LOGIN「なあ、俺とBL営業せえへん?」 動画サイトで24時間生配信される、離島のボーイズグループ最終選考合宿。 カメラに囲まれた閉鎖空間で、候補生14人は30日間の共同生活を送る。 颯馬は、元子役俳優の美形候補生・水琴から、BL営業をしないかと誘われた。 視聴者人気を稼ぐため、恋人同士のように振る舞う二人。 だが、水琴には誰にも言えない“復讐”という目的があった。 一方、颯馬もプロデューサーとの過去の関係に未練があり…。 嘘の恋人役のはずだった。 なのに、心に傷を負った二人の本音は、触れ合うたびに揺らぎ始める。 これは、24時間監視される離島で始まる、 “演出”から始まった真実の愛の物語。 #微エロ #執着 #芸能界 #ケミ
View Moreあの夜のことは、忘れられない。
高層階の窓の向こうに、東京の夜景が広がっていた。ガラスに映る光が、まるで星みたいに揺れていたのを覚えている。
背後から、低く甘い声がした。
「颯馬、俺のこと好きなんだろ?」
振り向くより早く、腕を引かれた。
体が触れる距離に引き寄せられて、息がかかるほど近い。
「……ねえ、俺を抱いてみない?」
その言葉が、冗談じゃないことくらい、わかっていた。
細い指が、俺の顎に触れる。逃げる理由なんて、どこにもなかった。
憧れて、焦がれて、やっと手に届いた人だったから。
――あの夜、俺は初めて、
触れた体温も、息遣いも、全部、焼き付いて離れない。
あの時、確かに思ったんだ。
これは恋だって。
一生に一度の、本物の恋だって。
……でも。
「何をそんなに本気になってるんだよ」
ベッドの上で、炎さんは笑っていた。
「セックスなんてただの娯楽だろ? 一人の相手に縛られる必要なんてない」
その顔は、あの夜と同じくらい綺麗で――
同じくらい、どうしようもなく冷たかった。
俺の知らないところで、何人もの男と関係を持っていたことも、
問い詰めても、悪びれもしなかったことも、全部。
……全部、知ってしまった。
あの時、終わったはずだったのに。
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第1話
穏やかな潮風が、
船着き場のある小さな集落から車で十分ほど移動した先に、
ここが、これから三十日間、十四人の候補生たちが過ごす場所だ。
『
食堂に入ると、そこに緋崎炎プロデューサーが立っていた。
三十五歳とは思えない若々しい顔立ち。中性的でシャープな美貌に、妖艶な色気がまとわりついている。黒いシャツの襟元を少し緩め、細い指で軽く髪をかき上げる仕草さえ、洗練された艶やかさを感じさせた。
炎は静かに微笑み、集まった十四人を見回した。
「ようこそ、最終選考まで勝ち進んだ諸君。まずは大事なルール説明をしておくよ。この合宿所は二十四時間生配信される。トイレと風呂と脱衣所以外、ほぼすべての場所にカメラが設置されている。寝室にもカメラはあるが、ベッドはカーテン付きの二段ベッドだから、内側はプライベートが保たれている。それと、君たちのスマホは預からせてもらう。代わりにこちらで用意した物を使ってくれ。外部との連絡は禁止しないが、内容はすべてスタッフに監視されてるので、覚悟しておいてくれ」
炎の言葉が終わった瞬間、食堂がざわついた。
「え、マジで二十四時間!?」
「配信するとは聞いてたけど、スマホも没収?」
「寝室にもカメラあんの!? マジかよ……」
「カーテン付きのベッドって言っても、声は聞こえるやんか。俺、寝言言ったらどないしよう」
颯馬も内心で驚いていた。完全にプライベートなんてないんだな……。
炎はそんな皆の反応を予想していたように、穏やかに続けた。
「さて、自己紹介を始めよう。みんな、予選会場で顔は見てるかもしれないが、改めて名前と、自己PRを簡単に話してくれ」
一人ひとりが順番に立ち上がり、自己紹介を始める。
「龍也です。特技はラップとボイパ。あとドラムも叩けます」
「響です。クイズが得意で、資格とか結構持ってます」
「まひろです。YouTuberやってました。美容には結構気を使ってます」
「ミンソクです。韓国出身ですけど、小学生からずっと日本に住んでます」
「彼方です! 特技はパルクールです! アニメ大好きで、アニメの話になるといつも熱くなってしまいます!」
そして、
「
柔らかそうなピンクがかった金髪が光に透ける。中性的な整った顔立ちに、長いまつ毛、二重まぶたの大きな目。
京都弁の柔らかい響きが、颯馬の耳に残る。意外と低い声だ。予選会場で見かけた時から綺麗な顔のやつだと思っていたが、こんな声してたんだな。
颯馬の番が来た。彼は立ち上がり、軽く頭を下げた。
「颯馬です。ブレイキンの大会で優勝したのがきっかけで、炎プロダクションにスカウトしてもらってレッスン受けてました」
自己紹介が一通り終わった直後、ふと炎の方に視線を向けた。
炎は皆を見守りながら穏やかな笑みを浮かべていたが、その瞳が一瞬、颯馬を捉えた気がした。
何度も颯馬を熱く焦がしてきた、鋭いけれど妖艶な色気のある大きな目。
胸が締め付けられるような痛みに、颯馬は唇を噛み締めた。
もう二度と、あんな風に誰かに本気になって傷つきたくない。
「次は寝室の部屋割りを発表する」
物想いにふけっていた颯馬は、炎の声で我に返った。いつの間にか十四人全員の自己紹介が終わっていた。
壁掛けのモニター画面に、部屋割り表が映し出される。
「1号室は颯馬、水琴、彼方、そら、日和の五人だ。2号室は響、龍也、瞬多、凱、ミンソクの五人。3号室はカゲトラ、まひろ、葉月、イッセイの四人。ちなみに、みんなの荷物はすでにスタッフが部屋に運んであるよ」
その後、スタッフにスマホを没収され、代わりのスマホが配られた。
次に、建物の中を案内され、いろいろと説明を聞かされる。
最後に二階に上がり、寝室の前で一旦解散。夕食の時間まで休憩とのことだった。
「これって軟禁じゃね? マジでここ周りに何もねえし、30日間ずっと監視されてどこにも行けねーとかさあ」
スタッフが去った後、早速不満を漏らし始めたのは、金髪の龍也だ。眉に剃り込みが入っており、耳には複数のピアス、派手な柄のアロハシャツに、腕には小さな龍の形のタトゥー。だが比較的小柄で華奢な体格なので、怖い感じはしない。まるで中学生のヤンキーがイキっているみたいだな、と颯馬は思った。
「龍也くん。音声も配信されてるけど、いいの?」
響が心配そうに声をかける。合宿参加者に配られたプロフィールには、確か東大卒だと書いてあった。アーティストに学歴なんて必要ないのに、なんで東大なんて行ったのか、勉強が嫌いな颯馬には理解できなかった。
「あぁ? 関係ねーし。俺は思ったことはハッキリ言わねえと気が済まねえんだよ。生配信とかどうでもいい」
「好感度下がっても知らへんで〜」
笑いながら関西弁で口を挟んだのは、大阪出身の瞬多だ。彼はラップバトルU-22全国大会の優勝経験者らしい。
いろんなやつがいるな、と颯馬は改めて思った。
ここにいる者は全員、オーディションで戦うライバルでありながら、同時に未来のグループメンバーになるかもしれない相手なのだ。できれば仲良くなりたいな、と颯馬は思う。純粋に。
「俺、トイレ行ってこよ」
誰に言うでもなくそう呟いて、颯馬は集団から離れた。
トイレは各階にあり、ドアを開けると中に個室が三つ。大きな鏡の前に洗面台も三つ並んでいた。
用を済ませてちょうど手を洗い終えた時、水琴と名乗っていたメンバーが入ってきた。
水琴は颯馬の顔を見るとニコッと笑顔を浮かべ、近付いてきた。そして、颯馬の耳元に顔を近付け、小声で囁いた。
「なあ、颯馬くん。俺とBL営業、せえへん?」
「BL営業? 何だよそれ」
聞いたことがない言葉に、颯馬は眉を顰めた。
「知らへんの? BLはボーイズラブの略やん。男の子同士で恋愛してるように見えるように振る舞うことや。アイドルグループとかボーイズグループでよくやってるファンサービスの一種ってとこやな」
颯馬は一瞬、息を飲んだ。男同士の恋愛——。炎の顔が脳裏にチラつく。
「それが何でファンサービスになるんだよ?」
「ボーイズグループのファンには、BLが好きな女の子も多いんやで。綺麗な男同士でイチャイチャしてるん見て喜ぶんや。せやから俺らもカメラの前でラブラブな感じを演出したら、視聴者のみんなに喜んでもらえるやろ」
水琴の整った顔が近い。柔らかいピンクがかった金髪から、ほのかに良い香りがした。
「せやから、な、やろ?」
「……なんで俺が」
「颯馬くん、かっこええんやもん。俺の好きなタイプやから」
水琴は意味深な視線で颯馬を見つめ、ニコッと笑った。
「お前、男が好きなの?」
「特にそういうわけやないけど。男とか女とか、あんまり気にしたことあらへん」
「ふーん」
興味ない態度を取る颯馬を見て、水琴はさらに続けた。
「颯馬くんもこのオーディション受かりたいやろ? せやったら視聴者票取るための戦略は考えへんとあかんよ」
「視聴者票って。ホントに好き合ってるわけでもないのにBLのふりして票集めるなんて詐欺じゃん。嘘は良くないんじゃないの?」
颯馬は思ったことをそのまま口にした。人を騙して点数稼ぎしようなんて良くないと思った。
「詐欺やないで、演出や。今の時代みんなやってることやし、見てる人たちもフィクションやって理解して楽しんでるんやで」
「……そういうもんなのか?」
「うん。そういうもんやで。エンタメの一種や」
颯馬は少し考えてから、答えた。
「いいよ。やろう。それで視聴者が楽しんでくれるんなら」
水琴は「やった!」と小さくガッツポーズをして喜んだ。その無邪気っぽい仕草と表情が、なんだか可愛いな、と颯馬は思った。
視聴者を楽しませたい。その気持ちは嘘じゃない。同時に、人気を得たい。注目されたい。オーディションに合格したい。それも本当だった。アーティストになるのは幼い頃からの夢だった。
だけど、水琴の提案を受け入れた一番の理由は——
あの人に。炎さんに。俺が他の男と恋愛してるところを、見せたかったから。
それは、もうアンタのことなんか何とも思ってないっていう、あの人への当てつけ。
……なんてな。未練タラタラだよな。
大きな窓の外では、夏の始まりを告げる眩しい陽射しが、濃緑の芝生を照らしつけていた。
その日一日のレッスンと夕食を終え、それぞれがリビングで重い空気のまま過ごしていた頃だった。 候補生全員の貸与スマートフォンに、一斉に通知が届く。『至急、全候補生はリビングに集合してください』 差出人は炎プロジェクト運営事務局だった。 数分も経たないうちに十四人全員がリビングに集まり、スタッフも壁際に並ぶ。 代表スタッフが前に出た。「これから社長による緊急生配信が始まります。候補生の皆さんも、最後まで視聴してください」 テレビの画面が切り替わる。 午後八時。 炎プロダクション公式チャンネルの緊急生配信が始まった。 黒いスーツ姿の炎が、白い背景の前に一人で立っている。「こんばんは。炎プロダクション代表の緋崎炎です」 リビングでは誰も声を発さない。 颯馬も、水琴も、テレビから目を離せなかった。「まず初めに、今回の件で多くの皆様にご心配、ご迷惑をお掛けしたことをお詫びいたします」 炎は深く頭を下げる。 長い沈黙のあと、ゆっくりと顔を上げた。「現在、わたくしと候補生の一人である成田颯馬との関係、そしてオーディションの公平性について、多くのご意見をいただいています」「現在で回っている写真については事実です。過去に交際していたことも否定はしません。ですが、このオーディションの結果をわたくし個人が決めることはできません」 画面のコメント欄は激しく流れ続ける。『証拠は?』『出来レースじゃないって言える?』『一次審査も私情で合格させたんじゃないの?』 炎は淡々と続けた。「今日は、その理由を皆様にご説明します」 背後のスクリーンに「炎プロジェクト最終審査・投票方法」の文字が映し出された。「この最終審査方式は、炎上以前から決定していたものです。今回の件を受けて変更した内容ではありません」 画面が切り替わる。『炎プロジェクト最終審査ライブ』
「全部、俺のスマホに入ってた写真だ。秘密だったから、誰にも送ったことないのに、なんで……」 一瞬、部屋が静まり返る。 響がゆっくりと尋ねた。「そのスマホって、今どこにある?」「合宿初日に回収されただろ」 颯馬は答える。「私物のスマホはみんなと同じでスタッフに預けたままだ」 その瞬間、リビングにいたスタッフの一人が表情を変えた。「確認します」 そう言い残すと、二人のスタッフが足早に部屋を飛び出していく。 候補生たちも思わず立ち上がり、その背中を見送った。 数分後。 スタッフたちが戻ってきた。「スマートフォンは……ありました」 安堵しかけた空気を、その続きが打ち消す。「保管場所は荒らされた形跡はありません」 颯馬は顔を上げる。「保管場所って?」「ここの一階のスタッフ専用室です」 スタッフが答える。「クローゼットの奥に全員分を保管していました」「鍵は?」 響の問いに、スタッフは言葉を詰まらせた。「……掛けていませんでした」 その場の誰もが息をのむ。「スタッフしか入れない部屋じゃなかったんですか?」 凱が低い声で尋ねる。「立ち入りは禁止していましたが……物理的に入れないようにはなっていません」 つまり、部屋に入りさえすれば、誰でもスマートフォンを取り出せたということだ。 彼方が小さくつぶやく。「じゃあ……」 その先を、誰も続けようとしなかった。 答えは、あまりにも残酷だったからだ。 この合宿所の中にいる誰かが、スタッフルームに無断で入り、颯馬のスマートフォンから写真を持ち出し、外部に流出させた。 犯人は、外にはいない。 約二十日間、寝食を共にしてきた仲間か、あるいはスタッフの中にいるということだ。 やが
誰もがテレビを見つめたまま動けずにいた。 画面には、『炎プロジェクト 出来レース疑惑!?』というテロップが映し出され、過去の特番映像まで流されている。 ゆっくりと立ち上がった颯馬に、全員の視線が集まる。 もちろん、その様子も二十四時間配信のカメラが映している。「颯馬……」 誰かが不安そうに名前を呼んだ。 隣を見ると、水琴が静かにこちらを見つめていた。いつもの余裕は消え、心配そうな表情だった。 颯馬は小さくうなずき、口を開く。「……写真もLINEも本物だ」 室内の空気が張り詰める。「昔、炎さんと付き合ってた。それも事実だよ。今は違うけど」 誰も口を挟まない。 重苦しい沈黙を破ったのは龍也だった。「じゃあ、やっぱり最初から決まってたってことか? このオーディション、颯馬をデビューさせるために」「違う」 颯馬は即座に首を振る。「炎さんが俺を合格させるなんて言ったことは一度もない。俺から頼んだこともない。デビューを約束されたこともない」「でも、視聴者はそう思わないだろ」 響が冷静な口調で言った。「審査員は視聴者だけど、その投票だって操作できると思われる。証明する方法がない」「俺だってそう思われるのは分かってる」 颯馬は拳を握り締めた。「でも違うってちゃんと伝えたい」 言い訳を並べても意味はない。 過去は消えない。 それでも、このオーディションまで否定されるのだけは違うと思った。「俺はみんなと同じ条件でここまで来た。レッスンも審査も、特別扱いなんて一度も受けてない」「でも炎さん、お前だけ何回も部屋に呼んでただろ」 葉月の声に、颯馬はうなずいた。「ああ」 否定しない。「呼ばれたことはある」 また空気が重くなる。「でも、審査の話なんかしてない。証拠がある
颯馬と水琴が手を繋いで階段を上っていく様子はしっかりとライブ配信され、視聴者によるコメントはその夜も盛り上がっていた。【コメント欄】MofuCat_22:手つないだーーーーーー!!!!!腐女子Lv999:ぎゃあああああああAoi_0715:今日も供給ありがとうございますBL_is_life:颯馬から繋いだ!?!?!?sakura39:水琴めっちゃ嬉しそうfujoshi_mikan:営業でも何でもいい、尊いotaku_1988:毎日イチャイチャしてて助かるsnow_rabbit:耳元で何か言った?nekoneko_55:「営業」って言ったっぽいwww腐海の民:照れ隠しordinary_man:いや、友達同士でも手くらい繋ぐことあるだろKazu1984:いや、ねーよwsoccer_11:小さい頃ならあるhiro_777:肩組むなら分かるけど手はないかなTomo_JP:俺男だけど友達と手繋いだこと一回もないRiku_25:仲良い友達でも肩組むまでだなBL_is_life:恋人だから繋ぐんだよ(真顔)ordinary_man:営業だからろwMofuCat_22:営業って言いながら毎日距離縮まってるの最高user_8fa91c:え?ちょっと待ってKotaX_00:ヤバいRin_Rin77:X見てordinary_man:なんかあった?news_fast24:炎と颯馬のプライベート写真流出Aki_1103:は???JP_trend_bot:「緋崎炎」がトレンド1位soccer_11:え、ガチ?Yuki_sub02:颯馬との写真流出してるKazu1984:昔の写真?news_fast24:同棲時代らしいRin_Rin77:LINEスクショまで流れてるTomo_JP:嘘だろMofuCat_22:え、え、え???movie_clip_88:過去配信の切り抜きも出てるAki_1103:炎が颯馬だけ私室に呼んでるシーンまとめられてるKotaX_00:しかも2回hiro_777:今の合宿の映像じゃんordinary_man:これ出来レース疑われても仕方なくないか…JP_trend_bot:「炎プロジェクト」が急上昇2位news_fast24:『炎が元恋人をデビューさせるためのオーディション』って拡散され始
土曜日の朝。 颯馬がまだ寝ていると、ベッドの外から騒がしい声が聞こえてきた。「海行こうぜ海ーっ!!」 彼方の声だ。おかげで目が覚めてしまった。「朝から元気だなぁ……」 日和が眠そうに呟く。 颯馬がカーテンを開けると、部屋の中はすでに休日モードになっていた。そらはオレンジ色の髪を揺らしながら水着姿ではしゃいでいるし、彼方はシュノーケルを振り回している。「颯馬くん! 早く準備して!」「お前ら早すぎだろ……」 まだ頭がぼんやりしている。 その時。「おはようさん」 水琴がベッドのカーテンを開けた。 オーバーサイズのタンクトップは襟が大きく開いていて、鎖骨や胸元があらわになっ
桐生水琴は自分のベッドのカーテンをそっと閉めた。 隣のベッドからは、すでに穏やかな寝息が聞こえてくる。 成田颯馬——引き締まった筋肉質な体格で、笑うと爽やかになるその顔が、今はカーテン一枚隔てただけで眠っている。 水琴は目を閉じず、カーテンの裏側をじっと見つめていた。部屋の明かりはすでに落ち、ただ小さなナイトライトだけが淡く透けて見えている。(……ようやく、始まったな) 六年前の記憶が、静かに蘇る。 水琴の兄・桐生実嗣は、当時二十一歳だった。水琴と同じく子役から俳優業を続けていた。 水琴がまだ十五歳の頃、兄は炎プロダクションの社長・緋崎炎と恋人関係になった。 炎は中性的
颯馬が戻ると、1号室のドアは、少しだけ開いていた。 元々あの有名プロデューサー炎の別荘だというだけあって、部屋は広い。二段ベッドを三台入れてもまだ余裕がある。ベッドの横には人数分の簡易クローゼットも設置されていた。 室内では、すでに三人が荷物を広げていた。 笑い声と、どこか浮ついた空気。合宿初日特有の、独特な高揚感。「ただいま」 颯馬が声をかけると、すぐに反応が返ってきた。「颯馬くん、おかえり!」 オレンジ色の髪を揺らして、そらが駆け寄ってくる。 近い。距離感がやたらと近い。 つぶらな瞳で見上げられて、颯馬は思わず視線を逸らしそうになった。「同じ部屋だね! こ
あの夜のことは、忘れられない。 高層階の窓の向こうに、東京の夜景が広がっていた。ガラスに映る光が、まるで星みたいに揺れていたのを覚えている。 背後から、低く甘い声がした。「颯馬、俺のこと好きなんだろ?」 振り向くより早く、腕を引かれた。 体が触れる距離に引き寄せられて、息がかかるほど近い。「……ねえ、俺を抱いてみない?」 その言葉が、冗談じゃないことくらい、わかっていた。 細い指が、俺の顎に触れる。逃げる理由なんて、どこにもなかった。 憧れて、焦がれて、やっと手に届いた人だったから。 ――あの夜、俺は初めて、炎さんを抱いた。 触れた体温も、息遣いも、全部、焼