Masuk恋に悩む女たちが最後に辿り着く、港区の小さな相談室。 そこにいるのは、同じ顔をした双子の女医。 優しく寄り添い、すべてを受け止めるマヤ。 そして、感情を一切許さず、現実だけを突きつけるマノ。 どんな恋も否定しない。 ――ただし、逃げることは許されない。 「それでも好きでいい。でも、その恋はあなたを壊す」 甘い言葉に縋る心も、見て見ぬふりをしてきた現実も、 ここではすべて暴かれる。 これは救いの物語ではない。 あなた自身の“本音”と向き合うための、静かな手術である。
Lihat lebih banyak新たなる出逢い。 女は右手にスマートフォン、左手にワイヤレスイヤホンを取り出し、不満そうに眉を寄せた。 「繋がらない。久しぶりに本島に戻ってきたっていうのに」 髪の毛は、柔らかな光を放つピンクグレージュ。肩までのミディアムストレートが、上品なセットアップのブラウスに映える。 雨崎琴里(あまさき ことり)。年齢不詳、見た目は29歳前後の美魔女。 彼女は画面に映る、白衣の黒髪ショートの美人と、メイド服を纏った茶髪ボブの双子の写真を見つめた。 「取材を依頼したのはいいけれど。この美人双子が指定したカフェなんて、どこにも見当たらないじゃない」 目的の場所が見つからない苛立ちに、踵を返そうとしたその時だった。 振り返った先に、小さな黒猫が描かれた看板の、アンティークショップのような佇まいのカフェを見つけた。 「あ、あった……? でも、こんな小さな店に……」 半信半疑で窓を覗くと、そこには一目で双子とわかる、同じ顔をした二人の女性がいた。 片方は白のセットアップを颯爽と着こなした、黒髪ショートの凛々しい女性。 もう一人は、柔らかな麻のワンピースを纏った、温かみのあるボブヘアの美人。 「あ、あのぅ……。取材を申し込みました、雨崎琴里です。……マノ先生と、マヤ先生でしょうか?」 声をかけると、二人は同時にこちらを見た。 「そうよ。取材だかなんだか知らないけれど、早く終わらせて。島から船をチャーターして出てきたんだから、私は作家でもあるんだし。交通費はキッチリ貰うわよ」 「お姉様、交通費だけじゃ足りません。取材費も上乗せしていただかないと」 一筋縄ではいかない双子の洗礼に、琴里は「これはスムーズには終わらないわね」と、苦笑混じりの予感を抱きながら扉を閉めた。 「奇遇ですね、私も作家なんですよ、マノ先生。双子の恋愛カウンセリングルーム、という企画なのですが……」 カラン、とドアベルが鳴る。 これは、彼女たちが新たな小説の登場人物(ターゲット)になるかもしれない、そんなスタートライン。 物語は終わらない。ただ、形を変えて続いていくーー。
あの夜から、三ヶ月が過ぎた。 異国の地、潮風が窓から入り込む小さな診療所に、マノはいた。白衣を纏い、地元の子供の傷を診る彼女の指先には、かつての鋭さに加え、深い慈愛が宿っている。 「……お姉様。新しい原稿の最終チェック、終わりましたわ」 隣のデスクで、マヤが端末を閉じた。彼女の瞳からは迷いが消え、代わりに「伝える者」としての強い意志が宿っている。 マノは医者として命を救いつつ、女医作家として小説やエッセイを執筆し、それを武器に移住地を転々としながら、自らの足で立っていた。 彼女たちがシキに渡された航空券で行き着いたのは、地図に載るかどうかも怪しい静かな海辺の街。 「タイトルは何にしたの、マヤ?」 「……『大人になれなかった男と、卒業した女』。私たちのすべてを、一行も漏らさず書き切りましたわ」 マノは、マヤが差し出した画面を見つめた。マノが魂の軸を書き上げ、編集者のような冷徹さでマヤが推敲をやり遂げる。そこには、シキとカナメという二人の男がいかにして闇に咲き、そして愛する者のためにその身を焼き尽くしたかが綴られていた。 普通の小説なら、シキやカナメのような容姿端麗な男たちは、甘い恋の始まりを予感させる存在だ。 だが、彼女たちに掛かるとそうはいかない。 即座に「クズ男センサー」が反応し、恋愛の芽は無慈悲にぶった切られ、世界線からフェードアウトさせられる。 二人の手に掛かれば、極上のラブロマンスさえも、戦慄のミステリーやホラーへと変貌する。それは勧善懲悪の時代劇に似て、決定的に異なる「魂の解剖」だった。 シキとカナメの消息は、あのビルの爆発以来、今も不明のままだ。 公的には「死亡」とされているが、マノは時折、朝焼けの水平線を見つめながら思う。あの二人は、名前も過去も捨てた「ただの男」として、この世界のどこかで新しい「魂の試験」を受けているのではないかと。 「復讐じゃない。私は、あの人たちが生きた証拠で、この世界を殴り続ける。それが、私の選んだ卒業後の進路よ」 マノはデスクの引き出しから、一本のペンライトを取り出した。 あの日、シキが自分を突き放した瞬間に手渡された、世界に一つだけの特注品。 「天咲く」の刻印が入ったそれは、今も彼女の進むべき道を、一寸の狂いもなく照らし出している。 灯台は海にしかない。けれど、この
「……警察が来るわ。シキ、行きましょう。私があなたの弁護をする。あなたの罪を、私が一緒に背負って、白日の下にさらすから。死んで逃げるなんて、そんなの、私の『診察』が許さない!」マノの悲痛な叫びを、シキは静かに、しかし決定的な拒絶を持って首を振った。彼はデスクの隠し引き出しから、一通の重みのある封筒を取り出し、マノの震える手に押し付けた。「これは、君とマヤに宛てた、僕からの最後の『処方箋』だ。……これを持って、裏口の非常階段から今すぐ脱出しろ」封筒の中には、シキが数ヶ月前から秘密裏に進めていた計画のすべてが詰まっていた。自身の莫大な資産をマネーロンダリングとは無縁の形に洗浄し、マノとマヤが「普通の女」として、いかなる組織からも干渉されずに生きていくための新しい偽造身分証と、二つの異なる国への航空券。「……自分は行かないつもりなの? 私を一人にして、あなたはここで何を卒業するっていうのよ!」「僕は、ここで『シキ』という偶像を終わらせる。大人の男になりきれず、他者の魂を食んでしか生きられなかった僕の、これが精一杯の卒業制作だ。君という灯台に焼かれて消えるなら、これ以上の本望はない」その時、一階のロビーを突破した警官隊の怒号と足音が、エレベーターホールまで迫ってきた。カナメがシキの前に一歩踏み出し、懐から一冊のファイルを掲げた。それは、シキが行ってきたすべての犯罪、すべての不正を、カナメ一人が独断で行ったと記された、精巧な偽造供述書だった。「カナメ様、ダメ! そんなのを受け入れたら、あなたは一生、光の下を歩けなくなるわ! 私が……私が守るって言ったじゃない!」マヤがカナメの服の裾を掴んで泣き叫ぶ。だが、カナメの表情は、冬の月のように静かで澄んでいた。「……マヤ。君が『文章で世界へ光を届ける灯台』になるなら、僕はその影になって、君の行く末にある闇をすべて引き受けて消える。それが、僕が君という光に恋をした時からの、唯一の誓いだ。……愛しているよ、マヤ。僕のことは、もう見切りなさい」シキがマノの肩を強く突き放した。その衝撃で、マノの目から溜まっていた涙がこぼれ落ちる。「行け、マノ! 君は灯台だ。こんな泥濘の中で、僕と一緒に沈んでいい存在じゃない! ……生きて、僕という男がいた証拠を、その文章で殴り書き続けてくれ」マノは封筒を抱
シキの隠れ家である高層ビルの最上階。全面ガラス張りの壁の向こうでは、暴露配信の影響で街がパニックに陥り、遠くでパトカーのサイレンが重なり合って、不協和音の波となって押し寄せていた。マノとマヤは、正面の重い扉を蹴破るようにして、その豪華絢爛な「診察室」へと踏み込んだ。「……来たね、マノ。君の『光』は、僕の目を焼くほどに眩しいよ」シキは、窓の外で燃える灯台の残光を見つめながら、優雅にソファに腰掛けていた。その傍らには、抜き身の刀のような鋭さで立つカナメ。マノは震える足で歩み寄り、シキの胸元を力任せに掴み上げた。高級なシルクのシャツが、彼女の指先で無残に皺寄る。「どうして……どうして自ら破滅するような真似をしたの! あなたが私を愛しているなら、もっと別の道があったはずよ! なぜ、私の手であなたを裁かせるような真似を……っ」「別の道? ……マノ、君のような純粋な光は知らないだろうが、闇には闇の『誠実』があるんだ。僕は君を愛したからこそ、他の誰でもない、君の手で僕という存在を終わらせて欲しかった。君の『見切り』こそが、僕にとって唯一の救済なんだ」シキの歪んだ、しかしどこまでも純粋な愛の告白。彼はマノの頬を、壊れ物に触れるような手つきで撫でた。一方で、マヤはカナメの前に立ち、その広い胸に顔を埋めていた。「カナメ様、お願い……今ならまだ、シキ様を捨てて逃げられるわ。私のハッキング技術があれば、あなたの戸籍も経歴も、今この瞬間に白紙に戻してあげられる。一緒に……一緒に光の下へ行きましょう?」「……マヤ。君のその優しい涙が、僕の渇いた魂をどれだけ救ってくれたか。でも、僕はシキ様に命を拾われた『影』なんだ。影が主を捨てて、一人で光の下へ逃げることはできない。……それが、僕の誇りなんだよ」カナメはマヤの頭を愛おしそうに撫で、その指先で彼女の溢れる涙を丁寧に拭った。その手は驚くほど温かく、そして、二度と重ならない未来を暗示するように冷たく離れていった。二組の恋人たちが、崩れゆく楽園の中で、互いの魂の形を確認し合う。それは救済という名の絶望であり、終わりを共有するための、あまりにも残酷な最後の抱擁だった。「……マノ。僕は君に卒業させてもらうんじゃない。君という光の中に、僕のすべてを閉じ込めてもらうんだ」シキの唇が、マノの耳元でそう囁いた。
「……お姉様、本日の『初診』の方は、外資系コンサルにお勤めのエリート様です」マヤが、皮肉めいた微笑みを浮かべて扉を開く。現れたのは、三ピースのスーツを完璧に着こなし、高級時計を誇示するように腕を組んだ男・高木。彼は椅子に座るなり、マノに向かって一束の資料を叩きつけた。「無駄な話は嫌いでね。これは僕の現在の資産、年収、そして将来のプロモーション計画だ。相手の女性にも同等の『市場価値』を求めるのは、ビジネスとして当然だろう?」高木は冷徹な口調で、恋人候補を「不良在庫」と切り捨てるように続けた。マヤは、感銘を受けたようにその資料を手に取り、高木の隣に音もなく腰を下ろす。「……
「……嘘だ。僕のフォロワーが、業者(サクラ)なわけがない! みんな、僕の言葉を待ってるんだ!」カイが床に落ちたスマホを必死に拾い上げる。だが、その震える指が触れた画面には、マノが仕掛けた「現実」が非情な通知を出し続けていた。「アカウント凍結、おめでとう。規約違反の不正購入を運営に通報しておいたわ。……効率の悪いゴミ掃除ね」マノが冷徹に言い放つ。画面の中の「100万」という数字が消え、無慈悲なエラーメッセージがカイを嘲笑う。「……あ、ああ……」「選ばれない理由、教えてあげるわ。……あなたは誰かを愛してるんじゃない。加工アプリで修正した、偽物の自分に恋をしていただけ。……
「……お姉様、本日の『初診』は、自称・インフルエンサーの方です」マヤが、どこか楽しげに扉を開ける。現れたのは、ブランドロゴが目立つ服に身を包み、手元のスマホを片時も離さない男・カイ。彼は椅子に座るなり、自撮りの角度を気にしながら、不遜な態度で言い放った。「悪いけど、時間はかけないでくれよ。僕のフォロワーは100万人もいるんだ。ファンが僕の『不幸な恋愛劇』の続きを待ってるんでね」カイは鼻で笑い、画面の中の「いいね」の数をマヤに見せつけた。マヤは、うっとりとした表情で彼の手を包み込む。茶髪を揺らし、その瞳には心酔したような光を宿して。「……素晴らしい。100万人もの方に
「……何を、言ってるんですか。私が、わざと不幸になってるって……?」サオリの震える声に、マノは鼻で笑った。彼女はタブレットの画面をフリックし、サオリの目の前に突きつける。そこには、サオリが「彼にひどいことを言われた」と泣きついていた日、彼女自身が彼に送った執拗なLINEのログが並んでいた。「これ、あなたが彼に送った100通を超えるメッセージね。相手を限界まで追い詰めて、暴言を吐かせるように仕向けている。……効率のいい自作自演だわ」マノの指先が、画面上の「被害を装う文言」を冷たく指し示す。「あなたが欲しいのは愛じゃない。……“可哀想な私”を演じるための、生贄よ。彼を悪者に仕





