Chapter: 第3話 その入学、本当に必要ですか?「エーリック様、いらっしゃいませ」「やあ、また来たよ、ウェルシェ」ウェルシェの予想は大当たり。「迷惑じゃなかった?」「そのようなことありませんわ」エーリックは|儚《はかな》げで、庇護欲を掻き立てるようなか弱い女性が好みだった。足繁く通う彼はウェルシェのかまととの完全な虜である。「エーリック様にお会いできて私はとても嬉しいですわ」「えへへへ、そ、そう?」ウェルシェの笑顔にエーリックがデレデレになる。手のひらでコロコロ転がされているとも知らずに。端で見ていたカミラはなんとも完璧な猫かぶりだと感心するやら呆れるやら。もともとウェルシェは幼少期より儚げな深窓の令嬢を演じて、海千山千の貴族達さえも|欺《あざむ》いてきた。おかげで、こんな擬態も空気を吸うより簡単なのだ。未熟なエーリックが|陥落《かんらく》しないはずもない。2人の仲はウェルシェの思惑通り急速かつ順調に進展していった。「ところで、ウェルシェも学園へ通うのかい?」「そのつもりでおりますわ」そして、今は二人でお茶と会話を楽しんでいたのだが、ふと貴族子女が通う王立マルトニア学園の話題がのぼった。「そう……なんだ」「エーリック様は私が学園へ通うのに反対なんですの?」エーリックが少し浮かない表情になり、ウェルシェはおやっと不思議に感じた。エーリックは真面目で努力家であり、だから自然と頑張る人間を愛する傾向があるとの情報をウェルシェは掴んでいた。さらに、ウェルシェに想いを寄せている彼は、一時でも長く彼女といたいと望んでいるはずである。だから、ウェルシェが学園へ一緒に通うのを喜ぶと想定していただけに、彼の顔色が優れないのを|訝《いぶか》しんだ。「ウェルシェは学業も魔術も優秀だから、より高みを目指して研鑽を積むのは素晴らしいとは思うよ……だけど」「だけど?」頬にそっと手を添えると、ウェルシェは不思議そうな顔で小首を傾げた。そんな何気ない仕草もあざといほど可愛い。ウェルシェはエーリックの前では、彼の好みそうな所作が息を吸うように自然にできるようになっていた。だから、今も特にウェルシェは狙ってやったわけではない。ただ、ウェルシェは無意識にエーリック好みのポーズを取っていたのである。「くっカワ……」「エーリック様?」「こほん……いや、ごめん、学園の話だったね」ウェルシェに見惚れ
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Chapter: 第2話 その侍女、本当に忠実ですか?「名残惜しいですが、そろそろ帰らねばなりません」「まあ、もうそんな時間なんですの?」「楽しい時間はあっという間ですね」エーリックが器用にウィンクすると、ウェルシェがパッと花が咲くように笑った。「また、あなたにお会いできる日を楽しみにしております」「私も楽しみにお待ちしておりますわ」潤んだ瞳でウェルシェから可愛く見上げられ、エーリックはすっかり舞い上がってしまった。(これって、ウェルシェも僕に恋しちゃってるんじゃない?)エーリックはカッコよく颯爽と帰るつもりだった。だが、顔は締まりがなく、足取りも地につかずふわふわして|覚束《おぼつか》ない。「あらあら、あんなにフラフラして大丈夫かしら」エーリックの背中を見送りながらウェルシェはくすりと笑った。そこに先程までの純真無垢な妖精の姿はどこにもない。背後で眼鏡をかけた侍女のカミラが小さくため息を漏らした。それに気づいていながらウェルシェは何も言わず|四阿《ガゼボ》に戻って座った。時を待たずしてカミラがスッと音もなくお茶を用意する。目でカミラに礼をしたウェルシェはお茶を一口含んで口を潤した。なんとも息の合った主従である。「ちょっと頼りなさそうだけど、素直そうだし善良な方のようで安心したわ」「さようでございますね」豹変した|主人《ウェルシェ》の態度に驚く様子も見せずにカミラは相槌を打った。「これなら結婚後は私が主導権を握れそうね」「もう既に握っておられるではありませんか」呆れたようにカミラの目が据わる。「私はエーリック殿下が憐れでなりません」「あら、こ~んな理想のお嫁さんを|娶《めと》れるのよ。Win-Winじゃない」|幻想的な白銀の髪《シルバーブロンド》と|神秘的な翠緑《エメラルド》の瞳、肌は抜けるように白く、ほっそりとした小柄な令嬢――エーリックの目にはウェルシェがさぞ儚く麗しい姫君の如く映った事だろう。「私みたいな完璧美少女が婚約者なんてエーリック様も果報者よね」「そうですね、お嬢様はまさに穢れなき妖精のごとき絶世の美少女――」賛辞にふふんと笑い、そうだろそうだろと頷くウェルシェを眺めながらカミラは思う。自分の主人は|完全無欠《パーフェクト》――ただし、外見だけ。「中身はこんなんですが」「こんなのとは何よッ!」エーリックと談笑していた時のお淑やかだった姿は見る影も
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Chapter: 第1話 その婚約、本当に愛がありますか?「お初にお目もじ|仕《つかまつ》ります」目の前の少女にエーリックは一瞬で心を奪われた。「グロラッハ侯爵の娘、ウェルシェでございます」それは一分の隙もない|立礼《カーテシー》を披露する美少女だった。まさに貴族のご令嬢といった見事な所作である。ところが、それでいてニッコリ笑うウェルシェは純真無垢そのもの。自然な笑顔は貴族令嬢とは程遠いもののようにエーリックには感じられた。——ウェルシェ・グロラッハ侯爵令嬢。幻想的な|白銀の髪《シルバーブロンド》、神秘的な|翠緑の瞳《エメラルド》、透き通る白い肌、折れそうなほど華奢な四肢……彼女のどれをとっても儚く、触れれば消えてしまいそうなほど現実感がない。美しいだとか、可愛いだとか、そんな言葉で表現できない存在。「妖精?」エーリックは無意識に呟いていた。(絵本から妖精の姫が迷い出てきたんじゃない?)そんな絵空事をエーリックは本気で思った。「あの……?」見惚れて固まるエーリックに|妖精《ウェルシェ》が不思議そうに声をかけた。(何やってんの)エーリックはハッと我に返った。「失礼しました。僕はマルトニア王国第二王子エーリックです」そして、胸に手を当てると、優雅に一礼してみせた。すぐに立ち直れるのは、さすが王家で鍛えられた王子である。「あなたのように可憐な姫君と婚約できるのは望外の喜びです」それは型通りの世辞。
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