桃はその話を聞いて、しばらく真剣に考え込んだ。ウイルスの研究なら、やはり海外のほうが専門的だ。もし行けるなら、もしかしたら突破口が見つかるかもしれない。けれど――彼女は、二人の子どもたちと、ようやく再会できた。それに、母親のもとを離れたくなかった。そんな桃の迷いを感じ取ったのか、美乃梨が穏やかに口を開いた。「桃ちゃん、大丈夫よ。おばさんのほうは私がちゃんと見てるから……」そう言って、彼女はそっと二人の子どもに視線を向けた。「翔吾と太郎のことも、私……」「おばさん、大丈夫だよ!僕も一緒に行く。ママ、みんなで行こうよ。僕、ちゃんといい子にするし、邪魔したりしないから」翔吾が真っ先に言った。ママを治す方法があるなら、どんなことでも試してみるべきだと思っていた。運が良ければ、きっとうまくいくかもしれない。ママはいつだって優しい人で、誰にも恨みを持たない。だからきっと、神さまが助けてくれる。「うん、ぼくも行く」太郎も静かにそう言った。その目は、隣にいる翔吾を見つめながら、どこか切なげだった。もし以前のように戻れたなら、翔吾は「ぼくたち」と言ってくれただろう。二人はいつも一緒で、まるで影と形のように離れなかった。けれど、太郎があの出来事を打ち明けてからというもの、翔吾は表面上は普通に接していても、どこか線を引いたようだった。その距離を埋めることはもうできないのか。それとも、いつかまた笑い合える日がくるのか。太郎にも、それはまったくわからなかった。桃はそんな二人の間に漂う微妙な空気を感じ取り、軽く頭を抱えた。けれど、もしかしたら、海外に行くのも悪くないかもしれない。旅先で何かのきっかけがあって、子どもたちのわだかまりが解けるかもしれないし。それに、毎日この退屈な病院で過ごさせるのは、あの子たちの年頃にはあまりにも窮屈だ。正直なところ、もし自分がこのまま駄目になってしまうとしても、せめてまだ動けるうちに、二人と楽しい時間を過ごしたい。弱った母親の姿だけを残すより、そのほうがずっといい。少し考えてから、桃はうなずいた。「……わかった。行こう」彼女のその言葉に、雅彦はほっと笑みを浮かべた。彼としても、桃を国外に連れ出すことで、気分転換にもなると思っていた。同時に、麗子が自分たちの動向を探っているのもわかっていた。もしこのまま須弥市に留まれ
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