ところが思いもよらぬことに、甲虎は守が邪馬台に来たことを知ると、自ら元帥邸の私兵として彼を指名した。元帥邸の私兵といえば、甲虎の外出時の警護や身辺の安全確保が主な任務だった。敵の刺客が主帥を狙って潜入することも少なくない。もっとも、親房の時代にはそのような事態は起きていなかったが、上原洋平や影森玄武が在任していた頃は、刺客の襲撃が絶えなかったという。甲虎は都にいる老夫人からの手紙で、北條守が親房夕美と離縁したことを既に知っていた。実の妹への思いはさておき、今の自分の立場からすれば、守のこの仕打ちは自分への挑戦であり、権威を蔑ろにする行為に他ならなかった。そこで守を呼び寄せ、水汲みや薪割り、掃除、庭の水やりといった雑用をさせ始めた。台所での配膳や給仕まで命じたのだった。守は無言で言いつけに従った。すでに塵にまで貶められた身、踏みにじられるような誇りなど何も残っていなかった。数日が過ぎ、元帥邸の隅々まで見て回るうちに、以前自分がいた頃とは様変わりしていることに気づいた。建物の外観こそ変わらないものの、中身は完全に様変わりしていた。かつては台所の女たち以外、ほとんどが男の職員で占められていた元帥邸。今では女官や侍女が数多く仕えており、さらには懐妊五、六ヶ月ほどの主母の存在も目にした。幾度か顔を合わせる機会があったが、元帥邸には人の出入りが多いため、彼女は薄絹の面紗を纏っていた。その面紗越しに覗く眸は魂を奪うような妖艶さを湛えていた。彼女の素性を詮索することはしなかったが、噂は自然と耳に入ってきた。屋敷の者たちの話によれば、彼女は元帥の平妻で、その座についてからは他の妾たちは皆追い払われ、元帥と共に邪馬台へ来た側室も何やら訳ありで亡くなったという。時折、下人たちの噂話に耳を傾けると、元帥が彼女を溺愛し、欲しいものは何でも与え、まるで天の月や星までも摘み取って捧げようとしているかのようだった。守は、彼女の身の回りの品々があまりにも贅を尽くしていることにも気づいた。高級な絹織物に身を包み、髪には豪奢な簪や玉飾りを煌めかせる彼女は、戦後の邪馬台にあって、贅沢な滋養品を水のように消費していた。つがいの燕の巣を朝夕二度も口にし、沐浴には羊乳と花びらを使い、それも毎日欠かさなかった。邪馬台では羊乳も花びらも手に入りやすいと
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