Chapter: 第49話 親切の理由「ぁん、ルシアン様っ」 「もっと、貴方の顔を見せて下さい」 「わ、私の顔……?」 「言ったでしょう? 貴方は、私の美しい薔薇だと」 「ッ!」 「私を見てくれると、嬉しいのですが」 「ぁ、っ……はい。ルシアン様」 きっと、顔が真っ赤になっている。 だけど、ルシアンに請われて、否とは言えない。 エマはドキドキしながら、ルシアンの端整な顔を見つめた。ルビーのようにきらめく瞳も、陽に透ける銀の髪も素敵だ。優しい眼差しに、胸が焦がれる。 うっとり見惚れていると、ルシアンが口元を緩めた。 「エマ」 「はい」 「先日は、とても素敵なお守りをありがとうございました」 「えっ? あ、あのお守りですか?」 「ええ。とても愛らしい文字で書かれていて」 「ぁっ……簡単なものしかお渡しできなくて、申し訳ないくらいでしたのに」 「貴方の祝福が込められているだけで、十分に素晴らしいものです」 ルシアンの温かな声に、頬が緩む。 お礼を言ってもらえるとは思ってなくて、エマは胸がいっぱいになった。 「ありがとうございますっ。ルシアン様」 お世辞だとしても、すごく嬉しい。 「エマ」 「はいっ」 ルシアンが、そっと顔を近づけ、小声で尋ねた。 「エマは、私を想いながら、書いてくれたのですよね?」 「……はい」 コクンと頷き、ルシアンを見つめる。 煌めく赤い瞳に、胸の高鳴りが大きくなった。 ルシアンは甘い声音で、美しく微笑む。 「エマの優しい想いが伝わってきて、嬉しかったですよ」 「はぅっ!」 ドキンッと鼓動が跳ねた。 腰が甘く痺れて、蕾がクチュリとひくつく。 (うぅ……ルシアン様の甘い声と微笑みだけで、感じちゃうっ!) 恋い慕うアルファに、オメガの躰はたやすく反応してしまう。 けれど、ここは昼間
Huling Na-update: 2025-07-21
Chapter: 第48話 奥庭園の案内 「今日も、まだ具合が良くないようですね」 「えっ、あ、その……」 誤魔化そうとしたが、ルシアンの瞳に見つめられると、嘘は言えない。 エマは小声で答えた。 「少し、微熱がありまして……」 「昨日も公務だったと伺いましたが。働きすぎではないですか?」 「いえ、そんなっ。薬も飲みましたし、大丈夫ですっ」 王太子の計らいで公務ということになっているが、実際は休みを頂いたのだ。客人であるルシアンに本当のことは言えないが、エマは大丈夫だと笑顔を見せた。 しかし、ルシアンは軽く首を振って、小さく息を吐いた。 「無理をして悪化したらいけませんから。今日は王都へ出かけるのは止めにしましょう」 「ぁ……あの、私なら平気ですっ。これくらいの熱は、慣れておりますので」 「いいえ。駄目ですよ」 ルシアンは微笑みながらも、きっぱりと言った。 (どうしよう……) 体調管理もできず、熱があるのを見抜かれて、気を遣わせてしまうなんて。 接待役として失格だ。 (ルシアン様も、僕のこと呆れちゃったかも) しゅん、とうなだれるエマに、ルシアンの優しい声が届く。 「今日も、王宮の庭園を案内してくれますか?」 「えっ?」 「たしか、奥庭園があると伺いましたが」 「は、はいっ!」 優しい眼差しに、胸が温かくなる。 (ルシアン様と一緒にいられる!) エマは嬉しくて、顔がにやけそうになった。 「私がご案内させて頂きますっ」 「お願いします」 エマは大きく頷き、さっそく奥庭園へ向かうことにした。 +++ エマがルシアンを案内したのは、奥庭園だ。 先日案内した王宮庭園より規模は小さいが、王族や聖樹の為に作られた庭園なので、ランダリエの貴族でも容易に
Huling Na-update: 2025-07-20
Chapter: 第47話 嬉しい接待 ルシアンは嫌気が差して、途中で同僚に押しつけて戻ってきたのだが、王族という立場にいながら、あれほど薄っぺらい人間だとは思わなかった。 「あんな奴が、エマの婚約者なのか」 エマは、さぞ苦労しているだろうと同情する。 (あの男に、エマはもったいない) ルシアンは、本気でそう思った。 ランダリエ王家のしきたりによって婚約したと聞くが、明らかに釣り合いが取れていない。 ルシアンを惹きつける、あの可憐な白い花が、レオナールの腕に抱かれていると思うと激しい怒りを覚えた。 「ッ……」 ダンッと音を立てて、杯をテーブルへ置いた。 (いや……あの男が、エマを正当に扱うだろうか?) 最初の挨拶の場でも、パーティでも、レオナールはエマに対して冷たい態度を取っていた。噂通り、聖樹であるエマを冷遇しているのは間違いない。そんなレオナールの態度を、聖樹に対する冒涜だと眉をひそめる貴族もいる。が、王子相手に進言する者はいないようだ。 (エマは、抑制剤も服用していなかった) 外国から客人を迎え接待する立場で、服用を忘れるとは思えない。鎮静剤を渡した時も、ルシアンが驚くほど喜んでいた。 (薬を取り上げられたのか? オメガに必須の薬を?) 抑制剤がなければ、発情期はかなり苦しむはずだ。 お節介かもしれないが、次に会った時は、エマに抑制剤を渡そうと思った。 「これのお礼だと言えば、受け取ってくれるだろう」 ルシアンは小さなお守り袋を手のひらに乗せる。 四角い形で、中にはカードが一枚入っているだけの薄っぺらいものだ。 曲げてしまわないように注意して、中の紙を取り出す。 あまり質の良い紙ではないが、インクで綴られた文章は、柔らかく温かみのある文字だった。 ランダリエでは有名な、祝福の一節らしい。 『昼』は貴方の道が輝き 『夜』が貴方の愛を包む 『星』は幾千の祝福を告げ 『天』は幾万の希望を贈る
Huling Na-update: 2025-07-19
Chapter: 第46話 想うほどにつらくなる ベッドに入っても、なかなか寝付けなかった。 何度も寝返りを打つので、そのたびにベッドが軋む。 (あ、ナタリナが起きちゃうかも) ナタリナは隣の部屋で寝ているのだ。 耳を澄ましてみたが、物音や人の気配はしなかった。 安心して、息を吐く。 (今日も疲れたな……) ゆっくり休めるはずだったのに、書類仕事ばかりして、目も疲れた。 ふだんのエマなら、あれくらいの量は何でもないが、前日にレオナールから折檻を受けたせいだろう。 そのときのことを思い出すと、胸が苦しくなる。 嫌な記憶を忘れたくて、ルシアンのことを思い出した。 (ルシアン様っ) 王宮の庭園で、明るい日差しの中をルシアンと歩いた。二人きりでお茶を楽しんで、その後は……欅の木陰に隠れて、あられもない姿を晒してしまった。 ルシアンのしなやかな手が、エマの尻をもみしだき、昂ぶりに触れて、何度もイかされて……。 「ンッ、……ぁぁっ」 躰が熱くて、気持ちよくて。 ルシアンの手にすべてを任せて、喘ぎながら果てた。 みっともない姿を見せてしまったのに、ルシアンはエマを「可愛い」と言ってくれたのだ。 「はぁんっ、ァッ、ルシアンさまっ」 あの甘い快楽を思い出すと、躰が熱くなってくる。 半身がゆるりと勃ちあがり、エマは夜着の裾をめくって、両手で握りしめる。 「んぁぁっ、ん、ぁぁッ」 (声、聞こえちゃうッ) エマはシーツを噛んで声を抑え、昂ぶりを扱いた。 「んぅぅッ、ッ、ふぅぅっ」 腰のあたりが熱くなり、蕾まで疼いてくる。 昨日、ルシアンが最後まで触ってくれなかった蕾。そこからトロリと愛液がこぼれおち、エマは思わず指を突き入れた。 「っ、ぁぁんっ!」 ぐちゅ、と指を飲みこむ蕾に、エマの躰がさらに熱くなる。 (ぁっ……気持ちいいッ……ぁぁ
Huling Na-update: 2025-07-18
Chapter: 第45話 友人に シーツの上に腰掛けると、ナタリナがティーカップを差し出してくれる。 花の香りがエマを優しい気持ちにした。 「ナタリナのハーブティーだね」 「はい。これを飲めば、よく眠れますよ」 「うん」 ナタリナが淹れてくれるハーブティーは、疲労回復にいい。 香りもよく、これを飲むとぐっすり眠れるのだ。 「エマ様の体調も安定しているようで、良かったですわ」 「ルシアン様が下さったお薬のおかげだね」 「ええ。帝国にあのような薬があるなんて存じませんでした。また分けて頂けると良いのですが」 ナタリナが切実な面持ちでつぶやく。 レオナールに抑制剤を取り上げられたせいで、エマは発情期のたびにひどく苦しむ。そのうえ、今回は媚薬を使って、無理やりエマを発情に近い状態にしたのだ。エマを想うナタリナが、ルシアンの薬を望む気持ちもよく分かった。 エマも、ルシアンの薬に助けられたので、もっとたくさん欲しいと思う気持ちは同じだ。 「でも、ルシアン様は親切心で分けて下さっただけだから。迷惑はかけられないよ」 「ですが、エマ様。デイモンド伯爵は、エマ様によくして下さるではありませんか。帝国の方ですが、『聖樹』への偏見もないようです。エマ様が望めば、きっと手助けして下さるはずです」 ナタリナが、エマの顔を覗き込む。 エマに近づく相手を厳しく見定めているナタリナだが、ルシアンへは好意的だ。 始めは、ルシアンに気をつけるよう忠告してきたのに、高価な鎮静剤を分けてくれたことで、株が上がったらしい。 (ルシアン様は、優しい方だから) 家族同然のナタリナが、ルシアンを認めてくれたようで嬉しかった。 「でも、図々しいって思われないかな?」 ルシアンの親切を、好意と勘違いしてはいけない。 エマはずっとそう戒めてきた。 (僕が、抑制剤を飲んでないのを、心配してくれただけ) 静香石(せいこうせき)の調子を見てくれたのも、エマの熱を解放するために触れてく
Huling Na-update: 2025-07-17
Chapter: 第44話 押しつけられた仕事 王太子の計らいにより、エマは一日休むことになった。 しかし、エマに与えられた休息は、わずかな時間だった。 事の次第を聞いたレオナールは激怒し、嫌がらせのように大量の仕事を押しつけてきたのだ。 レオナールの補佐官が、書類の山を持ってやってきた時には、内心で「やっぱり」と思った。 今までも、レオナールは自分の仕事の大半をエマに押しつけてきた。 エマの部屋にある書き物机には書類が積み重なり、本棚にはぎっしりと本が納められ、ペンとインクだけは十分に用意されている。 「はぁ……」 エマのことを平民と罵るくせに、その平民に仕事を押しつけ、自分は放蕩三昧だ。 仮にも王子なのに、富と権力だけを享受し、それに伴う仕事や責任は部下に押しつける。 レオナールの為に水面下で実務をこなすのは、エマだけではない。 エマ以上に負担を強いられているのが、レオナールの執務官だ。優秀な人なのに、下級貴族というだけで、レオナールお気に入りの筆頭補佐官や上級補佐官にすべての手柄を横取りされている。 エマや執務官のおかげで、レオナールとその取り巻きは甘い蜜を吸い、実力以上の評価を得ていた。 貴族社会とはそう言うものだが、やりきれない気持ちだ。 (考えるとむなしくなるから、止めよう」 エマは暗い気持ちになる前に、目の前の書類を片付けることにした。 レオナールが管理する領地から上がってくる税収や物資の報告を受け取り、内容を精査して王宮の会計と備蓄に反映させる。 領主からの、納税状況や物資納入報告書に目を通し、問題のない報告書と、補佐官に直接確認してもらう報告書により分けていく。 書類の山に埋もれながら、エマはふと手を止める。 「また、ワイール領の数字が少ない」 ワイール領は、国境に近い位置にある、サファイア鉱山を所有する領地だ。 領地の広さも、鉱山としても中規模だが、質の良い温泉が出るので、貴族の保養地としても人気がある。 採掘地からの月報では、今月も順調に金が産出さ
Huling Na-update: 2025-07-16