Chapter: 110. 哀しい哉、差別主義者ではなかった。 Tragically, She is Not a Racist.「……貴女……そこまで堕ちたのね……! いい?……|地獄《パンドラ》の深淵に近づくということは、自分自身もその深さに飲み込まれる危険を常に孕んでいるのよ!! しかも、“原罪”は一度知ってしまったらさ二度と|文学界《リテラチュア》の……“無垢”な存在には戻れない……!!」 「あーあーあー、羽虫がブンブンとうるせぇなぁ……イライラしてくるぜぇ……この|人間《あくま》的な強さを手に入れたおれにもう敵はねぇ……!! だってこんなクソみてぇな気持ち、ゴミみてぇな|心《ヘルツ》は……|地球《パンドラ》人にしか生み出せねぇ……。 |地《・》|球《・》|人《・》|は《・》|便《・》|器《・》|に《・》|こ《・》|び《・》|り《・》|つ《・》|い《・》|た《・》|糞《・》|と《・》|同《・》|じ《・》だ。 生まれたときから、親の同情を得るために泣き、きょうだいがいれば親の愛情独り占めする為に蹴落とし、気に入らねぇやつがいれば徒党を組んで虐める。 こんな|心《ヘルツ》があるかぁ? ……こんなに強いこころがよぉ……!!」 ◇◆◇ 「それは決して強さじゃないわ!! そんなものが強さであっていいはずがない!! ほんとうに強い人間は! ほんとうに満たされたこころは!! 決して他者を蹴落としてちっぽけな自尊心を満たそうなんて思わないわ!! ほんとうに強い人間は、|文学界《リテラチュア》の人間のように、弱者にやさしく手を差し伸べられる人間よ!! 地球人みたいに弱者とあらば、石を投げるような人間たちとは違う!!! |文学界《リテラチュア》のやさしい人間は、|私《・》|た《・》|ち《・》|は《・》|決《・》|し《・》|て《・》、|地《・》|球《・》|に《・》|い《・》
Last Updated: 2026-05-07
Chapter: 109. “雷神”エレクトラ Elektra, The God of Thunder 先程オイディプスに向けていた慈愛に満ちた笑顔から一転して、ヘラヘラと相手を嘲笑うエレクトラ。 「……黙りなさい。私は確かに裏切り者だけど、自分の信念を裏切ったことはないわ。それに……今回先に裏切ったのは貴女でしょう……?エレクトラ。」 「おいおい、そりゃあおれが始めた|人間体《アニマ》差別のことか?あれは確かに始めたのはおれだがぁ……その後勝手にそれに乗っかったのは誰だ?……民衆だ。 つまり、皆常に自分より下に追いやれる誰かを得て安心したいんだよ。だからおれが差別思想を持ち込めばあっという間に皆それを叩き棒にする。 ほんとうに世界がそんなに|清廉《せいれん》なら、差別思想を|吹聴《ふいちょう》してまわったおれが袋叩きにあうはずだろ? でも現実はどうだ? ……ほらこの通り、おれぁピンピンしてる。 民衆は自分より弱ぇ奴しか叩けねぇからだ。 そうやって自分を慰めるのが、|こ《・》|こ《・》|ろ《・》|に《・》|余《・》|裕《・》|の《・》|な《・》|い《・》、|自《・》|分《・》|の《・》|現《・》|状《・》|に《・》|満《・》|足《・》|で《・》|き《・》|な《・》|い《・》……そんな奴らの“唯一の生き|甲斐《がい》”なんだよ。それを奪おうってのはァ……随分とぉ残酷じゃあねぇか?」 ◇◆◇ 「――だから私が皆に代わって貴女に|鉄槌《てっつい》を下す。誰もやらないなら、私がやるしかない。民衆は確かに弱いわ……そして群れると考え無しでもある……でも一人一人は馬鹿じゃあないわ。 貴女は|地獄《パンドラ》の概念を持ち込んで、それを利用して時代の|風雲児《ふううんじ》にでもなった気でいるかも知れないけど、いつか必ず|民草《たみくさ》がそれに気がつく日が来るわ。 『この世界は歪められてしまった。』 と……そう気がつく。そうしたらどうなると思う?そうしたら民衆がこの世の悪だと、自分たちの敵だと標的にする
Last Updated: 2026-05-06
Chapter: 108. “砂神”アデライーダ Adelaida, The God of Sand ザミールはアデライーダによくよく言われたものだ。 『貴方は|獣神体《アニムス》なんだから、下の子が|人間体《アニマ》になったら、絶対に守ってあげて。 ……そしてもちろん|獣神体《アニムス》として、|人間体《アニマ》のお父さんのこともね。』 その言葉はザミールの生を決定づける“呪いの言葉”だった。 奇しくもアイとザミールは両方とも“母親”という“|祝福《のろい》”にその生を縛られた者同士だったのだ。 ◇◆◇ アデライーダは身内に|人間体《アニマ》がいる者、不当に|更迭《こうてつ》された|人間体《アニマ》たち、差別思想に反する者たちを集めて、エレクトラに戦いを挑んだ。 いくら“雷神”エレクトラでも、ミルヒシュトラーセの剣として、その武力を担うザミール家のトップであり、本人も“|砂神《さじん》”と呼ばれるほど強力な|心《ヘルツ》を持つアデライーダと|戦《や》り合うことはとてもリスキーだった。 そこで、エレクトラは地球に住む|地球人《ゴミども》の知恵を借りて、極めて|狡猾《こうかつ》な手を使った。つまり、“分割統治政策”だった。 ◇◆◇ 分割統治とは統治者が、少数のグループに特権的地位を与えて優遇し、それ以外の多数からの敵意を自分たち統治者ではなく、その少数に向けさせ、お互いに争わせることで、不毛な争いをしている所をやすやすと治めるという政策だ。 エレクトラはまず、砂神アデライーダの陣営である革命軍ではなく、自分たちに与するのならば、その一族と家族に含まれる|人間体《アニマ》は例外的に|獣神体《アニムス》と同じ特権的地位を与えると喧伝した。 そして裏工作を担当するミルヒシュトラーセの手である、不知火家の人間に命じて実際に有力貴族に革命軍に対する裏切りを持ちかけた。 これは効果が絶大だった。いくら|此方《こちら》には“砂神アデライーダ”の加護がつ
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 107. “母”という“呪い” The Mothers Curse アイは下に落ちていっていた。 そして誘うように右腕をザミールの方へ向かって伸ばしていた。うつくしい笑みを浮かべながら――。 ザミールは洞窟内の壁を蹴って、アイに右腕を振りかぶったままアイに迫ろうとする。 すると、何か違和感があることに気がついた。暗くてよく見えないが、ザミールとアイを囲むように、洞窟内の壁を何かが這っている。 ザミールは|心《ヘルツ》割き心を配ってその正体を確かめるよりも。腕と身体にのみ|心《ヘルツ》を集中させて、どんな攻撃が来てもみを守れるであろう量を自身に纏うことを決断した。 ぽちゃん、となんだか場違いで間抜けな音がした。眼の前のアイが水の中に沈んだのだ。 アイは|蠱惑的《こわくてき》な笑みで言った。 「……ようこそ――おれの|心《せかい》へ――!!」 ◇◆◇ ――! これは、この水は|彼奴《あいつ》が沈んでいっている膨大な量の水は――! 壁をウネウネと伝っていたものの正体は――! |此奴《こいつ》の水の|心《ヘルツ》か!! アイは最初から、白い煙を纏いこの穴に最初にぶち当たったときから、ここずっと|心《ヘルツ》を溜めていたんだ! ――この闘いの最初の最初から!! 白い煙となって逃げていた時も、十分に広い閉鎖環境という、俺を倒すのに最適な環境をずっと探していたんだ!! 闇雲に|遁走《とんそう》していたように思わせておいて……!! そしていつ俺を誘い込むかをずっと考えていた……! ここに|心《ヘルツ》を割いていたから、|こころをもつもの《プシュケー》のクセに心を配ったりしねぇわけだ! やりやがる!!戦術I
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: 106. おれの世界へようこそ Welcome to the Human Race.「……そうだ。……そうだ!立ち止まるのは時に歩き出すより勇気が必要な時がある!!皆と同じ方向に歩くのは簡単だ!惰性で、慣性で歩けばいいんだからな。 だが、皆が進む中自分だけ立ち止まるのは勇気がいる!取り残されるような恐れを抱くからだ!!だがそれがなんだ!!真理を求めるならすべてを疑え!!」 「……はい……わたくしはすべてを疑います。偉大なるフランス系|地獄《パンドラ》人、ルネ・デカルトのように……! 敵にこんな事を言うのは変な気分ですが……ありがとうございます。……目が覚めたような気分です。 ……だが……しかし……おれ達は道を|違《たが》う運命にある。 理由は……もう言わなくても分かるな……? オマエは世界を良くするためにおれの友を狙うのか……? 何故だ……理由を教えろ……!」 ◇◆◇ 「オマエがおれの友の命を狙いうかぎり、おれは戦う。オマエにどんな信念があっても、どんな正義があってもだ……!!」 「……俺もそうだよ。オマエが何を思って俺の部下に、あんな事をしたか知らねぇが……俺は部下の|恥辱《ちじょく》は必ず果たすと決めている。 理由を教えろだ……?」 俺の怒りの|心《ヘルツ》が黒い砂をバチバチと弾けさせる。 「――オマエらが俺の部下を……ソンジュを殺したからだ。いや、戦いだからな、殺すのはいいこっちから仕掛けておいて『殺さないでくれ』は通用しない。 ……だが、何故だ。何故そんなに友を思えるクセに……アイツの死体を|辱《はずかし》められた? 戦士の死を|愚弄《ぐろう》できた……!? オマエとクレジェンテ・カタルシスがやったんだろう……? 答えろ……アイ・ミルヒシュトラーセ!!」 アイ・ミルヒシュトラ
Last Updated: 2026-05-03
Chapter: 105. こゝろ - 先生とわたくし Ghost in the Flower.「……驚くのは分かる。だが……考えてもみろ。“差別・盗み・奴隷・強姦・戦争・殺人・姦淫・売春”……そして“嘘”……これらがない世界で。 ……これらの“悪事”がない世界で、“ほんとうに悪いこと”なんてできると思うか? 年齢・性別・差別・神・偶像崇拝がない世界で、戦争なんて起こると思うか? 確かにこれ以外にも諍いを起こすに足る“理由”はあるだろう。 だが、これらの“悪事”と“理由”2つともが、両方なけりゃあ? そもそも“戦争”の概念が無かったんだ。 ――オマエの母親が“|地獄《パンドラ》の原罪”をみつけるまではな……!」 ◇◆◇ 「……エレクトラ様はもうおれの母親じゃない……捨てられたんだ。」 『母親に捨てられた。』その言葉を聞いた、ザミール・カマラードの瞳が少し揺れた気がした。 「それで?なんでエレクトラ様が“原罪”見つけると、世界は……こんなクソみてぇなもんになった?」 「そりぁあそうだろう? 盗みがなくて、今までの家の鍵も存在しなかった世界に、苦労して働くよりも、 “人の家から盗んだほうが楽じゃないか?” という考えを持ち込んだんだ。 寿命がなかった世界に、|地獄《パンドラ》の人間は寿命というものがあり、年をとりゃあ死ぬって教えちまったんだ。 アセクセ働くより人から盗んだほうが楽だと知ったやつから、盗みを働くようになったし、人間には寿命がありいつか死ぬと知ったやつから寿命で死ぬようになっていった。 これの最悪なところは、|先刻《さっき》も言ったが、|知《・》|っ《・》|ち《・》|ま《・》|っ《・》|た《・》|ら《・》|終《・》|わ《・》|り《・》ってコトだ。だから“原罪”と呼ばれる。」
Last Updated: 2026-05-02