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第0570話

Author: 十六子
青葉は今回の成績表に大いに満足していた。これで瑠璃の勢いを少しは削げると思っていたのだ。

だが、当の瑠璃はまるで気にする様子もなく、静かに淡々とデザイン画を描いていた。

彼女の生活はとても規則正しかった。昼間はデザインに集中しながら目黒家の祖父の世話をし、夜はほとんどの時間を君秋と過ごしていた。

一緒に本を読んだり、文字を覚えたり、時には一緒に手作りで小物を作ったり――穏やかな家族の時間を楽しんでいた。

一方で、隼人も気を緩めてはいなかった。表面上は静かに見える瞬だったが、彼はあの男が何か大きな陰謀を企んでいることを確信していた。

彼は祖父に約束した。目黒グループを奪われたままにはしない――それは決して空言ではなかった。すでに彼は水面下で動き始めていた。

そして何より、瞬は今でも瑠璃に対して執着を捨てていない。愛する彼女を守り抜くために、隼人はあの男より一歩先を行く必要があった。

……

数日が過ぎ、ジュエリーデザイン大会の決勝の日程が決まった。

準決勝に進出してからというもの、雪菜は密かに頭を抱えていた。

彼女は学生時代から成績がひどく、毎日男友達とつるんで怠惰な生活を送り、昼は寝て夜は酒場に繰り出す、そんな荒れた日々だった。

これまでの予選や準決勝のデザイン画も、寄せ集めの盗作ばかりで、実力などほとんどなかった。

いざ決勝となると、さすがに不安を感じずにはいられなかった。

以前のように強気の宣言をしてしまった以上、もし負けたら恥をかくのは自分だ。

名誉や虚栄を何よりも大事にする彼女にとって、そんなことは絶対に許せない。

週末の朝、寝起きの雪菜が庭に出ると、瑠璃が君秋と一緒に遊んでいる姿が目に入った。

そして、庭の一角に設置されたイーゼルには、まだ線画状態のジュエリーデザインの原稿が置かれていた。

それを目にした瞬間、雪菜の目が輝いた。

そのデザインをどう表現すればいいか言葉にはできなかったが、ただ一つはっきりしていた――自分のレベルでは到底及ばない。

そのとき、彼女の頭の中に一つの考えが閃いた。

もし瑠璃のデザイン案を盗み、自分が先に投稿すれば――勝てる可能性が高くなる。

そして何より、後から「瑠璃が自分をパクった」と言い張ることだってできる。

投稿時刻で自分が先なら、著作権はこっちのものだ!

その思いつきに、雪菜はど
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