Chapter: 8食目・これで準備完了!……ということでもない? 異世界転生者免許証を貰えたし、これでやることは終わりだろうか。 そう思ったのだけど、「次はこちらへどうぞ」と案内される。 エリザさんには「いってらっしゃい、ルシーちゃん」と笑顔で見送られて、向かったのは床の真ん中に大きな丸が描かれた不思議な部屋だった。 「あの、ここは?」「ここはスキル発現の陣を描いた魔法室でして、主に転生者が受けたスキルを確認する部屋ですね」「スキル?……そういえば、馬車を降りた時にエリザさんもそんなこと言ってたような……」 とは言っても、うろ覚えなのだけど。 まるで独り言のように呟いたあの時のエリザさんの言葉を思い出そうにも、中々はっきりとは思い出せない。 それでも義政さんは「ご存じであれば話は早い」と満足そうに大きく頷いた。 「もしかしたら既に目にされたかもしれませんが、この世界には魔法があります。これはフォス=カタリナの人間であれば備わっている力です。ですが、私達異世界転生者は違う」「私達?」「ええ、正式に名乗らせてもらうと、私はアスパィア・ヴィッヒュー=義政と申します」「あ、だから義政さん……」 どうやら義政さんも異世界転生者だったらしい。 義政さんは「見ていてくださいね」と丸が描かれた中央に立って、手を伸ばす。 すると目の前に半透明の板が空中に現れ、文字と写真のような絵が映し出された。 写真は人が映っているが、その顔は私。 横の文字はこのフォス=カタリナの文字のようだけど、何故か読めない。 「わっ……!ってこれ、全然読めない……」「そうでしょうね。というのも、私達異世界転生者はこちらの世界に来る際、音として聞いた言葉や目で見た文字はある程度読めるよう備わっているようです。しかし私が所持するこのスキル、『|本質解《アニムス・コード》』は使用者である私とこのフォス=カタリナの文字を理解している者のみが解読することが出来、公式な資料として使うことが出来ます」「つまり、この文字を読むにはちゃんとフォ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-25
Chapter: 7食目・異世界転生者、免許をもらう。 大きな扉を通って中に入ると、来客者を案内するように石畳の床には紺色の絨毯が敷かれていた。 絨毯の先には長く大きなカウンターがあり、受付なのか等間隔に人が並んでいる。 ちなみに来客はエリザさんのような待ち人のような服装をしている人もいれば、お仕事をされているのか異国風でもピシッとキメた服装をしている人もいる。 みんなここに、何かしらの用事があるようだ。 あ、あの人の背中、おっきい武器背負ってる……。「ルシーちゃん、こっちよ」 受付や用事があるのか通路を移動している人がいる中を、エリザさんは迷うことなく縫うように進んでいく。 このままだと私が迷子になりそう。 大人しくその背をついていくことにした。 カウンターの端から2番目、『転生者登録窓口』の受付でエリザさんは声をかける。 「こんにちは、今よろしいかしら?」「大丈夫ですよ。本日はどのようなご要件で?」「こちらのルシーちゃん――ルシェット・サイファ=明音の異世界転生者免許の取得手続きをお願いしたいの」「かしこまりました。ではルシェットさん、こちらへ」「あ、はい」 受付のお兄さんのじっと見つめる視線に、私はエリザさんの隣に並ぶ。 するとお兄さんはまず胸元の名刺を見せてきた。「初めまして、ルシェットさん。私は今回の手続きを担うアスパィア・ヴィッヒューと申します」「あ、あす……?ゔっ、ヴィっ……」 にこりと微笑むお兄さんは気さくそうで朗らかな笑みなのに、名前の難度はとても高い。 なんて言ったかも把握できないし、何より発音も難しすぎる。「なるほど、名も苗字も馴染みのないもののようですね。あ、呼びにくいと思いますので私のことは|義政《よしまさ》でいいですよ」「急に渋いですね?」「よく言われます」「それ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-24
Chapter: 6食目・馬車に乗って手続きへ 乗合い、とは言っていたけど屋根もある箱型の馬車に乗ってるのは私のエリザさんだけだった。 馬車は2頭の馬が車輪の付いた箱を引いて、ステップに足をかけて乗った私達はどれも壁に沿って中央を向く椅子の、最後尾に座る。 窓枠は大きく開放的で、どこからでも外を覗けるし、外からでも馬車に乗ってる人はわかりやすそう。 窓がないけど雨が降ったらどうするんだろう? ふと天井を見上げると、窓枠の付近にラップの箱みたいなものが並んで見えた。 「ん……?」 「上の箱が気になる?あれはカーテン、雨が降ったら箱のひもを引っ張って、この窓枠の釘にかけるのよ」 私の疑問を察したように、エリザさんは颯爽と教えてくれた。 どうやら布製のブラインドが取り付けられているらしく、雨が降ったら自分で降ろしてね、ってことのようだ。 となると雨が当たるのは背中側、あ、椅子が内側向いてるのって雨対策か。 「ふふ、興味津々なのね。馬車って初めて?」 「そうですね。車っていうこういう箱を自分で運転するものが主流だったので。存在しても、他国だったし……」 「そうなの。いつかルシーちゃんの世界のお話も聞きたいわぁ」 そう言いながらエリザさんは「はい、これ」と手提げかばんに入れた巾着袋から銅色の硬貨を取り出した。 私の手のひらに乗せられた硬貨を見ると、磨かれた10円玉みたいにてらてらと鈍く光を反射している。 柄はお花で、数字は何も書かれていないけどとても綺麗だ。 「もうそろそろ役所に着くわよ。降りる時は入り口のベルを鳴らして、止まったら降りて御者さんに渡すのよ」 「分かりました」 とは言っても、馬車が動いているのに慣らしていいのだろうか? あ、次の停留所に止まった時に鳴らすのかな?と思ったけど、停留所は見当たらない。 さっきもなんか立ち止まっ
Terakhir Diperbarui: 2025-11-06
Chapter: 5食目・異世界って本当に異世界なんだね!キッチンにダイニング、大きな扉に階段があった一部屋は、扉を隔てて外に通じていた。 靴で生活するみたいだし、玄関っていう概念がないのね、きっと。 「ようこそ、フォス=カタリナへ!」とエリザさんのにこやかな歓迎とともに出入り口のドアが開かれると、そこは街の外。 外からぶわっと入ってきた風は不思議な匂いで、外の景色はやっぱり私が知ってる景色と違う。 柱は木製でも壁が石だったり、レンガが崩れた場所を木材で塞いでるような壁があったり、道は石畳で凹凸が整えられてたり。 でもちゃんと車2台分は通れるような広さがある。 見た目ではどうやら住宅街のようだけど人が2,3人の往来はあって、顔立ちが堀の深い人や丸い顔の人、様々だ。 「ここは王都スカイクート、西住宅地の第3区画よ。自分で住所言えるように覚えておいてね」 「あ、はい。えっと、西住宅地第3区画……」 「そうそう。今から乗合いの馬車で役所まで行くわね。こっちよ!」 エリザさんの案内を受け、家から右へ道を抜けていく。 十字路は3本目を左に曲がると、大きな道に出た。 「う、わあああ……!!」 少しずつ賑やかさは感じていたけど、大きな通りに出た瞬間その喧騒は突然大きくなった。 両脇に屋台みたいな小さなお店が立ち並び、商店街のようになっている。 |闊歩《かっぽ》する人は無骨な鎧を着ていたり、布物でも腰に武器のようなものを下げていたり、はたまた運送屋なのか大きな荷物を肩に担いで運ぶ人も。 エリザさんのようなカボチャ袖のトップスにロングスカートの主婦っぽそうな人も混じっている。 いや、シャツにベストを着たお兄さんもいるな。 とにかく見た目では判断が難しい人もちょいちょいいる。 人はすごく多く、ごった返している。 「そっちから先は商業区。日用雑貨や食材、装備屋さんにご飯屋さんも入り交じった一番賑やかなところよ」 街の光景に衝撃を受ける私に、こそっとエリザさんが教えてくれる。 気圧されて動けなかったけど、「乗合いはこっちよ」と手を引いて連れて行ってくれた。 初めてみた光景の連続に心臓がバクバクして、抑えられない。 キョロキョロとしえいると、エリザさんはくすりと笑った。 「貴女、本当に緊張していたのね。今は初めての光景にはしゃぐ子供みたい」 「わっ、えっと……」 「ごめんなさい、悪い意味じゃな
Terakhir Diperbarui: 2025-11-05
Chapter: 4食目・転生者、やることいっぱい。「はい、ルシーちゃんお待たせ!この世界のお料理が、お口に合うと思うのだけど」エリザさんは嬉しそうに抑揚のある声で目の前にご飯を並べた。出てきたのはパンとスープ、パンは外側がバリっと硬くて中はふわふわのパン、スープは抹茶みたいな薄い緑色に白いクリームのようなものがかけられている。これが異世界飯、と言いたいけど少しだけ既視感がある。ちなみにルシーとはルシェットの略称みたい。今後はどうやらルシー、と呼ばれることになりそうだ。「えっと、いただきます」「召し上がれ」手を合わせてまずはスープを一口。スプーンで掬うと少しだけとろみがあって、口に入れればほんのり甘くて豆の味がする。エンドウ豆のクリームスープ、って感じかな。「美味しいです。豆のスープですか?」「あ、分かる?ルシーちゃんの世界にもあるのねえ。ズンダー豆を砕いて濾したスープなのよ」ズンダー豆。……ずんだ?「ず、ずんだ…」「ルシーちゃんの世界ではあまり見ないかしら?昔はエフェニア地方で採れた豆だからエフェニア豆、なんて言ってたけど、私が小さい頃にはこっちに来た転生者が『ずんだの味だ』って言うから、その語感を気に入ってズンダー豆って呼ばれているのよ。確かニホンって世界から来た人だったと思うのだけど」ずんだはどうやら本当にずんだ餅から来てるみたい。話を聞く限り転生者は多いようだから、もしかしたら他のものでも馴染みのある物や音はあるのかもしれない。異世界なのに既視感があって、なんだか不思議な感覚だ。「異世界から来た人の言葉がこっちで浸透することってあるんですね」「この王国は特にだけど、実は意外と多いわよ。ルシーちゃんも通った召喚術式が呼び出す世界なんだけど、2,3つの世界から死んだ人を定期的に呼んでるからなの。フォス=カタリナ人、特に私たちエルドアマリナ王国の人間は、そんな彼らを受け入れる義務があるの。それは言語や文化も同じよ。でも異世界の文化って結構面白かったり、フォス=カタリナの元々の言語が発音が難しいこともあって、わりと異世界の言葉や文化が浸透しがちなのねぇ」「はえー、そうなんですか」行儀が悪いけど、スープを口にしながら異世界のお勉強をさせてもらってる気分。来たばかりだから仕方ないけど、この世界をもっと知らないとだめだな……。この世界で生活するんだから、もっとお話聞いておき
Terakhir Diperbarui: 2025-11-01
Chapter: 3食目・転生者、名前をもらう。どうやら私が居る場所は、エルドアマリナ王国の王都、スカイクートの王城内らしい。 なのでこれから城下町に降りるのかな……と思ったけど、どうやら違ったみたい。 「明音。まずはこの世界を知り、楽しんで」 優しい笑顔と一緒にそんな言葉をクリステフさんにかけられて、再び杖が振られた時には……知らない場所に居た。 煉瓦が積み上がった壁、木製の作業台には大きな桶と鍋が置かれていて小さいながらキッチンだと分かる。 ダイニングテーブルは私がよく知るものだけど、野菜が置かれた棚や壁際に積まれた木製の箱は完全に私が知らない文化だ。 どうやら、本当に異世界に来ちゃったみたい。 辺りをキョロキョロとしていると、「ちょっといいかしら?」と背後から声が聞こえた。 振り向けばさっきのご婦人が立っている。 「えっと、もう一度挨拶させて頂くわね。初めまして、私はエリザ・サイファって言うの。貴女の名前、聞いてもいいかしら?」 「あ、東都明音と申します」 「明音ちゃん、ね。クリステフ神官長からかるーくお話は聞いたと思うのだけど、私ね、宿主制度に登録してたから貴女を引き取ったの」 エリザさんは「よろしくね」と柔らかい微笑みを見せた。 白っぽい金色の髪、目は黄緑色で毛先がくるんとした髪を後ろに纏めている。 少し丸っとした頬や体型がなんだか可愛らしい人だ。 ……でも、その前にツッコミたいことがある。 クリステフさん、神官長なの?……ああいや、そこじゃないか。 「宿主制度?」 「そう、クリステフ神官長も言ってたと思うけど、この国には貴女みたいに別の世界から人が呼ばれてくるの。そんな人達には家を用意しないといけないでしょ?でも、だからってお宿を準備するとかだとお金も無いのに大変でしょう?だから希望者がお家を貸してあげますよーって制度があるの。勿論それにも条件を設定できるのだけど……」 「つまり、私はエリザさんが宿主制度で引き取る条件に合ってたってこと?」 確認をすると、エリザさんは両手を合わせてぱぁと輝くような笑みを見せる。 ふわっとした声も相まって、可愛いお母さんだなあって印象がつきそう。 「そうなの!私ね、長年子供が出来なくて、夫とも離婚しちゃって一人暮らしなんだけど……よかったら明音ちゃんに、私の娘になってくれないかな
Terakhir Diperbarui: 2025-11-01