Masuk悲劇は、こうして始まった。 平和だった国は突如、地獄の世界へと変貌する。 少年グレンは絶望の中で悪魔と契約し、力を手に入れた。 しかし、その代償は――人として決して失ってはいけない「他人を想う心」。 悪魔は人間の心臓と目を好んで食べる。 心臓を食べられた人間は悪魔の姿へと変わり、 さらに他の人間の心臓を求めて彷徨い歩く。 人々は、そんな悪魔の存在に恐怖した。 だが、この世には悪魔に対抗する力も存在する。 人々はそれをこう呼んだ。――"悪魔祓い"(デビルブレイカー)と。
Lihat lebih banyak「ハァ……ハァ……。くそっ……!」
肺が焼ける。喉が血の味でひりつく。 少年は石畳に膝をつきかけ、歯を食いしばって体を起こした。 脚が、動かない。 抉られたふくらはぎから熱いものが流れ落ち、足を引きずるたびに肉が裂ける感覚がした。 ――空が、赤い。 夜空に浮かぶ月が、あり得ないほど真っ赤に染まっている。 その光に照らされた街は、血の匂いと焦げた臭いで満ちていた。 昨日まで、ここは平和だった。 魔法と品物にあふれ、誰もが当たり前のように笑って暮らしていた国――キュアリーハート。 なのに、深夜零時。 赤い月光が国を覆い尽くした瞬間、世界がひっくり返った。 家々から悲鳴が上がり、次の瞬間にはそれが途切れる。 “何か”が、喰っている音。 骨が砕ける音。 走って逃げる足音が、途中で唐突に消える。 人々の大半は、化け物になった。 目が濁り、皮膚が裂け、獣のような爪が伸びる。 そして残った人間を、まるで遊ぶみたいに引き裂いていった。 対抗しようと魔法を放つ者もいた。 けれど化け物はびくともしない。 爪で人間の胸を裂き、心臓を喰らうたびに魔力が増し、動きが鋭くなっていくのが分かった。 「もう……ダメだ……」 少年は唇を震わせ、振り返る。 闇の中から、十数体。 爪が石を削る音が迫り、赤い月明かりの下で影が揺れた。 「俺も……俺も殺されるんだ……」 限界だった。 膝が折れ、冷たい石畳に倒れ込む。 化け物たちが一斉に飛びかかり、爪が少年の喉元へ振り下ろされ―― バチィィィッ!! 黒い閃光が弾けた。 衝撃が空気を割り、化け物たちが吹き飛ぶ。 壁に叩きつけられ、地面を転がり、呻き声が響いた。 「……あれ? 死んでない……?」 自分の体を確かめる。痛い。息も苦しい。けれど、生きている。 何が起きたのか分からず、少年は呆然と目を見開いた。 そのとき――どこかから、声がした。 (ふぃー……間に合ったか。危ねえな) 「……今、誰か……?」 周囲には誰もいない。 瓦礫と血の跡、そして赤い月光だけがある。 (んぁ? 見渡しても無駄だ。お前の“中”だ) 「……僕の、中……?」 胸の奥。頭の奥。 確かに“そこ”から響いてくる。自分のものじゃない、冷たい声。 (いいから聞け。あいつらはまだ起き上がる。次はお前が終わるぞ) 吹き飛ばされた化け物たちが、ゆらりと立ち上がった。 怒りで歪んだ唸り声が重なり、再び包囲が狭まっていく。 (衝撃だけじゃ足りねえか……チッ。なあ、クソガキ。生きたいか?) 「……生きたい!」 (なら契約しろ。俺の力をやる。その代わり――) 爪が光を反射して迫る。 少年は震える手を握りしめ、喉の奥から声を絞り出した。 「わ、分かった! 死にたくない! だから……契約して!!」 (あいよ。――成立だ) その瞬間、少年の内側で“何か”が笑った。 そして少年は、自分を守るために契約を結んでしまった。 それが、どれほど恐ろしい代償を呼ぶのか―― まだ、何も知らないままに。ウィリディスが使用する魔法属性は空間。空間属性の神級魔法、[デリート・コネクト]。指定した部分に「シフト」と唱えると四角い透明の立方体が現れ囲う事が出来る上に、必要に応じてその立方体を広げる事が出来る。立方体の範囲を自在に広げて囲み、「デリート」と唱えればその指定された範囲を跡形も無く消す事が出来る。例えるならパソコン画面上の矢印カーソルを目的の場所に合わせて範囲指定し、一気にdeleteキーを押すイメージだ。この「シフト」による範囲指定と「デリート」による削除能力を、ウィリディスは現実世界の空間に存在する物質、生物、そしてあらゆる環境を対象に使用する事が出来る。ウィリディスが最初に竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)の木々を一瞬で消し去ったのもこの力のお陰であった。そして。「シフト」「コネクト」ウィリディスは両手を上空に挙げると巨大な立方体を展開し、「コネクト」と唱えた。その範囲は竜の遺跡を全て覆える程。しかもその上空に展開された立方体の中には最初に消し去った森の木がギッシリと敷き詰められている。そう。この木は「デリート」によって消された森の木の残骸であった。「コネクト」とは接続という意味。ウィリディスは「デリート」で消した範囲の木を「コネクト」する事で上空の立方体内に配置したのだ。そう。[デリート・コネクト]は空間を透過的に選んで削除し接続できる魔法。「シフト」で範囲指定した空間を支配する事が可能。そして上空の立方体の底がパカッと扉の様に開かれる。開き始めた隙間から木がどんどん竜の遺跡がある地上に向かって落ちていく。1本1本が大きく質量のある木。落ちる度に地面の砂埃が舞った。まるで雨の様…いや、そんな生優しいものでは無い。逃げ場を与えない広範囲を覆い尽くした木々による酷(むご)い圧殺方法。そして一度に落ちてきた大量の森の木によって竜の遺跡は飲み込まれてしまった。一方、ウィリディスは空間移動で上空に転移しており、木に押し潰され跡形も無く消え去った竜の遺跡の惨状を見下ろして見ていた。「…やっぱり、こんな程度でグレンは死ぬ訳ないか。」見下ろしながらそう言うウィリディス。どうやらグレンが攻撃を回避してる事に気付いている様だ。「出てきなよ。…決着を付けよう。」「紅の悪魔祓い、グレン。」ウィリディスの言葉と共にグレ
「うわぁぁぁぁぁ!!!ガルムが!…ガルムがあぁ!!!」ティアは胴体が分かれ絶命したガルムの上半身を抱きしめながら叫んだ。靴に血が滲むほど急いで走りドグマ達を呼びに行ったティアは決して遅くなかった。しかし、間に合わなかった。「誰が…こんな事を。俺達竜の民をこんな…こんな…。」ドグマは目の前の惨状を受け入れられずにいた。つい竜の試練洞に行く半日前までは普通の平和な生活を送っていた。昨日は龍神の祭日で民の皆んなが共に飲み食いしながら楽しんだ。ティアとガルムはもうすぐしたら祝言を挙げる予定だった。ーー皆んな今日を生き、明日を楽しみに過ごしていた筈なのに。修行が長引かずここに俺達が居ればこんな事には…。「チクショウ……チクショウ!」ドグマの目からはこの場に居なかった自分に対する悔しさの涙を流していた。「……」グレンは2人と違い、この現状をただ茫然と見ていた。それは彼が他人を想う気持ちが無いからでは無い。ここでの生活を思い出していたからだ。不便な生活であったが、他所者のグレンに優しくしてくれた民達。ドグマが言っていた。ここに住む民達は生活の為にそれぞれ役割を全うしながら助け合って生きていた。それぞれが良い人生、良い流れを築く為に。そんな人達が居るここの生活をグレンは好きになりかけていた。一瞬思っただけであるが、故郷の様な平和なこの竜の遺跡にこれからも住みたい。そう少しだけ思えた。それを、こんな…こんな酷い形で終わらされた。まるであの時のキュアリーハートと同じだ。何の脈絡も無く平和な日々を終わらされた。「…許せねえ。」ポツリと小さく、そして力強い声でグレンは呟いた。ーー竜の民達をこんな風にした奴を、絶対に許さねえ!激しく怒るグレンは心の中でそう叫んだ。「あれ?まだ生き残りが居たんだ。」グレン達が向いてる方向とは反対方面から声が聞こえた。グレンとドグマはその声に反応し、振り返った。漆黒のローブを身に纏った緑髪の男と後方には黒い皮膚をした悪魔が20数体、そして他と比べて身長が低い奴が1人居た。すると漆黒のローブを纏った男がグレンの方を不思議そうに見ていた。「赤い髪…その魔力。…もしかして、グレン?」「何で俺の名前を知ってるんだ?」初対面と思っているグレンは突然面識の無い相手に名前を呼ばれた事に驚いていた。グレ
次の日の明朝4時半。この日もグレンとドグマはいつも通り川で魚を獲りに行った。「(もう慣れてしまったな。)」昨日と同じ様に手掴みで流れる様に魚を獲っていく。そして獲った魚を竜の遺跡へと運び、家に戻ってから朝食を食べた。「今日は龍脈樹には行かん。」グレンは朝食を食べた後、ドグマにそう言われ家を出た。この日、グレンはドグマに連れて来られたのは竜の遺跡から更に奥にある祠(ほこら)だった。その祠の入り口前には巨大な竜の像が建てられており、ドクマはその入り口の前に立ち止まった。「何だ、ここは?」グレンは立ち止まったドグマに質問する。「ここは[竜の試練洞(しれんどう)]。竜の民が龍技を極める為に用意された修行の場だ。竜の試練洞。この祠は竜の遺跡で祀られている龍神が、かつて龍技を極めたいと願う者の為に用意した神聖な修行場。数世代にわたり、伝承されてきた場所である。入り口は森の中にひっそりと隠されてあり、入り口から流れる空気が重い。龍脈樹(りゅうみゃくじゅ)の様に祠の中からまるで生き物の様に魔力が渦巻いているのを感じられた。「ここは龍技を極める為に用意された修行場。グレン、昨日説明した竜挐(りゅうだ)を覚えているな?」「ああ。3つの龍技を同時に使う事で起こる龍技の真髄の最終奥義。昨日、あんたが言ってたよな。」「そうだ。[心眼点睛]、[技之乖離]、[戮力体竜変]。この3つを極めた竜の民が使える奥義だ。この竜の試練洞では竜挐を極める為の修行を行う。」そしてドグマは竜の試練洞へと近づいていき、中へと入っていく。入った瞬間、空気が身体に張り付き乗し掛かる感覚がした。心眼点睛を習得してるグレンには周囲に充満している魔力の流れを目で見る事が出来る。試練洞の中に充満している魔力は、上からグレンに圧を掛ける様な流れ方をしている。まるでこの祠がグレンを試しているかの様だった。「生きてるみたいだろ?だが、試されるのはここからだ。」「ふん、だろうな。これくらいは試練の内には入らねえだろ。」「当たり前だ。こんな事で怖気つく様な奴をここに連れては来ない。」ドグマの発言から、この祠は修行場所であると同時に危険な場所なのだと感じた。その理由をグレンはまだ知らないが、すぐ分かる事になる。昨日までの修行が天国の様だったと。「…よし、もう着くぞ。」前を歩く
「いいか、ヒスイ。お前は竜の民の先導者である俺の後継者だ。これから民達を導いていかなければならない。」「………はい。」これは過去のドグマとヒスイのやり取りだ。ドグマは今の様な髭は無く、30代前半くらいの若々しい姿をしていた。そしてもう1人。娘であるヒスイ。彼女はドグマの言われた事を俯きながら元気のない声で返事をした。「竜の民は大昔の北と東の戦争に巻き込まれ、沢山の民達が命を落とした。このままでは竜の民は滅びてしまう。」「何としてでも、それだけは阻止しなければならない。」そう。竜の民が何故この様な少数民族なのか。それは戦争の被害に遭ったからである。丁度北と東の中間地点にある竜の遺跡は戦場に近く、軍事開発された魔法兵器の巻き添えによって多くの民が命を失った。元々少数であったが、それでも300人は居た竜の民も、年々子供の出生率も減少し今では50人にも満たない程だ。このままでは竜の民は絶えてしまう。ドグマはその焦りを感じていた。ヒスイを立派な先導者に育てあげ、竜の民達をこれからも繁栄させなければ。ドグマはその為、娘をより厳しく育てた。「何度言えば分かる!女だからと言って容赦はしない!」ドグマはまだ10歳前後のヒスイと龍技を使った組み手を行い、ボロボロになってうつ伏せに倒れている彼女を叱責する。またある日は同年代の人と遊ぼうとした時に。「……そうか。お前は先導者の道よりも友達と遊ぶ方が大事だと言うのだな。分かった。もういい…お前には失望した。」勿論本当に失望なんてしていない。ヒスイには先導者としての意志を早くから継いで欲しい。その想いから、時には厳しく突き放す様な言い方をした。自分の思い描く道をヒスイも歩めば、きっと竜の民達はこれからも耐える事なく安泰だ。ーー俺の代で絶えさせたくない!ドグマはこの様にヒスイのやる事1つ1つに口を出していた。しかし、ヒスイが19歳の時だった。突如書き置きだけ残し、娘は家を出てしまった。お父さんへ。私は彼と一緒に外の世界へ行きます。お父さんの理想の娘になれなくてごめんなさい。私は、今まで先導者になりたいと思った事は一度もありませんでした。ずっと黙っててごめんなさい。 ヒスイよりそれを見たドグマはようやく気が付いた。竜の民のこれからの未来を見ていたが、1番
Ulasan-ulasan