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小鳥遊梓
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Novelas de 小鳥遊梓

琥珀色とフランメ

琥珀色とフランメ

バンドのドラマーとして活動する火原沙綺は、姉が死んでからモノクロのような日々を送っていた。機械のように会社に行き、息をするが如くドラムを叩く。そんな生活。しかし、ある日突然姉に似た何かが目の前に現れてから、生活に彩りが加えられていく。
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Chapter: 第1話
 なんとか終業時刻ぎりぎりで残りの作業を終わらせ、帰路に着いた。寄り道などせずに真っすぐに、何も考えずとも身体に染み付いた動作が勝手に私を家へと導いていく。電車に乗り、外を眺めていると、見慣れた街の佇まいが連続して飛び去って行くが、最早視線上をただ流れて通ったとしか感じない。 そうして何駅かスルーすると、目的の場所へたどり着く。 退社して四十分程度で帰宅できるのは立派な利点だろう。遅くなったとしてもタクシーを利用すればなんとかなるし、電車を経由する必要があるため終電を逃した者の宿屋として使われることもほとんどない。 住んでいるのはよくある普通のマンションだ。特に高級というわけではないが、防音もしっかりしており、エントランスも立派で明るい。最寄り駅から見上げてもしっかりと視認できることから、まあまあ良いところに住めていると思う。 しかしそんなこと、いまはどうでもよくて。 エントランスの前で、キャリーケースの上に腰掛けながら中空を眺めている少女がいた。制服を着ているところを見るに、中高生だろうか。淡く光る金髪と、人形めいた顔立ちはそこにいるだけで彫刻のような存在感を放っている。 夜中、とまではいかないが、こうして社会人が帰宅する時間に学生がマンションの前で何をしているのだろうとは思う。キャリーケースを持っていることから、面倒臭い件であることはたしかだ。 厄介事に巻き込まれたくはないのだが、自宅マンションの前なので通らないわけにもいかず、出来るだけ気がついていないフリをして彼女の前を通る。万が一、いや億が一、話しかけられない可能性に賭けて。 しかし、「あの」 琥珀色の目は、しっかりと私を見据えている。 そんな期待はするものではないのだ。昔から、嫌な予感だけは当たるのだから。「火原沙綺さんですか」 そのハスキーな声色に、驚かずにはいられなかった。まるで背中に氷水でも流し込まれたのではないかと錯覚する、それくらいの驚き。 沙綺という名前は私の名前だ。このマンションのどこかに違う沙綺という名前の者がいる可能性もなくはないが、それよりも驚いたのは、その声
Última actualización: 2026-06-05
Chapter: 第0話
 果たして、その憧れがいつからのものだったのか。 姉は私にないものを全部持っていて、私は何も持っていなかった。 届くはずのないものを見て、それでもただ後ろをついていく。 ただ「すごいね」と言われたくて。 姉は色々なことに挑戦し、できるようになっては捨てていく。 私はそんなことはできなくて、ただただ置いていかれるばかり。 例えば習い事、例えばスポーツ。 姉は一か月くらいでもう別のことに乗り換えていたっけ。 初めはそんな姉と同じように色々なことに挑戦したけど、次第に劣等感が降り積もっていくだけになった。 そんな中、私はドラムを叩くだけになった。 姉が疾うの昔に捨てたもの。 見てもらうと、姉は褒めてくれた。 その唇は、私にとって心地よい言葉を紡いだ。 褒められたくて、熱中した。 そんな姉が、突然天国に旅立った。 頭が真っ白になる。 私は、これから何の為にスティックを握ればいいのか分からなくなった。 ◆ ふう、と一つ息を吐く。 ようやく仕事に区切りが着いて時計を見上げると、既に針は二時を指していた。一つの事に集中すると時間を気にしなくなるのは昔からだ。 一端昼休憩に入ろうと他の職員に声を掛けると、まだ食べてなかったの、なんて驚かれる。七時が定時であることを考えると、今日想定している残りの作業量的にはあまり昼食に時間は費やせない。 ただ、意識してしまうと空腹というのは厄介で、常にお腹を風が通っているかのような感覚に襲われる。仕方ないので、私はオフィスを出て休憩室へとやってきた。 誰もいない一室に、ポットとゴミ箱だけが置いてある。 そこは幾つも白いテーブルが置かれた部屋で、個人的には食べ物を持ち込んで用を済ます、というだけのスペースという認識だ。誰も利用してない際には軽い会
Última actualización: 2026-06-05
フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜

フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜

かつて魔法という奇跡があった。 魔法は人智を超越した現象を起こし、栄えた。しかしそれは、人々の技術の発達により神秘性を失っていき、影を潜めるものとなっていた。 時は流れ鉄と電気の時代。 一人の少女がいた。 名前はエメ。白髪という理由で迫害される、意思の希薄な兵士だった。敵国の王を殺したという不可解な罪で左遷されることとなった彼女は、騎士という称号を得て辺境の村を守護する命を受ける。 彼女はそこで様々な想いと、そして自分の愚かさについて知っていく。自分の無知さと後悔、そして贖罪を。 ※髪色に対して差別表現がありますが、決してそれらを助長するものではありません。
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Chapter: episode4 「この村は騎士に用なんてねぇんだよ」
「ここが村長の家だよ」「感謝致します」 彼女に感謝の念を示すのは至極真っ当のことである。見知らぬ私に声を掛け、さらには案内までしてもらった。ロラがいなければ、村を延々と彷徨っていただろう。「いいよ、こういうのお互い様だし」 そう言いながら、家の扉をこつこつと叩く。 何か厚意を受け取ったなら、それ相応に報わなければならないのではないか。少なくとも、首都ルユではそんな成り立ちだったはず。だとするなら、私もそれに則り恩を返すべきなのだろう。ただ生憎、提供出来るものが戦闘力しかないため、その恩返しはしばらく先の話になると思うが。 思いながら、家から現れた女性と会釈を交わす。ロラと親しげに会話しているところを見ると、どうやら親しい間柄らしい。「騎士様、遙々ようこそおいでくださいました。あいにく主人は留守にしておりまして」「そうですか。奥様、どちらへ行かれたか教えて頂いてもよろしいでしょうか」「もうじき帰ってくると思いますので、家の中でお待ちください」 そう言って彼女は深くお辞儀した。頬から離れたもみあげが、力なく垂れる。村長の妻というには些か若い、娘と言っていい奥方だった。三つ編みにした髪を左肩に流し、しめっぽい瞳を輝かせている。肌の艶も良く、首筋の皺も少ない。 それに比較的茶髪が多く見られた中、金髪というのは珍しかった。どこか近隣から嫁いできたのだろうか。 最も、国内を見ればそれほど珍しい髪色ではない。素性の分からない私の白い髪よりよっぽど鮮明で綺麗な色だ。「騎士様? どうかしたの」 奥様の風貌を見つめていた私にロラが呼びかけた。「いえ、村長の奥様というにはお若いなと思いまして」「あら、お世辞がお上手なのですね。騎士様」 そう言いながら、きちんと整った薄い唇が優しい笑みを作る。世辞など言えないので正直に言ったつもりなのだが、一歩引いた態度で微笑むところを見るに慎ましい女性なのだろう。「若いよねぇ。でもこう見えて、オレリアさんは村長と三つしか違わないんだから」「ちょっと、ロラ……
Última actualización: 2026-07-13
Chapter: episode3 「ホントに来たんだ」
 彼女が降りた駅からさらに列車に揺られること四時間。そこから駅を離れ三十分。早朝の始発駅に乗ったにも関わらず、すでに時刻は昼を過ぎていた。付近には家などなく、ただ田園に囲まれた未舗装の畦道が続く。ところどころ顔を覗わせる野花や蝶が郊外の雰囲気を漂わせる。戦場としてはたびたびこういった自然豊かな場所へ訪れる経験はあったが、そもそも戦以外で王都以外を訪れる機会がなかった私は、なんとなく気が落ち着かない。木立や背の高い野草に隠れて、斥候や狙撃手が隠れているのではないだろうか、そんな感覚がある。来た経験のない場所であるため、警戒心を巡らせると共に周囲の状況は常に心内で整理していこう。 列車を降りてから四十五分ほど歩いたが、ひと一人見当たらない。同じ国に住んでいるというのに、どこか異邦人のような孤独さを感じる。その中を、がしゃりがしゃりという金属が揺れる音。私が持ってきた大荷物が揺れる音だ。騎士という称号を賜るにあたり、それ相応の鎧を授かることになった。今は洋服を着ているため鎧は入れ物に入れ、背負うことでそれを持ち運んでいる。それに加え日用品を入れたアタッシュケース。当初は最低限の物だけの予定だったが、必要のない華美な洋服を何着も持たされてしまったため、こちらもなかなかの重量になってしまった。最早訓練の域だろう。これからカルム辿り着くまでどれくらい時間を要するのかは不明だが、余計な体力を使うことだけは分かる。 そして鎧の入れ物に括り付けられた大剣。身軽とは正反対の武装だが、今まで影響を感じたことはない。一振りさえすれば勝負を決定づけることが出来るのだ、これほど簡単な武器はない。今の私が身軽かというと、また別の話だが。 村の騎士という任務にどれほどの戦闘力が必要なのか分からないため、一介の兵士である私が持ち出せる物は可能な限り持ち込んだつもりだ。村に隊を組んで攻め込んでくるようなことがなければ、十分に制圧が可能だろう。 自分の所持品をいま一度確かめ終えると、外套のフードを直しながら周囲を見渡した。敵意も、そして装備の不備もない。先ほどから一向に変わらない草原だけがそこにある。 装備を担いだまま長距離を移動する経験は、これまでに何度もあった。流石に雨の中湿地帯を行く任務には及ばないが、この長い長い畦道を
Última actualización: 2026-07-11
Chapter: episode2 「そうやって、後ろから罵倒するだけなら」
 白いシャツに茶色のロングベスト、短く切りそろえられた茶髪に無精ひげを生やしたその男。フリストレールの市民だろうか、彼女の髪を見るなり露骨に顔を歪めた。白髪はこの国はおいて侮蔑の対象である。 その昔、フリストレールという国はとある北国に歴史的敗戦をした。そこから建て直し今に至るわけだが、その北国の民というのが銀色の髪を持っていたのである。かくして白銀は嫌悪され、国内においてその髪色は排他された。別にこの歴史のことを学んだわけではない。ただ私が差別される理由として学んだだけ。私がこの国にいられるのは孤児だからであり、それでも敵意は変わらずに向けられてきた。もはや私にはただの雑音に等しいが、彼女はどうだろう。 焦点を合わせるように何度か瞬きをする。「幽霊?」 分からないという風に彼女は聞き返した。自分のことを幽霊だと言ってくる赤の他人に、思考の針が狂わされているのだろう。幽霊だと誹ってくるということは、まだ列車は首都に近い位置を走っている。ということは、彼女は首都から一つ先の駅から乗ってきたということか。「はっ、観光客か?」 そう毒の針を含ませながら、彼女の長い髪を掴んだ。「……随分と、この国の歓迎は野蛮なのね」 その口調には、明らかに不愉快そうな心持ちが滲んでいた。「いいか、その髪色をこの国で見せるな。無事に帰りたいのならな!」 短刀を一突きするような大胆に物言いと共に、自分の目の前に顔を引き寄せるためぐっと力を籠める。が、彼女の頭部は動かない。それどころか、その表情には冷たい落ち着きが広がりっており涼しげですらあった。 まるで「何かしたか」 そう言わんばかりに。「動かない……?」 男は鳥のように目を見開いた。全く予想していなかったという面もち。私も心の内側に小さな波が立つ。淑女と思っていた彼女が、まさか男に引っ張られてなお動かない身体の持ち主だとは。 行き場のない苛立ちに、男は手の甲に筋が出来るほど拳を作っていた。「お待ちください。彼女は観光の方です、それ以上は…&hel
Última actualización: 2026-07-09
Chapter: episode1 「向かいの席は空いているかしら」
 足の底から鉄槌で打ち上げてくるような硬い響きが、車両を包みこんだ。途端、列車は景色を搔き消すような勢いで轟々と走り出す。私を見送る者はおらず、昨夜同胞達に首都を離れるという話をしたがあまり興味がないという風だった。どうでもよいのだろう。窓から望める風景が、まるで一枚絵のように忙しなく変わっていく。風を切りながら全快速で走っているそれは、煤を溶かしたようなどす黒い空気を吐きながら隣町へと向かっている。丸一日掛けて、首都から四つの町を巡らんとしているその昼汽車。人数はまばらで、これから増えたり減ったりするのだろう。閑散とした車内で、走行する鼓動を感じながら、私は終着駅へと向かうためこの列車に乗っていた。向かい合わせになった席で一人、窓際に。空いている席はいくつかあるため、家族や仲間などでなければわざわざ対面に座ろうなどと思う者はいないだろう。座られても上手い受け答えは持ち合わせていないため困るのだが、大剣を隣に座る私を見てそれでも座ってくる者がいるのなら、それはよほどの変わり者に違いない。  列車に乗った経験がないわけではない。しかしその全てが戦場へ向かうための乗車で、窓の外を見るのは大まかな地形を把握するもので、決して風景を感じるためではなかった。なので、景色を楽しむという感覚がどういったものなのか、よく分からない。万が一に備え、見えた地形がどんなものだったのか記憶しなければならないのではないか、そんな風に思えてくる。その土地に戦意は感じられないにも関わらず、鎧すら身に着けていないのに。  白いブラウスに、緑のロングスカート。騎士という身分で行くからにはそれ相応の華美な装いで、という私には理解出来ない言い様で着させられた服である。普段鋼鉄と肌着しか身に着けない私にはとても不釣り合いで、むずがゆい。短刀すら貫通する、布地の衣服。不安が喉元を締め付けてきて、苦しい。防具のない移動というのは、こんなに私を翳らせるのかと。マントのフードを深く被り直すくらいでは拭いきれないくらいの影が、雨雲めいて広がる。なので、別のことを考えて紛らわせることにしよう。そう考えて、列車に揺られながらゆっくりと思考を巡らせる。  私がそれまで暮らしていたフリストレール国、その首都ルユ。大した記憶はないが、それでも二十年過ごした場所だ。去ることに何も思わないかと言えば、それは嘘になる。別に愛
Última actualización: 2026-06-05
Chapter: prologue ~意思なき幽霊~
 妻と子供だけは助けて欲しい。 首元に剣を突き付けられてなお、敵国の王はそう言った。 敗戦国の王がその代償に妻や娘を要求されることはよくある話だ。そうすることで、国は生きながらえるのだから。 だから、王がその命を賭してまで親族を見逃してくれと言ったその言葉の意味が一瞬理解出来なかった。 言葉を咀嚼して。 そういえば、ああ。王には息子がいたと思い出す。 なるほど、それならこの国はまだ生きる。 だがしかし、私にどうこう出来る権利はない。 剣を振りかざすと、王は抵抗の意思は見せず真っすぐに私を見つめていた。 どうしてかは分からないが、その翡翠色の目はどこか私を見据えているように感じて、気持ちが悪い。 首を刎ねる。 抵抗はない。 頭部はりんごのように転げ落ちて、その体は力なく崩れ落ちた。 転がった頭へ目を向けると、その双眸はぴったりと私の瞳を見つめていた。 じっと、私を見ている。 これまで切り捨ててきた者達の目からはそんなこと、微塵も感じなかったのに。 それなのに、この王は死してなお私をその瞳に捕らえている。 気持ち悪い。 じっと私のことを見据えている王の首も、そして見つめられていると感じている私自身も。 不明瞭な事は不快だ。 どう対応すべきなのか、分からないから。 なので、この感情はいったん忘れよう。今は、この王の首を以て戦争を終わらせることのほうが重要である。 そうだ。 それに比べたら、私の感情など些細な事だ。 そう脳内で完結させて、王の髪の毛を掴み持ち上げる。 戦争はその瞬間に終わりを告げた。 戦場にいた人間全員が、構えていた武器を下ろす。 味方は歓声を、敵は悲嘆の声を。 私は、特に何も思わなかった。 戦いが終わった。 ただ、それだけだと。 ……。 「簡潔な報告だ、エメ・アヴィアージュ。それで、何か弁明はあるか」 「ありません」 弁明という言葉の意味を咀嚼しながら、なぜ管制室に呼ばれるに至ったのかを顧みる。 数年に渡り続いた隣国との戦争は、敵国の王が討ち取られたことにより終息を迎えた。元はといえば領土の問題、ちょうど間に位置する一つの町がどちらの国に属するのか、町長の話にも耳を貸さずに始めた事。そもそもこちらの国の領土ではあったのだが、維持や資金援助など一切の関与をせずに放置していたところ、隣国がそ
Última actualización: 2026-06-05
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