神殿育ちの平民Ωであるエマは、婚約者の第二王子から虐待を受けていた。そんなある日、エマは隣国の伯爵・ルシアンに出会う。 長い銀髪に紅い瞳を持つルシアンは、誰もが見惚れるほど美しい青年だった。 ルシアンの優しさに、次第に心惹かれていくエマ。そしてルシアンもまた、健気で可憐なエマに恋心を抱くようになる。 だがエマが第二王子の婚約者である以上、この関係は許されない……。 不憫で健気なΩと、隣国の伯爵αの禁断ラブストーリー!
View Moreエマの躰は燃えるように熱く、息を吐くのもやっとだった。
「はぁッ……んぅっ、ぅぅッ」 発情(ヒート)がくると、いつもこうだ。 エマが理性を保とうと必死で歯を食いしばっても、躰の奥が激しく疼いて仕方ない。 すでに成人を迎えたものの、まだ十六歳のエマにとっては、若さゆえに発情がことさら辛く感じられる。 発情期がくるたびに自室に引きこもり、一人で耐え抜くしかないと思っていたのに。 「私の、可愛いエマ」 エマを覗き込む、甘い眼差し。 銀色の長い髪にルビーのような赤い瞳は、まるで月の精のようだ。 エマが密かに恋い慕う、銀髪のアルファ。 「ぁんッ、はぁッ……る、ルシアン様ッ」 「エマ。もっと声を聞かせて」 耳元で囁く甘い声に、ビクビクと躰が震えた。 この場にいるはずのない彼が、火照ったエマの躰を慰めようとしてくれてるのだ。 「ぁぁん、ぁぁっ、やぁんっ」 乱れた夜着は、エマの秘部を露わにして、もう意味をなさない。 発情したエマは全身の肌を赤く染めて、張りつめた雄から白濁の蜜をこぼし、汗と愛液でシーツを濡らす。 エマはもう何時間もの間、躰の疼きを静めるために半身を慰め、一人で果てた。 何度も達しているせいで、ルシアンの指が肌を撫でただけで、身悶えてしまう。 (もっと、触って欲しい……っ) エマは無意識に腰を揺らし、ルシアンの緩い愛撫に喘いだ。 すると、ふいに股間をひと撫でされる。 「ひゃぁぁッ! ぁ、あぁぁんッ!」 淫らな刺激に、嬌声を上げる。 エマの瞳からは、ポロポロと涙があふれた。 快楽に悶えるエマの眦に、ルシアンがそっと口づける。 そして、耳元で甘ったるく囁いた。 「私の愛しい薔薇。貴方は、大人しく愛でられていれば良いのですよ」 「ぁんっ、そ、そんな……」 首を振るが、ルシアンの手は止まらなかった。 フッと笑みを浮かべ、エマの昂ぶった雄を扱く。 「ひゃぅぅッ!!」 「ああ、もうイってしまいましたか」 ビクビクと躰が跳ね、頭が真っ白になる。 だが、絶頂を迎えた躰に、容赦なく次の快楽が襲いかかった。 「ァ、ぁぁッ……んぁぁ、ァァッ!」 ルシアンのしなやかな指が、緩んだ蕾を掻き回したのだ。 すでに愛液に濡れ、ぐっしょりとシーツを濡らしているそこは、ルシアンの指を悦んで受け入れる。 「ぁぁん、ぁぁっ、やぁんっ」 グチュグチュとイヤらしく響く水音に、耳を塞ぎたくなる。 それなのに、蕾はキュッとルシアンを締めつけ、離そうとしない。 「フフ、ここは正直ですね」 「ぁぁッ」 ルシアンのからかう声に、エマは思わずシーツに顔を埋めた。 視界からルシアンを追い出しても、中を弄る指は止まらない。 前にも、中を弄られたことはあるけど、あの時よりも、ひどく感じてしまう。 ルシアンの長い指がイイところを突くたびに、白濁が迸った。 「ァァッ……はぁ、んんっ」 「エマ、我慢せずにイきなさい」 「ひゃぁぁっ!」 ルシアンの指に攻められ、はしたなく乱れて、何度も絶頂を迎えた。 快楽に理性を溶かされるうちに、エマは淡い夢をみてしまう。 (ルシアン様が、僕を抱いて下さったら……) あの美しいルビーの瞳に射貫かれて、雄々しい昂りに最奥まで穿たれたら、どれほど甘美な絶頂を迎えられるだろうか。 想像するだけで胸が震え、思わずルシアンのシャツを掴んでしまった。 「ぁん、っ……あぁぁっ」 「エマ?」 「ルシアン、さま」 この方に、抱いて欲しい。 エマの恋心も、オメガの本能も、それを望んでいる。 だけど、わずかに残った理性が、冷たく咎めるのだ。 (……そんなこと、許されるはずない) どれほどルシアンを恋い慕っていても、エマは第二王子の婚約者だ。 王子に虐げられていようと、不貞を犯せば罪に問われる。 ルシアンだって、そんな罪を犯してまでエマを望みはしないだろう。 「ッ……ぅっ」 「エマ、泣かないで下さい」 「ぁ……」 ぼやけた視界に、ルシアンの心配そうな顔が映る。 眦から落ちる涙にようやく気付き、あわてて顔をぬぐった。 「貴方があまりに可愛いから、意地悪しすぎてしまいました」 ルシアンが、優しく頭を撫でてくれる。 困ったような顔でエマを見つめ、頬にチュッとキスをくれた。 「る、ルシアン様っ!」 「エマ。貴方の発情(ヒート)が落ちつくまで、側にいます」 「……はい」 ルシアンの言葉に、エマは微笑みを浮かべる。 愛しい人の手でこの身を慰めてもらえるのだから、エマは幸せだった。 叶わない願いに、胸を引き裂かれたとしても。 (ーールシアン様が、僕の婚約者だったら良かったのに)それ以外の男性からの贈り物は、丁重に辞退するのがむしろ礼儀だと教えられたはずだった。 「でも、ナタリナ。それは……」 エマが口を開きかけたその時、ナタリナがやんわりと遮った。 「本日、エマ様はデイモンド伯爵の恋人として同行されるのでしょう? でしたら、何も問題はありませんわ」 そう言って、にこりと笑う。 言葉はやさしいが、否を許さぬ強さが滲んでいた。 「え? 恋人っ?」 突拍子もない言葉に、エマは目をぱちぱちさせる。 すると、ルシアンがすかさず口を挟んだ。 「エマ。今日の視察は、帝国からやってきた恋人と共に王都を見て回るという筋書きにしてあります」 落ち着いた声で、まるで当たり前のことのように告げられる。 「レディーを同伴するには、恋人の立場がいちばん自然です」 「そう、ですね……」 「ええ。レディーは、必ず宝石を身につけるものです。お芝居とはいえ、貴方は私の恋人になるのですから、贈り物をするのは当然のことです」 ルシアンに、恋人と呼ばれて、エマはドキドキしてきた。 (恋人だから……断ったらダメってことだよね?) ナタリナの言葉を思い出し、エマの鼓動が早くなる。 例えお芝居でも、ルシアンの恋人役だから、贈り物を受け取らなくてはいけない。 そう諭されて、エマの心が揺れた。 「エマ。貴方を想いながら、いちばん似合うものを、私なりに選びました」 ルシアンの甘い言葉に、ドクン、と鼓動が跳ねた。 (ルシアン様が、選んでくださったなんて) お世辞かと思ったが、ルシアンの優しい笑顔はきっと本心だろう。 エマは不相応だと知りながらも、とうとう頷いた。 「わ、分かりましたっ……」 その言葉に、ルシアンはほっと息をつき、ナタリナは嬉しそうに頷いた。 クロエも温かな眼差しでエマを見つめている。 (……本当に、いいのかな) 胸の奥でまだ少し迷いはあった。けど、宝石箱の中で輝くピンクサファイアを見ると、胸が高鳴る。 エマが前を向くと、ルシアンがネックレスを手に取り、そっと首にかける。 ひやりとした鎖が、うなじに落ちた瞬間、思わず息を止めてしまった。 「動かないで下さい。すぐに済みますから」 落ち着いた手つきで留め具を留めると、ルシアンは髪を整えてくれた。 「さあ、エマ。鏡を見てごらん
「ぇっ?」 「エマ」 あっけにとられているうちに、ルシアンはそっとエマの左手を取り、甲に柔らかく唇を落とした。 「っ……ル、ルシアン様……!?」 息を呑んだエマに、ルシアンは真剣な眼差しを向ける。 「春の女神も、きっと嫉妬するでしょう。あなたの美しさを表す言葉が、見つからないのです」 そう賛美するルシアンの赤い瞳には、真摯な光が宿っている。冗談や戯れではないようだ。 「えっ……あ、あの……?」 うまく返せず、エマは戸惑った。 ルシアンはひとつ息をつき、声を落として囁いた。 「春の薔薇よりも可憐な貴方を、エスコートする栄誉を、どうか私にお与えください」 「……は、はいっ」 エマはコクリと頷く。 まさか、ナタリナやクロエが見ている前で、ルシアンがこんなふうに言ってくれるなんて。 胸の奥で、何かがふわりと弾けるような感覚がした。 (今までのも……全部が戯れの言葉じゃなかったのかな?) ルシアンは色事に慣れているから、甘い言葉を本気にしないようにと、自分を戒めてきた。 でも、ルシアンは甘い眼差しで、エマを見つめている。 「ありがとうございます。エマ」 「ぁ……っ」 嬉しそうに笑う顔に、鼓動が跳ねる。 心臓がドキドキと早鐘を打って、体が熱くなってきた。 (そんな目で見つめられたら……また好きになっちゃう) 今朝は抑制剤を飲んできたのに、腰の辺りがズクンと疼き出す。蕾に入れた静香石も、クルンと回った。 「んッ……」 ビク、と震えると、ルシアンがそっと手を離した。 ゆっくりと立ち上がり、エマを見つめる。 「エマ、こちらを」 ルシアンはクロエから小さな箱を受け取り、それをエマに差し出した。 淡い桜色のリボンがかけられたジュエリーボックスは、それだけでひとつの宝飾品のようだった。艶やかな漆黒の木肌には繊細な彫刻が施され、蓋には小粒のダイヤモンドが星の
腰のあたりまで一気に伸びた薄紅色の髪に、唖然として目を見張る。 「す、すごい……」 「まあっ、なんとよくお似合いでしょう!」 ナタリナの感嘆する声に、目を瞬かせた。 鏡には、ふわりと柔らかく波打つ、薄紅色の長い髪が映っている。髪の色と長さが変わっただけで、まるで別人のようだ。 「髪の色、キレイ……」 ぽつりと呟くと、鏡の中の少女も、同じように口を動かす。 瞬きすれば、同様に真似をする。 (……これが、僕?) 驚きのまま鏡を凝視していると、クロエがにこやかに笑いかけた。 「エマヌエーレ様。お化粧を致します」 「あ、はいっ」 令嬢は化粧もするのだと思いだし、鏡の前で身を正した。 化粧も初めてで、クロエに化粧水や乳液を塗りこまれたり、筆でくすぐられたりして、慣れない感触に逃げ出したくなる。目を閉じておくように言われたので、エマは目をつむったまま、化粧が終わるのをひたすら待った。 ようやく化粧が終わると、最後に薄い絹のリボンが喉元に結ばれる。 「終わりました。エマヌエーレ様、どうぞご覧下さい」 クロエの声に、やっと目を開ける。 鏡を見て、また驚いた。 「えっ?」 エマの頬はうっすらと紅潮し、唇は薄く艶を帯びている。 薄桃色の髪は、耳の上から取った髪束を左右で編み込み、後ろでひとつに結い上げられていた。結び目には、ドレスと同じ蜂蜜色のリボンが結ばれ、小さな白い花の飾りが添えられている。 残る髪は肩から背にかけて流れ落ち、光を受けてやさしく輝く。 妖精のように可憐な少女が、鏡の奥から驚いた顔で見つめていた。 「なんとお美しいっ!!」 ナタリナの感激した声が聞こえる。 クロエも満足そうな顔で頷いた。 「ええ。春の女神のようです。このように素晴らしい機会を与えて頂けて、誠に光栄ですわ」 二人からの賞賛も、エマの耳を通り抜ける。 (この少女が、僕?)
「このドレスにしましょう!」 二人の意見が一致して選ばれたのは、陽だまりのような、やわらかな色合いのドレスだった。光を受けてきらめく絹の生地は、蜂蜜色から淡い金へと色を変えながら、胸元から裾へと流れるように繊細なレースをまとっている。 胸のあたりまで隠れるデザインで、鎖骨が見える程度だろう。カミラ嬢が着ていたような、艶やかで官能的なデザインではない。露出が少ないことに安心した。 「エマヌエーレ様。コルセットが少しきついかもしれませんが、体型を保つためですので」 「う、うん……」 クロエの言うとおり、コルセットを締めると苦しかった。 女装をすると聞いて心配していた胸の部分は、コルセット自体に胸のふくらみが象られていて、そこに特殊な詰め物をすると、体型に違和感がなくなる。 布製のパニエをつけてドレスを着ると、一気に女性らしくなった。 「可愛らしいですわ、エマ様!」 「ありがとう、ナタリナ」 「次はこちらへ。エマヌエーレ様」 クロエに促されて鏡台の前に座る。台の上には、小瓶に詰められた香油や、粉白粉(こなおしろい)、薄紅、筆道具などが整然と並べられていた。 エマは初めて見るものばかりで、興味深く眺める。 「あぁ、惜しいですわ」 エマの後ろに立ったナタリナが、残念そうに呟く。 「どうしたの、ナタリナ」 「いえ。せっかくエマ様が可愛らしくなりましたのに、御髪(おぐし)の長さが残念で」 「それは仕方ないよ」 男のエマが、髪を伸ばしている方が不自然だ。 それに女性騎士は髪の短い人が多いから、ドレスを着る場面では髪飾り等で工夫していると聞く。 今回の女装も、そうすれば問題ないと思っていたが。 「あら! わたくしったら、うっかりしてましたわ」 クロエが、ポンと手を打った。 そして、エマとナタリナに向かって、ニッコリと微笑む。 「エマヌエーレ様の御髪についても、きちんと用意してありますのよ」 クロ
ルシアンが軽く頭を下げて詫びる。 ナタリナは驚いたように瞬きした。伯爵であるルシアンが侍女に頭を下げるなど、普通はありえないからだ。 「いえ……デイモンド伯爵に頭をお下げいただくようなことではございません。私こそ、出過ぎた真似を致しました」 ナタリナは頭を下げて、エマの後ろに控える。 クロエはエマを見つめて、嬉しそうに微笑んだ。 「ルシアン殿の仰ったとおり、素晴らしい素材ですわ」 「クロエ。言葉を選んで下さい」 「ま、わたくしったら、つい」 クロエはクスクスと笑って、控えていたメイドに合図を送る。 そして、エマの前で深く膝を折った。 「エマヌエーレ様。本日はわたくし、クロエが、着替えをお手伝いさせて頂きます」 「あ、ルシアン様が仰っていた、変装のことですか?」 「さようでございます。エマヌエーレ様には、こちらをご用意いたしました」 そう言ってクロエが指し示した先には、可愛らしいドレスが数着ある。黄色に薄桃色、水色と黄緑と、春らしい色合いのものばかりだ。 「あのっ、これは、女性のドレスでは……?」 エマが戸惑っていると、クロエはにこやかに頷く。 「ええ。このお姿でしたら、外出されてもエマヌエーレ様だとは気付かれませんわ」 「え、でも……!」 (僕がドレスなんて、似合うはずないよね?) 女装をするのだと言われて、エマは及び腰になった。 とっさにナタリナを振り返ると、なぜか感心したような顔をしている。 「たしかに、エマ様によくお似合いかと思いますが」 「ナタリナ!?」 「エマ様は、とてもお美しい方ですから」 ナタリナのうっとりした声を聞いて、エマは援護を諦めた。 (もうっ、ナタリナは僕のこと美化しすぎだよ!) 「あの、僕が女装なんて、おかしいですからっ」 エマは精いっぱいの反論をするが、そこへルシアンが口を挟んだ。 「おかしくありませんよ、エマ」
ルシアンの言葉に、エマはワクワクしてきた。 皇太子も王太子もいないので、失敗を恐れて緊張する必要もない。 (ルシアン様をご案内できるなんて……しかも、二人きりって!) 憧れのルシアンと、一緒にいられるのだ。 エマは浮かれそうになったが、脳裏にレオナールの姿がよぎる。 「ぁっ……でも……」 「どうしました?」 「その……先日、ルシアン様をご案内させて頂いた件で、王子に酷く叱られてしまいまして……」 もし、ルシアンと一緒にいると知られたら、レオナールは激しく怒るだろう。 いくら王命だと言っても、レオナールは自分勝手な理屈でエマを責める。このことが知られたら、どんな仕打ちを受けるか分からない。 エマは俯いて、両手をぎゅっと握りしめた。 (また、折檻を受けるかもしれない……っ) 思い出すだけで、身が竦む。 尊厳を踏みにじられ、苦痛に泣き叫んでも、許してもらえない。 あの時の恐怖に怯えるエマは、気付かぬうちに体を震わせて黙り込んだ。 (やっぱり、体調が悪いって言って、断った方がいいのかな……) ルシアンなら、エマが断っても許してくれるだろう。 せっかく、好きな人と一緒にいられる機会だったのに、それを手放さないといけないなんて。 「……も、申し訳ないのですが、」 「エマ」 そっと頭を撫でられる。 優しく呼ぶ声に、おずおずと顔を上げた。 「エマ、大丈夫ですよ」 ルシアンが優しい顔で微笑んでいた。 見惚れるほど端麗な顔に、輝く赤い瞳。間近で見つめられ、エマの胸が高鳴った。 (ルシアン様っ) ドキドキしていると、ルシアンがまたエマの頭を撫でる。 「心配することはありません。第二王子が狭量な人間なのは承知してます。エマは今日、王太子殿下の補佐として、馬がけに行っていることになっていますから」 「えっ?」 「王太子殿下にも、了承を得ています」
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