Mag-log inウェルシェは見た目だけならパーフェクトな侯爵令嬢。ところが、可憐な外見に反して中身は利益重視の恋愛音痴だった! 一方、純情なエーリックはウェルシェの儚げな見た目に騙され一目ぼれ。そんな二人が婚約したのだが……ウェルシェに横恋慕する男子生徒が続出! しかも、自称ヒロインや悪役令嬢まで続々登場! だが、そんな妨害なんのその。腹黒令嬢ウェルシェは周りの者達を振り回し己の野望へと突き進む。 だって、ウェルシェは利益をもたらしてくれる――「あなたのお嫁さんになりたいです!」 これは乙女ゲームに転生したヒロインと転生悪役令嬢……ではなく、その争いの煽りを食らったウェルシェとエーリックの抱腹絶倒ドタバタラブコメディ!
view more「お初にお目もじ
目の前の少女にエーリックは一瞬で心を奪われた。
「グロラッハ侯爵の娘、ウェルシェでございます」
それは一分の隙もない
ところが、それでいてニッコリ笑うウェルシェは純真無垢そのもの。自然な笑顔は貴族令嬢とは程遠いもののようにエーリックには感じられた。
——ウェルシェ・グロラッハ侯爵令嬢。
幻想的な
美しいだとか、可愛いだとか、そんな言葉で表現できない存在。
「妖精?」
エーリックは無意識に呟いていた。
(絵本から妖精の姫が迷い出てきたんじゃない?)
そんな絵空事をエーリックは本気で思った。
「あの……?」
見惚れて固まるエーリックに
(何やってんの)
エーリックはハッと我に返った。
「失礼しました。僕はマルトニア王国第二王子エーリックです」
そして、胸に手を当てると、優雅に一礼してみせた。すぐに立ち直れるのは、さすが王家で鍛えられた王子である。
「あなたのように可憐な姫君と婚約できるのは望外の喜びです」
それは型通りの世辞。
(ホント、めちゃめちゃ可愛い!)
だが、エーリックの顔から
(こんな子が僕のお嫁さんになってくれるの!?)
彼は本心からウェルシェとの婚約を喜んだ。
エーリックも負けず劣らず美男子である。
少し癖のある金髪は彼の人柄を柔らかく見せ、澄んだ青い瞳は優し気で、十五歳になりたてのボーイソプラノと相まって天使のような美少年なのだ。
そんなエーリックの微笑みを受け、ウェルシェは赤く染めた頬を隠すように手を当てて小首を
「まあ、エーリック殿下はお世辞がお上手ですのね」
「まごう事なき本心です。僕は国一番の果報者ですね」
「私ごときに大袈裟ですわ」
「大袈裟ではありませんよ。あなたの前には美しい花達も恥じ入るでしょう」
いよいよウェルシェは真っ赤になった。
「ですが、それだけに国中の男達からやっかみを受けないか心配になります」
「殿下、もうそれくらいで」
恥ずかしがってウェルシェは両手で顔を隠す。白い肌に朱が刺す姿はあまりに可憐。
「エーリックです」
「殿下?」
「グロラッハ嬢には名前で……エーリックと呼んで欲しいのです」
「あっ、その……エーリック…様?」
ウェルシェがもじもじと上目遣いではにかむと、エーリックはグッと胸を押さえた。
「では、私の事もウェルシェ……と」
「えっと……ウェルシェ?」
「はい!」
エーリックがおずおずと名前を呼ぶと、ウェルシェはパッと花が咲くように笑った。
この瞬間、エーリックは恋に落ちた。
そもそも、この婚約は政略である。だから、エーリックはただの契約として相手のウェルシェに何の期待も感慨も抱いていなかった。
(僕は絶対
だが、エーリックの頭から政略だとか利害だとか全てが吹き飛んでいた。
「今すぐ結婚できたらいいのに」
「まあ、エーリック様ったら」
ウェルシェがくすりと笑った。
エーリックの言葉を冗談と思ったらしい。彼女の笑顔は年相応に可愛くて、こんな一面もあるのかとエーリックは何度でも恋に落ちる。
「僕は本気ですよ?」
「あっ……その……私も早くエーリック様の……」
それは消え入りそうなか細い声だった。
だが、エーリックは聞き逃さなかった。
はにかんで
——なんて可愛いんだ!
エーリックは完全ノックアウト。
もはや、彼は恋に恋する王子様。
(早くウェルシェと結婚したいな♪)
エーリックは浮かれきっていた。この絶世の美少女ウェルシェが、自分のお嫁さんになってくれる奇跡を神に感謝さえしていた。
だが、彼は気づいていなかった。
俯くウェルシェの口の端がつり上がっていることに。
彼女が拳を握り小さくガッツポーズしていることに。
「はぁ……」思考の沼にはまったオルメリアは無意識にため息を漏らしてしまった。「どうかされましたか?」「えっ、ああ、ごめんなさい」そんな彼女を心配して声を掛けるエレオノーラは本当に人の好い性格をしている。だから政敵であるはずの彼女をオルメリアは嫌えない。(ううん、むしろ私はエレンのことが好きなのよね)伯爵令嬢であったエレオノーラは現国王と熱愛の末に側妃となった経緯がある。普通なら王妃オルメリアとの間に軋轢を生じていてもおかしくなかった。(エレンは良い子なのよねぇ)ところがエレオノーラは権力に頓着しない性格な上に、何故かオルメリアに良く懐いていた。その仲の良さは夫である国王が嫉妬するほどなのだから相当なものである。(それに、いつまでも可愛いし)思わず若い時にしていたように頭をよしよしと撫でると、エレオノーラは嬉しそうに破顔した。「うふふふ、もうメリー様ったら」そんなエレオノーラには随分と振り回されたものだが、自分を姉の如く慕ってくるエレオノーラにいつの間にか絆されてしまっていた。「エレンが羨ましいわ」「私が?」エレオノーラは目をぱちくりとさせた。「メリー様の方がずっと美人で頭も良いのに、私の何に羨ましがるんです?」「エーリックは良い子に育っているでしょう」(私はどこでオーウェンの教育を間違えたのかしら)何がいけなかったのかと、彼女は悩んでしまう。
王都の東に位置する王城の中には、瀟洒なガラス張りの温室がある。そこでは社交界で知られた夫人達が集う恒例のお茶会が催されていた。その会場の中心に設置されたテーブルで二人の美女が談笑していた。主催者の王妃オルメリアと側妃エレオノーラである。黄金色に輝く髪に、理知を湛える青い瞳の美女オルメリアは参加している顔ぶれを確認して一つ頷いた。今日も社交界に影響力を持つそうそうたる面々が揃っている。「今日の会にはウェルシェを招いているの」二児の母であるオルメリアは歳を感じさせない美しい笑貌を隣に座る側妃エレオノーラに向けた。「まあ! それは本当?」エレオノーラはまあっと花の咲くような笑顔を見せた。海を思わせる鮮やかな青い髪と瞳を持つ彼女の容貌は、国王の寵愛を受けるだけあってとても愛らしい。「エーリックったら婚約者に合わせてくれないのよ」そう言ってぷくりとムクれるエレオノーラには、十代の息子がいるとは思えぬあどけない可愛らしさがある。「メリー様が羨ましいわ。妃教育で息子の婚約者と仲良くしているのでしょう?」メリーはオルメリアの愛称で、国王とエレオノーラしか呼ぶのを許されていない。逆にオルメリアはエレオノーラをエレンと呼んでいる。「そんな良いものでもないわ。あの娘には避けられていて妃教育以外では顔を出してくれないもの」 エレオノーラの幼い仕草にオルメリアは苦笑いした。「今日だって参加を断られているしね」「若い子にとっておばさんとのお茶会は煙たいものなのかしら?」
「うふふ、なかなか良い拾い物だったわ」レーキやジョウジを始め、オーウェンの不興を買った優秀な者達を傘下に収めたウェルシェはホクホクだ。「レーキ様やジョウジ様だけじゃなく、他のメンツも優良物件揃いだったわ。味方につけて百利あって一害なしよ」「ホントにそうそうたる顔ぶれですね」よくもまあ集めたものだとカミラも素直に感心した。「オーウェン殿下は手中にある本物の宝がわからなかったのですね」だが、それは同時に次期国王が優秀な頭脳を見抜けなかったことの証明となってしまった。「特にシキン伯爵家を冷遇するなどオーウェン殿下の正気を疑います」シキン伯爵家は『貴族の良心』と呼ばれるほど、貴族の矜持と義務に真摯な一族なのだ。誠実である一点において政敵でさえ認めざるを得ない。ゆえに伯爵家でありながら、その発言力は絶大である。嫡男のジョウジを遠ざけるなど、オーウェンは後ろ暗いところがあると公言しているようなものだ。事実、彼は浮気の真っ最中である。「彼らの価値が分からないのは、オーウェン殿下だけではないけどね」現在、学園でレーキやジョウジは生徒達から敬遠されている。誰もオーウェン殿下の不興を買いたくないからだろう。「困っている時こそ恩は最大高値で売れるのよ」もっともウェルシェからすれば、これほど美味しい状況はない。「……そんな腹黒な発想ができる令嬢はお嬢様だけです」「まあ普通なら、どちらの味方をするかと問われれば、王子に傾くのは分からなくもないけど」彼らはまだ若く未熟だ。目先の権力にしか目が行かずシキン家が伯
「ご機嫌よう――」驚愕する二人に白銀の妖精が微笑んでいた。「――レーキ・ノモ様、ジョウジ・シキン様」ウェルシェが綺麗なカーテシーを披露する。そこだけキラキラしいエフェクトが発生でもしているようだ。なんとも幻想的な美少女である。そんな絶世の美姫に二人は惚けたように魅入ってしまった。「人の想像力は意外と高くは飛べないもの。ですから実際に目に見える猛獣を恐れるのですわ」だが、その愛らしい唇の間から出た言葉は現実的で、自分達の会話の真意を読んだ鋭い解答をウェルシェから投げかけられて二人は我に返った。(誰だ、グロラッハ嬢を柔和な姫と噂したのは)(これは見た目に騙されてはダメだ)レーキとジョウジは目配せして頷き合った。「これはウェルシェ嬢、我らのような爪弾き者に何の御用でしょう?」「私どもはオーウェン殿下の不興を買った身ですので、関わるのは御身の為にはなりませんよ」ウェルシェが何を目論んでいるのか分からず二人は警戒をしたが、ウェルシェはまったく意に介した様子もない。「隆盛の者への媚びはすぐに忘れられ、苦境の者への援助はいつか我が身に返ってくると思いますの」レーキとジョウジの背筋に冷たいものが走った。「それが伏竜鳳雛なら尚更ですわ」つまり、ウェルシェはレーキとジョウジに恩を最大限で売りたいと言っている。優秀な二人は当然それを正確に読み取った。「私達を伏竜鳳雛とは畏れ入ります」「ですが、それはウェルシェ嬢の買い被りですよ」「学園きっての俊英と
「もちろん、エーリック様をお慕いしておりますわ」ウェルシェは自信満々で(のもたらしてくれる富)と副音声に入れた。嘘は言っていない。「ふふふ、今のは嘘くさぁい」「もう!」「ごめん、ごめん」プイッとウェルシェはむくれてそっぽを向く。キャロルが笑いながら謝罪すると、ウェルシェは横を向いたまま横目で彼女をチラッと見るとため息をついた。「キャロル、私
「ウェルシェは押しに弱そうなだからねぇ」キャロルの指摘にウェルシェはちょっと複雑な気分だった。擬態を解けば男共をあしらうのは訳ない。(だけど、今の私のイメージでは強く出られないしなぁ)エーリックの好みを演出する為のイメージ作りが仇となっている。それはウェルシェ自身も理解はしていた。だが、こればっかりはどうにもならない。「それにウェルシェを強引に口説こうとしている筆頭はオーウェン殿下の側近だし」「ケヴ
「お申し出は嬉しいのですが……」ウェルシェがたおやかに微笑むと目の前の貴族令息は息を飲んだ。あまりに幻想的な妖精の笑貌で、見惚れて言葉を失ったようである。「私には婚約者がおりますの。もう声をかけるのはお止めくださいませ」だが、その愛らしい口から紡がれたのは辛辣な拒絶の言葉。「ま、待ってくれ。あんな婚約者よりも俺の方がよっぽど……」「あんな?」慌てた
「なんなのよ、あの男どもは!?」いつもは人を食ったような態度で余裕綽綽のウェルシェが、らしくなくウガァーッと喚き散らした。その叫び声にカミラはそっとため息を漏らす。「私は面白おかしく学園生活を送りたいだけなのに!」ウェルシェがマルトニア学園に通うようになって三ヶ月が過ぎた。学園生活の出だしは上々。優秀なウェルシェにとって、学業関係や学園行事を卒なくこなすのは造作もない。お得意の猫かぶりで問題なく気の合う友人も作れた。そう、全ては順風満帆……のはずだったのだが、一つだけウェルシェに誤算があった。「どうして、言い寄る男が絶えないのよ!」つまり、エーリックの危惧していた通りになってしま