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あおい 智遥
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Romans de あおい 智遥

私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く

私を殺した夫へ―午前0時、死んだ妻からメールが届く

36歳の水城玲花は、夫であり会社社長でもある拓真の不倫と不正送金を知る。告発を決意した前夜、玲花の車は海へ転落。世間では行方不明となるが、彼女は元恋人・神谷輝に救われ生きていた。事故が仕組まれた可能性を知った玲花は、生存を隠し偲ぶ会の夜に夫へ一通のメールを送る。 「私を殺した夜のこと、ちゃんと覚えてる?」 死んだ妻を装いながら、玲花は夫の不正、会社乗っ取り、事故の真相を追い始める。
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Chapter: 第20話 午前0時のメール
半年後。春。MIZUKI DESIGNのオフィスの窓から、桜が見える。私はデザイン案を確認していた。「水城さん」若いスタッフが来る。「最終案、できました」「見せて」差し出されたタブレットを、私はのぞき込んだ。「ここ」「はい」「ロゴ、もう少し小さく」「分かりました」「あと、色」「青ですか?」私は笑った。「なんで分かったの」「水城さん、青好きですよね」「バレてる」スタッフが笑う。仕事。締切。会議。コーヒー。そんな、普通の毎日。あれほど欲しかったもの。会社は新しい代表のもとで、少しずつ立て直されている。拓真とは、離婚が成立した。刑事事件は、まだすべて終わったわけではない。LUNAREST PARTNERSに流れた三千万円は一部が差し押さえられ、桐谷修司も警察から事情を聞かれていると聞いた。でも私はもう、毎日そのことを考えたりしない。美月は会社を辞めた。最後に一度だけ会った。「本当にすみませんでした」彼女はそう言った。「許したわけじゃない」私はそう答えた。彼女は頷いた。それでいい。許す必要はない。憎み続ける必要もない。それぞれが、自分の人生へ戻ればいい。午後七時。仕事を終えると、スマートフォンにメッセージが届いていた。輝からだ。《今日も仕事?》私は返す。《終わった》《夕飯は》《まだ》《じゃあ》そこで、私は画面を閉じた。「すぐ返さないんですか?」隣のスタッフが言う。「見てたの?」
Dernière mise à jour: 2026-10-30
Chapter: 第19話 夫の最後
総会の翌朝。拓真は、本社ビルのゲートの前で立ち尽くしていた。社員証をかざしても、ゲートが開かない。「申し訳ありません」警備員が目を逸らしたまま言う。「昨夜の臨時取締役会の決定で、水城様の入館権限は停止されています」水城様。昨日まで、ここで「社長」と呼ばれていた。ロビーを行き交う社員たちが、拓真に気づいて足を速める。誰も声をかけない。拓真はビルの外へ出て、電話をかけた。桐谷修司。『ニュースは見ましたよ』「話が違う。あんたの段取りどおりにやったんだ。手を貸してくれ」『段取り?』桐谷が小さく笑った。『私はコンサルティング契約を結んだだけです。書類に判を押して、会社の金を動かしたのは、全部あなたですよ』「ふざけるな――」『今後のご連絡は、弁護士を通してください』通話が切れた。かけ直す。つながらない。美月の番号。着信拒否。青木。電源が入っていない。拓真はようやく気づいた。自分の周りには、もう誰もいない。◇その夜。拓真は誰もいない自宅のリビングで、酒を飲んでいた。十年間、玲花と暮らした部屋。彼女が選んだソファ。彼女が選んだ照明。どこを見ても、水城の名前から逃げられない。午後十一時五十九分。拓真は、無意識に時計を見ていた。午前0時。スマートフォンが震えた。差出人は、水城玲花。指が震える。《拓真へ。これが最後のメールです。離婚届と今後のことは、弁護士から届きます。もう、午前0時を怖がらなくていい。玲花》拓真は画面を見つめたまま、動けなかった。怒り
Dernière mise à jour: 2026-10-29
Chapter: 第18話 死んだ妻が帰ってきた
翌日、午後二時。MIZUKI DESIGN、臨時株主総会。拓真は総会を延期しなかった。延期すれば、疑惑を認めたことになる。私が戻る前に議案を通してしまえば勝てる――そう考えたのだろう。今日の議題は三つ。《役員体制の変更》《第三者割当増資》《一部事業の譲渡》拓真は、私が行方不明のまま戻らず、しかも自分から辞任届を出した形にしたうえで、自分に近い役員を増やそうとしていた。第三者割当増資で、水城家側の議決権比率を下げる。そして、MIZUKI DESIGNの収益源であるブランド事業と主要顧客契約を、LUNAREST PARTNERSと関係する会社へ譲渡する。今日、その最初の一歩を正式に通すつもりだったのだ。私は別室で待っていた。黒いスーツ。髪を整え、鏡を見る。そこにいるのは、もう隠れていた女ではない。神谷輝が後ろに立った。「緊張してる?」「少し」「やめてもいい」私は鏡越しに彼を見た。「ここまで来て?」「ここまで来たからだ」私は笑った。「やる」会場では、拓真が壇上にいた。司会者が、増資議案の説明を始めようとする。そのとき、扉が開いた。ざわめき。私は黒いスーツ姿で会場へ入った。役員。社員。株主。一人ずつ、私に気づいていく。そして、拓真。完全に動かなくなった。私は会場の中央まで歩いた。「お久しぶりです」静寂。私は壇上を見上げた。「社長」拓真の顔から、血の気が引いていく。役員の一人が立ち上がった。「水城さん……?」「はい」私は答えた。「水
Dernière mise à jour: 2026-10-29
Chapter: 第17話 あの日の録音
午後十時五十五分。MIZUKI DESIGN旧本社。二年前に本社を移転してからは倉庫として使われ、今は売却を待っているビルだ。人の気配はほとんどない。一階の暗いロビーに、私は一人で立っていた。見える範囲では、本当に一人。でも、輝は別室にいる。美月もいる。警備会社のスタッフも建物内にいる。音声も映像も、弁護士のもとへ届いている。午後十一時。自動ドアが開き、拓真が入ってきた。一か月以上ぶりに見る夫だった。痩せた。髪も少し乱れている。でも、十年間毎日見てきた顔だ。拓真は私を見て、止まった。本当に、幽霊を見たような顔だった。「……玲花」私は答えた。「久しぶり」彼の唇が震える。「生きて……」「残念だった?」「違う!」拓真が近づこうとする。私は一歩下がった。「そこにいて」拓真が止まる。「玲花、聞いてくれ」「聞くために呼んだの」「全部誤解なんだ」思わず笑った。「便利な言葉ね」「俺はお前を殺そうとなんてしてない」「じゃあ、何をしたの?」「何も」「ブレーキ」拓真の顔が変わった。ほんの一瞬。でも、見逃さない。「何の話だ」「LUNAREST PARTNERS」沈黙。「三千万円」「会社の正当な支出だ」「私の辞任届」「会社として必要だった」「事故の二日前に?」拓真が黙る。私は一歩前へ出た。「MIZUKI DESIGNのお金を移して」もう一歩。「資金繰りを
Dernière mise à jour: 2026-10-28
Chapter: 第16話 罠
美月からUSBを受け取ったのは、翌日の夜だった。場所は、輝が指定したホテルの地下駐車場。人目につかない場所だ。美月はタクシーで来た。帽子を深く被り、何度も後ろを振り返っている。「これです」差し出された小さなUSBメモリを、私は受け取った。「中身は?」「拓真さんとの会話です」「いつの?」「玲花さんの事故の前日です」私は輝を見た。彼がノートパソコンを開き、USBを挿す。音声ファイル。日付は、事故の前日。再生。最初に聞こえたのは、グラスの触れ合う音。店内のBGM。そして、拓真の声。『明日で終わる』私は息を止めた。美月の声。『何が?』『玲花のこと』『どうするつもり?』少しの沈黙。『しばらく会社から消えてもらう』『それって……』『心配するな』そこで一度、録音が途切れる。次のファイル。拓真の声。『ブレーキだけでいい』私の手が止まった。『死ななくても、しばらく会社から消えてくれればいい』美月。『そんなことしたら事故になるでしょ』『事故になればいいんだよ』空気が凍った。私は何も言えなかった。録音は続く。『もし死んだら?』美月の声。そして、拓真。少し笑っている。『それならそれで、面倒が減る』そこで、私は再生を止めた。それ以上は、聞けなかった。輝が無言でパソコンを閉じる。美月が泣いていた。「ごめんなさい」私は彼女を見た。「カフェで、車のことは知らなかったって言いま
Dernière mise à jour: 2026-10-28
Chapter: 第15話 生きている女
拓真は確信していた。玲花は生きている。写真。メール。消したはずの情報を知っている。偶然ではない。問題は、どこにいるか。誰といるか。そして、どこまで知っているか。拓真は一人の男に連絡した。「女を探してほしい」『誰です?』「水城玲花」沈黙。『事故で行方不明の人じゃ……』「生きてる」『警察は?』「余計なことは聞くな」拓真はいくつかの住所を送った。玲花の友人。親族。そして、神谷輝。その名前を打ち込んだとき、拓真の眉が動いた。大株主。玲花の元恋人。事故の前に、二人が会っていた記録もある。「神谷……」嫌な予感がした。◇その頃、私は隠れ家の窓辺に立っていた。夕方。外は静かだった。輝は仕事の電話をしている。私はコーヒーを飲んだ。昨日の喧嘩以来、少し気まずい。でも今は、それより考えることが多すぎる。証拠。拓真。これからのこと。ふと、道路に目をやる。一台の黒い車。見覚えがある。さっきから、ずっと停まっている。エンジンは切っていない。私はカーテンを少し閉めた。「輝」「何」「外」彼が近づいてきて、窓の外を見る。表情が変わった。「どれだ」「黒い車」「いつから」「分からない」輝はスマートフォンを手に取った。「ここを出る」「今?」「今だ」「大げさじゃ……」「玲花」
Dernière mise à jour: 2026-10-26
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