تسجيل الدخول「んあ、おかえりィ。新人ちゃんお疲れ様ァ~」
「あ、ルシーちゃんお疲れー!」
タイムカードの切り方を教えてもらって、マグサァさんと別れて更衣室に向かうと、ラリエーヌさんとエラさんに出迎えられた。
2人とも既に私服だけど、まさか待って貰ってると思っていなかった……いや、退店方法教えてもらわないとだもん!いてくれないと困る。
「これで本日の新人仕事終了ォ?そんじゃまずはご褒美タイムだねェ」
「その前にお店の出方を教えてからね」
「ンもう、看板娘のケチー」
ニマニマと笑うラリエーヌさんとエラさんの会話を聞きながら着替えていく。
待たせてるのが悪いなと思って少しだけ急いで、「お待たせしました!」と声をかけた。
「全然待ってないから安心して」
「そんじゃ帰ろ〜」
エラさんの「帰り道はこっちだよ」という案内を受けて更衣室を出た私は廊下を真っ直ぐに歩いていく。
この先は事務室だけど……と思っていたら、2人は銀色の扉の前で立ち止まった。
「ルシーちゃん、今日は表から来たでしょ?明日からはこっちの従業員用の入り口から入ってね」
「従業員用の入り口があったんですか?」
「逆にこんな店だから裏口ないと無理っショ?いくら部屋主がいるとはいえ、表の部屋から各部屋通される仕様じゃ部屋主休めんじゃん?」
「はっ、確かに……!」
ラリエーヌさんの言葉にはたと気付く。
部屋主ってなんだろうと思ったけど、万来堂は表から入ると毎度お兄さんに行き先を告げる仕様だった。
確かに、従業員の相手までしてたらお兄さんずっと働くことになっちゃう……!
「ほらほら、いつまでも立ち止まってないで、行くよォ~」<
「ちょ、ラリエーヌ!?」「ほらほら、帰っておいでェー」 いつの間にか目の前が真っ暗になって、顔面に何かが当たった。 そのまま顔を柔らかいものでわさわさとされて、くすぐった、いや、そもそも息、息がっ……――。「――っぷああぁぁぁっ!!!」「ハイお帰りィ~」 目を開けるとにんまりと笑うラリエーヌさんの顔の横に真っ白でもわもわとした気持ちよさそうな棒があった。 何このもこもこ? 手を伸ばすと棒の方が寄って来て、また顔に当たる。「うりうり」「はわっ……!」 頬に当たると綿を撫でるような気持ち良さ。 先端の方に撫でると癖になる滑らかさがある。 撫でてるだけで癒しがすごいというか、あ、一生このままでもいい。 …………はっ!「な、なんですか?これ」「しっぽ」「しっぽ!?」「そう、アタシの」 ラリエーヌさんの言葉に棒の根元を辿っていくと、ラリエーヌさんのおしりに行き着いた。 やだ、私のハレンチ! 確かにしっぽ、しっぽがある。「そういえばラリエーヌさんは魔族って言ってました……!わぁ、本当にしっぽがある……!」「ちゃんと飾りじゃないよ、ホラ」 そう言ってラリエーヌさんは自分の体はそのままに、しっぽだけを操る。 うにうにと動いてつい手を出しそうになって……なんだか私の方が猫みたい。「あっはは、ルシーの食い
「んあ、おかえりィ。新人ちゃんお疲れ様ァ~」「あ、ルシーちゃんお疲れー!」 タイムカードの切り方を教えてもらって、マグサァさんと別れて更衣室に向かうと、ラリエーヌさんとエラさんに出迎えられた。 2人とも既に私服だけど、まさか待って貰ってると思っていなかった……いや、退店方法教えてもらわないとだもん!いてくれないと困る。「これで本日の新人仕事終了ォ?そんじゃまずはご褒美タイムだねェ」「その前にお店の出方を教えてからね」「ンもう、看板娘のケチー」 ニマニマと笑うラリエーヌさんとエラさんの会話を聞きながら着替えていく。 待たせてるのが悪いなと思って少しだけ急いで、「お待たせしました!」と声をかけた。「全然待ってないから安心して」「そんじゃ帰ろ〜」 エラさんの「帰り道はこっちだよ」という案内を受けて更衣室を出た私は廊下を真っ直ぐに歩いていく。 この先は事務室だけど……と思っていたら、2人は銀色の扉の前で立ち止まった。「ルシーちゃん、今日は表から来たでしょ?明日からはこっちの従業員用の入り口から入ってね」「従業員用の入り口があったんですか?」「逆にこんな店だから裏口ないと無理っショ?いくら部屋主がいるとはいえ、表の部屋から各部屋通される仕様じゃ部屋主休めんじゃん?」「はっ、確かに……!」 ラリエーヌさんの言葉にはたと気付く。 部屋主ってなんだろうと思ったけど、万来堂は表から入ると毎度お兄さんに行き先を告げる仕様だった。 確かに、従業員の相手までしてたらお兄さんずっと働くことになっちゃう……! 「ほらほら、いつまでも立ち止まってないで、行くよォ~」
「わわぁ、耳だ……!」「触ってもいいよん」「えっ、いいんですか!?」「こら、まだ仕事中!ラリエーヌにも乗らない!衛生問題!」 にんまりと笑って耳を近付けてくるラリエーヌさんに、つい頑張ってしまった。 途中眉皺を揃えたエラさんに指摘されて思わず「そうだった……」と思ってしまい私の目の前で、ラリエーヌさんは「ちぇー、看板娘めぇ」と口先を尖らせた。
少しずつお皿の重ね方を考えて、お皿を下げる時は落とさないよう注意しながら、厨房前へと運ぶ。 お皿はガラス製や木製、陶器、金属製と料理によって様々で、大皿のものや小皿、鉄板だったり。 それだけじゃなくて、取り分け用なら重ねやすいけど特殊な形をしたお皿もある。 それだと重ねにくいから少しだけどうやって重ねようか戸惑ってしまう。 あとは鉄板とか、汚れがすごいお皿とか、そういうのを重ねるのはちょっとやだな……っていう気持ちの問題。 エラさんもヴィラさんも素早く片付けているけど、そういうのは気にならないんだろうな……。 いや、でも早くテーブル準備しないとお客さん入れられないもんね。私も気にしないようにしなきゃ! それから運んだあとのテーブルの拭き方、お客さんからの要望があって出した調味料、その片付け場所も教えてもらって。 テーブルは木目に合わせて、ヘリも拭くとか。 テーブルの下や椅子の下も確認するとか。 どうしても汚い場合は洗浄魔法をかけてもらえるみたい。 ちなみにテーブルの下に落ちてるのがゴミとかならセレンさんが動いてくれるけど、これは忘れ物があった場合の話。 見つけたら全力ダッシュで追いかけてねって言われてしまった。 なお、それが危険物である場合が1階では多いみたい。 異世界、わりとものものしい。 そんなこんなで、異世界といえど学ぶことがいっぱいだ。 もしかしたらこっちの世界でもそれは変わらないかもだけど。「もうちょっと、色々経験しておけばよかったな……」 いくらお仕事と言えど、ご飯の準備をしたりお皿を片付けたりできたのに。 少しでも経験があればなにか違う考え方もあったかもしれない。 それが少しもったいない気がして、つい、口に漏れた。
あまりにも目まぐるしいピークタイムが過ぎた。 それでもお客さんは少しずつ入るんだけど、終わりごろは会計とお皿の片づけの連続。 その時にはセレンさんが少しだけお仕事をして、私は「ルシーちゃん!おいでおいで」と呼ぶエラさんのもとへと向かう。 でも向かった所で、なんて声をかければいいか分からない。 『お疲れ様です』? それとも『ピークすごかったです』って感想? 何も考えず、『なんですか?』って声かけちゃっていいの? 迷いに迷って、私は「ピーク、見てました!」と声をかけてしまった。 見ろと言われたのだからそりゃ見るだろう。 見てなかったら怒られる案件じゃん!!「あはは、今日も大盛況だったねえ。ルシーちゃんも初日なのにお疲れ様!」 それでも笑って応えてくれるエラさんが優しい。 まるで天使みたい……。 「じゃあ今から15時までは片付けだよ!今からお皿を下げていくから、一緒にやって覚えていこう!」「わ、わかりました」 そう言って厨房に一番近いテーブル席へと移動する。 向かったテーブルは模様掘りされた装飾部分が紫色に塗られていた。 (紫色は確か闇属性だから、ノクスィー席……入口側が1だから、第7ノクスィー席か……) テーブルには大皿が2枚に取り分け用と思われる小さなお皿が3枚、コップも3つ、つまり大皿ふたつを3人で分けたのだろう、といった感じだ。 エラさんは「例題はこちらです!」とテーブルを指す。 「さあルシーちゃん、ルシーちゃんはこのお皿を片付ける時、どうやって片付ける?」「え?うーん、まずこの小さいお皿を重ねて、大きいお皿と一緒に運ぶ……?」「それだとコップのためにもう一度運びに来なきゃだね」「そうですね……」「そんな時間ありそう?」 じっと視線を合わせてくるエラさんの瞳が怖い。
「――テーブル空いたよ!」「お待たせしました、『ブロウ豚のステーキ』です!ガリオンソースをかけてお召し上がりください」「第2魔素席、会計終えました。清掃をお願いします」「第4ノクスィー席に『ジェプチャップ』、こっちは第1ルミオール席の『アグネッセ乗せバタール』、よろしく」「配膳いきます!」「じゃあ私はこっちを行くわ!」「ご新規2名様です!」 さらに時間が進むとお店の忙しさは最高潮になった。 お客さんの会話のガヤガヤも聞こえるけど、従業員側が動き続けてる。 云わばピークタイムだ。「め、目が回りそう……」 増える客、溢れる注文、客の声は大きくなって、その分従業員の声も大きく聞こえる。 でもそれくらいしないと聞こえないんだと肌で分かるくらいの大きさ。 お客さんはお客さんで注文を待つ間や食べながら、食事後にお喋りしてるし、それが重なるだけで結構な声量がある。 そんな中でエラさん達はあちこちを驚く様な速度で動いて回ってる。 走ってはいないしバタバタ動いてるわけじゃないけど、そうしないと追いつけないんじゃ、と思うくらいの動き。 見てるだけで緊張は高まって、次第に目が追い付けなくなっていく。 「その中に、君も混じるんだよ」 お店の喧噪に少しだけ頭痛を感じると、隣のセレンさんから低く、静かに返事した。「こんな中に自分が居ると思うと……流石に自信がないです……」「何を言ってるの。別に今すぐにとは言わない。少しずつ仕事に慣れていって、いつかは彼らのように主戦力として働くことになる――と言っているんだ。一週間ならまだしも君は初日、寧ろ初めての仕事なのだろう?」「そうですけども……」「あれでもヴィラは4年、エラは9年だ。今すぐにでも彼らのようになれとは、誰も言っていない。焦る前に、君はまず舞台にすら上がっていないだろう」「うっ」「今のうちに今の彼らをじっくり