手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君へ——

手を繋ぐことができなくなっても ——アイドルになった君へ——

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-17
Oleh:  早谷蒼葉 花谷りのBaru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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「僕はもう、彼女と手を繋げない——」  中学入学直後、桐谷直哉は一人の女の子と出会った。  結城沙友里。笑うと少しだけ目を細める、その笑顔に直哉は恋をした。  手を繋いで歩いた放課後。花火の下で交わしたキス。六人で過ごした夏の海。触れることが当たり前だった、あの頃——。  やがて沙友里はアイドルの道へ踏み出す。スポットライトの中で輝く彼女に、直哉はもう触れられない。隣に立てない。名前も呼べない。  恋人なのに——だからこそ、一番遠い。  触れられなくなっても、それでも僕は彼女を見ている。  輝きの中で笑う君を、ただの観客として——    アイドルになった彼女と、僕の物語。

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Bab 1

序幕 輝きの中で

 僕はもう、彼女と手を繋げない——

 数メートル先。

——僕の彼女は、アイドルになった。

 ステージに立ち、スポットライトの光を浴びている。その姿は、息を止めてしまうほど綺麗だった。眩いほどの笑顔。

 僕と彼女の間には何もない。

 それなのに、どれだけ願っても目は合わない。

 近いのに、遠い距離。

 会場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。照明の熱、人の体温、スピーカーから響く低音。全部が混ざり合って、胸の奥を揺らしてくる。

 僕は客席にいる。彼女は、ステージの上だ。

 ペンライトの光が視界を埋める。

 名前を呼ぶ声が、熱気に重なり波になる。

 無数の光が、同時に跳ねる。

 その輝きの中で、沙友里さゆりは笑っていた。

 あの笑顔の癖も、もう僕だけのものではない。

 いつも、一番近くにいてくれた。

 ライトを浴びた彼女は、知っているはずの顔なのに、僕の知らない場所に立っているように見えた。

 この場所で、僕だけが止まっていた。

 恋人なのに、隣にいない。

 恋人なのに、名前を呼べない。

 恋人だからこそ——一番遠い。

 曲の合間、沙友里は客席を見渡す。視線がゆっくりと流れていく。

……今、目が合いそうだった。そんな気がしただけで、心臓が一拍遅れて跳ねた。

 きっと気のせいだ。それでも、信じたかった。

 遠いのは数メートルの距離じゃない。一度引かれた線は、簡単には消えてくれない。

 僕は、膝の上で手を握りしめる。

 あの手の感触をまだ覚えている。温度も、指の癖も、離すときの一瞬の迷いも。

——それでも。今は伸ばせない。

 伸ばした瞬間、彼女の未来を壊してしまうから。

 僕はここにいる。最前じゃない、端の席で。ただの観客として彼女を見ている。

 歌が終わり、拍手が響く。沙友里は深くお辞儀をして最後に笑った。僕に向けた笑顔じゃない。それでも、その笑顔を見逃さないように、目に焼きつける。

 沙友里に伝えたい言葉がある。だが今夜も、その声は届かない。

 暗転したステージを見つめながら、僕は静かに息を吐く。距離だけが、音もなく育っていく。

 あの頃のように、もう手を伸ばすことはできない。

 それでも——

 握りしめていた拳を、ゆっくりと開いた。

 あの日、繋いだ沙友里の温度を——僕はまだ離していない。

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序幕 輝きの中で
 僕はもう、彼女と手を繋げない—— 数メートル先。——僕の彼女は、アイドルになった。 ステージに立ち、スポットライトの光を浴びている。その姿は、息を止めてしまうほど綺麗だった。眩いほどの笑顔。 僕と彼女の間には何もない。  それなのに、どれだけ願っても目は合わない。  近いのに、遠い距離。 会場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。照明の熱、人の体温、スピーカーから響く低音。全部が混ざり合って、胸の奥を揺らしてくる。 僕は客席にいる。彼女は、ステージの上だ。 ペンライトの光が視界を埋める。 名前を呼ぶ声が、熱気に重なり波になる。 無数の光が、同時に跳ねる。 その輝きの中で、沙友里は笑っていた。 あの笑顔の癖も、もう僕だけのものではない。 いつも、一番近くにいてくれた。 ライトを浴びた彼女は、知っているはずの顔なのに、僕の知らない場所に立っているように見えた。 この場所で、僕だけが止まっていた。 恋人なのに、隣にいない。 恋人なのに、名前を呼べない。 恋人だからこそ——一番遠い。  曲の合間、沙友里は客席を見渡す。視線がゆっくりと流れていく。……今、目が合いそうだった。そんな気がしただけで、心臓が一拍遅れて跳ねた。 きっと気のせいだ。それでも、信じたかった。 遠いのは数メートルの距離じゃない。一度引かれた線は、簡単には消えてくれない。 僕は、膝の上で手を握りしめる。 あの手の感触をまだ覚えている。温度も、指の癖も、離すときの一瞬の迷いも。——それでも。今は伸ばせない。 伸ばした瞬間、彼女の未来を壊してしまうから。 僕はここにいる。最前じゃない、端の席で。ただの観客として彼女を見ている。 歌が終わり、拍手が響く。沙友里は深くお辞儀をして最後に笑った。僕に向けた笑顔じゃない。それでも、その笑顔を見逃さないように、目に焼きつける。 沙友里に伝えたい言葉がある。だが今夜も、その声は届かない。 暗転したステージを見つめながら、僕は静かに息を吐く。距離だけが、音もなく育っていく。 あの頃のように、もう手を伸ばすことはできない。 それでも—— 握りしめていた拳を、ゆっくりと開いた。 あの日、繋いだ沙友里の温度を——僕はまだ離していない。
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第一幕 繋いだ手
 あの日、僕はアイドルを見つけた—— 入学して、まだ一週間も経ってない教室は、どこかよそよそしい空気のままだった。 ホームルームまで、あと十分。クラスメイトたちの声が、まだ馴染めていない名前と一緒に飛び交っている。 僕は窓際の席で、ノートを開いて絵を描いていた。 ノートの上で、ステージに立つ女の子が躍動していた。マイクを握り、笑っている。上手くはない。でも、描いていると張っていた肩の力が抜ける。 喧騒が遠くなる。ペンを動かしてる時間だけは、呼吸が楽になる。「……それ、桐谷くんが描いたの?」 突然、後ろから声がした。 振り返ると女子が一人、僕の背中からノートを覗き込んでいた。「……!」 僕は、すごい勢いでノートを閉じた。「あー、待って待って」 全身で待ってを表現している女の子。 確か——「結城、さん……だったよね?」「うん! 結城沙友里だよ」 結城さんは、穏やかに微笑んだ。「ねぇ、さっきの絵。見せて」「え……で、でも……」「いいから」 反論を許さないその圧に負け、僕はノートを開いた。 結城さんは、目を輝かせて見ている。僕の背中から冷たい汗が吹き出す。「……すごい。本物のアイドルみたい」 動きが止まった。 上手い、ではなかった。アイドルだと言われた。 それが、何より嬉しかった。「結城さんって、アイドル好きなの?」「うん! 歌もダンスも好き」「へぇ」 クラスの女子と、こんなに長く話すのは初めてだ。「桐谷くんは? 絵、ずっと描いてるよね」「……輝いてるから……好き、だよ」「そうなんだ……」 結城さんは、もう一度ノートに目を落とした。「この子、すっごく楽しそうに笑ってる」 技術ではなく、表情を見てくれた。それは僕にとって、最上級の褒め言葉。 胸の奥が温かくなった—— それからは毎日のように、結城さんと言葉を交わした。 僕は漫画研究部、結城さんはダンス部に入り、帰り道もよく一緒になった。好きな音楽の話、漫画の話、学校の話。話題は尽きない。 結城さんは笑う時、少しだけ目を細める。嬉しい時も、照れた時も。 その笑顔が好きだ。 鼓動が高鳴る。 なのに、結城さんの隣は不思議と落ち着いた。 五月の終わり頃、帰り道に大型ビジョンがアイドルを映し出していた。結城さ
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第二幕 君の隣に
 君の隣に並べる男に、なりたかった—— 結城さんと付き合い始めて、まだ十日ほどしか経っていない。それでも、未だに実感が追いついていない。 隣を歩くのも、声をかけるのも、周りの視線が気になる。妙に緊張する。「直哉……お前最近、結城さんと、あんまり話さなくなったな」 昼休みに、相沢守が、弁当をつつきながら言った。「……そうかな」「そうだよ、あんだけ沙友里、沙友里って言ってたのに」「沙友里とは呼んでないだろ……」 小学校からの親友は、口元を吊り上げた。軽口が多いが、空気を読むのが上手い。よく今みたいに核心を突いてくる。「けど、直哉さあ。最近ちょっと浮かれてるの丸わかりだぞ」「……マジで?」「マジで」 自分では分からないけど、態度に出ているのか。 そして、守は決定的な言葉を口にする。「結城さんと付き合ってるんだろ?」 僕の身体が固まった。 したり顔で、守が笑っている。「な、何で……」「やっぱりね、水くさいじゃねえか」 その口調には、からかいが混じってる。「お前は、ホント分かりやすいな」「そうかな……」「……んで、どうして公表しないんだ?」「それは……彼女のため、だよ」 何度か二人で話し合い、僕の要望を通す形で決着した。「ふぅん……理由は?」「結城さんは、人気者だから……」「それ、彼女は納得してんの?」「分かった、って」 そう言っていた結城さんの顔は、明らかに不満げだった。 だけど、僕は頷いてもらった。「黒崎くんみたいな人なら……モテるよね」「サッカー部の、黒崎修司か?」「うん。同じクラスだし……いい人だよね」「俺がどうかした?」 突然、横から声がして、口の中にいた唐揚げを吐き出しそうになった。「お前はイケメンで、いい奴だって話だよ」「相沢の方こそ。モテるでしょ?」「もてねーよ」 嘘だ。守は誰とでも仲良くなれるし、顔もカッコいい。 黒崎くんは、爽やかな笑顔を僕に向ける。「それに、桐谷だっていい奴だよ。こないだ掃除当番代わってくれたし」「そ、そんなことないよ……」 他の男子に呼ばれて、黒崎くんは戻って行った。何気なく顔を向けると、黒崎くんを中心とした輪の中に結城さんもいる。(あんな風に、笑うんだ……)
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第三幕 花火の下で
 初めてを、二人で積み上げる—— 暦は七月になっていた。もうすぐ、結城さんと初めて過ごす夏休みがやってくる。 先日の件で、僕たちの仲は公認カップルとして認められていた。 思い出すと熱が戻ってくる。だから、あの日の記憶を、頭の隅に閉じておく。 最近は、そのおかげで恋人だという実感が、少し追いついてきた。 部活後の帰り道。いつものように並んで歩く。自然と手を取り合うくらいには、距離が近くなっていた。「直哉くん、もうすぐ夏休みだね。楽しみ!」「夏の予定は何かあるの?」「部活と……お盆におばあちゃんの家に行くくらいかな」 結城さんの足取りは、スキップしそうなほど軽い。「今年の夏は、いっぱい遊ぼうね」「うん、僕も楽しみだよ」「夏祭りも行こうよ!」 心臓が、一拍遅れて跳ねた。——デートだ。 まだ二人きりで出かけたことはない。夏休みの楽しみが、どんどん増えていく。「ところで……直哉くん」「ん、なに?」「いつになったら、名前で呼んでくれるの?」「えっ……」 公表した日から、結城さんの呼び方は変わった。だけど、僕はまだ踏み込むことができない。「……もう少し待って、ね」「えー」 頬を膨らませる彼女に見惚れていると、今後は睨まれた。(全然、怖くないや) 僕の口元が緩んだのがバレて、さらに彼女は膨れた。 夏休みに入っても、僕たちは毎日のように学校へ行く。結城さんはもとより、僕も最近は特に創作熱が高まっている。 守や黒崎くんと集まるようにもなった。宿題を手伝ったり、ゲームをしたり。今まで一人でやっていたことを、みんなでする。自分の視界が広がっていくのを感じていた。 祭りは八月に入ってすぐに行われる。それまでの毎日は、今までにないほど充実していた。 そして、夏祭り当日がやってきた。 僕は先に約束の場所に到着する。結城さんを待つ時間も悪くない。今日も暑かったが、夕方になり過ごしやすくなってきた。 その時スマホが震えた。通知が守からのLINEがあることを告げる。 スマホを確認すると『がんばれよ』の一言だけ。僕の身体から余計な力が抜けていく気がした。「直哉くん、お待たせ」 待ち合わせ場所に現れた結城さんを見た瞬間、言葉が出なくなった。 淡い水色の浴衣。髪が結い上げられている。いつも
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第四幕 夏色メモリー
 周りの目を気にせず、全部忘れてはしゃいでいた——あの夏。 夏休み真っ只中、初デートの熱はまだ冷めていない。思い出すと、顔が熱くなる。(次会った時、どんな顔をすれば……) そんな中、守からLINEが来たのは、夏祭りの数日後だった。『海、行くぞ!』 守の行動力には、いつも驚かされる。集合場所に集まったのは六人。 男子は僕、守、黒崎くん。 女子は沙友里、神楽麻衣さん、高瀬梢さん。 沙友里とのデートもそうだが、クラスの女の子と出かけるのも初めてだった。「直哉! 早くいこー」 沙友里が声を上げている。いつも通りの様子で、僕は胸を撫で下ろす。「焼けるから嫌だって言ったんだけど……」 神楽さんは渋い顔をしている。「でも、ちゃんと来てくれるよね」「梢も行くなら、しょうがないでしょ」 高瀬さんが柔らかく微笑み、神楽さんの耳が少しだけ赤くなった。「相沢、誘ってくれてありがとう」「お前がいないと始まらねぇだろ」 守も黒崎くんも教室とは違い、どこか浮かれているように見える。「直哉、感謝しろよ。みんなを誘うの、大変だったんだぜ」「うん、ありがとう。けど、守はすごいね」「なにが?」「あの神楽さんまで、呼べるなんて」 僕が沙友里の彼氏でなければ、話すこともないような高嶺の花。美人揃いのダンス部の中でもトップの人気を誇っている。「あぁ……まぁな」 僕がここにいていいのかと思うほど、すごいメンバーが集まっていた。 海まで電車で一時間ほど。電車の中では、男女に分かれて座っている。 まだ少し距離感のあるグループ。だけど、守も黒崎くんも上手く距離を詰める。(すごいな、二人とも) 僕は同じ場所で、同じ空気に触れているのが心地よかった。「よっしゃー、来たぜ、海!」「相沢、落ち着けよ」「結構、人がいるね」 今日は絶好の海日和。準備に時間のかかる女性陣より先に、僕たちは砂浜に出た。 暑い日差しが気持ちいい。海の家からは、美味しそうな匂いが漂ってくる。「みんな、お待たせー」 沙友里の声に僕たちは振り向く。 その瞬間、僕の時間が止まった————なんか、すごい。(語彙力が、死んだ……) 沙友里はスカートの付
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第五幕 描きたいもの
 夜が、僕たちを引き留めていた—— 帰りたくないと願ったのは、高瀬さんだけじゃない。 黒崎くんの親が経営するホテルは、海から歩いて五分もかからない場所にあった。 エントランスに入った瞬間、全員の足が止まった。「……え、黒崎、お前ん家、金持ちかよ」「ホテルを経営してるだけで、普通だよ」「普通じゃねぇ」 黒崎くんは苦笑いしながら、フロントに声をかけた。自慢するわけでもなく、ただ当たり前のように、手配をしてくれた。 用意してくれたのは二部屋。男子と女子に、それぞれ別れる。 まずはみんな親への連絡から始めた。「もしもし母ちゃん? 今日は友達の家に泊まるから」 守の声が部屋に響き渡る。 僕も早速電話をかけた。母さんは特に心配することなく、突然の宿泊を許してくれた。むしろ、初めての事態に喜んでくれてるようだった。『迷惑かけないようにね……けど、良かったじゃない』「うん、楽しいよ」 これだけのことだけど、今日は全て新鮮だった。 その後は女子たちと合流して、買い出しへ。近所のスーパーへ向かい、必要なものを物色する。 飲み物、お菓子。トランプと着替えも手に取る。「花火もいるだろ」 守の一言にみんな同意し、手持ち花火もたくさん買い込んだ。 ホテルへの帰り道、夕方の海岸線をみんなで歩く。本当なら寂しさを感じるような風景なのに、不思議とそんな気はしなかった。「今日、楽しいね!」 沙友里の声も弾んでいた。「うん、何だかドキドキする」「そうそう! ねぇ、直哉」「ん?」「今日は……ずっと一緒だね」 いつもよりずっと近くに沙友里を感じて、心が落ち着かない。「そ、そうだね。みんな一緒……」「後で二人で抜け出そ?」「——うん」 みんなと過ごすこの時間が、宝物のように感じていた。 夕食は黒崎くんの計らいで、海辺でBBQに決定した。焼き台とテーブルを準備すると、みんなの熱気が一気に上がった。 三人の男子で焼き台を囲む。炭に火をつけるのに苦戦したが、その後は順調に肉や野菜を焼き上げていく。 どんな場面でも、守はみんなを引っ張ってくれる。僕は焼き上がった串を、テーブルに運んでいた。「どんどん食えよ。女子からな」「焦げてるじゃない」「麻衣、これが男の料理だ」 守は胸を張った。「雑なだけでしょ」「う
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第六幕 浜辺の約束
 あの日の景色が、まだ僕の目に焼きついている—— 翌朝、男子部屋に差し込む光で目が覚めた。 隣では守がいびきをかいて寝ている。黒崎くんはすでに起きていて、ベランダで窓の外を見ていた。「桐谷、おはよう。よく寝れた?」「おはよう……守のいびきで、あまり……」 黒崎くんが苦笑いした。「けど、楽しかったね。みんないい奴だよ」「黒崎くんこそ、色々ありがとう」「また、誘ってくれるかい?」「もちろんだよ」 その時、部屋の中で僕の携帯が鳴った。『直哉、おはよー、朝の散歩行こっ!』「沙友里は朝から元気だね」「うんっ! 私、朝強いから」 僕たちは二人でホテルを抜け出し、朝の海岸を手を繋ぎながら散歩していた。朝の心地よい風が、沙友里の髪をなびかせている。「朝の散歩は気持ちがいいね」 空いている手で髪を抑えながら、沙友里が言った。「神楽さんたちは?」「梢はまだ寝てたよ、麻衣は準備中」 犬を散歩する女性とジョギングをする男性が、僕たちの横を通り過ぎた。「みんなと、こんな風に過ごせるなんて思ってなかった」「麻衣も梢も、いい子でしょ?」「うん、みんなの意外な一面も知れたしね」 一つ一つの場面を思い出すと、口元が緩みそうになる。「みんなのこと、大好きだよ」「ふふっ、良かった」 沙友里がコロコロと笑った。「ねぇ……麻衣も、梢も可愛いでしょ?」「うん、すごく可愛いよ」「……」(あ、あれ……) 繋いでる手に力が込められていた。即答したことを少し後悔する。「ちょっとだけ……痛いかな……」「——知らない」 少し膨れた頬を見て、思わず微笑んでしまった。それを見た沙友里の頬がさらに膨れた。(沙友里が一番……だけどね)「おーい、お二人さーん」 防波堤の上から、僕たちを呼ぶ声がした。「朝飯の時間だぞー」 静かな海岸に、守の大声が響き渡る。その声だけが浮いていて、僕たちは顔を見合わせて笑った。 ホテルに戻ると、みんながお腹を空かせて待っていた。ホテルの朝食バイキングを利用できるようで、みんなの顔が輝いていた。「ここのホテル、バイキングが美味しいって評判なのよ」「えっ、マジで?」「まさか、黒崎くん家のホテルだとは思わなかったけど」「いや
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