荷物失ってフラフラだった。変な実を食べてヴァンパイアに救われたなんて口が裂けても言えないわね。これはあまり説教出来ないわ。「えと……襲われたのはこの先です」 プラムからそう離れてない……。そばの木に登れば多分、アナの屋敷の屋根が見えるくらいじゃないの ? そういえば……わたしたち、敵に襲われてないな……。 雪山の山賊は…… ? あれは人だしね……。 アリアを襲ったグラスボーン……あれも村を襲いに来ただけ。
「しかし万能だな」セロが狐弦器を片付ける手を止め、ふと空を見上げる。雪山はすぐ側でそそり立ってて、天気がいいせいか今日は一段と白い輪郭が見渡せる。「万能って、何が ? 」「お前の歌さ。DIVAを使わなくてもこれだけ歌えるなら、魔族のお前は石を必要としないんじゃないのか ? 」「まさか。リコが使いこなせてないだけよ。わたしが使えば更に……この石の力は強いのよ」「そうか。しかしなんて言うか……リコとお前は、メロディラインが全く違う。同じ曲を何種類もの旋律で歌わせても、同じラインをなぞることは無いだろう。シンプルにセンスが違う」「そりゃあ……人が違うんだし……」「音楽性を……統一したいところだな」「人格を統合すれば、そのまま安定するんじゃない ? 」「いや、なんでも歌えるってことは、コンセプトのバリエーションも同じだ。色々出来ると言うよりは、なにか突出した特徴が欲しい。酒場での歌はショービジネス。コンセプトを決めておきたい」コンセプト ?酒場の子がバニーの店とドレスエプロンで分かれてるように ?「せめて二種だな。リコとお前で、極端なイメージを付けるとか」「待って ! それじゃあリコがいなくなったらどうするの ? 」「……ふむ。じゃあ、統合はしなくても……」呆れた !「もう。あんたはリコと音楽がしたいんでしょ ? わたしはやらないってば」「勿論。その為に旅に出たんだが」セロは立ち上がると、わたしを真っ直ぐ見据えて言い切る。「リコの音楽は素直で癒しを与える、子守唄のようなメロディだ ! 聴く人々は魅了され、感動し、咽び泣き音の羅列にひたすら感謝するだろう !まさに母の歌 ! 母性の塊 !
とりあえず元気にプラムを出発したけど。 なんなのこの気まずさは ! いやいや。元からだから ! こいつは元から話さないヤツじゃん。 そもそもアナがおかしな誤解するから ! もぅ〜 ! やっぱり、ああ言う閉塞的な村で育ったからかしら ? 男女が一緒にいるだけで、なにかあるように見えるのかしら ? それを言ったらわたしの記憶も地下牢の閉塞感半端ないし。人の事言えないわね。 リコはどうなのよ ! まぁ、そりゃあ確かに ? セロレベルの奏者はそう見ないわね。と、言うより、この年齢では到底無茶な……どれだけ練習したらこれだけ弾ける様になるの ? わたしが各地で聴いてきたセロレベルの奏者は今にもぶっ倒れそうな爺さん婆さんばかりだったわね。 そんな事より、わたしがDIVA使えないなんて ! 酷すぎ ! 本人が使えないって何よ !「ふ、ふふふ。セ……セロ、わたしがDIVAを使えないなんて、意外だったんじゃない ? 」「…………」 無っ言 !!!!「……お……きてこ…………す」「え !? 何 !? 」「おあ、お会い出来て光栄でう」 噛んでんじゃないわよ !! あんたもか !!?「DIVAだった頃の記憶なんて無いってば !! 」「いや、まさかっか、本人だだっとは……」「うん。セロ、ちょっと早いけど……休憩しましょうか」「あ、あっはい」 だ〜めだコイツ。 緊張してカッチカチじゃん。何とか冷静にさせないと。「はぁー……。DIVAは使えないけどさ、歌は歌えるし。もう一度合わせようか ? 」「いいのか !!? 」 勢いが光速 !!「そのままガチガチでいられても気まずいわよ ! 」「す、すまん」 □□ 〜〜〜♪〜〜♪ セロのチューニン
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