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士狼かずさ
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Novels by 士狼かずさ

ムラサキの闇と月華迷宮

ムラサキの闇と月華迷宮

時は平安、まだ人の世に妖が跋扈する時代のこと。 捨て猫だった「秋華(しゅうか)」は、貴族である「水鏡様」に拾われる。 長く生きるうち、秋華は化猫となっていた。 さて京の都には 「銀髪美少年なる藤の花のあやかし、夕月夜」が 美女をさらっていくとの噂があった。 彼は三度あらわれて、こう問いかける。 1度目は「貴方が想う、一等美しいものを教えて」 2度目は「貴方の名を教えて……」 3度目は…… 3度目の問いは……誰も知らないのだという その夕月夜に、水鏡様は心惹かれていく。 「死化粧師、唐橋 千年」との恋 安倍晴明との出逢い 平安あやかし和風幻想譚が、今はじまるのだ────────
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Chapter: 第三章 一の蝶〜闇の王、転生〜
 「にゃ、にゃあぁぁぁあああああああああっっ」 あたしは精一杯の声を、絞りだした……っ! 生きてほしい! これ食べて、生きてほしいよ! もうどんな姿になってもいいよ、このまま死んじゃダメだよっ! 言葉にしたいけれど、それも叶わない。 声がぜんぶ猫になる。 だから彼の唇のすぐ近くまで、真紅の水蓮を運んだ。鼻先でズイッと前に押しだす。 ねえ、これ食べよ?  お願い、口に運んでよ──────っ! 「そっか……生きてほしい……って、こと?」 「にゃ、にゃあぁああぁ」 「わか……った」 夕月夜が、あたしの頭をふわふわと撫でる。 なんて、愛おしい瞳でみつめるのだろう。 ブルブルと震えながらも、ゆっくりと真紅の水蓮を握りしめた。よ、良かった……! そのまま仰向けになると、夕月夜は真紅の水蓮を口へと運ぶ。 ゴク、ゴクリ。 真紅の水蓮は、たまにブルッと揺れながらも、彼の口の中へと吸い込まれていった。 どうか、どうかお願い。 どんな姿でもいい、生き返って……! ドクン ドクン ドクンッ─────────── 夕月夜の背中がおおきく爆ぜる。 「か……っ!」 喉をかきむしり、震えている。 え、どうしよう。やっぱりヤバイ物だったのかな!? 顔色がみるみる紅く染まっていく、汗は滲み、のたうち、苦悶の表情が浮かんでいる。 「かっ、かは……っ!」 夕月夜は天空に手を突きだし、咆哮した……っ! 「ああああああああああああああああああああああああああああああ」 絶叫─────────── そのまま絶命するように、バウン……っと、地上に体が倒れていった。 しんと世界が静寂に包まれる。 「にゃ、にゃあぁ」 まさか、死んじゃった? 真紅の水蓮って、毒だったのかな。それとも体に合わなかったのかな。 「くっ、ふ……あはは……」 うつ伏せに眠る夕月夜から、ひそやかな笑い声が響いた。 「ははは……は」 笑ってる───────── えっと、真紅の水蓮が体に馴染んだのかな。 肩がふるふると小刻みに動いている。ってことは、生きてるって事だよね……? 「あはははははははははははははははははっ」 夕月夜がゴッ! っと勢いよく立ち上がる。 何、これ 何が起こったの……。 「そうか、これが転生か! いい。命の息吹がほとばしるようだ…
Last Updated: 2026-02-24
Chapter: 第二章 三十九の蝶〜真紅の水蓮〜
 「ここで貴方は、あやかしに転生するのですよ。若君」 「あやかしに、私が?」 「さよう。このまま人の里に戻っても、何ひとつ取り返すことは、できますまい」 静かに荘厳に、人狼の戒は語りかける。 人狼は不老長寿の獣だと、聞いたことがあるわ。 この戒って男も、肌はプルップルで20代に見えるけれど、きっと|数多《あまた》の死線をくぐり抜けてきたんだろうな。戦い抜いてきた男の、説得力が感じられた。 「この真紅の水蓮を、食べるのです」 「真紅の、水蓮……?」 「これを食べれば『サトリ』と言う名の、妖怪へと転生できる」 片手にたずさえた、銀の布袋。 そこから現れたのはドクンドクンと脈打つ、まるで心臓のような水蓮の花であった。なんか……震えてる。キモッ!! 生きてるみたいで気持ち悪いよ〜!  こんなん食べたら、お腹壊すんじゃない? 「サトリって、どんな妖怪。強いの?」 「これは只のサトリではありませんぬ。千年、鬼に寄生して生きた『サトリ』の血を抜きだし、生成したモノ」 「えええええ、なんか怖いよ……っ!」 めっちゃ怖い。 夕月夜もイヤなのか、拒否反応を示した。 そりゃそうだ。戒はそれでもこの禍々しき、紅い水蓮を食べさせたいと告げる。 「この水蓮を食べて『サトリ』になりなされ」 藤の大樹の根元にて、戒は語りつづける。 背後にユラユラと揺れる花びらは、さながら紫の鈴のよう。花弁の舞い降るこの場所で、生き残ったあたし達は、静かに戒の話に耳をかたむけていた。 「これを食べれば記憶はそのままで、今よりはるか強靭な肉体を持った、貴方へと生まれ変わるはず」 「はず? 戒、君は食べた事あるの?』 「いえ、私はありませぬが。この水蓮を生成しておりました」 「君が作ったんだ! それは凄そうだけど……まだ私は人でありたいよ」 「しかし、今の体では、都を取り戻すなど……っ」 ヒュン──── 夕月夜と戒の間に、ザシュ! っと槍が地面に刺さる。 殺気を感じて、うしろを振り返る。 そこには、赤錆色の甲冑を纏った敵の大将が一人、刀をギリリと握りしめて立っていた。刃の切先は、まっすぐに夕月夜を指している。 「どうもこの隠れ里には、強い者しか入れないようですなあ〜。若君」 「なっ、貴様どうやってここまで!」 「こっそりと追いかけてきたのよ」 「他に追手
Last Updated: 2026-02-23
Chapter: 第二章 三十八の蝶〜紅い夢〜
 「父上、母上────っ!!」 「おい、待ちやがれっ!」 武士の一人が刀を振り上げて、あたし達に向かってくる。 夕月夜の父上が、追いかける武士の背中にザシュ! っと、|一太刀《ひとたち》浴びせた。 「うおおおおおおおおおおおおおおっっっっ」 だが他の武士たちが、次々に父の体を、斬り裂いていく……っ! 「うっが……っ!」 「父上────────っ!」 逃げていく子ども達。 夕月夜だけが一人、ふりかえった。 血に染まる彼の父上は、刺さった刀をグッと握りしめる。まるで、その先に行かせまいとするように……! 「ゆう、づき……よ。生きろ……っ」 「父上……っ」 「どんな姿でも、いい。絶対に……しあわ……せに……っ!」 「そんな……」 その時。一陣の風のように、何かが夕月夜の体を|攫《さら》っていった。 「若君、ふり返りませぬぞ。まずは生きねば、|仇《かたき》も討てますまい」 「君は、人狼の……っ」 「|戒《かい》にございまする。風河さまの代わりに、この上は俺が、若君を守りましょうぞ」 漆黒の短い髪。前髪の一部分だけが紅く染まっていた。 戒と名乗ったその男は、あたしごと夕月夜を抱えて、ただただ疾走する。漆黒の着物に、緋色の帯。一度もふり返ることなく草を蹴った。それは、ものすごい速度で。 鮮血に塗れたあの地獄から、どんどん遠く離れていく。 あれは紅い夢。 もう二度と、見たくもない現実。 「どうして、それでも生きなきゃならないの……っ」 泣きじゃくる夕月夜の、涙の雫。 あたしの頬にポタポタと降りおちる。 まだ幼いだろうに、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの? ただ『人と妖怪が、ともに生きられる世』を……そう願っただけであろうに。こんなのは嫌だ。いくら敵だからって、まだ小さな子どもが……こんな目にあっていいワケないよ! 「貴方はそれでも、あやかしの夢にございますれば」 「私が、夢?」 「そうです。残された妖怪と子ども達には、貴方が必要だ。新しい|長《おさ》になっていただかねば」 「長なんて、私には……なれないよっ」 「いいえ、貴方にしかなれません」 強くキッパリと、戒が言い放つ。 いつの間にか、長岡京を離れどこかの山奥に辿りついていた。生き残ったのは子ども達5人と、夕月夜の父上に仕えていたであろう妖怪達が、2
Last Updated: 2026-02-22
Chapter: 第二章 三十七の蝶〜鮮血の果ての楽園〜
 「この都は、人と妖怪がともに暮らせるようにって……藤原種継さまが作ったんだ」 「父上?」 「だから、こんな景色になるなんてな」 まるで、初めから湖であったかのように、水没する長岡京。 その景色を呆然とみつめながら、夕月夜の父上とみられる男が、つぶやいた。 「呪われし都か。これから一体、どうすれば良いのか」 「しれた事。新しい都をつくればいいのよ」 「え……?」 背後から、禍々しき人の気配。 それは槍や刀、武器をもった人々の群れ。 夕月夜の腕の中から、チラリと視線を向ける。 「|銀紫《ぎんし》の牙、風河殿とお見受けしたが、ご本人であるか?」 |赤錆《あかさび》色の甲冑に身を包んだ武士が、ゆっくりと近づいてきた。なんだろう妙な気配だ。あたしはザワザワと胸騒ぎを覚えて、キュッと夕月夜にしがみついた。 「ずっと探しておりました」 男は鋭い目つきで、スラリと刀を抜いた。 無精髭に鋭い目つき。体中から殺気がみなぎっている。……嫌な感じ。なんか、逃げた方がいいかも。 「探しておった? そなたに会った事などないが」 「この都には、妖怪などいらないのですよ。風河殿」 「……何を言って」 ザシュッッ──── 「きゃあああああああああああ」 「父上────────っ!」 左肩を|袈裟懸《けさが》けに斬られた! え、夕月夜の父上の肩から鮮血が……吹き出した。 「もう、長岡京は終わりじゃよ! 妖怪など、新しき都には不要な存在っ!」 「うおおおおおおおおおおおっっっ」 「いやああああああああああああああっっっ」 あちこちで悲鳴があがる。 鮮血と、紅い血|飛沫《しぶき》。 なに……これ、|此処《ここ》は地獄……? 「ち、父上が。どうしてっ?」 「くっ……死なせるものかああああああ……っ」 あたしを抱きしめる夕月夜を、彼の父が必死でかばっている。どんなに刃がザシュザシュと音を立てて、この人を貫いても、夕月夜を守るために……! 「聞いたよ。この都は昔、妖怪と人の楽園にするために生まれたんだってな」 「そう……だっ、種継さまはそう約束してくれた……っ!」 風河という夕月夜の父が、敵の刀をガシン! っと、両手で受け止めた。 だが、力が強い。上からギリギリと押さえつけられている。 「だが、その結果がどうだ? 桓武天皇の親族は次々に
Last Updated: 2026-02-21
Chapter: 第二章 三十六の蝶〜鈴丸とのやさしい記憶〜
 ──『ここから先は、都の最後を見てもらうわ』 「また脳に響く声? もー! 一体、誰なのよ〜!」 まただ! 姿は見えないけれど、誰かがあたしに頭に語りかけている。 こんな精神の病気があるって聞いたけれど、そういうんじゃない感覚。妖術っぽいんだよね、この声って。 ──『いいから。長岡京の終焉を目に焼きつけて、秋華』 「長岡京の、終焉?」 ──『覚えていてあげて、あの忘れじの都の記憶を……』 その声が脳裏に響いたとき、あたしの体は、藤の花びらに|攫《さら》われた。 激しい旋風が巻きおこり、夕月夜の腕の中にいたあたしの体は、ムラサキの渦の中に吸い込まれていく。 「ちょっ、今度はどの時代よおおおおおおおおっっっ」 絶叫したけれど、藤の花びらが視界を染めていく。 意識が遠のいていくような、花の渦に堕ちていったの──── ◇ 「川が氾濫した! みんな逃げろおおおおおおおっっ」 「洪水じゃ、もっと高い所へ!」 「逃げて! いや、水がああああああっ」 「こっちじゃ、はよう走れ────っっ!」 ……|慟哭《どうこく》が聞こえる。 叫び声に弾かれて、あたしは眠りの淵より目醒めた。 「ここ、どこ?」 「雪椿、高いところへ逃げるよ!」 夕月夜だわ。 前に見た時よりも、年齢がすこし上な感じがする。 前の時代から、何年経ったのだろう。艶やかな銀の髪は、腰まで伸びていた。あたしは両手をサッと確認する。 「白い、もふもふの手だわ」 やっぱり、カラダは白猫のままだ。 この時代でもあたしは、雪椿の見た目なんだな。 彼女を通して、瞳に刻まれた「記憶」を見ているんだろうか? 「夕月夜、待って〜!」 「一緒に逃げようっ!」 「早く、もっと山の上の方へ!」 |籠《かご》のスキマから、夕月夜を追いかけて走ってくる人影がある。あ、あの頃、神社でいっしょに遊んでいた子どもたちだ! おさない頃の面影があった。みんな洪水を避けるために、必死で疾走する。 「この道を登れば、きっと助かるからな!」 「父上、大丈夫ですか!?」 「ああ、みんな一緒だからな。大丈夫だ!」 夕月夜に抱えられた|籐籠《とうかご》の中、スキマから見えた光景。 「こんな……水の都じゃないか……っ」 山の頂きから見た長岡京は、いちめん水に沈んでいた。 かつて麗しの都と|謳《うた》
Last Updated: 2026-02-20
Chapter: 第二章 三十五の蝶〜あたし、雪椿になる〜
 絶賛! あたしは今、夕月夜に抱っこされている。 「|何故《なにゆえ》あたし、白猫になってるの?」 そんな疑問が脳裏をめぐるけれど、撫でられれば喉が自然に、ゴロゴロと鳴ってしまうのだ。うーそんな自分が歯|痒《がゆ》いっ! 「どうした、雪椿。抱っこは好きであろうに。今日は暴れるねえ」 なんか夕月夜、先刻からあたしの事「雪椿」って呼ぶよね。 あたしは秋華! そんな名前じゃないし。 雪椿って、あの白銀の髪に、真っ白い着物の少女と同じ名前でしょうに。 どうして、そんな名前を──── 「あ、まさか……あの子も化け猫……?」 突然、|腑《ふ》に落ちる。 雪椿にかけられた呪術で、あたしはどうやら過去の世界に飛ばされたらしい。これは想像だけど、あたしは魂だけが飛ばされて、化け猫である「雪椿の過去の体」に「憑依した状態」なんじゃないかしら?  「それならば、納得できるわ」 これは声に出してみると 「にゃああぁぁ、にゃーあああああん」 と変換される。うーん、全然ヒトの言葉になってないよ〜っ!! もうーこれじゃあ、ただのカワイイ猫ちゃんじゃないよおぉぉ。 めちゃくちゃ困るんだけどっ。腕の中でジタジタしていると、夕月夜が神がかった美しい顔で、優しく告げたのだ。 「大丈夫だよ。君が怖いことから、どんな事をしても守るからね」 その笑みには、あまりにも|清廉《せいれん》だ。 なんの毒気もなくて……あたしは思わず、呆気に取られてしまった。 ……何、この夕月夜? あたしが知っている夕月夜は、こんなに純粋そうな瞳で見つめたりしない。麗しいけれども、もっと苛烈だった。魔性の皇子みたいな、そんな雰囲気だったわ。 ここにいる夕月夜が光の皇子なら あたしが出逢ってきた彼は、闇の皇子。 どうして、変わってしまったんだろう? 喉をナデナデされながら、そんな疑問が駆け抜けていったの。 「大変です、夕月夜さまーっっっ!」 神社の玉砂利を踏みしめて、品のある着物を纏った女が、走ってやってきた。|下仕《しもづかえ》(雑用をする)の女であろうか? その顔は切迫している。走ってきたのか、ゼイゼイと息を切らせていた。 「急いで、お屋敷にお帰りください」 「どうしたの。何かあったの?」 「桓武天皇の奥方様が、亡くなられました」 「え……っ!」 その言葉に、夕月夜の
Last Updated: 2026-02-19
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