LOGINウェルシェは見た目だけならパーフェクトな侯爵令嬢。ところが、可憐な外見に反して中身は利益重視の恋愛音痴だった! 一方、純情なエーリックはウェルシェの儚げな見た目に騙され一目ぼれ。そんな二人が婚約したのだが……ウェルシェに横恋慕する男子生徒が続出! しかも、自称ヒロインや悪役令嬢まで続々登場! だが、そんな妨害なんのその。腹黒令嬢ウェルシェは周りの者達を振り回し己の野望へと突き進む。 だって、ウェルシェは利益をもたらしてくれる――「あなたのお嫁さんになりたいです!」 これは乙女ゲームに転生したヒロインと転生悪役令嬢……ではなく、その争いの煽りを食らったウェルシェとエーリックの抱腹絶倒ドタバタラブコメディ!
View More「はぁ……」思考の沼にはまったオルメリアは無意識にため息を漏らしてしまった。「どうかされましたか?」「えっ、ああ、ごめんなさい」そんな彼女を心配して声を掛けるエレオノーラは本当に人の好い性格をしている。だから政敵であるはずの彼女をオルメリアは嫌えない。(ううん、むしろ私はエレンのことが好きなのよね)伯爵令嬢であったエレオノーラは現国王と熱愛の末に側妃となった経緯がある。普通なら王妃オルメリアとの間に軋轢を生じていてもおかしくなかった。(エレンは良い子なのよねぇ)ところがエレオノーラは権力に頓着しない性格な上に、何故かオルメリアに良く懐いていた。その仲の良さは夫である国王が嫉妬するほどなのだから相当なものである。(それに、いつまでも可愛いし)思わず若い時にしていたように頭をよしよしと撫でると、エレオノーラは嬉しそうに破顔した。「うふふふ、もうメリー様ったら」そんなエレオノーラには随分と振り回されたものだが、自分を姉の如く慕ってくるエレオノーラにいつの間にか絆されてしまっていた。「エレンが羨ましいわ」「私が?」エレオノーラは目をぱちくりとさせた。「メリー様の方がずっと美人で頭も良いのに、私の何に羨ましがるんです?」「エーリックは良い子に育っているでしょう」(私はどこでオーウェンの教育を間違えたのかしら)何がいけなかったのかと、彼女は悩んでしまう。
王都の東に位置する王城の中には、瀟洒なガラス張りの温室がある。そこでは社交界で知られた夫人達が集う恒例のお茶会が催されていた。その会場の中心に設置されたテーブルで二人の美女が談笑していた。主催者の王妃オルメリアと側妃エレオノーラである。黄金色に輝く髪に、理知を湛える青い瞳の美女オルメリアは参加している顔ぶれを確認して一つ頷いた。今日も社交界に影響力を持つそうそうたる面々が揃っている。「今日の会にはウェルシェを招いているの」二児の母であるオルメリアは歳を感じさせない美しい笑貌を隣に座る側妃エレオノーラに向けた。「まあ! それは本当?」エレオノーラはまあっと花の咲くような笑顔を見せた。海を思わせる鮮やかな青い髪と瞳を持つ彼女の容貌は、国王の寵愛を受けるだけあってとても愛らしい。「エーリックったら婚約者に合わせてくれないのよ」そう言ってぷくりとムクれるエレオノーラには、十代の息子がいるとは思えぬあどけない可愛らしさがある。「メリー様が羨ましいわ。妃教育で息子の婚約者と仲良くしているのでしょう?」メリーはオルメリアの愛称で、国王とエレオノーラしか呼ぶのを許されていない。逆にオルメリアはエレオノーラをエレンと呼んでいる。「そんな良いものでもないわ。あの娘には避けられていて妃教育以外では顔を出してくれないもの」 エレオノーラの幼い仕草にオルメリアは苦笑いした。「今日だって参加を断られているしね」「若い子にとっておばさんとのお茶会は煙たいものなのかしら?」
「うふふ、なかなか良い拾い物だったわ」レーキやジョウジを始め、オーウェンの不興を買った優秀な者達を傘下に収めたウェルシェはホクホクだ。「レーキ様やジョウジ様だけじゃなく、他のメンツも優良物件揃いだったわ。味方につけて百利あって一害なしよ」「ホントにそうそうたる顔ぶれですね」よくもまあ集めたものだとカミラも素直に感心した。「オーウェン殿下は手中にある本物の宝がわからなかったのですね」だが、それは同時に次期国王が優秀な頭脳を見抜けなかったことの証明となってしまった。「特にシキン伯爵家を冷遇するなどオーウェン殿下の正気を疑います」シキン伯爵家は『貴族の良心』と呼ばれるほど、貴族の矜持と義務に真摯な一族なのだ。誠実である一点において政敵でさえ認めざるを得ない。ゆえに伯爵家でありながら、その発言力は絶大である。嫡男のジョウジを遠ざけるなど、オーウェンは後ろ暗いところがあると公言しているようなものだ。事実、彼は浮気の真っ最中である。「彼らの価値が分からないのは、オーウェン殿下だけではないけどね」現在、学園でレーキやジョウジは生徒達から敬遠されている。誰もオーウェン殿下の不興を買いたくないからだろう。「困っている時こそ恩は最大高値で売れるのよ」もっともウェルシェからすれば、これほど美味しい状況はない。「……そんな腹黒な発想ができる令嬢はお嬢様だけです」「まあ普通なら、どちらの味方をするかと問われれば、王子に傾くのは分からなくもないけど」彼らはまだ若く未熟だ。目先の権力にしか目が行かずシキン家が伯
「ご機嫌よう――」驚愕する二人に白銀の妖精が微笑んでいた。「――レーキ・ノモ様、ジョウジ・シキン様」ウェルシェが綺麗なカーテシーを披露する。そこだけキラキラしいエフェクトが発生でもしているようだ。なんとも幻想的な美少女である。そんな絶世の美姫に二人は惚けたように魅入ってしまった。「人の想像力は意外と高くは飛べないもの。ですから実際に目に見える猛獣を恐れるのですわ」だが、その愛らしい唇の間から出た言葉は現実的で、自分達の会話の真意を読んだ鋭い解答をウェルシェから投げかけられて二人は我に返った。(誰だ、グロラッハ嬢を柔和な姫と噂したのは)(これは見た目に騙されてはダメだ)レーキとジョウジは目配せして頷き合った。「これはウェルシェ嬢、我らのような爪弾き者に何の御用でしょう?」「私どもはオーウェン殿下の不興を買った身ですので、関わるのは御身の為にはなりませんよ」ウェルシェが何を目論んでいるのか分からず二人は警戒をしたが、ウェルシェはまったく意に介した様子もない。「隆盛の者への媚びはすぐに忘れられ、苦境の者への援助はいつか我が身に返ってくると思いますの」レーキとジョウジの背筋に冷たいものが走った。「それが伏竜鳳雛なら尚更ですわ」つまり、ウェルシェはレーキとジョウジに恩を最大限で売りたいと言っている。優秀な二人は当然それを正確に読み取った。「私達を伏竜鳳雛とは畏れ入ります」「ですが、それはウェルシェ嬢の買い被りですよ」「学園きっての俊英と
――マルトニア学園入学式の日校門から校舎へと続く道にスリズィエの花びらが舞う。奥へと更に奥へと進めば、入学式が執り行われている大講堂へと続く。その中には今年入学する新入生とその保護者が集まっていた。「新入生代表ウェルシェ・グロラッハ」式が進行していく中で、一人の少女の名前が呼ばれた。「はい」凛とした声が講堂の中に響いた。
「私ってそんな尻軽な女に見える?」四阿に戻ったウェルシェの愚痴にカミラは首を傾げた。「いきなりどうなさったのです?」「さっきエーリック様が仰っていたでしょ?」お茶を注ぎながらカミラは、ああと得心がいった。「お嬢様が他の男に心移りするかもってやつですか?」それよそれとウェルシェは不満そうに口を尖らせた。そういう幼い振る舞いは年相応に可愛いなとカミ
「エーリック様、いらっしゃいませ」「やあ、また来たよ、ウェルシェ」ウェルシェの予想は大当たり。「迷惑じゃなかった?」「そのようなことありませんわ」エーリックは儚げで、庇護欲を掻き立てるようなか弱い女性が好みだった。足繁く通う彼はウェルシェのかまととの完全な虜である。「エーリック様にお会いできて私はとても嬉しいですわ」「えへへへ、そ、そう?」ウェルシェの笑顔にエーリックがデレデレになる。手のひらでコロコロ転がされているとも知らずに。端で見ていたカミラはなんとも完璧な猫かぶりだと感心するやら呆れるやら。もともとウェルシェは幼少期より儚げな深窓の令嬢を演じて、海千山
「名残惜しいですが、そろそろ帰らねばなりません」「まあ、もうそんな時間なんですの?」「楽しい時間はあっという間ですね」エーリックが器用にウィンクすると、ウェルシェがパッと花が咲くように笑った。「また、あなたにお会いできる日を楽しみにしております」「私も楽しみにお待ちしておりますわ」潤んだ瞳でウェルシェから可愛く見上げられ、エーリックはすっかり舞い上がってしまった。(これって、ウェルシェも僕に恋しちゃってるんじゃない?)エーリックはカッコよく颯爽と帰るつもりだった。だが、顔は締まりがなく、足取りも地につかずふわふわして覚束ない。「あらあら、あんなにフラフラして大丈