Chapter: 第50話 決戦②圧倒的な強さであった。3人がやられる姿を見ていたミーナは、目の前のグレンを見て改めて思い知らされる。「(…3人がこんなにもあっさり…。)」分かってはいた。分かってはいたけど、まさかここまで…。ーー私達は、強くなる為に沢山修行してきた。北の大国との戦争だって、皆んなちゃんと生き残れた。ーー強くなったって、その成果を皆んな実感していた。ーーなのに…。目の前でネルとライクとニケルを一瞬で倒したグレンを目の前に、その努力は無駄だったと言われているみたいであった。ミーナはそう思うと、いつの間にか刀を持つ手が震えていた。その様子を見ていたグレンは、ミーナを見て言った。「…お前、その刀…。」ミーナが持つ刀に見覚えがあるグレン。そう。グレンはミーナの父親であるアガレフの弟子である為、アガレフの刀である煌光心(きこうしん)をよく知っている。アガレフが死んだ事を知らないグレンは、何故ミーナが持っているのか分からなかった。刀の事を聞かれた事により、ミーナは父親の事を思い出すといつの間にか震えが無くなった。ーーお父さん。…そうね、ここで怖気つく訳にはいかない。これは、私が選んだ事なんだから!まるで死んだ父親が心を落ち着かせてくれているみたいであった。そして父親を思い出す事により恐怖心が無くなったミーナは右手で刀の柄を持ちながら言った。「…これは、私の死んだお父さんが私に託した刀。煌光心!この煌めく光の心が、あなたの復讐を断ち切る刃(やいば)となる!」死んだお父さん。それを聞いてグレンは理解した。「(そうか。…ミーナがその刀を持っているという事は、呪いが発動したのか。そうまでして、娘に会いたかったのか。)」グレンはアガレフから[愛反する呪い]について聞いている為、ミーナが刀を持っている事からその時の状況を察した。ーー今の俺には…関係無い。「…お前の剣術がどんなものなのか見てやる。最初は手加減してやるよ。今の俺とお前とじゃ、戦いにすらならないだろうからな。」あの時、レミールでミーナに修行のアドバイスを出していた時と同じ様に、グレンはミーナにハンデをあげようとした。(第22話参照)「俺はこの場から動かない。黒炎も使わない。だから、好きな様に掛かって……」その刹那。グレンの左肩から縦に掛けて斬り傷が出来、その斬り傷から血飛沫が飛んだ。光の速度
Last Updated: 2026-09-20
Chapter: 第50話 決戦それから各々、これからの動きについて再確認した。まず、グレンが待つ竜の遺跡に行くのはミーナ、ネル、ライク、ニケル。この4人は日が変わる時間に出発する。カイル、エミル、フィナ、ギンジ。そしてグロードは現在戦闘不能の八握剣(やつかのつるぎ)に代わり、北の大国が隠し持つ魔導兵器に備えてノームで待機。そしてアルバスとロゼアは再び地下牢へと連れて行かれる事となるだろう。話し合いが終わり、全員が動き始めようとするとライクがグロードの所へ行く。「グロード。…さっきは、殴ってすまなかった。」ライクは怒りに任せて殴った事をグロードに謝罪した。「良いんだ。ライクのお陰で、改めて自分を戒める事が出来た。逆に感謝する。」グロードは優しくそう言い、先程殴られた事に対しては気にしていない様子であった。「…あの。」するとライクの後ろから彼を呼ぶ声が聞こえる。「ん?あんたは北の大国の…。」「はい。ロゼアと言います。」話し掛けてきたのはロゼアであった。「さっき、あなたはグレンという男の事を思って怒っていましたけど。その、グレンとはどういった関係なんですか?」「関係?そんなもんねえよ。会った事もねえし。」「会った事もない?それなのに、どうしてそんなに怒れるんですか?」不思議で仕方なかった。見ず知らずの人の為にそこまで怒れる理由がロゼアには分からなかった。分からないが為に、その真意が気になったのだ。「言葉で説明すんのは難しいけどよ…何だろうな…。」「グレンって奴のされてきた事を俺に置き換えたらどう思うか。そう考えたら辛かっただけだ。」「会った事も無いし俺の勝手な想像だけどよ、俺はそうやって自分に置き換えて人の気持ちを考える様にしてんだ。間違ってても良い。分かろうとする気持ちだけでも、相手と理解し合える一歩に繋がんだよ。」ライクの言葉にロゼアはエミルに言われた事を思い出す。「直接的な解決にならなくても、あんたがそうやって言い続ける事で必ず誰かが理解してくれる筈だよ!私も、今回の事であんたの辛い気持ちが少しだけ分かったわ!」「それに、自分の気持ちを誰かに打ち明ける事で自分に掛かる負担も減るわ!1人で抱えてた物が分散されるから、気持ちも軽くなるの!無駄な事なんて、絶対に無いわ!」言い続ける事で必ず誰かが理解してくれる筈。自分の気持ちを誰かに打ち明ける事で自
Last Updated: 2026-09-20
Chapter: 第49話 宣言③ネルの空間移動で全員東の大国の城に転移した。現在この城は北の大国との戦争で負傷した者達を治療する救護所の様になっていた。この国の人達は既に他国へ避難誘導は終えている為、建物の被害に比べると人的被害は最小限に抑えられている。しかし、先行部隊とはいえ特殊特攻部隊との戦いによって数多くの負傷者が居た。八握剣(やつかのつるぎ)のメンバーはギンジ以外全員が負傷していた。バンジョウはラーケウスの毒に犯されていたが、体内の毒素を早急に取り除いた為、しばらく身体を休めれば元の状態に戻るそうだ。ゴウシ、ルキア、ヒナタ、クロツチはロゼアの痛み共有(シェア・リンク・ペイン)で多数の銃弾を受けた事により、意識は戻ってはいるものの安静が必要な状態だ。スイゲツに至っては、意識は取り戻したもののロゼアが首を刺した事により腕に麻痺が少し残っている。完全に治るかどうか分からない状態だった。現状、八握剣のメンバーはすぐには戦えない状態である。一方、フィナとライクとニケルは。「………おかわり!」「僕も!」机に座りながらガツガツと何かの丼ものを貪る様に食べていた。既に1人だけで10杯の器が重ねてある。彼らもラーケウスの毒を多量に吸っていた筈なのに、他の人達に比べると回復が早かった。寧ろ普通の健常者より元気そうな感じもする。「…ライク、ニケル。」カイルが呼びかける声にライクとニケルは気付き、箸を止めてみんなの方を見た。「おお、皆んな!無事で良かったぜ!」「本当に!皆んな生きてて本当に良かったよ!」ライクとニケルはそれだけ言うと、再び丼ものを食べ始めた。「…えっと、あんた達…。毒を喰らってこっちに運ばれたって聞いたんだけど…。」エミルは聞いていた情報と、目の前の光景とが合わない事に戸惑っていた。「なんか、月の民だから毒の治りも早いみたいよ。」近くのベッドで上半身だけ起こしていたフィナは呆れた様にライク達の補足をした。「!…フィナさん!もう大丈夫何ですか?」「ええ。私は鎧を砕かれただけで、致命傷になる様な傷は無いから大丈夫よ。」フィナもアルバスとの戦いにより負傷していたが、大きなダメージにはなっていない為、すぐに回復していた。東の大国は医療が発展しており、更に国中の医師達が集まっている為、適切な処置が迅速に行われていたのだ。その為、重症だった八握剣(や
Last Updated: 2026-09-18
Chapter: 第49話 宣言②時は少し遡る。ここは東の大国。そして、上空から突然、北の大国本隊の魔導戦艦が50隻現れた場面に戻る。上空は朝方の筈なのに、その50隻の魔導戦艦によって空に浮かぶ雲の様に覆い尽くされる。世界が絶望の色に染まったかの様であった。「何で…北の大国には、グロードさんが居る筈なのに…。」上空を飛行する魔導戦艦を恐怖に満ちた目で見つめながら口を開くミーナ。「…グロードさんが…あり得ないよ。少なくとも、肉体的に何かあったとは考えられない。」「カイルの言う通りだ。あの人がやられる訳が無い。あるとすれば……」ネルでも持っていなかった情報。それは魔導戦艦の隠してある場所である。魔導戦艦の性能を知っていたネルは事前にその事を全員に伝えていたが、肝心の隠し場所まではネルでも把握しきれなかったのだ。当然といえば当然。軍事国家に限らずどの国でも兵器の国外流出は命取りとなる。その為、兵器はより見つかりにくい場所に隠しておきたいものだ。「グロードさんでも、奴らの兵器の隠し場所は見つけられなかったのか……分身の僕に告ぐ。魔導戦艦で、奴らに魔導砲・アステリアを放て。」ネルは先行部隊が乗っていた魔導戦艦を奪取した分身達に向け、無線機で命令した。すると、上空に飛行する1隻の魔導戦艦が50隻の魔導戦艦に向けて魔導砲・アステリアを放つ。しかし、放たれた魔導砲・アステリアは50隻の魔導戦艦に当たる事なく、霧散し消えていく。そう。本隊の魔導戦艦は全て無効魔力機構(アンチ魔力システム)が働いている為、魔力を凝縮した高出力のアステリアであってもそれらの攻撃を無効にする。攻撃を無効にするだけで、同じ様に魔導砲・アステリアは放つ事が出来る為、今度は本隊の魔導戦艦が同じ様に魔導砲・アステリアを放った。そしてネルが奪取した魔導戦艦は呆気なく破壊される。魔法が通じない上に、破壊力のある力を保有する。魔法社会においてこれ程脅威になる事はないだろう。正に、人という罪深き存在が生み出した負の産物である。「……こうなったら、僕がやるしか無いのか…。」「おい、待てよ!幾らネルでもあの数相手は無理だ!」「僕以外に誰がやるんだ?取り敢えず、擬似・ブラックホールで魔導砲を止める事は出来る筈だ。」「そんなのいつまでも保つ訳ねえだろ!?」「じゃあ、このまま黙って見てれば良いのかい!?」カイル
Last Updated: 2026-09-14
Chapter: 第49話 宣言先行部隊が東の大国ノームの領空内に侵入する前に戻る。ここは北の大国よりも数千kmほど離れた地点。北の大国の先行部隊の魔導戦艦が東の大国へ攻め込む時期を見計らい、グロードはゆっくりと歩きながら進んでいた。[溢れ出る自噴の呪い]によって魔力が常に溢れ出てくるグロードは魔力を隠す事が出来ず、安易に近づけば北の大国にとってはそれだけで脅威となりうる。グロードが空間移動ですぐに北の大国に侵入しない理由は2つある。1つ目は、北の大国の中心都市部には高さ60mはある巨大な外壁が周囲を覆っており、その外壁には無効魔力機構(アンチ魔力システム)というものが働いている。無効魔力機構(アンチ魔力システム)とは、名前の通り魔法を無効にする力があり、空間移動などで外壁の内側に侵入する事を阻害する。魔法で無から作られた炎や雷など、魔力に満ちた攻撃は全て通らない。この外壁は他国から攻められても、中心都市部にある軍事施設の破壊や技術の流出を防ぐ為に作られた。その為、北の大国は今まで戦争によってここ何100年も危機的状況に陥った事がない。2つ目の理由。これはあくまで予想の範囲内である。先行部隊の魔導戦艦を空間移動で転移させた後、しばらくの間は本隊の魔導戦艦を空間移動させる事が出来ないのだと考えた。これは魔力のエネルギーでは無く、転移させる為のシステムの負荷量の問題だと考える。巨大な魔導戦艦を転移させるにはそれだけシステムに大きな負荷が掛かる。これは機械が許容範囲を超えた際に起こる過熱状態(オーバーヒート)に近い。それを冷却する時間を確保する為、先行部隊を送り込んだ後、本隊を送り込ませるのに時間が掛かるのだと、グロードとネルは考えた。もしグロードが最初から空間移動で北の大国の領域内に現れた場合、ベリエルが作戦を変えて本隊を先に空間移動させる可能性がある。そうなれば東の大国は終わりだ。本隊は先行部隊である特殊特攻部隊がそのまま50隻分攻めてくるのと同じ戦力だとネルは言っていた為、これだけでも圧倒的な力である事が分かる。だからこそ、グロードは慎重に足を運んだ。魔力で自分が見つからない様に。そしてしばらくするとネルから無線で連絡が来た。「グロードさん。北の魔導戦艦が現れました。2隻です。僕達の予想通り、奴らは先に先行部隊を送り込んできました。」「了解。じゃあ、
Last Updated: 2026-09-10
Chapter: 第48話 意思の欠如③そして現在。アルバスはネルによって地上に叩き落とされ、クレーターの出来た地面の中心に仰向けで倒れていた。自分の過去を思い出しながら、上空を見つめている。ーー何故、自分はこれ程何も思わなくなったのか?過去を思い出してもその理由が理解出来ずにいたアルバス。今まで他人に言われた事が正解だと思い自分で考えて生きてこなかった。正解と不正解の基準も、全て上の立場の人に委ねた結果、自分の生き方の何が間違いなのかを見つける事が出来なかった。そして先程戦っていたネルが上空から空間移動で倒れたアルバスの前に転移して現れる。ネルはアルバスを見下ろしていた。「何してるの?立ち上がらないのかい?」抵抗の意思を全く示そうとしないアルバスにネルは聞いた。「……もう身体を動かせない。これ以上の抵抗は無意味。」北の大国の理念では「敗北よりも逃亡や降伏の方が恥ずべき行為」である為、アルバスの性格上動けるなら死ぬまで戦うだろう。しかし、そうしないのは彼の言う通り、本当に身体を動かせないからだろう。自分の身体的な状態を把握してるからこそ、無理な抵抗はしないのだ。「今僕に負けそうなのに、悔しく無いのかい?僕に対して、腹が立たないのかい?」ネルは更にアルバスに対して質問を続ける。「……」「答えなよ。どうせ今の君には何も出来ない。何も出来ないなら、せめて僕と話をしたらどうなんだ?」「もう一度、さっきの質問をするよ。君は、何の為に戦ってるんだい?」黙り込もうとするアルバスに問い掛け続けるネル。自分の敵になる人は容赦なく攻撃してきたネルであるが、何故かアルバスにだけ対話を求め続ける。何故なのか?「君の事を見てると、何も考えずに人を殺して自分を満たそうとしていた昔の僕自身を思い出す。」「僕はある人に言われた。それは愛情の代わりになる何かを満たす行為だと。」それはシルフでグレンに言われた事であった。(第20話参照)悪魔祓いは皆、人間性を捨てる事により強さを得ているのだと思っていたネルは、グレンの事を自分と同じだと言っていた。しかし、グレンは違った。愛する者を失った悲しみと自分の無力さを思い知った為、強さを得たのだ。強さを得て満たそうとしていたのは、あの時のネルだけであった。ネルは与えられなかった愛情の代わりを強さで埋めようとしていた。強くなれば与えられなかった
Last Updated: 2026-09-05