ムラサキの闇と月華迷宮

ムラサキの闇と月華迷宮

last updateLast Updated : 2026-03-20
By:  士狼かずさCompleted
Language: Japanese
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時は平安、まだ人の世に妖が跋扈する時代のこと。 捨て猫だった「秋華(しゅうか)」は、貴族である「水鏡様」に拾われる。 長く生きるうち、秋華は化猫となっていた。 さて京の都には 「銀髪美少年なる藤の花のあやかし、夕月夜」が 美女をさらっていくとの噂があった。 彼は三度あらわれて、こう問いかける。 1度目は「貴方が想う、一等美しいものを教えて」 2度目は「貴方の名を教えて……」 3度目は…… 3度目の問いは……誰も知らないのだという その夕月夜に、水鏡様は心惹かれていく。 「死化粧師、唐橋 千年」との恋 安倍晴明との出逢い 平安あやかし和風幻想譚が、今はじまるのだ────────

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Chapter 1

零の蝶〜夢幻の雨〜

 「明日は百鬼夜行ですものね」

 聞いたことのある声────────

 殺気を感じてふりかえると、夕月夜と水鏡さまがこつ然と立っていた。

 冬に咲く藤の花、満開のその下で。

 今あたしは、捨て猫だった自分を拾ってくれた恩人。

 水鏡様と戦っている。

「この日をずっと待っていたわ。さあ、一緒に行きましょう。秋華しゅうか

水鏡みずかさま、あたしは行けない」

 光をうけて、夕月夜ゆうづきよの銀の髪が煌めいている。

 紫紺の瞳に雪華の肌。

 藤色の着物に、瑠璃色の帯。その細い帯布から藤が一輪、かんざしのように揺れていた。

 「傾国の美少年」と噂されるだけあって、夕月夜はムラサキの闇から浮かび上がるように美しい。負けない、きっと水鏡さまを取り戻してみせるから……!

 夕月夜の隣で、水鏡さまは紅蓮の炎を纏ったような単衣に身をつつみ、あやしく微笑みを浮かべる。腰より下まである銀髪は、さながら流れる河のようだわ。

 緋色の瞳を細めると、ゆっくり長い爪を、私に向かって指さした。

 「夢の中は、まほろば。誰も死ぬ事のない理想郷。さあ、此処にいらっしゃいな」

 「水鏡さま」

 「醒めない夢の中でなら、貴方の願いも叶うのよ……」

 懐かしい声。

 あたし、水鏡様が好きだった。だけど今は、絶対に負けられない理由があるんだ!

 刹那、夕月夜の手の平から金色の光が瞬いた。

 その光が明滅し、大きな玉となる。何かの秘術だろうか、人の顔ほどの大きさまで膨れ上がると、まるで球遊びのように夕月夜はその輝きを、私に向けてポンと放った……!

 「散れ。花火の如く」

 「まだ散るわけに、いかねーんだよ!」

 「千年ちとせ!」

 ああ、千年だ……! 

 彼が光の玉を、刀で弾いた!

 空へと放たれた球は、空中で花火のように爆ぜた。グラリ、ふらついたあたしを片手で抱き寄せると、千年は夕月夜に向かい、言の葉を紡いだ。

 爆風で藤の花びらが……桜のように乱舞する。

 紫の花霞に千年の横顔が、クッキリと浮かび上がる。それはこの世の何よりも、美しく見えた。

 人が死ぬ間際、最期の声を聞くという「死化粧師」。それが彼の仕事だった。

 今は、ワケあって陰陽師をしている。

 深紅の着物に、漆黒の袴。

 肩まで揺らめく金色の髪。さながら異国の人みたいだ。

 瞳は紅の色をして、まっすぐに夕月夜の姿を映していた。

 あたしは化猫で彼は人。だからきっと、この恋は叶わない。でも戦ってる時だけは、ヒトの恋人みたいに……くっついていて、いいよね?

 「憎しや……。人の分際で、夕月夜さまの邪魔をするとは」

 夕月夜はその言葉を受けて、涼やかに笑みを浮かべる。

 「水鏡、いいよ。私がこの猫ちゃんに昔を思い出させてあげるから」

 「昔を?」

 「出逢った頃の記憶さ、あの頃に連れていってあげよう」

 夕月夜の、花のような笑み。

 その瞬間、雷のような波紋が、彼の周りを丸く囲んだ!

「記憶の柩より生まれし、螺旋の糸よ!

 典雅なる時の調べに、過去へといざなえ

 幻・夢・招・来────────」

 夕月夜が詠唱する。

 すると世界が一瞬にして霧に包まれた。藤の花で紫紺に染まる空間に、真っ白な煙がモヤモヤと周囲を覆っていく。えーーっ、なにこれ!? 視界がどんどん白に染まっていくんだけどっ。

 「気をつけろ、秋華! 脳を焼くような甘い薫りがする……!」

 「わかった、気をつけるね! 千年」

 「危ないと思ったら、俺を呼べ! きっと、どこへだって駆けつけるから!」

 彼の金髪も、白に染められていく。

 あたしは甘美な匂いに包まれながら、意識が遠のいていくのを感じたの……。

 雨────────

 さっきまで、藤の花が咲き乱れる場所にいたのに。

何であたし、ここにいるんだろう?

 ザ────────

 水たまりに、自分の姿が映る。あれ?

 そこには黒い、小さな猫が映っていた。

 これって多分、幼い頃のあたしだ。

 え、なんで、どうして?

 あたしは猫として暮らすうち、化猫に進化していったのに。疑問に思っている間もずっと、雨粒がザンザカあたしの体を濡らしていく。

 やばい。冷たい雨が、体温をどんどん奪っていくよ。寒い……!

 このままじゃ、あたし死んじゃう……!

 どうしよう、人も通らないし。

 目の前には、木造の大きな屋敷があるばかりだ。立派な扉は、固く閉まっていて雨宿りするような場所もないよ。か、体がブルブルと震える。

 こんな所で死にたくない……っ!

 死にたくないよおおおお多おおおおおおおおおおおおっっ!

「どうしたの、あなた一人ぼっちなの」

 顔をあげると、そこには……

 初めて出逢った日の水鏡さまがいた。

「にゃあ」

 何か話そうと思ったけど、幼いあたしの舌では上手く言の葉を紡げない。ただの子猫の声が喉から響いた。少女姿の水鏡さまが、和傘であたしを雨から覆いかくす。桜色の傘に、桜色の着物。

 ……覚えてる、覚えてるよ。

 記憶の底で、愛しい何かが疼いた。

「かわいい〜! 黒猫かあ。キレイね、あなた気に入ったわ」

 彼女は砂利と泥にまみれた体を、清い布でふいてくれた。

 喉が勝手にゴロゴロと音を奏でる。だってちょっと安心したから。彼女は優しくあたしを抱き上げると、さわさわと頬ずりをする。

 冷たく、ないのかな……?

 あたし、まだけっこう濡れてるのに。

 「ねえ、一緒に暮らしましょう。大丈夫! 父上と母上には、上手にお話しするからね」

 くしゃくしゃの微笑み。

 ああ、水鏡さまだ……!

 ずっと、ずっと会いたかったよ。

 夕月夜って妖怪に、心を囚われてから、水鏡さまは随分変わってしまったもの。前はこんな風にあたしと、屈託なく遊んでくれていたよね。

 「危ないと思ったら、俺を呼べ! きっと、どこへだって駆けつけるから!」

 ドクン。心臓が冷える。 

 ────────そうだ、思い出した。

 ここはきっと、結界。夕月夜の術で閉ざされた空間なのだろう。そっか、あたし戦わなきゃいけないんだ!

 無くしたくない想い出の中で、千年の声が脳に響いている。

 これは十年前の光景。

 きっと元の世界に戻るには、ここを破壊しなきゃいけないんだろう。空とか割ればいいのかな? バッキバキに壊してやるんだから!!! だってあたし、帰らなきゃいけないし。きっと千年が待ってるよねっ。

 そう思いながら、キッ! と頭上を睨むと、そこには……。

「あなたの名前は秋華よ。いっしょに帰ろう、わらわの家へ

 眼前で、懐かしい笑みがこぼれていた────────

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百鬼じゅん
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2025-11-20 22:19:47
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