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The Day I Finally Let You Go

The Day I Finally Let You Go

By:  Sweet HawthornCompleted
Language: English
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In the fourth year of her engagement to Mason Hart, Evelyn Ward still had not been able to marry him. The Hart family had produced officers for three generations, and marriages required approval from military headquarters. Yet every year, their marriage request was rejected. Until the fourth year, when Evelyn personally saw Mason alter the application. Only then did she realize that Mason had never intended to marry her at all.

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Chapter 1

Chapter 1

澪が画面の一文を見つめたまま動けずにいると、颯真から電話がかかってきた。

「悪い、澪。玲奈をお前だと思って、そのまま連れてきちゃった」

受話口から聞こえるのは、いつもと変わらない穏やかな声だった。

「もうスタジオに入っちゃってるし、カメラマンにも急かされてる。今から迎えに戻る時間はないんだ。お前たち、顔はそっくりなんだから、黙ってれば誰にも分からないよ」

澪は何も返せず、スマホを握りしめた。指の関節が白く浮く。

――また、この言葉。

もう20年以上、聞かされ続けてきた。

幼い頃、賞を取ったのは澪だったのに、両親は玲奈だと思い込み、旅行へ連れていったのも姉だけだった。中学では玲奈の無断欠席が澪のものとして処理され、処分まで澪の記録に残った。

高校では寝る間も惜しんで勉強し、難関大学のサマープログラムへの参加枠を勝ち取った。それでも両親が連れていったのは玲奈で、帰ってきてからも悪びれもせず言った。

「間違えたのよ。玲奈を澪だと思ってたの」

その夜、澪は階段の踊り場にうずくまり、息ができなくなるほど泣いた。

見つけてくれたのは颯真だった。まだ少年だった彼は澪を抱き寄せ、頭に顎をのせるようにして、迷いなく言った。

「澪。俺だけは絶対、お前を誰かと間違えたりしない」

その言葉どおり、颯真はどんな人混みの中でも真っ先に澪を見つけた。玲奈を澪と呼ぶことも、一度もなかった。

――ある学校行事の日までは。

澪と玲奈がたまたま同じ白いワンピースを着ていたその日、颯真は初めて玲奈に向かって「澪」と呼びかけた。

それを境に、人違いは少しずつ増えていった。初めのうちは、そのたびに真剣に謝っていた颯真も、いつしか「ごめん」のひと言で済ませるようになり――今日に至っては、前撮りの相手を姉と間違えても、「顔は同じなんだから、黙っていれば分からない」と言うだけだった。

澪が何も言えずにいると、受話口の向こうから玲奈の声がする。

「颯真、ちょっと来て」

「うん、今行く」

玲奈に返した声だけが、ひどくやさしい。けれど澪に話を戻したときには、もう何事もなかったような調子だった。

「じゃあ澪、もうすぐ終わるから。終わったら帰る。玲奈はお前の代わりに1日付き合ってくれたんだ。今夜はちゃんと飯を作って、礼くらい言えよ」

そこで通話は切れた。

暗くなった画面に、澪の顔だけが残る。

颯真が玲奈を自分と間違えるようになってから、澪は姉と似た服を避けてきた。服は地味に、言葉も少なく。少しでも玲奈とは違う自分でいようとした。

そうすれば、もう間違えられずに済むと思ったから。

けれど、何も変わらなかった。

澪はそっと目を閉じ、ふっと笑う。

――私とお姉ちゃんって、そんなに同じに見えるのかな。

それなのに、どうして褒められるときはいつも玲奈で、責められるときだけ私の名前になるんだろう。

スマホの電源を落とし、澪は家を出た。

髪をプラチナブロンドに染め、ワインレッドのワンピースを選ぶ。鏡の中には、これまでとはまるで違う自分がいる。

不思議と、鏡の中の自分を初めて素直にいいと思えた。

――悪くない。

家へ戻ると、リビングは賑やかだった。

父の藤宮和臣(ふじみや かずおみ)と母の藤宮美沙子(ふじみや みさこ)は、玲奈を囲んで前撮りの写真を眺めている。

「本当にきれいね。玲奈は写真映えするわ。澪だったら、こんな雰囲気は出せなかったでしょうね」

嬉しそうに笑う美沙子に、和臣も当然のように頷いた。

「同じ顔でも、華が違うからな。澪は昔から、どうにもぱっとしない」

澪は表情を変えず、リビングへ足を踏み入れた。

物音に気づいた颯真が振り返る。

「澪、どこ行ってたんだ?玲奈は今日、お前の代わりにずっと撮影して、まだ何も食べて――」

澪の姿を目にした瞬間、その先が途切れた。

「お前……髪、染めたのか?」

美沙子も顔を上げるなり、眉をひそめる。

「澪、その髪どうしたの?またそんなことにお金を使って。昔から本当に手がかかるんだから。少しは玲奈を見習いなさい」

澪は、呆れを押し込めるように唇の端をわずかに上げた。

玲奈は毎月、少なくない額の小遣いを当然のように使っている。それを咎められたことなど一度もない。一方の澪は、大学4年間ずっとアルバイトを続け、家にお金を頼らずに過ごしてきた。

そんな自分が、自分で稼いだお金で髪を染めた。それだけで「無駄遣い」らしい。

足を止めないまま、澪は淡々と返す。

「どうせ私が何をしたって、お姉ちゃんのほうがいいって言うんでしょう?

だったら、せめて無駄遣いばかりする娘らしくしておかないと。言われ損じゃない?」

そう言って、染めたばかりの髪を指先で軽く払った。

「それに、いつも私とお姉ちゃんの見分けがつかないって言ってたけど、これならもう間違えないよね?さすがに髪の色まで見間違わないでしょ」

美沙子の顔が険しくなる。

「澪!お母さんに向かって、何て口の利き方なの!」

玲奈はすぐに立ち上がり、美沙子の腕に手を添えた。

「澪、お母さんにそんな言い方しちゃだめよ」

「私、何か間違ったこと言った?」

和臣は顔を真っ赤にして立ち上がると、勢いよく手を振り上げた。

「親に向かって、何だその口の利き方は!」

澪には避ける間もなかった。けれど、その手が頬へ届くより先に、颯真が前へ出て和臣の手首をつかむ。

「おじさん、落ち着いてください」

父を制してから、颯真は澪へ向き直った。

「澪、今日のことで怒ってるんだろ。悪かった。明日、2人で撮り直そう。だからって、家族にまで当たるなよ」

そう言いながら、テーブルに置かれていたタブレットを取り、澪の前へ差し出す。

「結婚式の装花も決めてきた。お前の好きなものにしてある。ほら、見てみろよ」

少し前までの澪なら、颯真が結婚式の話を持ち出すだけで胸が弾んだ。今日のことだって、きっと「仕方ない」と飲み込んでしまっただろう。

けれど今は、画面をひと目見ただけで、静かにタブレットを押し返した。

「私、紫は好きじゃないよ」

颯真を見上げ、ひと呼吸置く。

「それに、アイリスはアレルギーで無理なの」

アイリスが好きなのは玲奈。そんなことは、この家の誰もが知っているはずだった。

颯真の表情が、わずかに強張る。

澪は彼の脇を抜け、階段へ向かった。

「それ、お姉ちゃんの好きな飾りつけでしょ。だったら式も、お姉ちゃんと挙げれば?」

階段に足をかけたところで、颯真が追いつき、澪の前へ回り込む。

「澪。怒ってるのは分かる。でも、そんな冗談はやめろ。俺が結婚するのは、お前だけだ」

澪は足を止め、しばらく彼を見つめたあと、ほんの少し笑った。

「だったら、颯真もお姉ちゃんにあげるよ」

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