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早谷蒼葉 花谷りの
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Novels by 早谷蒼葉 花谷りの

手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君へ——

手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君へ——

夢を追う彼女と、それを見守る彼。二人の距離が、少しずつ変わっていく——。 中学三年の春、結城沙友里は「アイドルにならないかって言われた」と打ち明けた。 笑わずにその夢を肯定したのは、漫画家志望の桐谷直哉――彼女の最初の味方だった。 だが沙友里のデビューとともに、二人の距離は少しずつ変わっていく。 スキャンダルの噂が広がる中、直哉は彼女を守るため、自ら距離を取ることを選ぶ。 それでも、想いは消えなかった。 触れられなくても、離れていても、同じ未来を信じていたから。 離れていくはずの二人が、それでも手放さなかった恋の行方とは――。 「手を繋ぐことができなくなっても」 ——それでも心は、ずっと繋がっていたいと願う。
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Chapter: 第六幕 また手を取り合って
第六幕 また手を取り合って ライブ会場は、あの夜と同じ匂いがした。照明の熱、人の波、胸の奥まで響く低音。——結局、来てしまった。 最前列じゃない、目立たない席。それでも、ここからならちゃんと見える。 ステージに光が落ちる。歓声が上がり、一番前の列に沙友里が立っていた。 以前見た、あの夜と同じ構図。僕は客席で、沙友里はステージの上。 歌い出した瞬間、会場の空気が一気に持ち上がる。あの頃より、ずっと堂々としている。声も、表情も、動きも。——アイドルなんだ。 そう思ったら、目を離せなくなった。これが沙友里の目指した世界だった。 曲の途中、沙友里がふっと客席を見る。ライトが揺れる。視線が流れる。……今。&
Last Updated: 2026-02-24
Chapter: 第五幕 伸ばせなかった手
第五幕 伸ばせなかった手  最初に見たのは、ニュースでも記事でもなかった。  SNSから流れてくる噂だった。写真はぼやけていて、夜の街で、二人並んで歩いているように見えた。 だが、僕は見間違えない——沙友里だった。 沙友里と、知らない男。「○○と一緒だったらしい」「仲良さそうだった」「距離、近くない?」 確かなことは、何ひとつ書いていない。でも沙友里は、今をときめくアイドルグループのフロントメンバー。拡散するには十分だった。 僕は、スマホの画面を閉じた。
Last Updated: 2026-02-19
Chapter: 第四幕 距離のかたち
第四幕 距離のかたち 春が終わり、夏が来て、気づけば季節がひとつ進んでいた。高校一年の終わりが近づく頃には、沙友里の生活は、完全にアイドルのそれになっていた。 レッスン、収録、イベント。 予定は前日に送られてきて、変更は当日の朝に知らされる。『今日は帰れないかも』『ごめん、明日も朝早い』 それだけで、一週間が過ぎていく。僕は慣れたふりをしていた。待つことにも、短い返事にも。 会える日は月に数えるほど。しかも、人目を避けてほんの短時間。「……久しぶり」 そう言って笑う沙友里は、前より少しだけ遠慮がちだった。話したいことはたくさんあるのに、時間がそれを許してくれない。「大丈夫?」
Last Updated: 2026-02-13
Chapter: 第三幕 デビュー
第三幕 デビュー 高校に入って、まだ春の匂いが残っている頃。新しい制服にも、ようやく慣れ始めたばかりの時期。 グループとしてのデビューが決まったと聞かされたのは、いつもの帰り道だった。「今日ね、話があって」 沙友里は、歩きながらそう言った。声は落ち着いているのに、指先だけが少し落ち着きなく動いている。「……私たちのデビュー、決まった」 一瞬、僕は言葉が出なかった。胸の奥で、何かがほどける音がした気がする。「おめでとう」 それだけ言うのに、少し時間がかかった。沙友里は、ほっとしたように笑う。「ありがとう」 嬉しいはずなのに、その笑顔はどこか慎重だった。「でもね」
Last Updated: 2026-02-10
Chapter: 第二幕 レッスンの日々
第二幕 レッスンの日々 それからの日々は、立ち止まる暇もなく流れていった。 沙友里は本格的なレッスンが始まり、徐々に忙しくなっていく。レッスンがある日は、スタジオまでの送迎だけになった。それ以上は、何もできなかったし、しなかった。 建物の前で立ち止まる。ガラス張りの入口の向こうから、僅かに音楽が漏れてくる。低いカウントと、床を踏む音。知らない大人の、鋭い声。「行ってくるね」 沙友里はそう言って、振り返る。笑顔を作ろうとしているが、なっていない。「うん」 それだけ返して、一歩下がる。ここから先は、僕の場所じゃない。 最初の頃は、帰りが遅かった。みんなが出てきても沙友里だけ出てこない。やっと出てきたと思ったら、 顔色が悪くて声も小さい。「どうだった?」 そう聞くと、沙友里は決まって曖昧に笑う。
Last Updated: 2026-02-07
Chapter: 第一幕 繋いだ手
第一幕 繋いだ手 僕たちが中学三年だったあの頃、放課後はいつも騒がしかった。 通っていたのは、|大和《やまと》中学校。そこで僕が所属していたのは漫画研究部——通称|漫研《まんけん》。|沙友里《さゆり》はダンス部だ。部活帰りの声、下駄箱の音、夕方に近づく校舎の匂い。でもその日、僕たちだけが違っていたのかもしれない。「|直哉《なおや》」 呼ばれて振り返ると沙友里がいた。制服の袖を少しだけ引っ張って、言いにくそうに視線を落としている。「……一緒に帰ろ?」 断る理由なんて、最初からなかった。並んで歩く帰り道。何だかいつもより歩幅が合わない。明らかに様子が違っている。 沙友里は何か言いたそうで……でも、言わない時間が続く。沈黙に耐えきれなくなったのは、僕のほうだった。「どうしたの?」 沙友里は一瞬だけ驚いた顔をして、それから小さく息を吸った。
Last Updated: 2026-02-05
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