Home / ホラー / かみさまのリセットアイテム / 第02-0話 霧湧村

Share

第02-0話 霧湧村

Author: 百舌巌
last update Last Updated: 2025-02-02 09:16:20

霧湧村。

 翌日、美良は自分の軽自動車を運転して、カーナビを頼りに村に出向いた。目的の村に近づくとトンネルが見えて来た。

 車が一台通れるような狭いトンネルだ。

「ええーーー、ちょっとぉ……」

 何よりも薄暗いのが不気味な雰囲気を醸し出している。怖い話は苦手では無いが、そこは女の子だ。独りで進むのに躊躇しているのだ。

 山を迂回すれば行けない事も無いが時間が掛かってしまう。余計な手間を掛けたくない美良はそのまま進む事にした。

 しかし、トンネルに差し掛かった瞬間、誰かに『入るなっ!』と警鐘を鳴らされた気がする。耳ではなく頭の中に直接響いた気がしたのだ。

 美良は思わず車を停車させてしまい、辺りの様子を伺ってしまった。だが、誰もいない。前を見ても後ろを見ても無人だった。

 そして、人が隠れている気配も無い。

(気のせいか……)

 美良は自分の気のせいだと言いきかせて、そのまま車を村に向けて走らせた。

 霧湧村に辿り着いた美良は村役場に向かった。ネットである程度は調べたが詳細は村の人に聞く方が早いからだ。

「あのー、すいません。 月野美良と申します」

「はい、どんな御用でしょうか?」

「鎮守の祭りに詳しい地元の方を紹介して頂けないでしょうか?」

「良いですけど…… 雑誌か何かの取材ですか?」

「いえ、大学生で民俗学を学んでおります。 大学の論文を作成するために、祭の事を尋ねに来たんです」

「ああ、そうですか! それはそれは……」

 村役場で来訪の目的を伝えると、村の役人たちは大層喜んでくれてた。

 何も無い田舎の村に、都会から若い女性が来ることが、珍しいので嬉しかったのであろう。自ら案内役を買って出てくれた。

 村の史跡を巡っている時、村の一番高い山に登ると眺めとは裏腹に寂れた神社があった。昔は神主も居たのだが村人の減少に合わせて無人となり、村人たちが交代で境内の掃除などをしているのだそうだ。

 美良の目的だった鎮守の祭りは、春先に行われるだけなので見学したければ、その時に来るしか無いと言われてしまった。美良は神社の成り立ちなどを聞きながら、論文用に何枚か写真に収めていった。

「先日、泥棒が入りましてね。 大したものが無いのが気に入らなかったのか、扉なんかを壊していきやがりまして…… まったく、神さまに畏敬を持たない輩には困ったもんですわ」

 案内してくれた村役場の人が怒りながら言っていた。何も置かれていないので、神社の本殿の中はガランとしていた。

「泥棒が神社の中を荒らしてしまっていますが、古いだけで特に謂れのある場所では無いのですよ」

 境内を掃き掃除をしていた老人が話してくれた。

「ただ…… 御神体を何処かに捨ててしまったらしくてね……」

 老人は続けてそう言って顔を曇らせてしまった。普通、神社の御神体というのは「三種の神器(勾玉・剣・鏡)」が殆どだが、ここの神社では河原で拾った石なのだそうだ。

「折角、苦労して押し入ったのに、御神体がただの石ころでは、泥棒もさぞやがっかりしたでしょうな」

 そう言って老人は『カッカッカッ』と笑っていた。

「この先にもお寺があります。 神社と同じで住職はおりませんが、古い仏像なんかはありますよ?」

 案内役の山形誠が言ってきた。

「はい、ぜひ見学させてください」

 美良は古い仏像に興味を示して案内を頼んだ。

「わかりました。 こちらへどうぞ」

 山形は喜んで美良を寺に案内した。そして、神社からの帰ろうとした時に、美良は何かを踏んでしまった。薄汚いコンビニの袋だ。なんだろうと屈んで手に取ると、中には茶碗の欠片が入っていた。

(なんだ、ゴミか……)

 美良は帰りがけにでも捨ててあげようと、自分のバッグに欠片をしまった。

(このまま捨てて置くのも神様に失礼よね……)

 美良は道端に落ちてるゴミは積極的に片付けるタイプだ。

 その後、寺の中を見て回り山形に謝辞を述べると、そのまま車で帰宅の途についた。

 翌日は大学で村で取材した内容をパソコンで論文の形にしておいた。雅史はもう出張から帰って来ていたが、予めメールで村に行った取材の内容を書いて置いた。

 一緒に行けなかった事を大層残念がっていたが、埋め合わせに東京ねずみ園に連れて行ってあげると言うと機嫌が直ったらしい。本当は自分が行きたかっただけなのだが、雅史は美良と二人きりになれるのなら、近所の公園でも大喜びしたであろう。

「ふふふっ……」

 その事を考えるとニンマリしてしまう美良であった。

 ふと見ると、大学の教室の窓に何かが張り付いているのに気が付いた。なんだろうと近寄ると紙で出来た人型だった。

「え? なに?? 気味悪い……」

 その人型は美良の見ている目の前から、風に吹かれてどこかに飛んで行ってしまった。

「……」

 そういえば大学に来る前に、駅のホームで誰かに見られている気配がしたが、あれは気のせいでは無かったのかも知れないと思い始めた。

 ひょっとしたら自分の勘違いなのかもしれない。闇雲に雅史に心配かけるのも嫌だったので、自分が覚える違和感については何も言わない事にしていたのだった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • かみさまのリセットアイテム   第35-2話 エピローグ2

     雅史は霧湧村で起こっていた、数々の異常現象の原因は、山が崩壊する時の微振動だったのではないかと推理していた。岩同士がこすれ合うと、電磁波を起こすのは良く知られている事だ。 いきなり空き家が地面に吸い込まれて行ったのも、崩壊前の地面移動に従って岩盤に隙間を作ってしまい、そこに飲み込まれたのだろうと推測している。「彼等にとってそれが精一杯なのかも知れないね……」 神様といっても人間に都合の良い存在とは限らない。「そういえばお寺で私が聞こえていた異常な周波数の音ってどうして発生していたんですか?」 姫星は霧湧村の寺で幽霊が見えるとパニックに成っていたのを思い出した。高周波は新設されていた、監視カメラのスピーカーで再生できるが、低周波はそれなりのサイズが無いと無理なのだ。 そして幻覚は高周波より低周波の方が見えやすいとの研究結果もある。「推測だけど、山体が崩壊する時に、石同士の摩擦で発生した音が、洞窟か何かで増幅されたんじゃないかと思う」 あの時に逆送波を作るために録音したデータはまだ持っている。そのうち解析してみようと思うが今は暇が無い。崩壊した霧湧村を管轄する県庁の土木事務所から、詳細な情報の提供を求められているのだ。「そういえば動物たちも逃げ出してたわ……」 霧湧神社の帰り道で出くわした猪や鹿を思い出していた。あの動物たちも助かったのだろうか。確認する手段が無いのがもどかしかった。「うん、動物は人間には聞こえない周波数も聞こえるからね。 人間が幻覚を起こせるくらいの異音だと、動物たちにも酷い影響が出たんだろう」(そういえば怯えた目をしていたっけ……) 姫星が思い出してると、ふと疑問に思う事があった。「…… そういえば、どうしてまさにぃは何とも無かったの?」 パニックになって泣き出した自分を励ましながらも、冷静に対策法を考え着いた雅史を思い出したのだ。「ぶほっ!…… 人間、年を取る

  • かみさまのリセットアイテム   第35-1話 エピローグ1

    宝来雅史の研究室。 行方不明だった月野美良は、自宅の居間にいたところを母親が見つけていた。 母親が庭先で洗濯物を取り込んで、家に入ったら居間の長椅子に座って居たのだそうだ。外から帰って来た様子も無く、行方不明になった時の服装のままだったそうだ。 今は美良が体調不良を訴えたので検査入院している。妹の月野姫星は姉の着替えを持って行ったり、本を差し入れしたりして、毎日のように病院に通っていた。そして、帰り道のついでに宝来雅史の研究室に立ち寄るのを日課にしていた。 両親が姉に行方不明の間、どこに居たのかと尋ねたが、要領の得ない返事しかしないらしい。雅史や姫星が尋ねても同じだった。あまり問い詰めると、また居なくなりそうなので、今はあやふやなままにしている。 『話したくなったら自分で言うのではないか?』 そう母親が姫星に言っていたそうだ。それもそうかと雅史は納得する事にしていた。「結局、収穫はこの陶器の欠片一つでしたね……」 姫星は欠片をひっくり返したり、手にかざしたりしながら言った。祭りの後で霧湧神社に仕舞われたはずだった。しかし、欠片は車の後部座席に毛布に包まれていたのだ。毛布を片付けようと持ち上げた処、ポロリと落ちて来たのだ。「きっと姫星ちゃんの言った通り。 あの小石に山の荒ぶる神を封じていたんだと思うよ。 逸れを解放した事で、神様の力を制御する術を失って、山体崩壊を招いたんだろう」 雅史は研究ノートに書き込みをしながら姫星に説明していた。確信がある訳では無いが小石が割れたのが始まりだったと考えている。 姫星は欠片を見ていた。人形の様な模様があり、その右手のらしき部分にバツ印が付いている。「じゃあ、あの時に村から逃げる時に一緒にいたのは……」 姫星は欠片を人差し指で突きながら言いよどんだ。姉の美良にそっくりな謎の人物。結局、一言も言葉を交わさずに笑っているだけだった女性だ。「何だったんだろうね…… どちらにしろ、正体を暴こうとか探ろうとかは思わない方が良いのかもしれないね&h

  • かみさまのリセットアイテム   第34-2話 均衡の崩壊

     車は猛スピードのまま土砂崩れの先頭に躍り出てきた。車のバンパーがアスファルトに触れて火花を散らしながら外れていった。 姫星は後ろを振り返りながら、押し寄せる土埃が人の形になるのを見ていた。それは大きく口を開き、目に当たる部分が窪んで黒くなっていた。 伝説のダイダラボッチとはこんな風だったに違いない。そのダイダラボッチが土埃の手を伸ばしてきた。ブボォォォォッ その手が届きそうになる寸前に、雅史の運転する車は霧湧トンネルの中に飛び込んでいく。速度の出ていた車は物の一分もかからずにトンネルを抜け、砂ぼこりを立てながら反対がわの出口から躍り出て来た。 そして、そのタイミングを見計らったようにトンネルは横滑りしながら崩れ去って行った。「キャハハハハハッ」 その間も美良は後部座敷で笑い続けている。 そして、トンネルが流れていくのが合図だったかのように、押し寄せる土砂や土埃がパタリと止んだ。「まさにぃっ! まさにぃっ! もう大丈夫っ! 土砂がいなくなった!!」 姫星は後ろを振り返りながら叫んだ。雅史は急ブレーキを踏み、車は横滑りしながらも、つんのめるようにして停車した。車はデコボコに窪んで傷だらけになっている。まるで廃車寸前の車のようだ。 雅史はハンドルに突っ伏して肩で息をしている。ドロドロと大地を震動させていた音は止み、粉塵が風に吹かれて青空が見え始めた。 山体の崩壊が終ったようだ。始まりから終わりまで二十分も掛かっていないはずだが、雅史には一時間近く掛ったような気がしていた。 姫星は助手席からヨロヨロと表に出て、村があった谷の方を見た。そこには田園風景が広がる長閑な村の風景は無く、一面が茶色の土だらけの光景が広がっていた。「みーんな、無くなっちゃった……」 姫星は涙声になっていた。姫星は全身が灰を被って泥だらけになっている。「ああ、村も川も畑も…… 何もかも土砂の下になっちまったな……」 緊張の連続の脱出ドライブから解放された雅史は、フラ

  • かみさまのリセットアイテム   第34-1話 歪む山道

    村から続く山道。 家ほどもある大きな岩が転がって来た。雅史は車を止めようとしたが、後ろからは土砂が迫って来るのがサイドミラーに映っている。転がって来る岩は大きく跳ね上がったかと思うと雅史の運転する車を飛び越えて行った。「あんな小っちゃい石にそんな力があったのかっ!」 村長が割れた石を手に持って嘆いている様子を思い浮かべていた。子供のこぶしぐらいの石だったはずだ。「物理的な大きさが問題じゃないの、自然と言うのはその力をどこへ向かわせているのかが重要なの。 その方向を制御してたのが小石に宿った神様で、居なくなってしまった余波が、村で起こっていた怪異現象だったのよ」 姫星は、力の向く先を制御する術を失った流れが、暴走したのかもしれないと思い付いたのだ。「石と言うのは只の象徴なの、それを全員が信じて念じる。 その行為に意味が発生するの。 発生した御霊の流れに意味を持たせて、漠然とした流れに方向性を与える。 その流れを作物育成の力に載せてしまう。 それが『神御神輿』の祭りの意味なのよ」 自然エネルギーという考え方なのだろう。風水の考え方だと龍脈と呼ばれている。「だから、公民館にあった仏像を、元の場所に戻す必要があったんだ」 雅史がハンドルを握ったまま怒鳴り返した。車の左手から見える、対岸にあった民家が土砂に呑み込まれていった。「それをコソ泥が奪ってしまって事故で一緒に燃えてしまった。 だから、均衡が保てなくなってしまった。 不均衡な力の働きは山体崩壊を招いてしまったのよ」 道路に入った地割れから土ぼこりが巻き上がっている。その土ぼこりに車は付き抜けた。いきなりだったので避ける暇がなかったのだ。「山を滅茶苦茶にする程のエネルギーを放出しているのか?」 雅史はハンドルを握ったまま姫星に尋ねた。(ええっ? 山が横に滑っている!?) 姫星が見ている内に山が形を崩して行く、地面が圧力に耐え切れずに横滑りを起こしているのだ。「くそっ! 道が曲がりくねっている!!」 車の中で左右に身体が激しく振られている。だが、速度

  • かみさまのリセットアイテム   第33-2話 辿り着いた答え

    「にゃあっ!」 急な発進で姫星が悲鳴を上げた。どうやらシートの頭部クッションに頭をぶつけてしまったらしい。「まさにぃ…… どうしたの?」 姫星が不思議そうな顔で聞いてきた。頭をぶつけて目が覚めたらしい。「山が崩れ始めているっ!」「グズグズしてると巻き込まれてしまうそうまなんだよ!」 姫星は慌てて山を見て驚いた、どこを見ても黒い土煙りに覆われているのだ。一方、後部座席の美良はニコニコしていた。 雅史は北のバイパスに向かうのは諦めていた。村人が殺到して渋滞するのが目に見えていたからだ。渋滞しているところに土砂崩れに襲い掛かられたら終わってしまう。 そこで、雅史たちを載せた車は、霧湧トンネルを目指すことにしていたのだ。舗装していない道路を砂ぼこりを上げながら疾走させていた。すると走っている右手の森が動いているのが見えた。「まずいっ こっちでも崩れ始めたっ!」 一本の木が道の前に横たわっていた。しかし、バックミラーに後ろから土砂崩れが襲い掛かってくるのが見えている。 雅史はやむなく直進を続けた。道路の端と森の際に、無理やり車体を押し込んで、抜けようと考えていたのだ。すると、倒れた木の根元に大きな石が乗り上げて木を跳ね上げた。 シーソーのようだった。塞いでいた木が跳ね上がった隙に、雅史たちの乗った車は通り抜ける事が出来た。(シーソー……… 均衡…… っ!!!) 姫星はハタと気がつく。跳ね上がった木は車が通り過ぎると轟音を立てながら再び道を塞ぐように倒れてきた。「そう言う事なのっ! やっと、今になって意味が分かったっ!」 小型車並みの大きさの岩が目の前に転がり出てきた。雅史はハンドルを操りながら左によけ、今度は木にぶつかりそうになったので左によける。「何が分かったんだ?」 落ち来る石や枝を避けようと、雅史の運転する車は右に左にと揺られている。姫星の身体もそれに合わせて一緒に揺られていた。

  • かみさまのリセットアイテム   第33-1話 山体崩壊の始まり

    日村の自宅 いつの間にか夜明けの時刻になっていた。宝来雅史は日村の自宅に居る。婚約者の月野美良も、日村の自宅に居る事が分かって、ひと安心したい所だ。だが、日村の自宅が崩れる危険が差し迫っていた。 雅史は家の奥座敷に居る美良を迎えに来ていた。何の事はない、ずっと同じ村にいたのだ。 部屋に入った時。美良は水色のワンピースを着てソファに腰掛けていた。「美良っ!」 雅史を見た美良はニッコリと微笑んだ。そして、美良の膝に頭を乗せて姫星がスヤスヤと寝ていた。美良は、そんな姫星の頭を優しくなでていた。「美良…… 無事で良かった…… とにかく一旦、外に出よう。 この家が崩れそうなんだ」 美良はニコニコしている。色々と聞きたい事があるが、今は逃げる事が優先だ。「美良…… だよね?」 雅史は一瞬見とれてしまった。見間違うはずが無い、どう見ても『月野美良』だ。ギ、ギギィィィッ…… 日村の家が歪み始めた。天井から埃がパラパラと落ちてくる。天井を睨んだ雅史は焦った。「姫星。 姫星っ! 起きてっ!」 雅史が美良の膝で寝ている姫星の肩を揺すった。「もう…… 朝ゴハンなの?」 姫星は寝ぼけているようだ。美良はそんな姫星をニコニコしながら見ていた。「逃げよう、この家に居ちゃ駄目だ」「ふぁっ?!」 雅史は美良の手を引いて立ち上がらせ、姫星を押し出すようにして部屋を出た。ヴォォォ~~~ン 雅史たちが家の玄関から出てきた時に地鳴りが一際大きくなった。地面も揺れている。そして、それが合図だったかのように、霧湧村を囲んでいる山々が震え始めた。 やがて、ドロドロゴロゴロと重低音が鳴り始めた。山の崩壊が始まったのだ。「山から煙が出てるぞ」「なんだあ?!」「山が動いている!!」 みんなが山を指差している

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status