Masukウルフベアーから少し距離をとり、風の魔法を発動して握る剣にまとわせる。
その状態で一直線にウルフベアーに突進して渾身の一撃を突き刺すと同時に魔法を放つのだ。 魔法は胴体に突き込まれたところから体内で発動しウルフベアーの内を「すごい……」
「なにをどうやったんだい?」
「あー、ドラゴンとの戦いでさ、クリスが奥義とか言うやつを使ったじゃない?」
「
「そうそれ」
レイトはムッとしたクリスを無視して説明を続ける。
「それでね、魔法を応用すれば似たようなことができるんじゃないかと思ったわけよ」
「しかし、私の奥義とは似ても似つかないものだったぞ」
「そりゃ、まるっとパクったら申し訳ないじゃん。で、風の刃じゃなく旋風的なものにできるんじゃないかとやってみた
「誰が良いかは後で決める。他にはないか?」 議論が誰をポストにつけるかという枝葉の議論に向かいかけたのをセドリックが軌道修正する。 そうして適度にコントロールされた話し合いは粛々と進んだのだけれど、誰も触れようとしていない議題が一つあった。(一番大事なことだろうに) レイトはなぜ居並ぶ重臣達がそこに触れないのかと訝しむ。(これはあれか? 俺待ちか?) ゲーム的な思考でそこに至ったレイトより少し早く、ヴァネッサがその件に言及する。「クリスティーンはどうすんのさ?」 重い沈黙が謁見の間を支配する。(やっぱ、そうだよなぁ。ここで俺が手を上げなきゃ物語が進まないんだろうなぁ……) なんて思いながら辺りを見回すレイトはずっと下を向いて両拳をプルプルと握りしめているソフィアに気がついた。(…………) そんなソフィアを見ていて、レイトはもう少し様子を見てみる気になった。 なんとなくまだ自分のターンじゃない気がしたのだ。 案の定、彼女はキッとまなじりをあげて発言を求めた。「国王陛下」「発言を許す」 王と目くばせをしたセドリックが取り次ぐ。 ここらあたりは厳格に身分差があるらしい。 ヴァネッサはお構いなしだったけどね。「その使命、私にお命じいただけないでしょうか?」 漫画やラノベなら「その役、私にお命じください」とかいうところだよなぁ……と、レイトがぼんやり思いながら成り行きを見守る。 ソフィアの心持ちはそんな意気込みだっただろうさ。 けど、彼女には実績がない。 実力を認められたこともない。 悲しいかな女騎士はこの世界では一格も二格も下に見られていた。
野戦病院と化した謁見の間に沈痛な空気が満たされている。 せっかくウィザードの魔の手から奪還したクリスティーンを今度は魔王に奪われてしまったのだ。 しかもその際、国を支える多くの重臣と奪還の功労者であり王国でもトップクラスの騎士を一人失った。 事態を重くみた国王は国民の動揺を最小限に抑えるために箝口令を敷き、ごく少数のクレリックを謁見の間に入れて怪我人の治療をしている。 いずれことは露見する。 それは避けられない。 こちらでどんなに厳重に情報統制していても、多くの重臣が魔王に殺されている。 これを無かったことにはできないし、魔王が世界を征服すると宣言しにきたのだから、遅かれ早かれ重大な事態が出来するのは火を見るよりも明らかってやつだ。 国王としては少なくとも事態を打開する希望を見出したい。 セドリックが応急で整えた謁見の間で、緊急の御前会議が開かれる。 会議に参加しているのは王と十に満たない重臣と、現場に居合わせていたレイト、ヴァネッサ、そしてクリスの妹ソフィアの三人。 悲痛な面持ちの国王が重臣を見回す。 残っているのは文官ばかり。 臆病で生き残ったんじゃない。 武官が勇敢に戦って死んでいったからだ。 特にクリスが剣技を発動するまでの時間を稼ぐために、ただそれだけに多くの武官が魔王に挑んでいった結果だ。 無駄死にか? そんなことはない。 それがあったからこそ魔王は手傷を負い、撤退したのだから。「まず、何から手をつけるべきと思うか?」 やること、やらなければいけないことはとても多い。 やらなければいけないことであってもすぐすぐできるものとできないものがあるだろう。 王は決して凡愚ではないようだ。(まずはブレインストーミングが必要だと判断したんだな) と、レイトは思う。 おおよそ出たのは戦死した重臣達の代わりを選出することと、魔王に対抗するための軍事力の増強案だった。
「お兄様!」 ソフィアはかろうじてそう叫ぶ。 魔王は空いた右手でクリスのようにクリスティーンを刺し貫こうとした。 しかし、魔王の爪牙は不可視の障壁に防がれる。「ぬぅ、やはり光の巫女か」 いまいましそうに呟くと、王女をその大きな手のひらにつかみ取る。 魔王の力と光の巫女の力が干渉しているのだろう、魔王の右手は左手同様体表が裂けて血を吹き出す。「クリスティーン!」 ようやくイベントモードの呪縛から解放されたレイトは、鞘から抜いた剣で力の限り魔王の右腕に斬りかかる。 しかし、その一撃は彼の力不足か、剣の性能か、前腕に深く斬り込まれはしたもののそこで刀身が折れてしまったのだ。「ぐぅ……この力……!? 貴様、光の巫女の守護者か」 魔王は動かない左腕を腰をひねることで振り回してレイトを振り払うと、障壁に阻まれて握り潰すことのできないクリスティーンを掴んだままで広間の窓から飛び出していく。「レイトーッ!」「クリスティーン!!」 互いに伸ばした手はしかし、あと数センチ届かない。 飛び去る魔王の後ろ姿を唇を噛み締めて見送るしかなかったレイト。 何もできずに震えていたクリスの妹、騎士ソフィア。 同じく、王を身を挺して助けることしかできなかったヴァネッサ。 そして、一瞬にして重臣の大半を失ってしまった国王。 果たして彼らは魔王を倒し、光の巫女クリスティーンを助け出すことができるのか? 続く。 …………。 なんじゃこの番組ナレーションみたいなヒキは?
「このままでは……」 そう呟いたクリスは剣を構えて瞑想に入る。 重臣たちがクリスの剣技発動までの時間稼ぎに魔王に挑んでいく。「奥義 真空裂破斬!」 リアルな視界でみるその奥義は空気が大きく歪んだ半弧を描き、魔王目掛けて飛んでいく。 名前の通りに真空を生み出しているんだろう。 それが視認できるほどのレベルだと言うのだから奥義の名にふさわしい。「ぬうっ!」 魔王は左腕をブンと音がなるほど大きく振り下ろし、クリスの奥義に対抗する。 真空の刃と高圧の空気の塊が激突してその場にいた全員の耳を圧する硬質な音がした。「……人の技も極まれば恐ろしいものだな」 と、うなっているが、片腕一本でそれを防いで見せた魔王こそ恐ろしい。 もちろん魔王といえど無傷ではない。「本来こんな場所で使う技ではなかろうに」 魔王の言う通りだ。 下手をするとフレンドリーファイアになりかねない。 というか、謁見の間は尋常じゃない被害を被っているし、相討ちの余波で怪我を負ったものも多い。「狭い場所には狭い場所に適した戦い方がある」 と、独り言なのかクリスに向けた言葉なのか判りかねる発言をしたかと思えば右手の三本の指を開いて前に突き出す。 とがった爪がみるみる伸びて三本のうち二本がクリスを鎧ごと貫いた。 クリスティーンの悲鳴が響き、クリスの口から鮮血が吹き上がる。 悲鳴の先に王女を見た魔王は「光の巫女」 と呟くとゆっくり彼女に近づいていく。(あ……) ここにいたってさすがに傍観者ではいられないレイトだったのだけれど、想いに反して体が動いてくれない。(動け、動けよ! さすがにダメだろ。イベントだとしても!) 焦るレイトを一顧だにせずクリスティーンに近づく魔王。 娘を守ろうと錫杖を構えて立ちはだかる国王。 左腕はズタズタで右手には爪で刺し貫いたクリス。 魔王は無造作にクリスごと右腕を振るい王
「誰だ!」 立ち上がり、辺りを見回しながらクリスが声を張る。 居並ぶ重臣の中でいち早く事態に対処しようと行動する辺り、さすがは歴戦の戦士にしてクリスティーン奪還作戦のメンバーに選ばれただけのことはある。「これは失礼、まず挨拶するのが人間の風習だったか」 その言葉とともに謁見の間の中央に黒い靄が集まってきたかと思うと漆黒の衣を纏った異形の存在が現れた。 うん、厨二表現バリバリだ。 いや、この際だからこのまま行こう。 ギョロリと剥いた目は爛々と輝くが如く、耳まで裂けた口から覗く舌は蛇蝎のようにチロチロと垂れ下がり鋸のように並ぶ歯は一本一本が鋭い牙のよう。 耳は尖って横に伸び、その上には悍しく捻くれた角が生えている。 縮れた髪は黒い焔を連想させ、背中には蝙蝠の翼が生えていた。 …………。 うん、どっからどう見てもある意味典型的な悪魔か魔王だ。 レイトがそんな感想を思い浮かべていると、その異形はひときわ低い声でその場の全員を威嚇するように「挨拶」を始めた。「我が名はラグアダル、新しき魔王。我が覇道、世界を手中に入れるためこの国をもらい受けに来た」 おびえて、王の後ろに隠れるクリスティーンと魔王を名乗ったラグアダルの間に入ったクリスが叫ぶ。「そうはさせるか!」(あ、イベント?) 魔王出現で一度飛び退き、重臣の列に紛れていたレイトだったが、自分も戦おうかと思ってみたけど体が意思に反して動かないことを瞬時にそう解釈したレイトは、成り行きに任せることにして傍観者を決め込む。 いいのか? それで。 少しは運命に抗って見せろよ! 主人公がイベント視聴モードに突入したので仕方ない。 クリスは勇敢にも魔王を名乗った異形の存在に果敢に切り込んでいく。 それに触発されたのか、居並ぶ重臣たちも命を顧みず
謁見の間にはクリスティーン王女の帰還の知らせを受けたお歴々が左右に居並んでいた。 古めかしいながらも行き届いた清掃と、大きく開口された窓から差し込む光できらびやかにさえ感じる。 数段高くなった王座まで赤絨毯が伸びている。 セドリックとソフィアに先導されてレイトとヴァネッサが赤い道を進む。 王座にはまだ距離があるところで先に待っていたクリスに並ぶように止められ、片膝をついて控えているようにと言われてその通りにすると、ファンファーレが鳴り、王座に誰かが座った気配がした。 まぁ、王座に座るのは王様と相場が決まっているけどな。「面をあげよ」 と、壇上から声がかかる。 見上げると、王座にはひげもしゃもしゃの初老の男が座っている。 遠くはあったが、目元がクリスティーンによく似ているので(ああ、王様) と判った。 ──って、レイト、不敬だよ、それ。 王座の後ろにはドレスで着飾ったクリスティーンが控えている。 たぶん、レイトが初めて見た時もこんな格好だったんだろうね。 あの時レイトの目には32×32ドットキャラに見えていたんだけど。 階下にはセドリック。 宰相とかそんな地位にいる人だったんだね。 直々に呼びにきたけどね。 セドリックが王女クリスティーンが王国にとっていかに大事な存在か、そのクリスティーンがウィザードにさらわれたことでどれほどの騒動になったのか、彼女を助け出し王都へ連れ戻してくれたことを王家をはじめとした臣民がいかに嬉しくありがたいことと感じているのかをとうとうと語る。 長い、長すぎる。 じいさん校長の朝礼挨拶かってくらいの長さだ。 その苦痛を必死な無表情でやり過ごしたレイトたちに国王が直々に声をかけてくれた。「クリス。レイト。ヴァネッサ。こたびの一件王として、また一人の父親として感謝する」「もったいなきお言葉。このクリス・パーク王家の剣として今後、よりいっそうの忠心を持って職務を果たして参る所存で