Chapter: 第23話 そのサロン、いよいよ真打登場ですか?「はぁ……」思考の沼にはまったオルメリアは無意識にため息を漏らしてしまった。「どうかされましたか?」「えっ、ああ、ごめんなさい」そんな彼女を心配して声を掛けるエレオノーラは本当に人の好い性格をしている。だから政敵であるはずの彼女をオルメリアは嫌えない。(ううん、むしろ私はエレンのことが好きなのよね)伯爵令嬢であったエレオノーラは現国王と熱愛の末に側妃となった経緯がある。普通なら王妃オルメリアとの間に|軋轢《あつれき》を生じていてもおかしくなかった。(エレンは良い子なのよねぇ)ところがエレオノーラは権力に頓着しない性格な上に、何故かオルメリアに良く懐いていた。その|仲の良さ《いちゃいちゃ》は夫である国王が嫉妬するほどなのだから相当なものである。(それに、いつまでも可愛いし)思わず若い時にしていたように頭をよしよしと撫でると、エレオノーラは嬉しそうに破顔した。「うふふふ、もうメリー様ったら」そんなエレオノーラには随分と振り回されたものだが、自分を姉の如く慕ってくるエレオノーラにいつの間にか|絆《ほだ》されてしまっていた。「エレンが羨ましいわ」「私が?」エレオノーラは目をぱちくりとさせた。「メリー様の方がずっと美人で頭も良いのに、私の何に羨ましがるんです?」「エーリックは良い子に育っているでしょう」(私はどこでオーウェンの教育を間違えたのかしら)何がいけなかったのかと、彼女は悩んでしまう。
Last Updated: 2026-07-24
Chapter: 第22話 その王妃様、ホント気苦労が多くないですか?王都の東に位置する王城の中には、|瀟洒《しょうしゃ》なガラス張りの温室がある。そこでは社交界で知られた夫人達が集う恒例の|お茶会《サロン》が|催《もよお》されていた。その会場の中心に設置されたテーブルで二人の美女が談笑していた。主催者の王妃オルメリアと側妃エレオノーラである。|黄金色《こんじき》に輝く髪に、理知を湛える青い瞳の美女オルメリアは参加している顔ぶれを確認して一つ頷いた。今日も社交界に影響力を持つそうそうたる面々が揃っている。「今日の会にはウェルシェを招いているの」二児の母であるオルメリアは歳を感じさせない美しい笑貌を隣に座る側妃エレオノーラに向けた。「まあ! それは本当?」エレオノーラはまあっと花の咲くような笑顔を見せた。海を思わせる鮮やかな青い髪と瞳を持つ彼女の容貌は、国王の寵愛を受けるだけあってとても愛らしい。「エーリックったら|婚約者《ウェルシェさん》に合わせてくれないのよ」そう言ってぷくりとムクれるエレオノーラには、十代の息子がいるとは思えぬあどけない可愛らしさがある。「メリー様が羨ましいわ。妃教育で|息子の婚約者《イーリヤさん》と仲良くしているのでしょう?」メリーはオルメリアの愛称で、国王とエレオノーラしか呼ぶのを許されていない。逆にオルメリアはエレオノーラをエレンと呼んでいる。「そんな良いものでもないわ。あの|娘《こ》には避けられていて妃教育以外では顔を出してくれないもの」 エレオノーラの幼い仕草にオルメリアは苦笑いした。「今日だって参加を断られているしね」「若い子にとっておばさんとのお茶会は煙たいものなのかしら?」
Last Updated: 2026-07-22
Chapter: 第21話 この腹黒令嬢、やりすぎじゃないですか?「うふふ、なかなか良い拾い物だったわ」レーキやジョウジを始め、オーウェンの不興を買った優秀な者達を傘下に収めたウェルシェはホクホクだ。「レーキ様やジョウジ様だけじゃなく、他のメンツも優良物件揃いだったわ。味方につけて百利あって一害なしよ」「ホントにそうそうたる顔ぶれですね」よくもまあ集めたものだとカミラも素直に感心した。「オーウェン殿下は手中にある本物の宝がわからなかったのですね」だが、それは同時に|次期国王《オーウェン》が優秀な頭脳を見抜けなかったことの証明となってしまった。「特にシキン伯爵家を冷遇するなどオーウェン殿下の正気を疑います」シキン伯爵家は『貴族の良心』と呼ばれるほど、貴族の矜持と義務に真摯な一族なのだ。誠実である一点において政敵でさえ認めざるを得ない。ゆえに伯爵家でありながら、その発言力は絶大である。嫡男のジョウジを遠ざけるなど、オーウェンは後ろ暗いところがあると公言しているようなものだ。事実、彼は浮気の真っ最中である。「彼らの価値が分からないのは、オーウェン殿下だけではないけどね」現在、学園でレーキやジョウジは生徒達から敬遠されている。誰もオーウェン殿下の不興を買いたくないからだろう。「困っている時こそ恩は最大高値で売れるのよ」もっともウェルシェからすれば、これほど美味しい状況はない。「……そんな腹黒な発想ができる令嬢はお嬢様だけです」「まあ普通なら、どちらの味方をするかと問われれば、王子に傾くのは分からなくもないけど」彼らはまだ若く未熟だ。目先の権力にしか目が行かずシキン家が伯
Last Updated: 2026-07-20
Chapter: 第20話 その妖精姫、本当は化け物じゃないですか?「ご機嫌よう――」驚愕する二人に白銀の妖精が微笑んでいた。「――レーキ・ノモ様、ジョウジ・シキン様」ウェルシェが綺麗なカーテシーを披露する。そこだけキラキラしいエフェクトが発生でもしているようだ。なんとも幻想的な美少女である。そんな絶世の美姫に二人は惚けたように魅入ってしまった。「人の想像力は意外と高くは飛べないもの。ですから実際に目に見える猛獣を恐れるのですわ」だが、その愛らしい唇の間から出た言葉は現実的で、自分達の会話の真意を読んだ鋭い解答をウェルシェから投げかけられて二人は我に返った。(誰だ、グロラッハ嬢を柔和な姫と噂したのは)(これは見た目に騙されてはダメだ)レーキとジョウジは目配せして頷き合った。「これはウェルシェ嬢、我らのような爪弾き者に何の御用でしょう?」「私どもはオーウェン殿下の不興を買った身ですので、関わるのは御身の為にはなりませんよ」ウェルシェが何を目論んでいるのか分からず二人は警戒をしたが、ウェルシェはまったく意に介した様子もない。「隆盛の者への媚びはすぐに忘れられ、苦境の者への援助はいつか我が身に返ってくると思いますの」レーキとジョウジの背筋に冷たいものが走った。「それが|伏竜鳳雛《ふくりょうほうすう》なら尚更ですわ」つまり、ウェルシェはレーキとジョウジに恩を最大限で売りたいと言っている。優秀な二人は当然それを正確に読み取った。「私達を伏竜鳳雛とは畏れ入ります」「ですが、それはウェルシェ嬢の買い被りですよ」「学園きっての俊英と
Last Updated: 2026-07-17
Chapter: 第19話 その元側近、激おこですか?「オーウェン殿下は何も分かっていない!」「落ち着けよ、レーキ」青い髪が逆立つのではないかと思えるほど怒り狂う友人を優しげな蜂蜜色のおっとりした少年が|宥《なだ》めた。憤慨している青髪の少年はレーキ――ノモ子爵の次男。蜂蜜色の少年はジョウジ――シキン伯爵の嫡男である。この二人はオーウェンの側近となってから無二の親友となった。もっとも、|主人《オーウェン》の不興を買って二人とも今は遠ざけられているが。「俺はいい。だが、ジョウジは側近として必要な存在だ」「おいおい、僕より優秀なレーキの方が必要な人材だろ?」「はっ、俺なんて所詮は小知をひけらかすだけの小狡い男だ。だが、シキン伯爵家とお前は違う」レーキは自他共に認める鋭才で、彼自身も己の能力に自信はある。だが、ジョウジと出会ってから、彼の価値観は一変した。「僕は愚直なだけで取り柄はない平凡な男だぞ?」「愚直も貫き通せば立派な才能だ。むしろ、どんな圧力にも負けず、真っ直ぐでいられるのは非凡だぞ」「それはシキン家の先祖のお陰さ」シキン伯爵家は『貴族の良心』と呼ばれるほど王家への忠節に篤く、貴族の矜持と義務に真摯な一族だ。今のシキン伯爵も代々己の利を求めず常識的な人柄で王家に仕えてきた忠臣である姿勢を受け継いでいた。奇抜な能力も特殊な才能もない。ただただ王家に対し忠実に誠実に生きている。あまりに凡庸な生き方ではあるが、これを貴族の世界で代々貫き通しているシキン家は異色なのである。普通なら他の貴族によって食い物にされて断絶していておかしくない。事実、先々代の頃にシキン伯爵家はお取り潰しの憂き目に遭っている。ある時、シキン伯爵家を良く思わない派閥に嵌められ冤罪
Last Updated: 2026-07-15
Chapter: 第18話 その腹黒、本当に青田買いするんですか?「まったく、エーリック様にも困ったものね」エーリックを見送って、ウェルシェはため息を吐いた。「殿下は相変わらずのヘタレっぷりでしたね」カミラはより辛辣だ。無表情なだけより冷たく感じる。「もういっそ婚約解消でもよろしいのでは?」「それはダメ!」ウェルシェはピシャリとカミラの提案を退けた。「おや、情でも移されましたか?」カミラはにひっと笑った。主人を食ったこの態度、さすが腹黒令嬢に長年仕えている専属侍女。なかなかイイ性格をしている。「もしホントに|勘違いヤロー《ケヴィン・セギュル》と結婚させられたら最悪でしょ」「それはそうですけど」主人の恋愛を弄って楽しむ良い性格をした侍女はなんか納得がいかない。「お嬢様の言い分は至極ごもっとも……なんですが、もうちょっと|狼狽《うろた》えたり、恥ずかしがったりしてくれないものですかね?」「私にとって重要なのは、私との結婚をどれだけ高く買ってくれるかって事よ!」もっとも、ウェルシェもカミラの扱いは心得たもの。淡々と相手をして、カミラを喜ばせるような迂闊な真似はしない。「エーリック様以上の好条件を提示できる方はいないわ」「むぅ、政略結婚という意味ではそうですが……お嬢様はもうちょっと恋に恋してもいいと思うのです」「なによカミラ。ケヴィン様みたいな遊び人のアホを当主にしてもいいわけ?」「まあ、我々使用人にとっても主人は優れた者がいいですけど」「あんな話を聞かない人はまっぴらごめんだわ…&hell
Last Updated: 2026-07-13