LOGIN「間遠は今日も可愛いな」「ざけんな、久我さんのバーカ///」 元刑事の【執着・溺愛】所長 × 口は悪いがピュアな【金髪ヤンキー】助手。 進展の遅い両片想いの二人を横目に、闇を抱える美人事務員・神崎は、実直な年下マッチョ・相楽に告白され、同棲を始めることに……!? 中野の街で巻き起こる奇妙な事件。その裏にいたのは、久我に執着する謎多き青年「レイ」。 大切な人を守るため、4人はそれぞれの過去と向き合っていく。 事件の真相と、恋の行方。 都会の灯りの下で、不器用な4人が織りなす「執着」と「救済」の事件簿。
View More「父が、見ず知らずの若い女に
依頼人が帰っていくと、久我はデスクで退屈していた金髪の青年に声をかけた。
「「うーん、これは……」
神崎が困惑したような声を出し、久我は視線を向ける。 「何か見つかったか?」 「SNSで注意喚起している人物がいるんですけど、ホープ・リレーションズではないんですよね」 久我は席を立った。横からパソコンの画面をのぞきこむ。 「詐欺だと訴えていますが、あまり拡散されていませんし、同姓同名かもしれません」 SNSに投稿されていたのは事務所へ戻ってきた間遠は落ちこんでいた。
「近所で聞き込みをしている最中、中山が通りがかったんです。話を聞いていた人は中山と知り合いだったらしく、何気なく挨拶をして……」 「振り返っちゃったんですね」 神崎が呆れ半分に言い、間遠はため息をつく。 「目が合ったんすよ。あの顔、確実に警戒されました」 初日からミスをするとはついていない。しかし、ここでそれを責めても意味がない。 久我は肩を落とす間遠の頭へ、そっと手を置いた。 「気にするな。他にもやりようはある」 「久我さん……やっぱオレ、黒髪にした方がいいすか?」 上目遣いに見つめられ、久我は優しく微笑んだ。 「それはないな。僕は君らしくしている間遠が好きだ」 「っ……なな、何言ってんですかー!」 間遠は顔を真っ赤にすると、一目散に給湯室へ逃げていった。 神崎が冷めた目をして久我を見る。 「所長、何してるんですか」 気まずさを覚え、久我は目をそらしながら返した。 「すまない。間遠があまりに可愛かったから、つい正直な想いを伝えてしまった」 「いつも言ってますけど、仕事中に間遠さんを口説くの、やめてもらえませんか?」 「すまない……。善処する」 「まったく、それでこれからどうするんですか? 間遠さんの顔が割れた以上、もう近所での聞き込みはできませんよ」 「そうだな。父親が買わされたという商品の写真があるから、次はそっちを調べてみるか」 「ネットで見つかるといいですけどね」 すかさず神崎が皮肉り、久我は「僕が調べよう。神崎は他の仕事をしててくれ」と、席へ戻った。楽しく会食が続く中、久我がふとたずねた。「康人はレイのどこがよかったんだ?」「目」「即答かよ。というか、答える前に失礼だとか文句を言うのが普通だろ」「どうせ聞かれるって思ってたからな」 康人はけらけらと笑い、久我は息をつく。「それで、何で目なんだ?」 レイこと如月零は色が白く細身の男で、顔はどちらかというと童顔だ。 彼から敵対する態度が失われた今、どこか守ってやりたくなる雰囲気がある。「切れ長の一重っていうの? あの目ににらまれると、ぞくっとしてさぁ」 と、康人が熱っぽく語り、久我は冷たく言う。「もういい、分かった。お前がド級の変態だってこと、失念してた」「その言い方はひどいなぁ。まあ、否定はしないけど」「まさかとは思うが、自ら僕の代わりに狙われることを選んだのも、不純な動機からなのか?」「いや、あの頃はまだ半々だったよ」「半分あるじゃないか」「だって、見知らぬ他人から蔑まれるなんて、俺にとってはご褒美でしかなかったし? こんなチャンス逃せるかよって思って」 そんな二人の会話を聞いていた間遠は、レイへたずねた。「レイは康人さんのこと、好きなのか?」「いや、好きっていうか……断りきれなかったというか」「あんな変態だけど、大丈夫か?」 困惑した様子で、レイは伏し目がちになった。「分からない。誰かと付き合ったこと、ないから」「あー、そりゃそうだよな。質問したのが悪かったな、ごめん」「ううん、いいよ。それに、康人って犬みたいなんだよね。ちょっと茶々丸に似てるっていうか」 レイが康人へ視線を向ける。 顔の似ていない双子はいまだに言い合っており、仲睦まじい様子だ。 間遠も彼らを見ながら言った。「人懐っこいんだよな、康人さんって」「うん。あっち行けって言っても、追ってくる」「犬だな」 と、間遠は思わず苦笑した。 康人がそんな人だとは思わなかったが、分
やわらかな灯りの下でレイは続ける。「誰もぼくを必要としてくれなくて、いらない存在なんだって、悪夢が……」 彼を蝕んでいたのは、いじめられた時の記憶だ。 茶々丸という、社会とのつながりを保つ唯一の理由を失って、迷子になっていたのだ。「だから、変なことすれば、みんなかまってくれるって、思った」 それが帯裏ミステリーだった。「なのに、タケがずるをした。だからムカついた」「すまなかったな。だが、見過ごすわけにはいかなかったんだ」「追いつめてやろうと思った。ぼくをいじめたやつらと同じだと、思ってた」 その言葉には誰も反応できなかった。ただ、璃久が言う。「ボクもそうなんですけど、人って、自分の知っている範囲でしか、物事を捉えられないんですよね。 新しいことや未知のものを、無意識に、すでにある知識や経験にあてはめちゃうんです」 何人かがうなずき、感心してから、レイを見る。「狭かったな、お前の世界。でも、これからはそうはさせないぜ」 間遠はそう言ってレイの肩へ腕を回した。「いつでもここに遊びに来い。神崎はだいたいいるし、オレがいる時なら話し相手になってやる」 レイが小さく嗚咽を漏らした直後だった。「待て、間遠。僕はまだ許していないぞ」 温かくなりかけた空気が一気に冷めた。「ここは僕の事務所だ。最終的な判断は僕がくだす」 正論だった。「まあ、そうだよな。久我ちゃんの言う通りだ」 と、鯉川は缶ビールを開けた。「ボクは部外者なので黙ってます」 璃久はお寿司をいくつも皿に取り、神崎も言う。「その前に浩介の意見も聞いてやってください」「え、自分? あー、えっと」 注目された相楽は困惑しつつも、立ちあがってレイを見た。「正直、許せません。レイのやったことは悪質だし、事情があったからって同情もしません」 相楽の声は大きくてよく通るだけに、レイの心へまっすぐ届くように思われた。「けど、大事なのは過
レイは理解しがたいと言った顔をする。「でも、いなかったじゃないか」「うん、ここしばらくは忙しいみたいで、顔出してないな。けど、そもそもはゆるく体を動かすのが目的だ」 駅前のベンチから人が減り、夜の静けさが漂い始める。「たとえばサッカーをやりたい人がいたら、同じくやりたい人を集めてやる。 だいたいは休日の数時間で、長時間の拘束はしないのがルールだ」「何、それ……」「人数が多いと試合になることはあるけど、勝ち負けにはこだわらない。 スポーツを楽しみたい人だけが集まってるからな」「……意味分からない」「レイにとってはそうかもな。でも、居心地のいい場所ってのは、かならずどこかにあるものなんだよ」 間遠は経験から知っていた。「伊上がそれを作ってくれて、オレはまたスポーツを楽しめるようになった。 だから、あいつにはめちゃくちゃ感謝してるんだ」 辺りが薄暗くなり、駅前の明かりが存在感を増す。「それでさ、話は少し変わるんだけど、今度はオレが居場所を作ってやれないかって思ってる」「……」「レイ、オレがお前の居場所になるから、来いよ」「来いって、どこに?」 戸惑うレイに間遠はまぶしい笑みを向けた。「決まってんだろ、久我探偵事務所だよ」 意外にもレイは嫌がらなかった。 間遠は扉を開けて中へ入るようにうながし、レイがおずおずと室内へ足を踏み入れる。「お待ちしてました!」 と、開口一番に言ったのは名城璃久だった。 数歩進んだところでレイが立ち止まる。温かい視線ばかりではないことに気づいたのだろう。 実際、久我と相楽はまだ納得していない様子であり、鯉川も困惑顔だ。 にこにこと笑っているのは璃久だけだった。「や、やっぱり帰る」 視線に耐えかねたのか、怯えた様子を見せたレイへ、神崎が声をかけた。「あなたのために用意した料理、無駄にする
「これ、レイのいたずらっすよね?」 間遠桜はそう言ってスマートフォンの画面を久我健人へ見せた。 映っていたのはメッセージアプリのスクリーンショットだ。内容は間遠に対する悪口だった。「送られてきたのか?」 と、久我が眉間にしわを寄せるが、間遠は言った。「璃久ちゃんへの嫌がらせの後、しばらく何もなかったんで、忘れられてなくてよかったです」「……それで?」「今度はオレと遊びたいんだな、って返信しました」「傷つかなかったのか? あんな悪口を言われてたんだぞ」 間遠はスマホを操作しつつ、ちらりと久我を見やった。「別に。だってレイの捏造だってバレバレですし」「そうなのか? だが、どう見てもあれは……」 久我が困惑するのは当然だった。 大学の陸上部の仲間たちが、怪我をして走れなくなった間遠を嘲笑する内容だったからだ。 間遠は自信満々ににかっと笑う。「明らかなミスを犯してるんすよ、あいつ」 そして鯉川宗吾を振り返った。「鯉川さん、今送った画像の解析、お願いします」「明らかなミスしてるって言ってなかった? おじさんがやる意味ある?」「無視するのも可哀想でしょ。とにかく、お願いしますね」 と、間遠は自分の席へ戻った。 鯉川は久我と顔を見合わせて首をかしげるが、間遠はかまわずに今日のスケジュールを確認し始めた。 調査から戻る頃に、またレイからメールが届いていた。 今度は音声ファイルが添付されており、間遠は久我の前で再生した。 古い音声ということにしたいのだろう、ノイズが入っていて聞き取りにくいが、部員たちが間遠の悪口を話しているのが分かった。「すっげーな、レイって。こんなもんも作れるのか」 と、間遠が感心すると、久我は微妙な顔をした。「これも捏造か?」「当然っすよ。っつーか、何か勘違いしてるっぽいな」「どういうことだ?」
久我探偵事務所は退屈だった。後輩調査員の相楽浩介は腕の怪我のため、有給休暇を取得している。 抜糸後に戻ってくるそうだが、調査員は自分だけになってしまった。 間遠桜はデスクに頬杖をつき、木目調のパーテーションをじっと見ていた。 向こう側は応接スペースになっており、今は所長の久我健人が客の対応をしていた。 「私は近藤博といいます。数年前に音信不通になった兄を探してほしいんです」 声の感じからして三十代から四十代くらいだろうか。緊張しているのか、少々早口だ。 落ち着いた調子で久我が返す。 「人探しですね。お兄さんのお名前
相楽がドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。 中に電気はついておらず、神崎は扉を開けたままにしておこうと手で押さえる。 慎重に相楽が部屋の電気をつけた。 「どこに隠れてるんだ? さっさと出てきやがれ!」 挑発する相楽を、神崎ははらはらと見守っていた。 今にも部屋のどこかからストーカーが飛び出してきて、彼に危害を加えるのではないかと怖くてならない。 「どこだ!? おい!」 相楽が声を張りあげ、奥の部屋へ足を踏み入れた時だった。 「っ!?」 突如、背後から腕が伸びてきて神崎は首を絞められた。 「相楽く……っ!」 後ろへ引きずられ、無情にも扉が閉まる。 鍵
初日は何事もなく終わった。翌日は午前九時半に相楽が迎えに来てくれて、一緒に家を出た。 「朝はいないんだよね。いつも駅で待ってて、同じ電車に乗ってくる」 「じゃあ、電車に乗ったら警戒すればいいんですね」 と、相楽。 「うん、そうだね。相手はおれが一度、隣に座ったことがあるだけなんだけど、何を勘違いしたのか、つきまとうようになったんだ」 「厄介ですね。特に言葉をかわしたわけでもないんでしょう?」 「当然だよ。まさか、それだけでストーカーされるとは思わなかったし、最初はまったく知らない人だと思って怖かった」 神崎はため息をついた。またかと辟易したのと同時に、この手の
「まただ……」 郵便受けを見て、神崎寿直は息をついた。 取り出したのは何枚ものメモ書きである。書かれているのは、 「シャンプー変えた? 髪の匂い、いつもと違ってたね」 「今日から長袖にしたんだね。白い肌が見えなくなって残念だよ」 といった類のものだ。 神崎は胸にムカムカしたものを感じながら、郵便受けを閉じて部屋へ向かった。 どこからか視線を感じるが、不快感を表情に出すことなく冷静に努める。 神崎は経験から、反応すると相手を喜ばせるだけだと知っていた。「所長、相談したいことがあります」 翌日の始業前、神崎は耐えかねて久我健人へ