実里市で残酷な殺人事件が発生した。 被害者は後頭部を殴られた後に死亡し、遺体は24インチの黒い大型スーツケースに詰められ、海に捨てられた。遺体を沈めようとしたらしい。 だが、そのスーツケースは漁師によって引き上げられ、警察に通報された。 警察はすぐに容疑者を特定した。その容疑者は――私だった。 任意同行を求められる際、夫の工藤春樹が私の耳元で、毒を含んだ声でこう囁いた。 「どうして死んだのがお前じゃなかったんだ?」
View More(真理子の視点)私が律子を初めて見たとき、とても嫉妬した。 彼女には優しくてしっかりしたお母さんがいて、彼女には頼りがいがあり、イケメンで彼女を守ってくれる恋人がいる。 でも、私には何もない。 私の父は死に、母は私を連れて再婚したが、私が継父に虐待されているのを知りながら何もしなかった。 母はこう言った。 「真理子、もうお母さんには耐えられない。あの人の異常な振る舞いには付き合えない。これからは自分のために生きる」 母は「自分のために生きる」と言いながら、私を地獄に置き去りにしたのだ。 どうして私を連れて行ってくれなかったの? 母がスーツケースを引いて家を出て行くとき、継父は母に4000万円の小切手を渡した。 そう、母は私を売ったのだ。 継父はすぐに新しいターゲットを見つけた。それは木村さんではなく、律子だった。 私は継父のような男の汚らしい考えがすぐにわかる。 でも、それは私には関係ない。なぜなら、私も律子が嫌いだったから。 彼女はあまりにも多くのものを持っている。 あの夜、彼女が私と凉太の「関係」を目撃したとき、私は彼女への嫉妬心が最高潮に達した。 どうして彼女だけが高い場所にいられるの?どうして彼女だけが清らかでいられるの?どうして彼女だけが幸せを享受できるの? この泥沼の中にいる虫は、私一人ではないはずだ! 律子、私はお前を狙った。お前も私と一緒に地獄に落ちるんだ。 見ての通り、私は心の奥底まで腐りきっている。母と全く同じだ。 律子が私に手を差し伸べてきたとき、私はその手を握るふりをした。 でも、心の中では彼女を私の代わりに地獄へ送り、自分が彼女の幸せを掴むことを考えていた。 律子と春樹が結婚して2か月が過ぎた頃、私はついにチャンスを掴んだ。 私は律子を郊外に遊びに誘った。その日は予報通り天気が急変し、大雨が降り出した。局地的な雷雨だという話だった。 私たちはびしょ濡れになり、近くのホテルで体を拭き着替えることにした。 私が浴室に入ると、すぐに凉太に連絡を取った。 もしかしたら、一瞬だけ迷いがあったのかもしれない。 「こんな善良で無防備な女性を陥れるのは良くないんじゃないか」って。 でも、心の中
これは私が凉太の魔の手から逃れ、春樹と離婚してからちょうど365日が経った日の話だ。 今の私は弁護士事務所でインターンとして働き、モダンなビル群の間を忙しく駆け回る毎日を送っている。 忙しい日々だが、とても充実している。 春樹と再会したのは、自動車修理工場だった。 私がMini Cooperで泥道を一日中走り回ったせいで洗車が必要になり、ガソリンスタンドに寄った。そこで奇遇にも彼が私を担当したのだ。 私たちは言葉を交わさなかった。 彼は車を洗い、私はその間に今日集めた調査資料を整理していた。 私の上司は今、子どもへの性犯罪に関する裁判に全力を注いでいる。正義を貫き、子どもたちに明るい未来の可能性を与えるためだ。 私も少しでもその力になりたいと思っている。 洗車はすぐに終わり、私が車に乗り込もうとしたとき、彼が思わず私を呼び止めた。 「律子......」 「何かご用ですか?」 「君......今、幸せそうだね。俺......本当にごめん」 「それなら、もう何度も言いましたよね。毎回会うたびに蒸し返す必要はありません。過去は風に流れて消えました。私は振り返りたくありません」 彼は何かを言いかけたが、結局そのまま口を閉ざした。 バックミラー越しに彼の顔を見たとき、彼は顔を上げ、涙で頬を濡らしていた。 過去はもう取り戻せない。 私は前を向き、これからの一歩一歩を大切に進んでいく――そう決めているのだ。
家に戻ると、私は真っ先に真理子が使っていた部屋に向かった。 脚立を持ち込み、四角いデザインの天井に手を伸ばして探り始めた。 彼女が生前ここに住んでいた頃、慌てた様子で何かを天井に隠しているのを見かけたことがある。 そのとき、彼女は「蚊がいたから捕まえようとしてたの」と笑いながら誤魔化していたけれど、今になって考えると、きっと何か大切なものだったに違いない。 探して......ついに見つけた! それは、深緑色の鉄製の箱で、表面には埃がたっぷり積もっていた。 箱を開けると、中にはスマートフォンと数枚の写真が入っていた。 写真には、春樹が言っていた通り、凉太が私の太腿に手を置きながらホテルから一緒に出てくる様子が写っていた。 そのほかにも、私が拒絶し、抵抗しながら凉太と口論している写真があった。 どうやら、真理子は春樹に最初の写真、あるいは私に不利な写真だけを見せたようだ。 私が抵抗し、嫌がる姿が写っている写真は、全てこの箱の中に隠されていたのだ。 私はすぐにスマートフォンに充電し、起動を試みた。 しかし、何度パスワードを入力しても正解せず、最終的にスマートフォンはロックされてしまった。 私は再び警察に通報することを決めた。 彼らなら法律という武器を使って、被害者全員に正義の光を届けることができると信じていた。 警察がすぐにスマートフォンのパスワードを解析してくれた。 中には真理子が記録していた凉太による私への猥褻行為の証拠写真、さらには彼女自身が受けた被害の記録が残されていた。 さらに、日記にはこれらの罪行が詳細に記されていた。 ついに......ついに霧が晴れ、厚い雲の隙間から光が差し込んだのだ。 凉太は猥褻罪で有罪判決を受けた。 さらに、法廷では激昂し裁判官を罵倒、警備員を殴るなどの行為に及び、これにより新たな罪状も加わった。 彼がこの先、光を浴びる日は二度と訪れないだろう。
「......ごめん」春樹がどうしても私に会いたいと言ってきた。分厚いガラス越しに、彼はうつむき、肩を震わせていた。受話器を手にしていたが、彼の声はかすれてよく聞き取れない。ただ、何度も何度も「ごめん」と繰り返しているのだけはわかった。「真理子から聞いたんだ。お前が凉太と......不適切な関係を続けているって......俺、信じてしまったんだ。だって、あいつが、お前の太腿に触る写真を見たことがあるし、ホテルから一緒に出てきたのも......」「それに、真理子が言ったんだ。お前は凉太の支配から逃れたくて、自分の代わりに彼女を差し出したんだって......」「ごめん、本当にごめん、律子。俺が間違ってた。真理子の言葉を信じて、お前を疑って......お前にあんなことを......」彼が何を言おうとしているのか、私はわかっていた。あの日、私は窒息するような恐怖を味わった。あの感覚は今でも夜中に思い出し、冷や汗で目を覚ます。指先の血痕は簡単に洗い流せたけれど、心の中に刻まれた傷は、まだ癒えていない。血を流し、膿んで、裂けて、かさぶたになってはまた開く。今でも、その傷口は容易に触れられるものではない。けれど、今はそんなことを思い返している場合ではなかった。春樹の言葉の中に「写真」という単語が出てきた。真理子が凉太の手が私の太腿を触っている写真を見せたと言ったのだ。それはつまり――真理子が凉太と私の関係を盗撮していたということ?凉太が私の太腿を触る写真を撮ったのなら、彼が私に猥褻行為をしている他の写真も残されているかもしれない!春樹が泣きながら何かを言い続けているのも気に留めず、私は立ち上がり、振り返りもせずに面会室を飛び出した。凉太には、自分が犯したすべての罪を償わせなければならない!
しかし、殺人と死体遺棄の罪だけでは足りない!彼が長年にわたり私や真理子に与えた虐待、そして私の母に対する裏切りと傷害――そのすべてを清算しなければならない!私は警察に通報したが、最終的には証拠不十分で罪に問うことができなかった。私は凉太に面会を申し込んだ。まさか、彼が面会に応じるとは思っていなかったけれど......「どうした?父さんのことが恋しくなったか?」凉太は優しい口調でそう言い、口元に薄く笑みを浮かべた。他人が聞けば、まるで優しい継父が娘を慰めているように感じるだろう。でも、私はわかっていた。その言葉の裏に隠された、卑劣で嫌らしい意図が。「どうして真理子を殺したの?」袖口のカフスボタンを見つけるまでは、凉太が彼女を殺したなんて、夢にも思っていなかった。それどころか、私は愚かにも彼の手助けをしてしまったのだ。真理子は、凉太にとって獲物であり、同時に狩りを成功させるための道具でもあった。夜中、彼が真理子の体を測りながら、和服を仕立てる姿を見てしまったときから、私は彼女を助けたいと思うようになった。「こんなの、絶対おかしい!嫌なことはちゃんと断るのよ!」私は真理子にそう言った。あんな親密さは、父と娘の関係にあるべきものじゃない。真理子は涙目になり、そのまますぐに泣き出してしまった。私の胸にしがみつき、小刻みに震えながらすすり泣く彼女。最後には、まともに言葉を発することすらできなくなった。「助けて......私を助けて」と彼女は懇願してきた。同じ女性として、私はそれを無視することなどできなかった。彼女を助けると決めたのだ。だが、それが私自身を奈落の底へ引きずり込む始まりだった......その後、真理子は私とほとんど寝食を共にするようになり、片時も私のそばを離れなくなった。春樹には「俺の順位、完全に君の中で後回しにされちゃったね」と冗談半分でからかわれるほどだった。私と真理子がいつも一緒にいることで、凉太は彼女に手を出す隙を失った。「このままずっと一緒にいれば、全てがうまくいくはずだ」と私は信じ込んでいた。だが、それも彼らが仕掛けた罠だった。真理子は本気で助けを求めていたわけではなかった。彼女自身が、私をその罠に引きずり込むための「餌」だったのだ。ある日、真理子
凉太が出張に出たが、「私の身の安全を守る」という名目で2人の見張りを置いていった。実際には、これは間接的な監禁だった。家の中での行動には制限はないものの、一歩でも外に出ることは一切許されなかった。私は心の中で、逃げる計画を立てていた。家中を隅々まで探したが、私の身分証もパスポートも見つからなかった。おそらく、凉太の寝室か書斎に隠されているか、もしくは彼が持ち歩いているのだろう。どうか後者ではありませんように!彼の寝室と書斎に入るのは簡単だった。2人の見張りは私に興味を持っていないようで、こちらを監視する気もなさそうだった。これで、チャンスがあると確信した。凉太の寝室と書斎を徹底的に調べたものの、私の身分証やパスポートは見つからなかった。だが、衣装ダンスの隅に、丸められたシャツを見つけた。凉太は綺麗好きで、整理整頓を欠かさない性格だ。そんな彼の家で、服が丸められて放置されているなんて明らかに不自然だ。私はそのシャツを手に取った。ごく普通の白いシャツだが、左袖のカフスボタンが一つ外れていた。そのカフスボタンは深い青色の宝石がはめ込まれた四角いデザインで、どこかで見覚えがあった。私は思い出した。このカフスボタン、もう一つの片方をどこかで見たことがある、と。私が佐藤家から脱出したとき、見張りの2人はトイレにこもって震えていた。私がネットで購入した下剤を、彼らの食事に仕込んだからだ。私は一刻も無駄にせず、すぐに警察署へ向かった。そこで、ある秘密に気づいた。真理子の死には、裏がある!春樹は、現場に第三者がいたことを聞くと、自分が犯人ではないと主張した。彼は、私が真理子を殺したのだと思い込み、私を守るために、自分が殺人と死体遺棄の罪を犯したと認めてしまったのだ。実際、あの夜、春樹が荷物を取りに別荘を訪れたとき、家の中はすでに荒らされており、真理子の姿はなかった。玄関には少量の血痕があり、血のついたゴルフクラブが倒れていた。私たちは何かが起きたと察していたものの、まさか殺人事件だとは思いもしなかった。あの夜、錯乱していた彼女がこんな形で命を落とすなんて......春樹は、本当に馬鹿な男だ。私が無事なときは、怒り狂って私を締め殺そうとしていたくせに、私が危険に陥ると、自ら刑務所に入る覚悟までして助けようと
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