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53歳おっさんテケナー
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Novels by 53歳おっさんテケナー

『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』

『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』

伝説と呼ばれた元トップモデル・歌原レイラは、不審な死を遂げてから一ヶ月後、幽霊としてこの世に戻ってきた。 彼女が目にしたのは、両親の愛を受けられず、孤独の中で生きてきた妹・歌原彩の姿だった。 かつて二人は誓っていた。 ――いつか、姉妹で同じランウェイを歩こうと。 その約束を胸に、夢を諦めず努力を続ける妹の姿を前に、レイラは決意する。 何者でもない中年男・与那嶺良太に引き寄せられ、幽霊としてこの世に留まった彼女は、妹を再び表舞台へ導くことを選んだ。 だが、幽霊であるレイラは、直接この世界に触れることができない。 良太の助けを借りながら、妹をモデルの道へと導いていく。 後悔、喪失、そして再生。 過去と向き合いながら、人はもう一度、人生をやり直せるのか。 これは、死んだ姉が託した想いが、残された者たちの未来を動かしていく物語。
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Chapter: 第32話《伝説と無職》
28歳・無職。伝説のモデルの墓を掃除した日、俺の人生は、ようやく動き出した。1.28歳無職の部屋/朝カーテンの閉じられた、薄暗い六畳間。PCモニターの青白い光が、無音の空間をぼんやりと照らしている。壁にはアニメポスター。足元には食べ終えたカップ麺の容器と、脱ぎ捨てられたTシャツ。エアコンの吹き出し口からは、かすかにカビの匂いがした。キーボードを叩く音だけが、部屋の呼吸を支配していた。良太(ナレーション)「与那嶺良太、二十八歳。職歴、空白。生きてるのに、生きてないような毎日。それが、俺の“現実”だ。」少し前に使ったティーバッグを、もう一度カップへ放り込む。お湯を注ぐ。薄い色が、ゆっくり滲む。良太は、それをじっと見た。良太「……二回目でも、まだ味するな」小さく笑う。良太「今の俺には、これで十分」ぬるい紅茶を一口すする。わずかに顔をしかめる。モニターの反射光に照らされた自分の腹を見下ろす。良太「……この腹、ひでぇな」思い出したように、苦笑する。良太(ナレーション)「近所のおばちゃんが言ってた。“稼がないのに、いいもん食べさせてもらってんだね。親に感謝しなよ”って。その通りだ。年金暮らしの父親の金で生きてる俺なんて、みっともねぇにもほどがある。」しばらく沈黙。良太「……痩せなきゃな」そう呟いても、立ち上がらない。良太はマウスを動かし、ニュースサイトを開く。画面に、芸能ニュースの見出しが並んでいた。『歌原和人氏、亡き娘・歌原レイラの事務所を承継へ』『UTAHARA OFFICE、代表交代で波紋』『“チームレイラ”主要スタッフが相次ぎ退職、今後の運営に不透明感』良太は、無言でモニターを見つめる。良太「……亡くなって、まだ一週間くらいだろ」スクロールする。画面には、短い記事本文が映る。歌原レイラ氏の死去に伴い、同氏が設立したUTAHARA OFFICEは、法定相続人である父・歌原和人氏を中心に承継手続きを進めている。一方で、長年レイラ氏を支えた主要スタッフはすでに退職し、それぞれ個別に活動を開始したとみられる。所属モデルであり、妹の歌原彩氏の今後にも注目が集まっている。SNSの反応が、画面の端に流れる。「レイラの会社、父親が継ぐの?」「裁判で揉めてた親じゃなかった?」「チ
Last Updated: 2026-04-29
Chapter: 第31話《レイラのいない会社》
1.UTAHARA OFFICE・会議室/午前レイラの死から、数日後。UTAHARA OFFICE。白い壁。磨かれた床。壁に飾られた、過去のキャンペーン写真。その中心にいるのは、どれも歌原レイラだった。けれど今日は、空気が違っていた。スタッフは全員、会議室に集められている。チームレイラ。マネージャー・加納。スタイリスト・井原。カメラマン・黒瀬。SNS担当・南条。メイク・安藤。ディレクター。レタッチャー。そして、柳田真悠。事務所No.1マネージャー。その他、事務、経理、アシスタントたち。誰も、雑談をしない。椅子のきしむ音だけが、やけに大きく響いていた。ドアが開く。入ってきたのは、歌原和人。黒いスーツ。だが、喪服ではない。その後ろに、代理人弁護士が二人。さらに、事務担当らしき男がひとり。和人は会議室の前方に立つ。一度、室内を見渡す。その視線は、人を見ているようで、数を数えているようだった。代理人が一歩前に出る。代理人「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」誰も返事をしない。代理人「歌原レイラ氏の逝去に伴い、相続および会社支配権に関する正式な手続きを進めております」紙がめくられる。代理人「現時点で有効な遺言書等は確認されておりません。そのため、法定相続人であるご両親が、歌原レイラ氏の財産および関連権利を承継する方向で手続きを進めています」加納の拳が、膝の上でわずかに握られる。黒瀬は目を閉じたまま、動かない。柳田は、表情を変えない。代理人「それに伴い、UTAHARA OFFICEの代表権についても整理を行います」一拍。代理人「正式な手続き完了後、歌原和人氏が代表取締役に就任する予定です」室内の空気が、音もなく冷える。南条が、唇を噛む。和人が軽く咳払いをする。和人「……まあ、そういうことだ」誰も見ない。誰も頷かない。和人「正直に言う」和人は、ゆっくり口を開いた。和人「俺と娘のレイラとの関係は、良くなかった」会議室の奥で、誰かが目を伏せる。和人「裁判の報道もあった。世間も、そこは知ってるだろう」淡々とした声。けれど、その淡々さが逆に薄かった。和人「だが、それでも俺はレイラの親だ」和人は壁の写真を見る。そこには、黒いドレスをまとったレイ
Last Updated: 2026-04-27
Chapter: 第30話《空いた椅子に、欲が座る》
1.葬儀場の外/夕刻 (葬儀は終わった。 会葬者は引き、車列もまばらになっている。) (濡れた石畳。 薄い夕暮れ。 供花を運び出すスタッフの姿。 片付けの気配だけが、静かに残っている。) (斎場の外気は少し冷えている。 花と線香の匂いだけが、まだ薄く漂っていた。) (和人は喪服のまま、斎場の外でスマホを取り出す。) 和人 「……もしもし」 (歩きながら。) 和人 「さっきの投資会社の名刺、あっただろ。 あれに連絡入れろ」 (すぐ横で、代理人が足を止める。) 代理人 「お待ちください」 和人 「何だよ」 代理人 「今売れば、大損です」 (和人、露骨に顔をしかめる。) 和人 「は?」 和人 「高値で買うって向こうから来たんだぞ?」 代理人 「それでも、です」 (代理人、視線をまっすぐ返す。) 代理人 「今日来た投資家は、価値が見えているから来たんです」 和人 「……だから売るんだろうが」 代理人 「逆です」 (一拍。) 代理人 「価値が見えているからこそ、 “安く買えるうちに押さえたい”んです」 (和人、黙る。) 代理人 「《UTAHARA OFFICE》は上場企業ではありません。 市場で株価がついている会社でもない」 代理人 「ですが、だからこそ―― 今この瞬間の空気で雑に手放していい資産でもない」 (和人、眉を寄せる。) 和人 「……分かるように言え」 代理人 「レイラさん個人の死で価値が終わる会社なら、 彼らは来ません」 代理人 「来たということは、 “死後も金を生む構造が残っている”と見ているからです」 (和人の目がわずかに動く。) 代理人 「ブランド。 過去アーカイブ。 肖像管理。 スポンサーとの残存契約。 関連権利。 育成中の案件。 事務所名そのものの信用」 代理人 「それらを整理し、 経営人材を置き、 適切に握れば――」 (一拍。) 代理人 「これは一度きりの売却益より、 ずっと大きい金を生む可能性があります」 (沈黙。) (遠くで、台車が石を擦る音。 供花がひとつ、またひとつと運び出されていく。) 和人(心の声) レイラの名前。 事務所。 ブランド。 金の流れ。 全部まとめて、まだ生きてる。
Last Updated: 2026-04-24
Chapter: 第29話《花に埋もれた、世界の中心で》
1.都内大規模斎場/午前都内有数の大規模斎場。朝から降っていた雨は上がっていたが、 空はまだ薄く鈍く、光だけが曖昧に広がっていた。黒塗りの車が絶えず出入りしている。喪服の群れ。 長い列。供花の香り。 線香の煙。そして――規模に見合わないほど整然と配置された、メディアエリア。斎場の外には、報道カメラが並んでいた。一定の線より先へは入らない。だが、そのレンズは絶えず祭壇の方向を狙っている。まるで、それが当然の景色であるかのように。彩は、その異様さを、まだうまく理解できずにいた。黒い喪服に包まれた自分の手を見る。指先が少しだけ冷えている。隣には柳田。少し後ろに、南条、井原、加納、黒瀬。UTAHARA OFFICE―― レイラの事務所を支えてきた面々が、今日は誰一人として仕事の顔をしていなかった。「……大丈夫?」小さく声をかけたのは柳田だった。彩はすぐには答えられなかった。大丈夫かと聞かれても、 何をもって大丈夫というのか、もう分からなかったからだ。「……はい」やっとそれだけを返す。自分の声が、自分の声じゃないみたいだった。祭壇の中央には、歌原レイラの遺影。大輪の白い花に囲まれて、姉は笑っていた。いつものように綺麗で、 隙がなくて、それなのに―― そこにいるのは写真だけだった。まだ、理解が追いつかない。病院で白い布の下にいた人と、 いま花の中心で微笑んでいる人と、 毎朝当たり前みたいに「起きなさい」と言っていた姉とが、どうしても一つに結びつかない。死んだ、という言葉だけが先にあって、 姉がいないという現実は、まだどこか遠かった。2.チームレイラ「少し座って」井原が椅子を引く。彩は頷き、腰を下ろす。南条が水を差し出した。「無理して立たなくていいから」「うん……」キャップを開ける手が、わずかに震えた。黒瀬は壁際で腕を組み、黙っている。加納は何度も口を開きかけては閉じた。誰も、正しい言葉を持っていなかった。「レイラさん、こういうの嫌いそうっすよね」南条が吐き捨てるように言う。「……何が?」「メディア席ですよ」彩は視線を動かす。確かに、一般参列の導線から外れた場所に、報道用の区画があった。カメラが静かに方向を合わせている。「こんなの、おかしいでしょ」小さな声が返る。「……場所
Last Updated: 2026-04-22
Chapter: 第28話《棚から落ちた、神の札》
1.中華料理店/昼 場末の中華料理店。 昼営業のピークを過ぎ、客はまばらだった。 油の匂いが壁や床に染みつき、換気扇が低く唸っている。 壁掛けテレビでは、昼のワイドショーが何事もない顔で流れていた。 窓際の席。 和人が一人、赤ら顔で酒を飲んでいる。 テーブルには空いた瓶。 料理はほとんど手つかず。 スマホ画面には証券アプリが開かれたままになっていた。 赤字。 評価損。 マイナスの数字が、容赦なく並んでいる。 投資に溺れた男は、資産を失うたびに「次で取り返せる」と言った。 そして気づけば、取り返すための金すら、ほとんど残っていなかった。 「……クソが」 和人はグラスを煽った。 何がAI銘柄だ。 何が次世代市場だ。 何が“今入れば勝てる”だ。 「……クソ市場が」 その時だった。 テレビの音量が、スタジオのざわめきごとわずかに上がる。 『速報です。世界的モデルとして活躍していた歌原レイラさん(28)が本日午後――』 和人の手が止まった。 『都内病院にて死亡が確認されました――』 沈黙。 和人はゆっくりと顔を上げた。 「……は?」 テレビに映るレイラの写真。 整いすぎたその顔が、無機質な速報テロップの隣に固定されている。 「……なに?」 立ち上がる。 「おい……嘘だろ……」 スマホを掴み、発信した。 2.電話/同時刻 コール音。 「出ろ……出ろ……!」 数秒のあと、通話が繋がる。 「……何」 陽子の声は小さかった。 「おい!! 何してんだ早く出ろクソが!!」 「今、外。用はあるの?」 「レイラのこと知らねぇのか!?」 沈黙。 「テレビ見ろ!! レイラが――」 そこで喉が詰まる。 「……死んだってよ」 数秒、沈黙が続いた。 「……おい?」 「お前、大丈夫か?」 「聞こえてんのか?」 「……ええ」 静かすぎる声だった。 「私も……今知ったところよ」 「病院で落ち合うぞ」 「……分かった」 通話が切れる。 その声が静かだった理由を、この男はまだ知らない。 3.法律事務所・応接室/翌日 重厚な木目のテーブル。 壁一面の本棚。 窓の外は曇天だった。 和人と陽子が並び、向かいには代
Last Updated: 2026-04-20
Chapter: 第27話《まだ、そこにいるはずだった》 
歌原レイラ(28)──死亡確認済。 歌原彩(15・高校一年生)──春。 1.私立聖蘭学園・一年A組/午後 (教室は静まり返っていた。) (誰も動かない。 誰も声を出せない。 女子生徒の手の中で、スマートフォンの画面だけが白く光っている。) 『歌原レイラ 死去』 (その文字だけが、教室から現実感を奪っていた。) 彩 「……え?」 (小さな声だった。 意味を理解していない声だった。) 女子生徒 「ご、ごめん……私……」 教師 「神崎、スマホをしまいなさい!」 (だが教師自身の声も揺れている。) 教師 「……歌原。保健室へ――」 彩 「……違う」 (全員が止まる。) 彩 「それ、違うと思います」 (即答だった。 迷いのない否定だった。) 彩 「たぶん、同姓同名です」 (教室が凍る。) 彩 「お姉ちゃん、今日も朝……」 (言葉が止まる。) (朝の光景が、何の前触れもなく脳裏によみがえる。) レイラの声 『行ってらっしゃい』 『今日もちゃんと食べなさい』 『帰ったら話あるから』 (全部、数時間前のことだ。) 彩 「……朝、普通だったので」 (誰も何も言えない。) (その「普通」が、今は一番残酷だった。) 2.廊下/直後 (彩が教室を出る。 教師が呼び止める声も聞こえない。 廊下の窓から、春の光が差し込んでいる。) (彩はスマートフォンを取り出す。) 通知 99+ 柳田 南条 事務所 知らない番号 ニュースアプリ 着信履歴 LINE (全部、赤い。) (指が震える。) (彩はレイラに電話をかける。) コール音。 一回。 二回。 三回。 (出ない。) 彩 「……ほら」 (誰に言うでもなく。) 彩 「撮影中だ」 (もう一度かける。) (出ない。) (もう一度。) (出ない。) (その不自然さが、少しずつ現実の輪郭を持ち始める。) 3.校門前/午後 (黒塗りの車が止まる。) (柳田真悠が降りてくる。) (早足でもない。 慌ててもいない。 だがその顔に、もう答えが出ていた。
Last Updated: 2026-04-17
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