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エチカ
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Novels by エチカ

魔女ドーラの孫(仮)

魔女ドーラの孫(仮)

大罪人 魔女ドーラの孫として慎ましやかに暮らしていたオルタナが ヴィンス・サリバン公爵閣下に犯罪者として捕らえられ 国で起こっている謎の事件に巻き込まれていく。 魔女狩りと称した薬師処刑の歴史を持つドーン王国で 薬学復興に力を入れる王とその側近達。 投薬を悪とする教会派の策略とは――――? 謎の植物が歴史を超えて巻き起こす事件の結末が一人の少年を導いていく。 凡庸Ωのオルタナと執着が過ぎる公爵様の焦れ恋シンデレラストーリー
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Chapter: 夜の国の女王
「何用ですか? 兄上。ウケイ殿までいらっしゃるとは……」「私はオルティを呼んだのであって、お前を呼んだわけじゃない」「オーリィ一人で登城させる訳がないでしょう」 そう言った公爵は王陛下の前へと腰を下ろし、オルタナはその隣にちょこんと腰かけた。 王妃は空いた王陛下の左側の席へと戻り、飲みかけのグラスを手に取る。「二人共、何か飲むかい?」「いいえ、兄上。それより早く、お話を……」「急かすねぇ……そんなに邪魔されたのが気にくわないのか? ヴィー」「喜んで登城したとでも?」 公爵は相変わらず笑顔のまま王陛下に対しても遠慮がない。「分かった分かった。せっかくの二人の時間を邪魔した事は詫びよう。だが、明日皆を招集する前に、一つオルタナに許諾して貰わねばならん事がある」「許諾……?」 そう問い返したオルタナに、王陛下はグラスを置いてこちらを見た。「モリガン伯爵が逝去された事は聞いたか? オルタナ」「あ、はい……」「モリガン家は爵位を剥奪し、旧モリガン区はサリバン公爵領とする予定だ」「え……サリバン公爵領ですか?」「あぁ、旧モリガン区はラカンとの国境もあり難しい土地だ。サリバン公爵に統治して貰い、今後の国交に尽力して貰うつもりだ」「そう、ですか……」 そうだとして、自分に何を許諾させようと言うのか。 全く話が見えてこないオルタナは、王陛下の話を聞きながら、首を捻る。「ははっ、何だかよく分からないと言う顔だな、オルティよ」「はい……」「あの地がサリバン公爵領になるこの機に、名を改めようと思っているのだ」「はぁ……モリガン伯爵の名前を使わないと言う事でしょうか?」「まぁ、それもあるが……あの土地は古の時代には夜の国と呼ばれていたそうだ。知っていたか? エヴレカの
Last Updated: 2026-08-18
Chapter: 小さな手紙
「くっ……絞るなと言っているのに……」「だって、こうしてるだけで、きもちぃ……」「そうだな。こうして何度も肌を重ねていれば、すぐに発情するさ」「うん。だいすきだよ、ヴィー様」「あぁ、俺も愛してるよ。暫くこのまま繋がっていようか」 公爵の楔を中に入れられたままただ抱きしめられて、微睡む様にジッと互いの熱を胎の中で溶かしている様な感覚だった。 覆い被さっている公爵は、愛し気に額や蟀谷にキスをし、瞼や頬を食み、まるで親が子を毛繕いするように愛撫する。 |泥濘《ぬかるみ》の中で激しく脈を打つ楔は、段々と時を追う毎に熱を増して、胎の中に染みわたって行った。 そうしている内にどこまでが自分で、どこからが公爵なのか分からない程に、その熱が混ざり合って溶けて行く。 あぁ、生きてて良かった――――。 そう教えてくれるのはいつだって最愛の人だ。 そうして寝食を忘れて互いを貪り合い、オブライアンの心配を余所に翌日の夕暮れまで部屋を出ることなく過ごした。「そろそろ邪魔が入りそうな予感がするな」 飽きもせずオルタナの細い体に巻き付く様にして離れようとしない公爵がそう言った。 予感は的中し、窓の外には銀の鈴をつけた鴉が器用に窓を嘴でノックする。 オルタナは情事で気怠い体をゴロリと翻して窓の外を見た。 「もしかして王陛下の?」と公爵に問うと、公爵は嫌そうに「はぁ……」と溜息で返事をする。 王陛下の専属鴉は凛々しい面立ちで、首に付けられた飾りに小さな手紙を携えていた。 公爵は憚る事なく寝台から起き出して、全裸のまま窓辺へと寄り不機嫌そうに前髪を掻き上げ、その手紙を開く。「お前に話があると書いてあるぞ、オーリィ」「え? 僕……?」「宛先が俺ではなく、オーリィになっている」「な、なんだろ……」
Last Updated: 2026-08-17
Chapter: いじわる
「声を抑えるな、聞かせろ」「ん……だって、はずかしっ……」「俺以外誰も聞いちゃいない」「そう、だけど……あっ! やっ……ふかぃっ……」 ぐっと奥まで差し込まれて、腰が揺れる。 期待で待ちきれず濡れた後孔の奥からは、昼下がりの明るい公爵の部屋に咀嚼音に似たような淫蕩な水音が容赦なく響く。 あのいつもの花の様な匂いがしない代わりに、卑猥な蜜の匂いが強く感じられていつもより恥ずかしい気がした。 ただ指でかき混ぜられるだけなのに、翻弄されて理性を忘れそうになる。 まだ明るい内からこんな淫蕩な情事に耽っている背徳感が、よりオルタナを羞恥に塗れさせ、声を上げる事すら憚られる気がした。「ぐずぐずだな」「だっ……て……」「お前も、こうしたかった?」「んっ……あぁっ……やぁっ……」 弱い所を擦り上げられて、オルタナは白い肢体を捩った。「ヴぃーさまっ、はやくっ……」「イって良いぞ」「ダメッ……いっしょ……に……」「一度で終わるつもりはないから、気にせずに達して見せろ」 そう言いながら、屹立したものには一切触れないのが、公爵流だ。 何度も肌を重ねる内に、中だけで達する事を覚えさせられてしまった。 熱を持った中の肉壁がうねる様でさえ、自分で分かる。 溶けてぐずぐずになったその肉壁の隙間を、公爵の長くて節のある指が抽挿を繰り返す度に、物足りない焦燥感が膨れ上がった。 オルタナの体はもっと太くて硬いもので擦り上げられ、もっと奥深くまで突き上げられる快感を知っている。 胸の蕾を吸い上げられ、空いた左手で弾かれるとより一層震えが背筋に沿って這い上がる。 オルタナは歯列の隙間から「イクッ」と絞り出し、戦慄くように背を撓らせ白い欲を吐き出した。「はぁっ……はぁっ……」
Last Updated: 2026-08-16
Chapter: 煽情的な獣
 真顔で何を考えているのか分からない上、降ろす気はないらしい。 出迎えたオブライアンは一瞬キョトンとした顔をして見せたが、すぐに微笑ましい物でも見る様な柔らかい笑みを浮かべた。「お帰りなさいませ、旦那様。オルタナ様」「た、只今戻りました……」「オブライアン、明日の夜まで誰も取り次ぐな」「かしこまりました」 長い足でさっさと自室へと向かう公爵に、オルタナは「あのっ……」と話し掛けるが、聞いてはいないらしい。 部屋に入った途端、寝台へとゆっくり降ろされた。  公爵は床に両膝をついて下から見上げる様にして言う。「オーリィ、明日までしか時間がない」「……んん?」「今晩、兄上とウケイ殿が王都へ戻られる。明日一日休まれた後、今後の事でまた忙しくなる事だろう」「う、ん……?」 そう言った公爵に付けている首飾りを片手で外され、何を求められているのかようやく理解した。「ちょ、あのっ……汚い、から……ゆ、あみしないとっ……」「汚くない」 黙れ、とでも言うように唇を塞がれる。 ジャケットを脱がされ、あっという間にシャツのボタンに手を掛けられる。  ジタバタと逃げを打つが腰を抱く公爵の力が強過ぎて微動だに出来ない。「んっ……んぅっ……」 こじ開けられる様にして舌を捻じ込まれ、喉奥から耳孔に直接響く唾液の音がより羞恥を煽るようだった。 片手で支えられた項を指でなぞられ、背筋が|撓《しな》る。 遠慮のない公爵の熱に、発情しているわけでもないのに頭の芯が熱を持つ。 外はまだ明るくて、薄らと瞼を開けば煽情的な公爵の眸と目が合い、恥ずかしさにまたギュッと瞼を閉じた。 剥ぎ取られたシャツの隙間から、大きな手が素肌を撫でるだけで粟立つ様な感覚が這い上がって来る。「んふっ……あ
Last Updated: 2026-08-15
Chapter: それぞれの道
「……クラノス?」「義姉上が信用に足るから使ってやれと言うもんでな」 そう言った公爵に、オルタナは「そっか」と笑い返した。「オルタナ様っ! 御無事で何よりですっ」「ごめんね、クラノス。あれから息子さんは?」 そう聞いたオルタナに、クラノスは深々と頭を下げる。「あれから、王妃様の使いの方が……あ、そちらの方が私の家に来て下さいました」「え? スーランが……?」「はい。息子を連れてこちらへ来るようにと言って頂きまして……」 王妃の使いとしてクラノスの家を訪ねたのは、スーランだったらしい。 王妃はクラノスの息子を祖母と一緒に診て、薬を調合し渡したのだと言う。 クラノスはそのお礼に、拠点に滞在中の買い出しや王妃の手伝いなどを買って出てくれていたそうだ。「王妃様のお陰で、息子も会話が出来る程に回復しております。妻の分まで薬を下さって、本当にどうお礼を申し上げたらよいか……」「ホントに? そっか、良かった……」「オルタナ様のお陰です。本当にありがとうございます!」「いや、僕何もしてない……」「いいえ、あそこでオルタナ様が王妃様に取りなして下さらなかったら、私も息子もどうなっていた事か……」「でも、それはクラノスがそう選んだからだよ。クラノスのお陰で僕達も助かったから、王妃様も助けたいと思ってくれたんだ」「オルタナ様が負傷されたと聞いて、毎日心配で……こうしてまたお顔を拝見できて、嬉しく思います」 そう言ったクラノスの眸は涙が溢れそうになっていて、オルタナはクラノスの肩をゆっくりと摩った。「いっぱい心配してくれたんだね、ありがとう」「サリバン公爵様にも、このような機会を与えて下さり心から感謝致します」「お前のした事は許されない事だが、義姉上が不問にすると言うならそれに従うまでだ。次はないと心に刻め」
Last Updated: 2026-08-14
Chapter: 本物の番
「あぁ。成長が追い付けば発情するだろうと、ドーラ殿が言っていた。ウケイ殿がくれた切り札も、この森の真珠に関する情報だったんだ」「じゃ……じゃあ、ヴィー様の赤ちゃん……産めるの?」 オルタナは公爵の胸にしがみつく様にして、公爵の顔を見上げて問う。 ジワジワと目頭に熱が籠って唇は震えていた。 どうしても、出来ない事なのだと思っていた。 王族に最も近い貴族の番になりながら、子供が産めないと言う現実はどう足掻いても捨てられない。 本物の番になるには、発情状態の時にαに項を噛んで貰わなければ成立しない。  その上、妊娠も出来ないのだ。 そんな出来損ないΩの自分が、公爵をいつか苦しめる事になるのではないか。  その漠然とした不安が拭えることは無かった。 公爵は愛おし気にこちらを見て「あぁ」と短く答える。「僕……本物の番になれるって事?」「今でも俺の番はお前だけだがな。発情したら、その細くて美しい項を噛ませてくれ」「……うんっ」「いつか俺の子を、産んでくれるか? オーリィ」「うんっ……ヴィー様の赤ちゃん、産みたい」 匂いを感じられることは無くても、その腕の中はいつも通り暖かい。  オルタナは公爵の胸に顔を摺り寄せ、零れて来る喜悦を噛み締めた。「でもまだ暫くは俺だけのオーリィでいてくれ」「んふふ、産みたくてもまだ産めないよ」「オーリィ……」 そう言った公爵がふっと体を離す。 何も言わずにこっちを見ている公爵に、オルタナは小首を傾げた。 重なり合った視線で、沈黙を言葉にして語り合う。 オルタナはただ黙って瞼を閉じて、柔らかい唇が届くのを待った。 ゆっくりと確かめ合う様な優しい口付けを、乾いた唇で味わう。「今日はこれ以上は無理だな」「そ、そだね……婆ちゃんたちもい
Last Updated: 2026-08-13
没落した薔薇は、碧夜の星になる

没落した薔薇は、碧夜の星になる

ラヴェルは、ローゼン公爵家の嫡子として何不自由ない生活を送っていた。しかしある夜、そのすべてが崩れ落ちる。 禁書の紛失事件の犯人として罪を着せられ、 さらに誘拐事件に巻き込まれた末、彼は海へと突き落とされる。 彼を救ったのは、一目見た瞬間に運命を感じさせる男——ジェイドだった。 ラヴェルは正体を隠し、ジェイドの“女”として生きることを選ぶ。 しかし、やがて辿り着く真実はあまりにも残酷だった。 ラヴェルを絶望の淵へ突き落としたのは——全てジェイドだった。 復讐と愛欲が絡み合い、繭のように彼を縛る中で、ラヴェルは蝶として羽ばたくのか、それとも仇敵とともに深淵へ堕ちていくのか。
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Chapter: 小さな星
「少し休んだらどうだ? ベル」 書斎で契約書や決裁書類に目を通していたラヴェルの元に、ジェイドがお茶を持って現れる。「ここまでやっておきたくて」「じゃあ、それは私が後でやろう」 書類を手から取られて「あ」とラヴェルは不満そうに見た。「夫を構うのが妻の仕事だ」「仕事をしている時の夫は、妻を構わないのに?」「だからこうして今、構ってる」「勝手な人ね」 ラヴェルはそう言いつつも、ジェイドの持って来たお茶を手に取り、ほぅっと息を吐く。 確かに、こうやってお茶を飲んだのもいつ以来だろうか。 思い出せないほど、ここ最近は忙しかった。「散歩にでも行かないか? ベル」 そう言われて窓の外を見ると、一番暑い時間を通り越し、涼しい風が草花を揺らしている。「そうね……気持ちよさそうなお天気だわ」「君に見せたいものがある」 屋敷から連れ出されるのかと思ったら、ジェイドは件の洞窟へ続く道を降りて行く。「あの……ジェイド?」 こんな昼間から? そう問いかけようとしたラヴェルに、ジェイドは「この奥だ」といつもの洞窟を、もっと奥まで進む。 しっとりとしたあの甘い香りに包まれたそこは、岩肌が湿り、いつも湧いている“魔女の秘薬”のせいで汗ばむくらい温かい。 まだ陽の落ち切らない時間だというのに、ここは夜空を映したように薄暗く、碧い星が瞬く世界。 滑らないようにと手を取られ、ラヴェルも慎重に足元を見ながら進む。「奥に何かあるの?」 薄暗い洞窟に一筋の光が見え、向こう側に出口があるのだと気付いた。 人の足で踏み固められたような階段を上り、地上へと出る。 そこは、ジェイドが連行された時、リ
Last Updated: 2026-08-09
Chapter: 渇望
 深く口付け、必死に応えようとするラヴェルの顔を愛おしげに眺める。 性急に着衣を脱がし、コルセットの紐を解く。 ジェイドは自分には自制心があると自負していた。 だが、ラヴェルが皇太子の婚約者になると言い出したあの時、その理性はもう既に切れていたのかもしれない。 この美しい宝石を、他の男が抱くなどと許せる事では無かった。 だから、国がどうなろうと知った事ではないと、無謀な策に出た――。 内戦になって、血が流れた所でラヴェルがこの手に戻るならそれで良かったのだ。「ジェイドッ……待って……息が……」 そう言われてジェイドは一旦離れたが、言葉もなく彼の肌へと手を伸ばす。「あっ……」 小さく咲いた肉蕾を指先で転がし、首筋へと舌を這わせる。 甘美なラヴェルの吐息交じりの声が、ジェイドの欲を昂らせていく。「ラヴィ……」 耳元でそう囁くと、ラヴェルは肢体を撓らせ喘ぐ。 ジェイドはその呼名に、ラヴェルが特別に反応する事を知っている。 期待に屹立したラヴェルの息子は、熱を持って白い蜜が滲み出ていた。 その様子を見ながらも、ジェイドはその肉塊に触れることはせず、双果の陰で花開こうとしている場所へと指を宛がう。「んぅっ……」 指先が入っただけで、ラヴェルは息をつめ、腰を上げる。 久しぶりだからか、そこは狭く硬い蕾のように指を押し出してくる。「力を抜いて、ラヴィ」「あっ……」 指を推し進めると、熱いくらいの肉壁がうねる。 雨に濡れた様な蕾が少しずつ開き、水音が跳ねると、指先が奥へ奥へと誘われた。 指を増やし、中の蜜壺を擦り上げ、ラヴェルの声は次第に掠れて行く。 強すぎる快感に「待って」を連呼するラヴェル。 ジェイドはその
Last Updated: 2026-08-09
Chapter: 衝動
 片手を上げてジェイドを見た。「連れて行って、ジェイド」 その場にいた貴族達はデルメールという名のせいで、ジェイドとはせいぜい親戚くらいに思っている。「喜んで」 ラヴェルはジェイドに掴まれた手をしっかりと握り返した。 振り向く事無く会場を後にしたラヴェルは、人目のない柱の陰に着いた時、ジェイドを強く引き寄せる。 言葉は必要なかった。 見つめ合い、繋がれた手の温もりだけで、一度は離れる事を決意した心が溶ける。 抱きしめられ、ラヴェルもジェイドの背中に回した腕に力を込めた。 どうしてこの男と離れられると思ったのか。 今となっては分からない程に、ラヴェルの心中は彼の香りに包まれている。「ごめんなさい、ジェイド……」「何を謝っている?」「私、貴方を……」「私がお前を諦めると思ったか?」 そう問われて、ラヴェルは顔を上げ、ジェイドを見遣った。 城門の外で地下の者達が押し寄せてくれなければ、今頃――。 自分で決めた事とは言え、その先は孤独で寂しい日々が待っていた事だろう。「言っただろう? 誰が相手でも諦めるつもりはないと……」 未だに城門に集まった民の声は響いている。 その声を微かに聞きながら、ラヴェルはジェイドの唇に自らの唇を寄せた。 触れるだけの、柔らかな口付け。「私が貴方を選んだのよ。もうどこにも行かないわ」 自分を置いて行く――そう言っていたジェイドの顔が忘れられなかった。 首を絞められた時の息苦しさも、あの時の胸の痛みも、生涯忘れる事はないだろう。 あの時の喪失感。 それがあるからこそ、この男と共に生きようと思える。「皆の所へ行こう」
Last Updated: 2026-08-08
Chapter: 愛の為に
「ナハト! 城門を封鎖しろ! 指揮はお前に任せる!」「かしこまりました。一班、城門へ! 二班はこの大広間の外を固めろ! 賓客の方々を守れ!」 会場の隅で事の成り行きを見ていたセルジオの指示に従って、兵士達が動き出す。 皇太子は大広間から出る兵士達の背中に、声をかけた。「首謀者を捕らえたら連れて来い!」 それを聞いてラヴェルは、グッと奥歯を噛み締める。 途端、思い出した。 自分で決めろ――ジェイドの声が、耳を掠めて行く。 最後には「自分で選べ」と言われ続けていた。 今、ここで、その意図を理解するなんて――。 そう思ったラヴェルは、もう一度、夜境石のネックレスに触れた。「殿下……いえ、新王ファルマ陛下」「……何だ? ベル」「彼らの目的が私なら、私は喜んで彼らの元へ参りましょう」 ラヴェルはそう言って低く腰を折り、首を垂れて見せた。「何を言っている。彼らの要求に応じては……」「陛下、民なくして王は務まりません。私は、この国の為、この身を捧げて貴方様のお役に立ちたく思います」「ベル……」「愛すべきは私ではないのです。民を愛さない王は、嫌われますよ」 ラヴェルはそう言いながら、フォルツ少佐へと視線を遣る。 フォルツ少佐は動揺し、あからさまに視線を逸らした。 セルジオから貰った切り札の使いどころは、ここしかない。「何の、話を……している……?」 ファルマも同じように動揺を隠しきれず、言葉が途切れ、震えていた。「愛し合った者同士が、共にいられるわけではないと、ご自身がよくご存じのはずです。陛下」 ファルマが下位貴族であるフォルツ少佐を傍に置くと決めた時、かなり我を貫き通したらしい。 そこに疑問
Last Updated: 2026-08-08
Chapter: 沈黙の獣
「ごっ、ご報告いたしますッ! 城門の外に民がっ……」「何事だ? 民がどうしたのだ?」 オルレインの問いかけに、衛兵は息を飲んで「押し寄せていますッ!」と端的に吐き出した。「何だと?」「どこの者か分かりませんが、ベル・デルメールを返せと、皆口々に叫んでおりますッ!」 衛兵の言葉を聞いて、ラヴェルはハッとジェイドを見る。 だが、ジェイドは素知らぬ顔で事態を眺めていた。「何をしている! 早く事態の収拾をっ……」「総出で押さえておりますが、彼らの目的はそこにいらっしゃるベル・デルメール様のようで……」 事態を把握しきれない王は、こちらへと声を張る。「どう言う事だ、ベル・デルメールよ」「存じ上げません。私には何の事か……」 その時、ラヴェルの脳裏に浮かんだのはバロー伯爵領の地下にいるアンドール達だ。 ジェイドはその者達を解放する為にバロー領へ行き、デルメール領で保護する事になっていた。 王家はエルメダの日記もアンドールも民に知られては困る。 それは皇太子も同じ事だった。「まさか地下の者達か……?」 隣で思案している様子の皇太子がそう零す。 闇に紛れているとは言え、リゼルのように一見しても人とそう違いない者もいれば、レヴィンのように人間離れした者もいるだろう。 バロー家で行われていたアンドール政策は、これで隠しきれるものではなくなった。「先導しているのは子供と化け物のようですッ!」 ラヴェルはそれを聞いてリゼルとレヴィンを思い出す。 これに失敗すれば、彼らは投獄。 処刑は免れないだろう。 後方で腕を組み、静観しているジェイドが何を考えているのか。 ラヴェルには全く分からなくなって来ていた。
Last Updated: 2026-08-07
Chapter: 返答
「王陛下が脱げと仰せなら、そのように致しましょう。ですが、一つお願いがございます」「何だ? 申してみよ」「バロー伯爵がダフィーニア様を殿下の婚約者に望んでおられるというのは、私の耳にも入っております。ですので、ダフィーニア様にも同じように脱いで頂ければ、と」 ラヴェルはそう言ってバロー伯爵の方へと振り返る。 その時初めて、その後方にジェイドの姿を見た。 夜を映したマデイラの海に似たシックな衣装を身に纏ったジェイドが、ただ射るようにこっちを見ている。 ラヴェルは意思を確かめるように、首につけた夜境石のネックレスに触れた。「なっ……何をバカな事をっ! 私の娘は穢れてなどおらぬ!」「得体が知れないのはお互い様でございましょう? 伯爵」「小娘がッ! 何と生意気なッ!」「ご自分の娘に出来ない事を、他人の娘には成せと仰るのですか?」「それはそなたが不義を働いた罪ゆえに申しておる事だ!」「ならば、こちらも証人を出しましょうか? そちらのご令嬢が、どのようにしてその噂を広めたのか」 一瞬、会場が騒然となった。 一歩も引かないラヴェルに、バロー伯爵は「証人……」と顔を引き攣らせる。「なっ、何かの間違いよ! ベル様っ……私はそんなっ……」「ダフィーニア様、恨むなら浅はかなご自分をお恨みになって下さいませ」「ベル様は私が殿下の婚約者候補だから、お邪魔なのねっ? そうでしょう? 私は……」「そんな事は望んでいないのに? ですか?」 ラヴェルはそう畳みかける。 ダフィーニアはそれに言葉を飲んだ。 望んでいないと言えば、王妃になる道は途絶えてしまう。「そもそも、私はダフィーニア・バローを婚約者に望んではいない」 そう言い切った皇太子の言葉に、バロー伯爵は分かりやすく唇を噛んで見せた。「
Last Updated: 2026-08-07
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