Chapter: 第63話 疑惑 誰もがテレビを見つめたまま動けずにいた。 画面には、『炎プロジェクト 出来レース疑惑!?』というテロップが映し出され、過去の特番映像まで流されている。 ゆっくりと立ち上がった颯馬に、全員の視線が集まる。 もちろん、その様子も二十四時間配信のカメラが映している。「颯馬……」 誰かが不安そうに名前を呼んだ。 隣を見ると、水琴が静かにこちらを見つめていた。いつもの余裕は消え、心配そうな表情だった。 颯馬は小さくうなずき、口を開く。「……写真もLINEも本物だ」 室内の空気が張り詰める。「昔、炎さんと付き合ってた。それも事実だよ。今は違うけど」 誰も口を挟まない。 重苦しい沈黙を破ったのは龍也だった。「じゃあ、やっぱり最初から決まってたってことか? このオーディション、颯馬をデビューさせるために」「違う」 颯馬は即座に首を振る。「炎さんが俺を合格させるなんて言ったことは一度もない。俺から頼んだこともない。デビューを約束されたこともない」「でも、視聴者はそう思わないだろ」 響が冷静な口調で言った。「審査員は視聴者だけど、その投票だって操作できると思われる。証明する方法がない」「俺だってそう思われるのは分かってる」 颯馬は拳を握り締めた。「でも違うってちゃんと伝えたい」 言い訳を並べても意味はない。 過去は消えない。 それでも、このオーディションまで否定されるのだけは違うと思った。「俺はみんなと同じ条件でここまで来た。レッスンも審査も、特別扱いなんて一度も受けてない」「でも炎さん、お前だけ何回も部屋に呼んでただろ」 葉月の声に、颯馬はうなずいた。「ああ」 否定しない。「呼ばれたことはある」 また空気が重くなる。「でも、審査の話なんかしてない。証拠がある
آخر تحديث: 2026-07-27
Chapter: 第62話 流出 颯馬と水琴が手を繋いで階段を上っていく様子はしっかりとライブ配信され、視聴者によるコメントはその夜も盛り上がっていた。【コメント欄】MofuCat_22:手つないだーーーーーー!!!!!腐女子Lv999:ぎゃあああああああAoi_0715:今日も供給ありがとうございますBL_is_life:颯馬から繋いだ!?!?!?sakura39:水琴めっちゃ嬉しそうfujoshi_mikan:営業でも何でもいい、尊いotaku_1988:毎日イチャイチャしてて助かるsnow_rabbit:耳元で何か言った?nekoneko_55:「営業」って言ったっぽいwww腐海の民:照れ隠しordinary_man:いや、友達同士でも手くらい繋ぐことあるだろKazu1984:いや、ねーよwsoccer_11:小さい頃ならあるhiro_777:肩組むなら分かるけど手はないかなTomo_JP:俺男だけど友達と手繋いだこと一回もないRiku_25:仲良い友達でも肩組むまでだなBL_is_life:恋人だから繋ぐんだよ(真顔)ordinary_man:営業だからろwMofuCat_22:営業って言いながら毎日距離縮まってるの最高user_8fa91c:え?ちょっと待ってKotaX_00:ヤバいRin_Rin77:X見てordinary_man:なんかあった?news_fast24:炎と颯馬のプライベート写真流出Aki_1103:は???JP_trend_bot:「緋崎炎」がトレンド1位soccer_11:え、ガチ?Yuki_sub02:颯馬との写真流出してるKazu1984:昔の写真?news_fast24:同棲時代らしいRin_Rin77:LINEスクショまで流れてるTomo_JP:嘘だろMofuCat_22:え、え、え???movie_clip_88:過去配信の切り抜きも出てるAki_1103:炎が颯馬だけ私室に呼んでるシーンまとめられてるKotaX_00:しかも2回hiro_777:今の合宿の映像じゃんordinary_man:これ出来レース疑われても仕方なくないか…JP_trend_bot:「炎プロジェクト」が急上昇2位news_fast24:『炎が元恋人をデビューさせるためのオーディション』って拡散され始
آخر تحديث: 2026-07-26
Chapter: 第61話 重なったぬくもり 脱衣所の扉の前でイッセイは振り返り、少し照れたように笑った。「じゃあ、おやすみ」「おやすみ」 水琴も笑顔で返す。 イッセイは軽く手を振ると、そのまま扉の外へ出ていった。 扉が閉まると、水琴はようやく肩の力を抜く。 胸につかえていたものが、少しだけ軽くなった気がした。「ちゃんと話せてよかったな」 隣で颯馬が言う。「うん」 水琴は頷いた。「ちゃんと謝れてよかった」「イッセイもわかってくれたみたいだしな」 イッセイの足音が遠ざかっていく。 二人だけになった空間は、不思議なくらい静かだった。 しばらく無言で見つめ合っていると、ふいに颯馬が一歩近づいた。 その表情はどこか照れくさそうで、それでも嬉しさを隠しきれていない。「……よかった」 ぽつりとこぼれた声は、水琴に向けたというより、自分自身に言い聞かせるようだった。 次の瞬間、ふわりと体が温もりに包まれる。 颯馬が水琴を抱きしめていた。 驚くより先に、胸がいっぱいになる。 背中に回された腕は力任せではなく、壊れ物を抱えるように優しい。 水琴もゆっくりと腕を伸ばし、颯馬の背中へ回した。「心配かけて、ごめんな」 肩口へ小さくつぶやく。「マジで心配した」 そう返しながらも、責めるような響きは少しもない。「でも、もう終わった」 その一言に、水琴は目を閉じる。 少しだけ名残を惜しむように腕がほどける。 目が合うと、どちらからともなく笑ってしまう。「……行こか」「うん」 二人は並んで脱衣所を後にした。 廊下には、夜らしい静けさが広がっていた。 その時だった。 不意に右手が温かいものに包まれる。「……え?」 思わず足が
آخر تحديث: 2026-07-25
Chapter: 第60話 けじめ 夕食と入浴を終え、消灯まであと一時間ほど。 候補生たちは思い思いにリビングでくつろいだり、寝室でスマホを見たりしていた。 颯馬はベッドに横になり、課題曲の振り付け動画を専用スマホで確認していた。 すると、カーテン越しに小さく声がする。「颯馬くん」 水琴の声だった。「入ってええ?」「うん」 カーテンが少し開き、水琴がするりと中へ入ってくる。 颯馬は起き上がってシーツの上に胡坐をかいた。 一人用ベッドの上の狭い空間に、二人きり。 寝室の中にも配信用のカメラはあって24時間回り続けているし、他のルームメイトだっている。 だけど、カーテンの内側は誰にも見えない空間だ。 互いの気持ちを確認し合った後だからだろうか。颯馬はなんだか緊張してしまう。 水琴はカーテンをきっちりと隙間なく閉めると、颯馬に向き直る。「話したいことがあるんやけど」「どうした?」 水琴は周囲を気にするように一度カーテンに目を向け、それから颯馬に身を寄せてくる。&nb
آخر تحديث: 2026-07-24
Chapter: 第59話 一歩だけ、勇気を 十四人は再開したランニングを終えて合宿所へ戻る道を歩いていた。 さっき交わした「トップアーティストになる」という約束の余韻なのか、誰もがすがすがしい表情だった。 颯馬は前を歩きながら、何気なく後ろを振り返る。 水琴が瞬多と何か話して笑っている。 その少し後ろには、カゲトラが一人で歩いていた。 以前と同じように見える。 それでも、さっきの円陣を思い返すと、颯馬には少し違って見えた。 自然に輪へ入り、皆と一緒に拳を突き上げていた。 あの姿が妙に嬉しかった。 颯馬は歩幅を緩める。「カゲトラ」 呼ばれた本人が顔を上げた。「ん?」 颯馬は隣に並ぶと、そのまま肩へ腕を回した。「カゲトラも、一緒に頑張ろうな」 カゲトラは目を丸くしたまま固まる。「……何だよ、急に」「いや」 颯馬は笑った。「さっき、お前が円陣入ってくれたの見てさ」 カゲトラは照れくさそうに視線を逸らした。「別に……」「嬉しかった」 その一言に、カゲトラは足を止める。 少し前を歩いていた水琴も振り返った。「どうしたん?」「カゲトラが円陣入ってくれて嬉しかったって話」 颯馬がそう答えると、水琴も笑顔になる。「俺も嬉しかったで」 二人に見られ、カゲトラは困ったように頭をかいた。「そんな大したことじゃねぇよ」「俺には大したことだった」 颯馬は肩へ回した腕を軽く叩く。「だって、お前ずっと一歩引いてただろ」 カゲトラは少し黙り込んだ。 波の音だけが聞こえる。 やがて、小さく口を開いた。「……俺さ」 言葉を探すように少し間を置く。「人と話すの、苦手なんだ」 颯馬は黙って続きを待った。「話しかけようと思っても、何て言えばいいか分かんなくなる。そのせいで、暗いやつだって言われてイジメられてたこともあって……」 照れ隠しのように笑う。「だからさ、近寄りにくい奴だって思われた方が気が楽だった」 水琴が驚いたように目を瞬かせた。「それで一匹狼みたいにしとったん?」「……まあ」 カゲトラは苦笑する。「でも本当は、みんなと仲良くなりたかった」 その言葉に、颯馬は思わず笑ってしまう。「何だ、それ」「笑うなよ」「だって、お前そんなふうに見えなかったから」「俺もや」 水琴も頷く。「もっと早よ言ってくれたらよかったのに」 カゲトラは耳ま
آخر تحديث: 2026-07-23
Chapter: 第58話 虹の向こうへ 翌日の午前中。 候補生たちは、いつものように準備運動を終え、海岸へ続く遊歩道に集まっていた。 コーチが全員を見渡す。「今日は前回より少しコースを延ばす。砂浜だけじゃなく、岩場を回って戻ってくるルートだ。無理に競う必要はないが、自分のペースを最後まで維持しろ」「はい!」 返事は前回より揃っていた。 スタートの合図とともに、十四人が一斉に走り出す。 並走するカメラマンは、折り返し地点で交替するらしい。 前回は砂浜に足を取られ、開始早々に悲鳴が上がっていたが、今日は違う。自主トレーニングで慣れたのだ。 それぞれが自分に合った呼吸を掴み、無駄に飛び出す者もいない。 自然と集団は前後へばらけながらも、一定のリズムで海岸線を進んでいく。「前よりだいぶ楽になったな」 ミンソクが軽い調子で言うと、隣を走る葉月が笑った。「それは思った」「最初の日は筋肉痛で階段もしんどかったもんな」「あれはつらかったよねー」 葉月は苦笑しながら肩をすくめる。 少し前では凱とカゲトラ、颯馬が無駄のないフォームで走り続け、その後ろをイッセイや響たちが続く。 水琴も今日は呼吸を乱すことなく、自分のペースを守れていた。「調子ええやん」 隣を走る瞬多が笑う。「だいぶ体力付いてきたんとちゃう?」「確かにな。日頃の努力の成果が出るってうれしいな」 水琴も笑い返す。 合宿を始めてから、もう二週間以上。 毎日の筋力トレーニングやダンスレッスンは決して楽ではなかったが、その積み重ねは確かに体に表れていた。 遊歩道を抜け、再び砂浜へ出る。 潮風が汗ばんだ頬を撫で、波の音が一定のリズムで耳へ届く。 だがその穏やかな景色は、突然変わった。 沖合から濃い雨雲が流れ込み、海の色が一気に暗くなる。「なんか、空暗くない?」 日和が見上げた直後だった。 激しい雨粒が砂浜へ叩きつけられる。「うわっ!」 数秒もしないうちにみんなの全身が濡れた。 雨というより、滝が落ちてきたようだった。 コーチが大きく手を振る。「岩場まで移動しろー!」 候補生たちは大騒ぎしながら走り出す。 防水カバーを付けたビデオカメラを抱えたカメラマンも、その後を追ってきた。 それぞれが複数の岩陰に分かれて駆け込む頃には、全員の髪から雫がぽたぽたと落ちていた。「すごい雨やな」 水琴が濡
آخر تحديث: 2026-07-22