俊介は昔、自分が唯月に対して本当にひどい扱いをしていたとわかっていた。彼は彼女を少しずつ社会から遠ざけて、収入源を断ち、三十過ぎの美しくない女に仕立て上げようと思ったのだ。多くのこのような状況に陥ってしまった専業主婦からしてみれば、唯月は勇敢な女性だった。さっさと、あっさり俊介とは夫婦の関係を断ってしまったのだから。彼女は子供のために我慢して結婚生活を続けることはなかったのだ。彼女は結婚に失敗し、離婚することになって、子供にもしかすると傷を負わせてしまうかもしれないと思った。しかし、離婚しなければ、夫婦は一日中、口喧嘩し、時には手まで出していまい、穏やかな家庭ではなくなってしまう。それも同じように子供を傷つけてしまうことになるのだ。それならば、離婚してしまって、彼女が子供を連れてシングルマザーとして過ごしたほうがいいだろう。彼女が気を配って子供を導き、強く逞しい自信のある大人になれるよう育てていけばいいのだ。清水は注文された食事を持って、俊介の前にそれを置いた。そして、ぼうっと考え事をしていた俊介は、ハッと我に返った。そして、心の中で、彼は今莉奈との生活も幸せで甘い日々を過ごしているじゃないかと考えた。家庭内での揉め事はあるが、それは夫婦となってから莉奈と喧嘩を繰り返してお互いに理解を深めていく段階であり、それがうまくいけば、今の唯月よりももっと幸せな生活を送れるのだから。それで、彼は心を落ち着かせて朝食を食べ始めた。陽に一口卵焼きを食べさせようとしたが、陽は彼と同じ箸を使っているのを拒否した。彼は自分の箸を使わないと嫌なのだ。すると陽は自分でその卵焼きを箸で掴んで食べた。俊介に食べさせてもらう必要はないのだ。彼は父親が使った箸には唾もついていて汚いからそれに嫌悪感を抱いたのだった。「陽はもう自分で箸が使えるんだな。しかもちゃんと掴むことができるだなんてすごいじゃないか。恭弥兄ちゃんは今も母親から食べさせてもらっているんだぞ」俊介は自分の息子は甥よりも優秀でよく出来る子だと思った。暫くして、俊介の頼んだメニューにセットでついている味噌汁を唯月が清水に頼んで運んでもらった。俊介はそれを別のお椀に少し移して、息子にも少しあげた。父と子は一緒に美味しそうに朝ごはんを食べていた。時間が経っていき、朝の出勤ラッシュの時間も過
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