Chapter: 第四章 第26話 アリシア、解体ショーの話をする「しかし暇だねー」 エリオットとセイヤーの練習を眺めながら、今日何度目かのため息をついていた。「暇じゃないっすよ。お店も相変わらず大繁盛じゃないっすか」 なんかこの会話、デジャヴね。「ソフィーさんたちが出かけてから何日経ったっけ?」「……そろそろ1カ月っすね」 セイヤーが指を折りながら数えている。「もうそんなに経つんだね。予定通りならもう帰ってきてもいい頃かな。だけどしばらく定期連絡きてないよね……」 王都から帰路につくという手紙を最後に、ソフィーさんたちからの定期連絡が途絶えていた。 まあ、連動型アイテム収納ボックスを通じて、食料がいつも通り消費されていることを確認しているし、安全面の心配はしていないんだけどね。「わりとうまく行っていそうな連絡ばかりだったからな。予定を早めて店に戻るという話だったと記憶しているが……」 エリオットがローラーシューズの紐をほどきながら会話に参加してくる。「でも帰り道も寄り道してスカウトしていくって話だったはずっすから、結局帰りは予定通りなんじゃないっすかね?」「順調ならいいんだけど、そろそろカジノの営業も開始したいし、軍人さんたちも開放してあげないといけないし」 ガーランド伯爵は何も言ってこないけれど、やっぱり長く臨時で働かせ続けるのは良くないと思うのよね。軍人さんたちもけっこう馴染んでいるし、誰も文句1つ言わないけれど、命令でしかたなく働いてくれている人も少なくないだろうから。「解体ショーが見たいってVIPのお客さんもけっこういるっすからね」 解体ショーもソフィーさんがいないとできないよねー。 やっぱりああいう伝統芸能的なパフォーマンスは、後継者を育てておかないといけないわね。 筋肉があって、刀を回しながら踊れる器用さがあって……エリオット?「暴君、私になにか?」 わたしの視線に気づいたのか、エリオットが声をかけてきた。「んー、解体ショーでソフィーさんの後継者って誰がいいかなーって考えてた」「ああ、そういうことか。オーナーの見事な刀捌きには憧れを感じてはいるよ」 エリオットがソフィーさんの踊りをマネするようにその場で飛び回る。おやおや、どうやら解体ショーに興味があるみたいね?「解体ショーやってみたい? もしかして、ソフィーさんに憧れて筋肉を鍛えていたりするの?」「いいえ、そういう
Last Updated: 2026-08-31
Chapter: 第四章 第25話 アリシア、メンヘラパワハラ上司になる VIPルームに空きがあるという愚痴をこぼしたところ、なんと急きょマーちゃんがお店に駆けつけてくれた! わたしの女神様はフッ軽でとってもやさしいのだ♡「我も流れ星になって飛びたいぞよ」「ねー! だよねー! 流れ星になりたいよねー!」 ほーら、聞いた? マーちゃんもこのローラーシューズ☆が気に入ったってさ! おかしいのはエリオットとセイヤーのほうだってばー。「そんなドヤ顔で見てきてもダメっすよ。ようやく慣れてきたっすけど、あの高さで飛びながら回転するのはかなり怖いっすよ……」「セイヤーの言う通りだな……。私も常に恐怖と戦っている……」 2人ともビビりなんだね。もういい加減慣れようよー。連日お客様たちに大ウケじゃないのよー。「『スターライトイリュージョンショー☆』最高なのになー。むしろロイスのほうが飛べてるのはちょっと考えものよ?」 今日はロイスは来ていないけどね。はっきり言ってキミたち、土日はルーキーに主役の座を奪われてますよ?「ロイス嬢は『舞踊』スキル持ちっすからね……」「じゃあセイヤーの足からは火が出るようにしてあげようか?」「『火入れ』スキルはそういうふうには使えないっすよ……」「注文が多いなー。そんな細かいことばっかり言ってるとモテないよ?」「自分、もう間に合ってるっす。これ以上はモテなくていいっす」 セイヤーがしれっと言い放った。 なんだこの生意気なヤツは! わたしの指導を体に刻み込む火入れでもしてやるか? おおん?「セイヤー。それくらいにしておかないと、暴君の顔……」「なんすかエリオット……うわっ! ごめんなさいっす……自分が悪かったっす。わ~モテたいな~! アリシアちゃんにモテたいな~」 取ってつけたようなゴマすりだ。 そんなんでわたしが喜ぶと思ってるのかしら? ミィちゃんじゃあるまいし、わたしはお世辞に心が揺れたりはしないんだからね!「我は常にアーちゃんの味方じゃからの」 マーちゃんはいっつもわたしを甘えさせてくれるから大好き♡ もっとお酒飲んでね♡ 酒樽を取り出して、マーちゃんの席の横に設置する。「これは何という酒なのじゃ?」「これはねー。とうもろこしを使った焼酎だよー」「ほう。焼酎とな」 とうもろこしの蒸留酒だよー。 香りがとっても良いの。飲んでみてねー。「暴君……セイヤーはそういうつ
Last Updated: 2026-08-30
Chapter: 第四章 第24話 アリシア、スーパートウループを決める「しかし暇だねー」 エリオットとセイヤーの練習を眺めながら、わたしは今日何度目かのため息をついていた。「暇じゃないっすよ。お店も相変わらず大繁盛じゃないっすか」 セイヤーが戻ってきて給水する。「それはそうなんだけどねー。なんかほら、ソフィーさんがいないし、エデンもいないし」「暴君がこの店に来る前から、オーナーは長期間、店を留守にすることが多かったから、こういう状態にはみんなわりと慣れているんだよ」 エリオットも戻ってきた。「なるほどねー。みんな平然と働いてるもんね。普通はほら、店長がいなければ仕事サボったりとかするもんなんじゃないの?」 アルバイトって普通そういうものよね?「そういう人はそもそもこの店に雇われたりしないっす。ソフィーさんの目利きは確かっすからね」「その言葉が真実味あるわね……。現状を見れば納得するしかないもの。なんかほらー、羽目を外してトラブルとか起きるのかなーってちょっとは心配してたんだよ」 何も変わらない日常過ぎてつまらない……。 あ、そっか。むしろわたしがトラブルを起こしてやろうかしらね? 天使ちゃんたちにエッチなドッキリでも仕掛けようかな♡ こっそり制服を水に濡れたら溶ける素材に仕立て直して、ついうっかりジュースをこぼしたら……。うん、ちょっとやってみよう♡ まずはホワイトラビット族のステファンあたりに。もしかして全身の毛が白かったりするのかな。でもまつげは黒いし、隠された部分が激しく気になるっ!「暴君、暴君! 涎垂らして良からぬことを考えていないで、ちゃんと指導してくれよな」「えっ⁉ 何も考えてないよ⁉ わたし、お花畑のことしか考えたことなーい♡」 やばい、わたし今、どんな顔してた? はずかしっ!「エロ暴君幼女っすね~。それじゃ曲の頭から滑るっすよ~」 うわー、2人とも憐みの目で見ないで! せめてスルーしないでおいしくいじってよ……。つらいむ……。「んー、そろそろもっとダイナミックな演出があってもいいのかなー」 普通に滑ってるのを見てるのもちょっと飽きるというか。 ピーターパンのショーみたいな派手な演出があっても良いんじゃないかなーって思えてきた。「セイヤーさ、ちょっと空飛んでみて?」「急に何言ってるんすか? ドラゴン族じゃあるまいし、自分、羽生えてないっすよ」 セイヤーがやれやれといった具
Last Updated: 2026-08-29
Chapter: 第四章 第23話 アリシア、ソフィーさん一行を送り出す いろいろ考えている間に、ソフィーさん一行の遠征の日が来てしまったよ……。 お店はすこぶる順調。軍人の新人さんたちもよくやってくれているんだよね。なので通常営業には問題ないのだけれど……。ないのだけれど……。「そんな心配そうな顔しないでちょうだい。私のいない間にご予約いただいているVIPのお客様たちにはきちんと説明をしてあるわ。アリシアなら安心して任せられるから助かるわよ」 ソフィーさんが膝を折り、やさしくわたしの手を取った。 そう……わたしの仕切りで不手際がないように、一生懸命やるだけ、よね。『心配であれば我が毎日手伝いに行ってやるぞよ』 わー、マーちゃんだ! いつも気にかけてくれてありがとう! できるだけがんばってみるけど、不安になったらすぐに呼ばせてもらうね!『うむ。任せるが良いぞ』 女神様ってやっぱりやさしいなー。ちょっと声をかけてもらえるだけで気持ちが楽になる。「そうだ! ソフィーさん! 長旅に備えて、いろいろと便利アイテムを作ってみたので良かったら使ってみませんか? 外は暑いですからねー」「あら、何かしら。『連動型アイテム収納ボックス』を通じて、氷菓子の差し入れをしてもらえるだけで十分助かるのだけれど」「まあまあ、それ以外にも装備品としていろいろ準備してみたんですよー」 まずはローラーシューズの内側に小さな冷却装置を取り付けてみましたよー。 滑っている最中に、スニーカーのメッシュ部分から周りの冷えた空気を取り込み、スニーカー内のこもった熱気を下のローラーから排出する循環システムですよ!「ちょっと滑ってみてください」 ソフィーさんがローラーシューズ(涼)に履き替え、お店の廊下を一滑りする。「あら? 滑ると足がとっても冷たいわ。これは外で使ったらなかなか良さそうね」 足は蒸れますからね。オプションでシューズの外側に香水を振りかけておくと長旅でも安心……。「次のアイテムはこれですよー」 ファン(扇風機)付きのベストです。 ローラーシューズに連動して動きます。仕組みも同じで外気を取り込んで冷却した空気を循環させるシステムになっていますよ。鎧の下にも着用できる超薄型になっているので安心♪ ついでに武器屋に行って物理攻撃無効の効果も付与しておきましたからね。いやー、永続効果の付与はちょっとお高かった……。ミィちゃんの紹介
Last Updated: 2026-08-28
Chapter: 第四章 第22話 アリシア、天使ちゃんスカウト遠征メンバーの編成を決める「今回の遠征はどうしようかしらね……」 ソフィーさんがつぶやくように言う。 ソフィーさんが言っている遠征というのは、天使ちゃんスカウトの旅のことだ。今はガーランド伯爵から新人の軍人さんたちを借りている状態でなんとか日々をやりくりしている。だけど、正式な従業員を大量に雇用しなければお店が回らない状態なのは変わりないのだ。「遠征の期間ですか? 長期間お店を空けられるとわたしとしても不安はありますが……それなりの期間、遠出が必要なんでしょう?」 お店の現場指揮だけならできるけれど、経営となれば話は別。さすがにそこまでは10歳のわたしには荷が重いよ。「どうしても必要なことはお願いするけれど、なるべく負担がかからないようにするつもりよ」 もちろんできるだけのことはがんばりますよー。 できればそういう仕事も何人かの天使ちゃんたちと分散したいところですけどね。「王都に滞在も考えると、期間的には……約1カ月というところかしらね」「なるほど。1カ月ですね……」 なかなか長期間ですね。 途中の街や村にも寄るだろうし、往復でそれくらいはかかってしまうものかなー。「食糧事情は気にしなくてよくなったから、それは本当に助かるわよ。比較的軽装でいけるし、食に関するメンバーを帯同させなくていいし、編成人数も最小でいいわね」 ガーランド伯爵から借り受けた『連動型アイテム収納ボックス』があれば、食糧問題は考慮しなくて良くなったに等しい。と、同時に、食料運搬のための人員や馬なども考えなくて良くなったわけだよね。「便利ですねー。軍人さんたちはこんな良いものを使ってたなんて。もっと早く教えてくれればいいのにー」「知ったところで高価すぎるし、そもそも民間には許可が下りなくて手には入らないのだけれどね」 ソフィーさんが苦笑する。 まあ、そうか。軍みたいに大人数でアイテムを共有しない限り、価格に見合うような価値は見いだせないよね。便利だけど、需要はそこまで大きくないということかな。「それよりも、よ。どんな編成で遠征に行こうかしらね……」「編成ですか? いつも遠征のメンバーが決まっているんですよね? そこから荷物持ちの人たちを減らしたらいいのでは?」 食料以外の荷物もアイテム収納ボックスで運べますからね。交渉と護衛のメンバーが数人いれば良さそうな気がします。「基本的にはそ
Last Updated: 2026-08-27
Chapter: 第四章 第21話 アリシア、賄賂を持って城へ赴く2「ソフィーさんの『絶対音感』スキルを使って、良い曲を作りたいって話! お願いしますよー」 困っているんですよ、わたし!「そんな話だったわね……。でも私で役に立てることがあるのかしら……」 自信なさげなソフィーさん。 まあ、『絶対音感Lv1』だからスキル持ってるよーってだけの状態だし、そんなもんかな。「わたしも譜面が書けるわけじゃないので、なんとなく文字に起こしてみた音符を見ながら、音楽を聴いてみてほしいんですよ。違和感のある音にチェックをつけるだけでも……」「違和感ね?」「変だな、外れてそうだな、っていう感覚的なもので大丈夫です」「わかったわ。一度やってみるから少し時間をちょうだい」 ソフィーさんがわたしの書き起こした譜面っぽい紙を受け取ってくれた。 お願いします。期待してます!「でも私、楽器の音というのがよくわからないのよね……」「わたしもこの時代……国で使われている楽器がどんなものかわかってなくて。またガーランド伯爵のところに押しかけてみますかねー。閣下ならそういう伝手もありそう」 城内に楽団を抱えていなくても、夜会で踊る時には音楽が必要だろうし、何かしらの情報は持ってるに違いない!「セドリックから音楽に興味があるという話は聞いたことがないけれど、領主としての嗜み程度には理解があるかもしれないわね」 そう、それに賭けましょう!* * *「やっほやほー♪ ご機嫌麗しゅう♡」 愛しのアリシアちゃんが遊びに来ましたよー、と。「今度は何だ……。お前たちはいつも突然来るな……」 困り顔のセドリックちゃん。 だって正式なアポ取ってると時間かかるし、秘書の人に話したら一発で通してくれるんだからいいじゃない?「旧友が遊びに来るのに許可が必要かしら?」 ソフィーさんがしれっと言い放つ。「旧友と……。まあいい。それで何の用事だ? この後会合があってな、あいにく酒を飲んでいる時間はないのだよ」 なぜかちょっと残念そうな表情。 わたし=酒ってイメージついちゃってます? 刷り込み的な?「あー、じゃあこのジンジャーハイボールは後ほどごゆっくりということで、秘書さん先に試飲しておいてください」「いえ、私も閣下とご一緒しなければなりませんので……」 お酒を目の前にして、一瞬だけ笑顔の花が咲いたのに残念。 この秘書さん、なんだかんだで
Last Updated: 2026-08-26