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晴坂しずか
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Romans de 晴坂しずか

久我探偵事務所の灯りの下で

久我探偵事務所の灯りの下で

都会の片隅にある久我探偵事務所で、所長の久我は相棒の間遠と日々の依頼をこなしている。 両片想いでありながら進展しない二人だが、一方で事務員の神崎は相楽から告白され、同棲を始める。 日常の謎を解きながら、少しずつ関係を深めていく二組。 読めば心がほっこりするBLライトミステリー。
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Chapter: 知らない君③
「は?」 久我の目がまん丸になり、神崎と相楽も話すのをやめて間遠を見る。「オレはただ、久我さんが毎日何を食べてるのか知りたくて、昼食をチェックしてたんです。 その……実はオレ、久我さんに一目惚れしてまして」 間遠がすべて告白すると、めずらしく久我は頬を紅潮させた。「な、何だそれは。初めて聞いたぞ」「初めて言いましたもん。オレ、出会った時からずっと、久我さんが好きなんです!」 間遠にとって、一生に一度あるかないかの大胆な告白だった。 一方、久我は上ずった声で言う。「ま、待て待て。落ち着け、間遠」「動揺してるのは所長じゃないですか?」 と、神崎の冷静な声が飛んできて、久我はあわてて咳払いをする。 しかし、それで気持ちが落ち着くはずもなく。「間遠、ちょっと二人で話そうか」「は、はいっ」 久我の後をついていき、間遠は給湯室へと入っていった。 扉が閉ざされたところで、相楽は思わず笑いだしてしまった。「まさか間遠さんが、ゴミを……ストーカーじゃないですか、それ」「しかも一目惚れっていうのも、ストーカーによくあるパターンっていうか」 と、神崎が呆れまじりに言い、相楽は彼を見た。「寿直さんは間遠さんみたいに変なこと、してませんよね?」 神崎は茶目っ気たっぷりに返す。「してないよ。でも、浩介の寝顔コレクションならしてる」「あっ、勝手に撮るのやめてって言ったのに!」「だって可愛いんだもん。おれの寝顔も撮っていいよ」「そういう問題じゃないですよ、もう」 言いながらも相楽は穏やかな顔をしており、神崎も微笑みながらぎゅっと抱きついてくる。「おれね、寂しかったんだ。体を売ってたのは、お金が欲しかったんじゃなくて、愛されたかっただけ」「寿直さん……」「誰でもいいから、必要とされたかった。ひどいことされても、家にいるよりはマシだった。 セックスしてると、そ
Dernière mise à jour: 2026-03-09
Chapter: 知らない君②
 事務所に戻った頃には、すでに六時を過ぎていた。「お疲れ様です」 いつものように声を出したつもりだったが、明らかに元気がない。 如月零から知らされた事実は、相楽を確実に打ちのめしていた。「お疲れ様。レイは現れたか?」 と、久我がたずね、相楽はこらえきれずに息をついた。「ええ、現れました。写真も撮りましたけど、別の人でした」 そう言って相楽はデジタルカメラをかばんから取り出し、久我の机の上へ置く。「また人を雇っていたのか」「そうみたいですね」 元気のないまま返し、相楽は自分の机へ向かう。「浩介、大丈夫? 濡れたでしょ、ストーブついてるから温まって」 と、|神崎寿直《かんざきすなお》に声をかけられて足が止まった。「あ、いや……」「どうかした?」 心配げな神崎の視線が突き刺すように痛い。 彼を見ないようにしながら上着を脱ぎ、ストーブの前へしゃがみこんだ。「……」 無言のうちに、仲間たちが会話をかわしたのが分かる。 元気のない相楽は、相楽らしくない。それは自分が一番よく分かっている。 しかし、どうしても神崎を見られなかった。 すると|間遠桜《まどうさくら》が寄ってきて、横にしゃがんだ。「何か言われたのか」「……バカにされました。自分は普通の学校に通って、普通の大学を卒業したから」「何だよ、それ。っつーか、レイの言うことなんて気にすんな」 優しく間遠は言ってくれたが、相楽は我慢できずに返した。「間遠さん、難関中学に合格したんでしょう? そのまま高校はエスカレーターで、大学はスポーツ推薦で」 自分で口にしておきながら悔しかった。「自分なんかとは、全然違うじゃないですかっ」 涙がこぼれた。凡人であることを思い知らされるのは、これが二度目だ。「お、おい……何でそんなこと」 間遠が戸惑い、久我が割りこむ
Dernière mise à jour: 2026-03-06
Chapter: 知らない君①
 電話を終えた|久我健人《くがたけと》が戻ってきて、|相楽浩介《さがらこうすけ》に声をかけた。「相楽、これから張り込みに行ってもらえるか?」「どこですか?」「新宿だ。僕の弟、康人のアパートに行ってもらいたい」 思いがけない言葉に相楽は目を丸くした。「何かあったんですか?」「先週から毎日、郵便受けにミニカーが入れられているらしい。康人の使っているのと同じ車種、同じ色のミニカーだ」 相楽はぎょっとしてしまった。悪質な嫌がらせではないか。 久我もそうしたことを理解した上で話を続ける。「ついこの前、壁にこすってつけた傷も忠実に再現されていたことから、十中八九、|如月零《きさらぎれい》の仕業だろう」 レイこと如月零が、標的を久我から弟へ変えたらしいことは聞いていた。 しかし、今度はミニカーを|投函《とうかん》するなんて。あいかわらず理解しがたい相手だ。 久我も困惑のような、呆れたような顔をして言う。「そこで現場を押さえて、証拠写真を撮ってほしいんだ。頼めるか?」「分かりました、さっそく行ってきます」 と、相楽は立ちあがった。 今日は朝からやることがなく、ずっと退屈していたところだ。 一月も下旬に入り、依然として厳しい寒さが続いている。特に今日は北風が強いため、体感温度が低い。 相楽は右腕をさすりつつ、康人が住んでいるというアパートへやってきた。 まずは郵便受けの中をのぞき見て、まだミニカーが入っていないことを確認する。 次に張り込む場所として、歩道をはさんだ向かいにある小さな公園へ入った。 康人の郵便受けが見える位置を探し、空いていたベンチに腰かける。真冬の公園で一人、長時間過ごすのは大変だ。 小さなすべり台とブランコがあるだけで、相楽の他には誰もいない。 空もどんよりとくもっており、もしも雨が降り出したら雪になるかもしれない。 近所の住人たちから怪しい人物だと思われないよう、一度立ちあがると、近くの自動販売機で温かい缶コーヒーを買った。 これを飲みながらベンチに座ってい
Dernière mise à jour: 2026-03-04
Chapter: ウカポン友の会③
 もなかの質問は極端だったが、璃久は不快になった様子もなく肯定した。「うん、そういうこと。でも、ボクはあんまり恋愛経験がないから、実際にどうなるかは分からないよ? でもね、だからこそ、わくわくするんだ」 そう言って、璃久は大きな目を輝かせた。「どんな人と恋に落ちて、二人でどんな風に過ごすのか。 ボクには可能性にあふれた未来が待ってるから、毎日が楽しいんだよ」 もなかは呆けたように息をつき、神崎は頬杖をついて璃久を見つめた。「やっぱり、璃久ちゃんはすごいね。その前向きさ、おれにも分けてほしいくらいだよ」「あたしも、ほしい」 ぽつりともなかも言い、璃久はすかさず返す。「もなかちゃんだって同じだよ。可能性にあふれた未来が待ってるんだから、楽観的に行けばいいんだよ。 もしかしたら明日、運命の人と出会っちゃうかもしれないよ?」「そうかな……?」「分からない。でも、それが可能性ってこと」 そして璃久は神崎にも視線を向ける。「神崎さんだって、可能性にあふれた未来が待ってるはずです。これからいくらでも変わっていけるし、成長だってできますよ」 心のうちを見透かされたような気がして、はっとした。 神崎はゆっくりと笑みを返す。「そうだよね。ありがとう、璃久ちゃん」「どういたしまして」 にこりと璃久が笑い、神崎は胸が温かくなった。 璃久が前向きなのは未来を信じているからだ。必ずいいことがあるはずだと、信じて期待しているからだった。「っていうことがあったんだ。すごいよね、璃久ちゃんって」 帰宅した神崎は、キッチンで夕食を作ってくれている|相楽浩介《さがらこうすけ》の広い背中を見ながら言った。「そうなんですよね。璃久ちゃんさん、男性客に絡まれても平気な顔してますからね。 オーナーは何かある度に心配してますが、璃久ちゃんさんは常に前向きで強い人なんですよ」 と、相楽がどこか楽しげに返す。「うん、かっこいいなって思った。すごく肝が座ってたし、
Dernière mise à jour: 2026-03-02
Chapter: ウカポン友の会②
 もなかはシールをたくさんかごの中へ入れていた。 さらに着せ替えマスコットと衣装も入れており、「ずっと欲しかったやつなの」と、はにかんだ。 神崎は限定衣装を着たマスコットとタオルハンカチ、クリアファイルにマルチポーチをかごに入れた。 璃久は手当たり次第にかごへ商品を入れており、ざっと見ただけでも総額は一万円を軽く超えている。 買うものを決めた三人はレジへ並び、会計を待ったのだが。「どういうこと!? ちゃんと三千円以上買ったじゃない!」 急に甲高い怒鳴り声が聞こえて、神崎はびくっとしてしまった。 声のした方を見ると、三台あるレジのうち、一台の前で客と店員がもめている様子だ。「ですから、セール品は除外なんです」 と、若い女性店員が説明するが、女性客の怒りは収まらない。 神崎は心臓がばくばくと高鳴り、頭の中が真っ白になる。――怒鳴り声は嫌いだ。特に|女性《ははおや》の怒鳴り声は。 店内もざわつき始めたところで、前にいた璃久が振り返った。「神崎さん、持っててもらえますか?」「あ、うん」 神崎が彼のかごを受け取ると、璃久はもめている二人の方へ近づいていった。「あのー、ちょっとボク見てたんですけど、お姉さんの買ったもの、確かめさせてもらえますか?」「はあ? 何よ、あんた」 と、三十代らしき女性客がにらみつける。 しかし、璃久は少しも怖気づくことなく返した。「ボクはウカポン推しの者です!」 とびっきりの笑顔がまぶしく、女性客がひるんだのが神崎にも分かった。「お姉さんも、缶バッジが欲しくて買いに来たんでしょう? 可愛いですよね、あの缶バッジ」 にこにこと笑顔で璃久は言い、女性客が戸惑っている隙に、彼女の手にした袋をそっと取りあげた。「というわけなので、確認させてもらいますねー。店員さんも、ちゃんと見ててくださいね」「あ、はいっ」 呆然としていた店員がはっとし、璃久はカウンターに商品をひとつずつ出し始めた。「まずはスマホケースですね。これはいくらでしたっけ?」
Dernière mise à jour: 2026-02-28
Chapter: ウカポン友の会①
「神崎さーん!」 一月も半ばに入り、寒さがより厳しくなった頃。 久我探偵事務所に|名城璃久《なしろりく》がやってきた。 |神崎寿直《かんざきすなお》は手を止めて顔をあげる。「どうしたの、璃久ちゃん」「明日って、空いてますか?」 神崎の机へまっすぐに寄ってきて、可愛い顔をした青年はそう言った。 中性的なショートボブにぱっちりとした目、色白で小柄な背丈から、一見すると女の子のようだ。「うん、特に予定はないけど」「じゃあ、一緒に原宿行きませんか? 実は明日、親戚の子とウカポンショップに行くんです」「え、ウカポンショップ!?」 神崎のテンションが自然とあがり、璃久はにこりと笑った。「三千円以上買うと、限定缶バッジがもらえるキャンペーン中なんです。もしよかったら、神崎さんも一緒にどうですか?」「ああ、SNSで見かけたやつか。あの缶バッジ、いいなって思ってたんだよね」「それじゃあ、ぜひ一緒に行きましょう!」「いいの?」「もちろんです。そのために誘いに来たんですから」 璃久の人懐こい笑顔に、神崎はつられるようにして頬をゆるめた。「それじゃあ、行こうかな」「やったー! じゃあ、明日は十時に原宿駅の改札前でお願いします。お買い物の後、ランチしましょう」「うん、分かった。楽しみにしてるね」「はい!」 そして璃久はにこやかに「お仕事中、失礼しましたー」と、足取り軽く去っていった。 様子を見ていた所長の|久我健人《くがたけと》は言う。「あいかわらず、元気な子だな」「鯉川さんに限らず、あの笑顔を向けられたら好きになっちゃいますよね」 と、神崎は穏やかに返した。 一階にある「Cafe in the Pocket.」で働く名城璃久は、オーナー・長島透子の甥であり、看板娘ならぬ看板息子として人気だった。 中性的かつ可愛いに全振りした容姿は、男性客の多くを無自覚のうちに|虜《とりこ》にしてしまう。 そのためにトラブルも少なくないが、璃久はあまり気にして
Dernière mise à jour: 2026-02-26
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