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想い人と一緒に転生したら、彼の叔父と結婚することになりました

想い人と一緒に転生したら、彼の叔父と結婚することになりました

By:  チュイCompleted
Language: Japanese
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川瀬家との縁談が決まったその日、私は両家の取り決めをきっぱりと断って、迷わず川瀬家の叔父・川瀬順仁(かわせ よりひと)を選んだ。 場はどよめいた。 東都では、月野家の令嬢・月野雪菜(つきの ゆきな)が川瀬承太郎(かわせ じょうたろう)を慕っていることは、誰もが知っていた。 恋心を抱き始めた頃から、私は「承太郎以外とは結婚しない」と公言してきた。十年ものあいだ彼の後を追い、自分を見失い、彼の言葉に逆らう勇気もなく、彼の望むままに生きていた。 前世、私は望み通り承太郎と結婚した。 だが挙式当日、門の外で彼に拒まれ、胸元にナイフを突きつけられ、こう言い放たれた。「俺が愛し、結婚したいのはずっと柔美だ。門をくぐりたければ、棺桶に入って来い」と。 月野柔美(つきの よしみ)は私の実の妹。川瀬家が彼女を認めず、彼は私との結婚を強いられたのだ。 それでも結婚後、彼は柔美に似た女を探し続け、公然と愛情を示した。 愛人たちが私を辱め、踏みにじるのを、彼は黙認した。 妊娠中、私は階段から突き落とされ、母子ともに命を落とした。 転生した今生、私は彼から遠ざかり、むしろ彼と柔美を結ばせようと決めた。 ところが意外にも、川瀬家が縁談に同意したその日、彼は狂ったように取り乱した。

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第1話
川瀬家に着いたばかりなのに、まさか川瀬承太郎(かわせ じょうたろう)と鉢合わせするなんて思ってもみなかった。彼はちょうど外から戻ってきたところらしく、友人たちに囲まれていた。私の姿を見た瞬間、取り巻きが下品に笑った。「雪菜、お前って本当にしつこいな。毎日毎日あの手この手で承太郎とわざと鉢合わせを狙って、今度は家にまで押しかけてきたのか?」「月野家にこんな娘がいるなんて恥ずかしいな。ご両親、よく人前に出られるよな」承太郎も、露骨に嫌そうな顔をした。「何年も俺の後をつけ回して、散々迷惑をかけてきただろ。今度は家まで来て、一体何のつもりだ?」「月野家と川瀬家の業務提携が決まって、川瀬おじさんから晩餐会に招かれたの。あなたを探しに来たわけじゃないわ」「……業務提携だと?」承太郎の友人たちがざわめいた。無理もない。提携のことは、まだ公にはされていなかったからだ。私の祖父と承太郎の祖父は、生死を共にした仲だった。二人の間には約束があった。将来もし両家が提携することになれば、私と結婚した者が川瀬家を継ぐ、と。私が承太郎を想っていることは誰もが知っていた。だから川瀬家の晩餐会に招かれたという事実は、彼が家業を継ぐと受け取られたも同然だった。川瀬家ほどの名門で後継者になるのは、決して容易なことではない。「承太郎、おめでとう!これで将来は社長だな」友人たちが次々と祝いの言葉をかけた。承太郎は得意げな笑みを浮かべながらも、私を見る目だけは冷たかった。そして、初めて自分から歩み寄り、耳元で低く囁いた。「俺は前世の失敗を繰り返すつもりはない。結婚したいなら、俺と柔美が一緒にいることを受け入れろ。名義だけの立場は用意してやる。だが、愛は柔美にしか与えない」心臓が大きく跳ねた。そうか。彼もまた転生していたのだ。我に返って言葉を返そうとしたとき、背後から柔らかな声が聞こえた。「……お姉さん」振り向くと、月野柔美(つきの よしみ)が頼りない足取りでゆっくり近づいてきた。顔色は青白く、いつも以上に病弱そうに見える。承太郎は慌てて駆け寄った。「柔美、どうして一人で来たんだ」彼女は身を寄せながら、小さく笑った。「承太郎、お姉さんを責めないで。ちょっと風邪っぽいだけだから。今日は両家にとって大事な日だから
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第2話
家族との晩餐会も半ばを過ぎた頃、承太郎はようやく柔美を連れて姿を現した。さっきまで青白かった柔美の顔色には血色が戻り、承太郎もどこか上機嫌だ。親戚や知人の視線が二人に集まり、そのまま一斉に私へ移った。まるで、これから見世物が始まるのを待っているかのように。以前の私なら、きっと嫉妬で声を荒げていたに違いない。でも今は、ただ静かに茶を口にしたかった。香りも味も、妙に穏やかだった。承太郎は柔美を腕に抱き、私を見る目には深い警戒が滲んでいた。でも私が淡々と茶を飲むのを見て、この状況に関心を示さないのが意外だったらしい。彼は眉を寄せ、信じられないといった表情を浮かべたが、すぐに何かを思い出したように口元をゆるめ、嘲るように笑った。「雪菜、どうやら俺の言ったことをちゃんと考えたみたいだな。そうでなくちゃ困る。川瀬家に嫁ぎたいなら、俺の言うことを素直に聞くんだ」満足げにうなずくと、恩着せがましい目で私を見て続けた。「ちょうどいい、この前のオークションで落札したブレスレットがある。今日はお前にやろう」使用人に持ってこさせた綺麗な箱を、柔美が先に手に取った。「わあ、承太郎、このブレスレット素敵ね」柔美は瞳を輝かせ、期待に満ちた声で言った。「あなた、まだ私にはブレスレットをくれたことがないのに」声の奥には、嫉妬と不満が満ちていた。「気に入ったなら、これは君にやるよ。これからは君にだけ贈る」承太郎は優しく約束するように答えた。柔美は得意そうに私を一瞥しながら、わざとらしく不満げな声を出した。「でも、これはお姉さんへのプレゼントでしょ?私がもらっちゃ悪いわ」承太郎は鼻で笑った。「一番いいものが似合うのは君だけだ。雪菜には最初から似合わない」そう言って、手にしていた箱を私の前に放り投げた。「これがお前への贈り物だ」柔美は口元を手で隠していたが、その奥でにやにや笑っているのがはっきり見えた。私は一瞥しただけで、何事もなかったように茶を口にした。怒りもしない私に、承太郎の機嫌は急速に悪くなった。自分が笑われたとでも思ったのだろう。彼はわざと柔美を抱き寄せ、私の隣に腰を下ろした。くだらない――そう思って、私はうんざりして立ち上がろうとした。そのとき、承太郎が柔美を離し、私の腕をつかんだ。「雪菜、
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第3話
柔美も人の不幸を楽しむように、私の返事を待っていた。川瀬のお父様との約束さえなければ、承太郎なんて殴り飛ばしてやりたかった。言い争うのも馬鹿らしくて、私はその場を立ち去った。帰ろうとしたとき、柔美が「一緒に帰る」と言い出した。承太郎がいなくなると、柔美は猫をかぶるのをやめ、勝ち誇ったように私を見下ろした。「たとえ承太郎と結婚するのがあなたでも、だから何?彼の心をつかめないなら、あなたなんて永遠に踏みにじられる惨めな虫けらよ!」……彼女の言葉は間違いじゃなかった。前世の私は確かに虫けら同然だった。そして柔美は家の都合で父の友人の息子と結婚させられ、私よりもはるかにいい生活を送っていた。今生では、彼女と承太郎がどうなるのか、見届けたい。「それなら、承太郎との結婚がうまくいくよう祈ってるわ」私は心の底からそう言った。柔美の得意げな笑みがぴたりと固まり、一瞬何も言えなくなった。やがて、月野家と川瀬家の正式な提携の日が来て、私は再び川瀬家に招かれた。見世物にされるのはごめんで、私はひとり庭に逃げ、静かに花を眺めていた。すると、嗅ぎつけたように柔美が現れた。最近一番の話題といえば、彼女のゴシップだった。承太郎が何か刺激されたように、金を惜しみなく注ぎ込んでいるという噂だ。今の彼女はまるで富豪の奥さんのようで、金の匂いをぷんぷんさせ、すでに川瀬夫人にでもなった気取りすらあった。彼女は腰をくねらせて、ふてぶてしく私の前に立つ。「お姉さん、まだ知らないの?承太郎はもう約束してくれたの。あなたと結婚しても、私には内々の式を別に挙げてくれるって」……どうでもいい。承太郎が彼女にどんな式をしても、私には関係ない。私が動じないのを見て、柔美はさらに続けた。「承太郎はこうも言ったのよ。あなたはただのお飾りで、私こそが本当の恋人だって。あなたが持ってるものは全部、私には倍で用意してくれるって」私は相手にする気もなく、立ち上がって去ろうとした。その時、彼女の首にかかったペンダントが目に入った。それは私が生まれた時、両親が福寺で祈願して授かった世界に一つだけのお守りだった。大切すぎて身につけられず、ずっと枕の下にしまっていた。……柔美が盗んだに違いない!しかも堂々と私の前で見せびらかしている。後ろ盾に承太郎がいる
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第4話
柔美は慌てて承太郎の背に身を隠し、声を震わせた。「承太郎からもらったの!」「嘘よ。そのお守りはお父さんとお母さんが福寺で祈願して授かったもの。私はずっと枕の下にしまってた。あなたが盗んだの!」一歩踏み出して柔美を捕まえようとした瞬間、承太郎の平手が飛んだ。「雪菜、いい加減にしろ」彼は私の鼻先を指し、吐き捨てた。「狂犬みたいに噛みつくな。柔美はお前の実の妹だろ。お前のガラクタなんか盗むわけがない。それに、柔美が欲しがるものはいくらでも買ってやる。人の物を盗む理由があるか?このお守りは、俺が柔美に贈ったものだ」耳鳴りがして、視界が揺れた。このお守りは彼に見せたことがある。私にとってどれほど大切か、彼も知っているはずだった。今、彼は平然と事実をねじ曲げて柔美をかばい、私にまで手を上げた。野次馬の親戚や友人が次々に集まってきた。私は怒りより失望が勝った。「承太郎、あなたは善悪の区別もつかない。最後の縁を断ち切ったのは、あなたよ」私がここまで冷静で毅然としているのを見たことがないのだろう。彼は宙に止まった手をわずかに震わせ、思わず謝りかけた。だが、柔美が不満げな顔で泣き出し、ペンダントを外して両手で差し出した。「お姉さん、このお守りはあなたに譲るわ。承太郎と喧嘩はやめて」彼女は目を赤くして承太郎を見上げる。「承太郎、お姉さんが喜ぶなら、柔美が少し我慢するくらい何でもないの」さらに私の前へ差し出し、私が取ろうとした瞬間、手を離した。お守りは石畳に当たり、粉々に砕け散った。「柔美、ひどすぎる!」思わず手が出たが、承太郎が遮って私を突き飛ばした。私は倒れ込んだ。「雪菜、柔美に手を出してみろ。必ず何倍にもして返す」うつ伏せのまま、目を血走らせて私は承太郎を睨み上げた。彼は無意識に手を伸ばし、起こそうとするが、柔美が制した。「承太郎、私、まだ風邪が治ってないの。今、頭がふらふらするの」柔美は承太郎の肩にもたれ、ぽろぽろと涙をこぼした。承太郎はたまらず彼女を抱き上げ、休憩室へ向かった。見物していた親戚や友人たちは、また私を指さしてひそひそ囁いた。「雪菜って本当に承太郎に夢中ね。柔美と一緒にいると、すぐ騒ぎを起こす。お嬢様らしくないわ」「月野家の面目は丸つぶれね。私が月野の人間なら、
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第5話
私は思わず承太郎を見つめた。承太郎がどれほどひどい人間かは知っていたけれど、この言葉には呆れ返るしかない。私が黙っているのを見るや、彼は「どうせ逆らえない」と決めつけたのだろう。しかめていた眉を、すぐ得意顔に変えた。「全部受け入れるなら、特別に結婚指輪をはめてやる」施しに感謝して跪く、とでも思っているのだろう。承太郎は勝ち誇った顔で、私が迷いなく頷くと確信しているようだった。見物していた親戚や友人の笑い声は次第に細り、場は息をひそめて私の返事を待つ空気になった。私は皆の視線の中、ゆっくりと立ち上がった。そのとき、遠くから低い声がした。「何事だ?」一斉に振り返ると、承太郎の父・川瀬雷蔵(かわせ らいぞう)と、叔父の川瀬順仁(かわせ よりひと)がこちらへ歩いてくるのが見えた。私の乱れた様子に気づいた順仁が、足早にそばへ来て、小声でたずねた。「大丈夫か」私は首を横に振って、問題ないと示した。雷蔵は承太郎を一瞥し、深く眉根を寄せた。あの顔は、不機嫌の合図だ。さっきまでざわついていた親戚や友人は、瞬く間に黙り込んだ。全員が雷蔵の言葉を待っていた。雷蔵と順仁が並んで現れたということは、おそらく婚約発表のためだろう。承太郎はそっと私の背後へ回り、押し殺した声で釘を刺した。「あとで親父が婚約を発表したら、すぐに式は挙げないって申し出ろ。いいな」私は答えなかった。耳には、承太郎の友人たちの浮かれ声だけが入ってきた。「承太郎はもうすぐ跡を継ぐんだってな。めでたい話だ」「雪菜は気は強いが顔は悪くない。姉妹そろって手に入れるなんて羨ましい」「川瀬家の跡取りだぞ。昔なら殿様だ。嫁が何人いてもおかしくない」「コホン」雷蔵が咳払いをして、私語を断ち切った。「本日は、川瀬家と月野家の提携祝賀にお集まりいただき、ありがとうございます。この良き節目に、皆さまへおめでたい報せがございます。両家には以前より縁談の約束がありました。このたび、月野家ご令嬢の月野雪菜(つきの ゆきな)さんと、川瀬家の順仁が互いに心を通わせ、良縁を結ぶ運びとなりました。まことに喜ばしいことです。両名の意向に従い、ここに両名の婚約を正式に発表いたします」
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第6話
庭の空気が一気に凍りついた。驚かなかった者は一人もいない。人々はぽかんと口を開けて互いの顔を見合わせ、耳を疑った。聞き間違いか、と。私の名と順仁の名が並んで告げられたのを聞き、承太郎は驚きを隠せずに言った。「父さん、言い間違いじゃありませんか?」「ん?」雷蔵は眉ひとつ動かさず言い放った。「俺はまだぼけちゃいない。名前ぐらい、間違えん」それから私に視線を向け、声を和らげた。「雪菜、俺は間違ったことを言ったか?」私が返すより先に、承太郎が雷蔵の前へ駆け込み、体裁も忘れて声を荒げた。「冗談ですよね?父さんたち、演技してるんでしょう?」彼はくるりとこちらを向き、私の肩をつかんで目をのぞき込んだ。「雪菜、お前、俺を怒らせるために叔父さんと組んでるんだろ?お前が好きなのは俺だ。叔父さんと一緒になるはずがない」わかっている。彼が気にしているのは私ではなく、川瀬家の跡取りの座だ。私はその手を振り払い、冷たく告げた。「これからは、私を『叔母さん』と呼びなさい。私が結婚するのは順仁よ」順仁が意外そうにこちらを見た。承太郎は固まったまま、顔に「信じられない」という表情を浮かべた。「ありえない、ありえない、そんなはずはない。お前たちが組んでるんだ。絶対に嘘だ」取り乱したように、同じ言葉をぶつぶつ繰り返した。雷蔵が目配せすると、承太郎の友人たちがすぐに彼を押さえて部屋へ連れていった。それでも承太郎は暴れながら叫んだ。「雪菜、その冗談は全然面白くない!はっきり言え、お前の婚約相手は俺だ!む、む――」口を塞がれ、彼はずるずると引きずられていった。雷蔵は私に向き直って言った。「のちほど記者会見を開き、この慶事を公にする」婚約発表は、実質的に川瀬家の後継が順仁であるという宣言でもあった。三十分後、記者会見が始まった。承太郎の姿はなく、私の隣には順仁がいた。背筋をすっと伸ばした彼は堂々としていて、いつもの病弱さはどこにもない。目が潤んだ。前世のことを思い出した。あのとき、承太郎の愛人に階段から突き落とされて命を落とした私の遺体を引き取ってくれたのは、順仁だった。魂だけになった私は、彼が遺体の前で膝をつき、痛みに耐えているのを見た。彼は私を大切に抱きかかえ、景色の良い場所に葬り、生涯独身のまま墓を守り続けた。
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第7話
このときの承太郎には、いつもの尊大さがなく、声は懇願めいていた。「父さん、縁談を取りやめてくれ。叔父さんは雪菜と結婚するべきじゃない」承太郎が報道陣の前で家の名折れになる真似を見せた途端、雷蔵が口を開いた。「承太郎は突然体調を崩して、意識がもうろうとしている。すぐに医者を呼べ」それでも承太郎は動かなかった。「父さん、俺と雪菜は長年愛し合ってきた。東都で知らない者はいない。だから、叔父さんと雪菜を結婚させることはできない」雷蔵は眉をきつく寄せ、やがて私へ視線を向けた。「雪菜、この件について、君はどう思う?」私はまっすぐ立ち、川瀬家の面々と報道陣の前で口を開いた。「私は承太郎と一緒に育ちましたが、ずっと兄のように思ってきました。噂が誤解を生んだのかもしれません。ですが、私が愛していて結婚したいのは、ずっと順仁です。それから、承太郎が言う「長年愛し合ってきた」というのは私の妹の柔美のことで、私ではありません」私の否定に、承太郎の表情が歪んだ。私を指さして怒鳴る。「雪菜、どうして事実をねじ曲げて嘘をつくんだ!どうして俺の気持ちを裏切れる!」私が返す前に、順仁が一歩前へ出た。「承太郎、失礼だ。今は記者会見中だ。お前が騒ぐ場じゃない」承太郎は目を赤くして、順仁を睨んだ。「順仁、お前に俺を説教する資格はない!」「承太郎、無礼だぞ」雷蔵の声音には威があった。「承太郎は病気だ。かかりつけ医に診させろ。体調が戻ってから出て来い」連れて行かれるあいだも、承太郎はなお諦めなかった。「雪菜、まだ間に合う。皆の前で俺を愛してると言え。さもないと後悔するぞ!」私は承太郎を無視し、順仁と肩を並べて座った。一夜にして、東都のお嬢様界の噂は一変した。私が承太郎を怒らせるために、わざと順仁を選んだ――そんな話が流れた。私は噂に構わず、説明もしなかった。結婚式の準備で忙しかったからだ。幸せに浸っていたとき、順仁が私を訪ねてきた。彼はしばらく私を見つめ、言いたいことがあるようで言いあぐねている。沈黙を破ったのは私のほうだった。「私たちはもうすぐ結婚するの。何かあるなら、はっきり言って」順仁はためらいがちに口を開いた。「雪菜、もし君が俺との結婚を望んでいないなら、俺のほうから川瀬家に婚約の解消を申し出ることもできる」
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第8話
私は意外そうに順仁を見た。「どうして私が嫌がっていると思うの?」順仁はため息をつき、静かに言った。「あの日の記者会見で、承太郎が連れて行かれるとき、君の目が赤くなっていた。噂の中には、真実も混じっているのかもしれない。雪菜、君がどんな選択をしても俺は尊重する。君に辛い思いをさせたくないし、これ以上不幸にだけはしたくない」心臓が大きく跳ねた。あの日の涙は誰にも見られていないと思っていたのに、まさか順仁に見られていたとは。しかも、どれほど深く愛していれば、私の幸せだけを願う言葉が出てくるのだろう。私は深呼吸して、自分から順仁の手を取って言った。「誤解よ。あの涙は承太郎のためじゃない。あなたのためだったの」「俺のため?」順仁は目を見開いた。私は深くうなずいた。「そう」「なぜ?」順仁は首をかしげた。「私は、とても長い夢を見たの。夢の中で私は承太郎と結婚したけれど、惨めに死んでしまった。死んで初めて気づいたのよ。本当に私を愛してくれていたのは、あなただったって。順仁、私、あなたに言いたい。私は本当にあなたと結婚したい。あの夢のせいだけじゃなくて、本当にあなたと一緒にいたいから」いつも落ち着いている順仁でさえ、頬を赤らめた。「うん。君が言うことなら、全部信じる」彼の表情がぱっと明るくなった。懐から小さな箱を取り出し、私の前で開いた。「君のお守りが壊れたから、昨夜、福寺に参って新しく祈願してきた。これからの日々、このお守りと俺がずっと君のそばにいられるように」胸が熱くなり、私は身を寄せた。「つけて。これからは毎日、身につけるわ」「うん」指先がわずかに震えていたのが、手越しに伝わった。私も用意していた贈り物を取り出した。やはりお守りだ。「これは私が自分で祈願してもらってきたの。私の将来の夫に」「雪菜。君がくれたものは、必ず宝物のように大切にする」翌日、結納品が我が家に届いた。リビングは品々でいっぱいになり、両親は満足そうに目を細めた。「順仁さんのほうが分別があるね。雪菜、あなたの選択は間違っていなかった」柔美はそばで、山のように積まれた結納品を見つめるうちに、その瞳の羨望は妬みの色に変わっていった。彼女は私の耳元へ寄り、きつい声でささやいた。「お姉さん、順仁と結婚するって決めたのは、承太郎を怒らせた
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第9話
案の定、承太郎がボディーガードを従え、大小さまざまな包みを抱えて門前に現れた。どうやってかかりつけ医のところから抜け出したのだろう。私が口を開く前に、柔美が一目散に駆け寄ってしがみついた。「承太郎、私にプロポーズしに来てくれたの?私たち、ついに一緒になれるのね。うれしい!」ところが承太郎は柔美を突き飛ばし、彼女は不意を突かれてよろめいた。彼は気にも留めず、まっすぐ私の前まで来て、熱っぽい口調で言った。「雪菜、俺はお前にプロポーズしに来た。俺と結婚してくれ」指輪を掲げ、私の前でひざまずいた。私はただ嫌悪を覚えた。手に入らないうちは必死に追いかけ、手に入ると粗末に扱う。同じ失敗は繰り返さない。私は彼を見て冷ややかに笑った。「承太郎、勘違いしてない?好きで、愛して、結婚したい相手は、ずっと柔美じゃなかった?」承太郎は必死に否定した。「違う、雪菜、俺の話を聞いてくれ。俺の心にはお前しかいない。誰もお前には敵わない。前にあんなことを言ったのは、全部お前を大切に思いすぎたからだ。お前を試して、俺を大事にしてほしかったんだ」彼は片手を上げて誓ってみせた。前世を知らなければ、私はきっと信じてしまっただろう。だが今の私は、もう承太郎だけを愛していた前の私ではない。彼がこんなことを言うのは、私を大事にしているからではなく、私を通して跡取りの座を得たいからだ。この言葉を聞くなり、さっき突き飛ばされた屈辱も忘れたのか、柔美が慌てて立ち上がった。「承太郎、どうしてそんなことが言えるの?私とだけ一緒にいるって約束したじゃない。盛大な結婚式も挙げてくれるって言ったでしょ?忘れたの?」承太郎は苛立って彼女を押しやった。「邪魔だ。お前のせいで雪菜が順仁を選んだんだ。跡取りの地位が他人の手に渡ったんだぞ!」彼はペンダントを宝物のように差し出し、私を見つめた。「雪菜、お前のペンダントを柔美が盗んで壊したから、一晩かけてまったく同じものを作ったんだ」私はちらりと見ただけで、まったく同じではないとわかった。作りも甘いし、お守りの形さえ違っていた。以前、私はそのお守りを承太郎に見せ、由来も話したはずなのに――彼は何ひとつ覚えていない。以前の私は本当に盲目だった。こんな自分勝手な男を愛していたなんて。承太郎はペンダントを手に私へ近づ
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第10話
結婚式の日は、格別に盛大だった。順仁は私たちの式のために、惜しみなく心を砕いてくれた。月野家から川瀬家へ続く道には、私たちの結婚を祝う看板がずらりと並び、川沿いの上空では全国最大のドローンショーが開かれ、空に私たちの結婚写真が描き出されていた。市内の主要メディアも、この盛況をこぞって報じていた。私は順仁が自ら設計してくれたウエディングドレスを身にまとい、さっき彼に食べさせてもらったキャンディの甘さが、舌から体の奥へと広がっていくのを感じていた。前世の私は、結婚当日に承太郎にナイフで刺され、死にかけてもなお彼との結婚を選び、最後は惨めに死んだ。今生の私は、ただ順仁と無事に結婚したかった。車列が川瀬家の門に入ろうとしたその時、突然前を塞がれ、運転手が驚いて叫んだ。「ご長男が、式を妨害しに来ています!」次の瞬間、承太郎が窓ガラスを叩き割った。「雪菜、俺と一緒に来い。今日は本来、俺たちの結婚式のはずだった」彼は前世で見たのと同じスーツを着て、期待に満ちた目で私を見た。私はただ馬鹿げているとしか思えなかった。順仁が私の手を握り、慰めるように言った。「心配するな。俺に任せろ」順仁は車を降りた。「承太郎、もう決まったことだ。まだ騒ぐつもりか?」「全部お前のせいで雪菜が心変わりしたんだ。お前を殺せば、雪菜も川瀬家も俺のものだ」承太郎は前世で私を刺したあのナイフを取り出し、順仁へ突き立てようとした。私は恐怖で体中に汗を噴き出し、叫んだ。「順仁、危ない!」順仁は素早く反応し、ナイフをもぎ取り、承太郎を押さえ込んだ。血のついたナイフが地面に投げ捨てられた。「順仁、怪我は?」私が慌てて尋ねると、答えたのは承太郎だった。「怪我したのは俺だ。お前は順仁の心配か」「順仁は私の夫よ。当然でしょ」承太郎は打ちのめされたような顔をした。そこへ柔美がどこからともなく駆け寄り、彼にしがみつく。「承太郎、結婚するべきなのは私よ!」「邪魔だ。お前みたいな卑しい女のせいで、俺は邪魔されたんだ」承太郎は殺気立ち、勢いのまま柔美を蹴り飛ばした。「あっ」柔美は腹を押さえて倒れ、地面に血だまりができた。「どうして私にこんなことを?私はあなたの子を妊娠してるのよ。私と結婚してくれないなら、私はこの先どうやって嫁に行けばいい
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