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53歳おっさんテケナー
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Novels by 53歳おっさんテケナー

『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』

『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』

伝説と呼ばれた元トップモデル・歌原レイラは、不審な死を遂げてから一ヶ月後、幽霊としてこの世に戻ってきた。 彼女が目にしたのは、両親の愛を受けられず、孤独の中で生きてきた妹・歌原彩の姿だった。 かつて二人は誓っていた。 ――いつか、姉妹で同じランウェイを歩こうと。 その約束を胸に、夢を諦めず努力を続ける妹の姿を前に、レイラは決意する。 何者でもない中年男・与那嶺良太に引き寄せられ、幽霊としてこの世に留まった彼女は、妹を再び表舞台へ導くことを選んだ。 だが、幽霊であるレイラは、直接この世界に触れることができない。 良太の助けを借りながら、妹をモデルの道へと導いていく。 後悔、喪失、そして再生。 過去と向き合いながら、人はもう一度、人生をやり直せるのか。 これは、死んだ姉が託した想いが、残された者たちの未来を動かしていく物語。
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Chapter: 第93話《午前九時》
RE:CODE MODE CONTEST。 本番当日。 午前八時五十分。 ルール説明が終わって、まだ五分しか経っていなかった。 それでも。 世間はもう、十六人を比べ始めていた。 * 《ノルディ容赦なさすぎる》 《本番一時間前にルール発表は鬼》 《ノーメイク、白T、ジーンズからスタート!?》 《外出自由、自腹、持ち込み自由って、資金力もチーム力も全部使っていいってことか》 《公平じゃなくない?》 《本人が公平な世界を用意しないって言ってたじゃん》 投稿は秒単位で増えていく。 ただ。 最も多く切り抜かれていたのは、ルールそのものではなかった。 司会者が、 「ノーメイク」 と告げた瞬間。 観客席が大きくどよめく。 その一方で。 ステージ上の十六人は、ほとんど動かなかった。 《モデルたち強すぎる》 《全国配信ですっぴんって言われてこの反応》 《御堂玲奈、眉ひとつ動いてない》 《真壁ミラも普通》 《歌原彩16歳だよね? あの子も全然怯んでない》 《覚悟が違う》 御堂玲奈。 真壁ミラ。 そして。 歌原彩。 三人の映像が、何度も使われていた。 * 会場内の特設スタジオ。 大型モニターには、十六人の出場モデルが並んでいる。 司会者が尋ねた。 「現時点での本命は?」 ファッション誌の元編集長は迷わなかった。 「御堂玲奈でしょう」 国内外の広告。 雑誌。 ランウェイ。 積み上げてきた仕事の厚みが違う。 「今が非常にいい時期です。経験もあり、自分の身体も見せ方も理解している」 ヘアメイクアーティストも頷く。 「本人だけでなく、チームも強いですね」 「HORIZON」 「ええ。御堂玲奈を勝たせるための体制が、すでにできている」 次に表示されたのは、真壁ミラ。 「対抗は?」 「真壁でしょう」 こちらも答えは早かった。 「この大会を大きな転機として捉えて、所属まで変えた。その選択自体が、彼女の意思を示しています」 「ノルディへのアピールにも?」 「なるでしょう。ただし、覚悟だけで評価されるわけではありません」 一拍。 「御堂玲奈は、今いる場所で勝ちに来た」 「真壁ミラは、勝つためにいる場所まで変えた」 そして。 三人目。 歌原彩。 十六歳。 UTAHARA MODEL
Last Updated: 2026-09-18
Chapter: 第92話《五時間》
本番当日。 午前八時四十五分。 RE:CODE MODE CONTESTのメインステージに、十六人のモデルが並んでいた。 御堂玲奈。 真壁ミラ。 そして。 歌原彩。 ほか十三名。 国内の大手事務所から推薦された者。 海外経験のある者。 広告や雑誌で名前を知られている者。 まだ若い者。 それぞれ違う経歴を持った十六人が、同じ照明の下に立っている。 客席にはスポンサー関係者、ファッション業界の人間、招待客。 後方にはテレビカメラ。 配信機材。 国内外のメディア。 さらにその向こうには、一般観覧者がいる。 さっきまで会場を満たしていた話し声が。 照明が少し落ちただけで、ゆっくり消えた。 ステージ中央へ司会者が進む。 「それでは」 一拍。 「RE:CODE MODE CONTEST、本日のルールをご説明します」 大型スクリーンに。 《FINAL SESSION》 の文字が現れた。 ステージ上の空気が変わる。 ここまで詳しいルールは、事前には知らされていない。 知らされていたのは。 開始時刻。 終了予定。 安全上の規定。 持ち込み禁止物。 そして。 最終評価はモデル個人ではなく、チーム全体を含めて行われること。 それだけだった。 良太はステージ脇のスタッフエリアから、彩を見る。 身体の内側には。 今もレイラがいる。 《来るわよ》 心の中で声がした。 《何が?》 《ノルディ》 それだけで。 良太の背筋が少し伸びた。 * 「本日のセッション開始は、午前十時」 スクリーンに大きく、 《10:00》 と表示される。 「終了は、午後三時」 《15:00》 続いて。 その間に一本の線が引かれた。 《5 HOURS》 客席が少しざわつく。 司会者は続ける。 「参加する十六チームには、この五時間で、本日の最終ステージに立つための準備を完成させていただきます」 彩の目が、僅かに動いた。 五時間。 長いようで。 短い。 「衣装、ヘア、メイク、スタイリング、演出」 一つずつ表示される。 「必要な調整は、すべてこの時間内に行ってください」 そして。 次の文字。 《会場外への移動――可》 今度は。 客席のざわめきが明確に大きくなった。 「セッション中の外出は自
Last Updated: 2026-09-15
Chapter: 第91話《久しぶりね、ノルディ》
RE:CODE MODE CONTEST、本番当日。チーム彩に、もう新しくできることはなかった。衣装は、佐久間博之が最後まで詰めた。七瀬は、本番で直す回数そのものを減らす前提でヘアとメイクを組んだ。奏は、彩が歩いた時に服がどう動くかを何度も確認した。良太は移動時間、持ち物、連絡先、当日の導線まで紙に落とした。そして彩は。歩いた。何度も。服を見て。自分の身体を見て。止まって。また歩いた。御堂玲奈のチームほど人数はいない。真壁ミラのチームほど経験もない。万全かと聞かれれば、違う。足りないものはいくらでもある。それでも。今いる人間でできることは、全部やった。あとは。本番を待つだけだった。*「……帰りたい」良太が小さく言った。会場へ入って、まだ十分も経っていなかった。隣にいたレイラが呆れた顔をする。《何しに来たのよ》「いや、違うんだよ」良太は声を抑えた。「頭では分かってたんだけど」改めて、周囲を見る。モデル。その所属事務所。スタイリスト。ヘア。メイク。デザイナー。スポンサー関係者。招待客。ファッション誌。テレビ。配信メディア。海外メディアらしいカメラまである。通路の向こうには観客席。すでに何百人もの人間が入場を始めていた。いたるところでカメラのシャッターが鳴る。スタッフがインカムで連絡を取り合う。知らない言語も聞こえる。そのすべてが。自分とは無縁だった世界に見えた。「場違いにもほどがあるだろ……」《今さら?》「今さらだから怖いんだよ」良太は胸元のスタッフパスを見る。《UTAHARA MODEL OFFICE 代表》何度見ても。自分の名前がここにあることがおかしい。少し前まで。五年間、ほとんど働いていなかった。ファッション誌の名前も知らなかった。モデルの歩き方に種類があることすら知らなかった。それが今。世界最高峰のコレクションへつながる大会で。一つのモデル事務所の代表として立っている。「……ほんとに俺でよかったのかな」レイラは何も言わなかった。少し離れた場所では、彩が七瀬の前に座っている。奏が衣装を確認し。佐久間が裾を見ている。誰も慌てていない。少なくとも。良太よりは。ずっと落ち着いて見えた。良太はしばらくその光景を見ていた。そ
Last Updated: 2026-09-13
Chapter: 第90話《七人いない》
RE:CODE MODE CONTESTの正式エントリー締切まで、残り十日。 1207号室の事務所スペースで、良太はノートパソコンの画面を見つめていた。 表示されているのは、参加予定チームの登録情報だった。 御堂玲奈。 真壁ミラ。 そのほか、招待されたモデルたち。 モデル名の横には、それぞれチームメンバーが並んでいる。 ヘア。 メイク。 スタイリスト。 デザイナー。 演出。 マネージャー。 アシスタント。 良太はスクロールする指を止めた。 「……多くない?」 向かいで資料を読んでいた七瀬が顔を上げる。 「何が?」 「人数」 良太は画面を回した。 御堂玲奈のチームは八名。 真壁ミラのチームは七名。 他も似たようなものだった。 少なくとも、ヘアとメイクは別々に名前が入っている。 衣装にも補助がいる。 演出を専門に担当する人間もいる。 良太は別の紙を見る。 チーム彩。 歌原彩。 与那嶺良太。 相沢七瀬。 高梨奏。 佐久間博之。 五人。 それだけだった。 「うち、五人なんだけど」 奏が遠慮がちに答える。 「七瀬さんが、ヘアとメイクを両方担当してくださるので……」 「仕事の数なら六人分ってこと?」 「数え方としては」 佐久間が苦笑する。 七瀬は気にした様子もなく資料を閉じた。 「私は問題ないわよ」 良太が見る。 「何がですか?」 「ヘアとメイク。両方やる」 「できるかどうかは心配してないです」 七瀬の眉が少し上がった。 「じゃあ何?」 良太は少し考えた。 以前なら。 七瀬ができると言えば、それで安心していたかもしれない。 今は違う。 「七瀬さんしかできない状態になるのが怖いんです」 七瀬が黙る。 「本番で髪を直してる時に、メイクで何か起きたら、どっちも七瀬さんを待つことになる」 良太は画面へ目を戻した。 「他のチームって、そういうことまで考えて人数を入れてるんじゃないですか」 七瀬はしばらく良太を見る。 やがて、少しだけ口元を緩めた。 「代表らしいこと言うようになったわね」 「褒めてます?」 「半分」 「半分か」 奏が小さ
Last Updated: 2026-09-11
Chapter: 第89話《一緒に立つ》
衣装合わせの日。 1207号室の事務所スペースには、佐久間博之が持ち込んだ服が掛けられていた。 完成品ではない。 けれど、最初の仮縫いとはもう違う。 高い襟元。 肩から落ちる静かな線。 歩いた時だけ、少し遅れて動く裾。 彩が「残したい」と言ったものは残っている。 その一方で、首や肩、腰を締めつけていた箇所には修正が入っていた。 佐久間が最後の留め具を確認する。 「一度、着てもらえますか」 「はい」 彩は服を受け取り、別室へ向かった。 昨日のウォーキング練習では、自分で決めて歩いた。 今は、服を見る。 母親のことが消えたわけではない。 ニュースも続いている。 考えれば、胸はまだ重くなる。 それでも。 何を見る時間なのかは、自分で決めてもいい。 少しだけ。 そう思えるようになっていた。 * 彩が着替えている間。 良太はノートパソコンを開いていた。 RE:CODE MODE CONTEST運営から、出場チーム紹介ページの最終確認が届いている。 名前。 所属。 年齢。 これまでの仕事。 チームメンバー。 紹介文。 良太は上から順番に確認していた。 途中で、指が止まる。 「……あ」 七瀬が振り向く。 「何?」 「彩の紹介文」 良太が画面を少し傾ける。 七瀬と奏が近づいた。 少し離れた場所では、レイラも画面を覗き込んでいる。 そこには、こう書かれていた。 《世界的モデルとして活躍した故・歌原レイラさんの妹》 その下。 《姉と同じ世界の舞台を目指す、16歳のモデル》 良太は何度か読み返した。 間違ってはいない。 彩はレイラの妹だ。 そして今、世界へ続く大会へ出ようとしている。 運営が彩を紹介するなら、レイラの名前が出ること自体は不自然でもなかった。 むしろ。 それほど大きな名前だった。 「どうする?」 七瀬が聞く。 「どうするって?」 「このまま出すの?」 良太は画面を見る。 「俺が決める話じゃないかな」 レイラの視線が良太へ向いた。 《消さないの?》 「まだ分からない」 《彩の紹介よ》 「だから、彩に聞く」 レイラは少し黙った。 以前なら。 その言葉に反発したかもしれない。 彩を守るために、自分が先に決める。 使わせない。 比べさせない。
Last Updated: 2026-09-09
Chapter: 第88話《今は、服を見る》 
RE:CODE MODE CONTESTまで、あと一か月。 午後のウォーキングスタジオで、彩は佐久間が用意した調整用の衣装を着ていた。 本番用の服そのものではない。 丈や重さ、歩いた時の布の動きを確かめるために、本番に近い条件へ寄せたものだった。 良太はスタジオの端で資料を持っている。 七瀬は彩の顔を見ていた。 奏は裾の長さを確認し、佐久間は少し離れた椅子から全体を見る。 そして、良太の隣にはレイラがいる。 もちろん。 彩には見えない。 「今日は、一つだけ決めてきました」 彩が言った。 良太は資料から顔を上げる。 「何を?」 彩は自分の袖を見る。 「歩いている間は、服を見ます」 良太は少しだけ首を傾げた。 「服を見る?」 「はい」 彩は言葉を探す。 昨日までは、母親のことを考えないようにしていた。 ニュースを忘れようとした。 姉の死を考えないようにした。 そうすれば、練習に集中できると思っていた。 でも。 できなかった。 考えないようにするほど、頭の中に残った。 「考えないようにするんじゃなくて」 彩は続ける。 「今は、後にします」 良太には、その言葉の意味がすぐには分からなかった。 「後にする?」 「はい」 彩は少しだけ笑った。 「昨日、友達に教えてもらいました」 それ以上は言わなかった。 良太も聞かなかった。 レイラだけが、彩をじっと見ている。 《悪くないわ》 良太は顔を動かさず、心の中だけで返した。 《珍しいな》 《何が?》 《お前が、人のやり方をすぐ否定しないの》 《失礼ね》 良太は少しだけ口元を緩める。 七瀬がそれに気づいた。 「何?」 「いや、何でもないです」 七瀬は怪訝そうにしたが、それ以上追わなかった。 佐久間が立ち上がる。 「では、一度歩いてみてもらえますか」 「はい」 彩がスタート位置へ向かう。 床に引かれた一本のライン。 昨日も歩いた場所。 けれど今日は、自分の服を見る。 裾。 肩。 腰。 布がどこで身体から離れ、どこで戻ってくるのか。 彩は一度だけ目を閉じた。 それから歩き出す。 一歩。 二歩
Last Updated: 2026-09-07
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