All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 681 - Chapter 690

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第681話

陽はすぐに縮こまって母親の後ろに隠れてしまった。唯月は後ろを振り返って息子を抱き上げ言った。「陽ちゃん、この人は東おじさんよ、会ったことあるでしょ」陽は隼翔を見て、いつもなら礼儀正しく挨拶できる彼が、どうしても東おじさんとは呼ばなかった。「この子、とっても可愛いですわね」東夫人は褒めて言った。詩乃の姪は良家のお嬢様といった感じだが、少し太り過ぎだ。しかし、息子のほうはとても格好良く育っている。「隼翔、あなた強面に見えるんだから、小さい子はびっくりするでしょ。だから触られたくないのよ」東夫人は息子に不満をこぼした。隼翔は若い頃いろいろあって、顔に傷を作ってしまい、東夫人は息子に整形手術でもさせて顔に残る切り傷を消してしまいたかった。そうすれば彼は元のイケメン顔に戻るからだ。しかし、この人の言うことを聞かない道楽息子は、顔に傷を負った当時、心臓が飛び出してしまうほど母親を驚かせ、一体何度泣いたかわからないが、彼女がいくら彼を説得しようとしても、絶対に手術などしないと言い張っていた。それから何年も時が過ぎたが、あの顔の傷はいまだにはっきりと残っている。もともと端正な顔だったのに、それが台無しになってしまい、三十五歳、いやもうすぐ三十六歳になるというのに、ずっと独身なのだった。他所の家の息子は三十六歳なら結婚してもう二人か三人の子供がいるのだ。彼女のこの息子は三十六でも独り身だ。そんな隼翔が珍しく一人の子供を気に入っている様子を見て、東夫人はこれは良い機会だと、わざと嫌味を言って反省させようとしたのだ。隼翔は笑って言った。「陽君と会ったのは何回かしかないから、これからたくさん会えば、きっと俺のことを怖がらなくなるさ」東夫人は眉をしかめた。「これからたくさん会えば?」「内海さんに俺の店舗を貸してるからな。彼女はそこで弁当屋を開くんだ。毎日出勤する時にはそこを通るから、毎日陽君を見られるだろう」隼翔はそう説明した。「神崎夫人、私は神崎社長にご挨拶しに行きます」神崎玲凰夫妻は来客の接待をしているので、母親と一緒にいなかった。詩乃は微笑んで頷き、隼翔は玲凰がいるほうへと向かった。東夫人は唯月をまたチラリと見た。その眼差しはあまり友好的なものではなかったが、何も言わず詩乃とおしゃべりをしながら中へと入
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第682話

「安心して、私は東夫人にいじめられたりなんて絶対ないから。さ、もう怒らないでね」「唯月さんって、度量が大きいですね。もし私だったら、誰かがあんな目で私を見てこようものなら、こてんぱんに懲らしめてやるわ」唯月は笑った。彼女がどうやって姫華と比べられようか。神崎姫華は生粋の財閥家のお嬢様だというのに。それに比べて唯月は両親のいない孤児だ。「どのみち、これから先はこの私がいますから、誰かが唯月さんに何か不満げな態度をとってきたり、いじめたりしてきたら私に言ってくださいね。そいつらをけちょんけちょんにしてやりますから」「あら、明凛ちゃんが来たわよ」唯月は明凛と涼太の姉弟が到着したのを見て、姫華に教えた。それで姫華の注意をあっちに向けさせることができた。明凛はまた弟を連れて一緒に来ていた。主に彼女の無料の運転手にするために連れて来ているのだ。そうすれば彼女はパーティーで思う存分食べて飲んでができるから。残念なのは、唯花が星城にはいないことだった。「明凛」姫華と唯月は一緒に彼らを出迎えた。「明凛、どうしてこんなに遅くなったのよ」姫華は明凛のほうまで行くと、彼女の腕を引っ張った。多くの人が牧野明凛が来たことに気づくと、一部はひそひそと何かを話していた。「あれって金城夫人の姪っ子さんでしょう?久しく彼女を見ていなかったわね」「神崎夫人は恐らく牧野お嬢さんがこの間のパーティーで何をしでかしたのかご存じないのでしょうね。まさかここに来る勇気があるなんて、また前みたいに床に寝転がってしまったらどうしましょう」「牧野お嬢さんと神崎夫人の姪っ子さんは親友でいらっしゃるらしいわ。だから彼女を呼ぶのも当然のことでしょうね」「できるだけ関わらないようにいたしましょう。あのような方まで来るなんて、全く滑稽ですわ」明凛は自分が登場したことにより、多くの悪口を生むことなっているとは露知らず、姫華に尋ねた。「私遅れた?招待状に書いてあった時間にはまだ早いみたいだけど」彼女はまた唯月に挨拶をし、陽を抱き上げて笑みを浮かべて唯月を褒めた。「唯月さん、今日はすごくお嬢様感があって素敵ですよ」「私のことは太ってるって言っても別に気にしないわよ」唯月は大食いでこんなにふくよかな体型になっていて、人から嫌そうに見られてもそれを正面
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第683話

唯月は瞬時に警戒した。彼女は冷ややかに尋ねた。「誰からそんな大金を受け取ったと聞いたの?私は結婚してから仕事をしていなかったから、全く収入はないわよ……」「お前の元義母が言ってたんだ。唯月、俺は今商売がうまくいってないんだ。大損をしちまった。昔稼いだ金も、もうすっからかんさ。投資にまわす金すら残ってねぇんだ、だから俺に二千万貸してくれよ、それを元手に資金を回すからさ」唯月はあまりの怒りで笑いしか出てこなかった。こいつらは本当に面の皮が分厚い。一度ならず二度、二度ならず三度までも、ひたすらこの姉妹二人に絡みついてくる。「智明、あんた鏡ってものを見たことある?その顔をしっかりと映して見てみなさいよ。あんたたち、あんなふうに私たち姉妹にひどいことをしてきて、今私によくも金を貸してだなんて言ってこられるわね?確かに私は今二千万以上はあるけど、貸してなんかあげないわよ。赤の他人に貸したとしても、絶対にあんたには貸さないからね!」「唯月、そんな言い方ないだろ、俺らはなんてったって、血の繋がった従兄妹なんだぞ。当初、お前ら姉妹は本当に頑固でさ、婿側から一切結納金をもらわなかっただろう。俺ら内海家はタダでお前を嫁に出しちまったんだぞ。だから夫に大事にしてもらえなかっただろう、将来再婚する時には、男側の家にたんまりと結納金を出させてじいさんに渡すんだぞ。大金はたいて得た妻だぞ、旦那側は金を出したんだからそう簡単にお前を捨てたりしないだろ。今そんな大金があったってお前はうまく使えないさ、俺に二千万貸してくれればそれを元手に増やしてやるって、それからお前に返すよ。それに俺が今こうして赤字になってんのも、元はと言えばお前ら姉妹のせいなんだからな。お前らがあんな俺らの名声を傷つけるようなツイッターをあげなけりゃ、俺の商売だってこんなふうに一気に落ち込むことなんかなかったんだ。うまくいかないだけじゃなく、日に日に負債が増えてってるんだぜ」唯月は冷ややかに言った。「貸さないってば!一円たりともね!」「唯月……」唯月は電話を直接切ってしまった。唯月に電話を切られてしまった智明は、口汚い言葉を吐いていた。「どうだった?」彼の父親は非常に気にした様子で尋ねた。「唯月の奴、金を貸してくれそうか?」「父さん、どうあがいたってあの女は俺に金を貸
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第684話

それから、智文がどう聞いても相手は神崎グループ以外に誰が彼らに圧力をかけ報復しているのかを教えてくれなかった。智文は心の中では唯花姉妹の後ろにいる人物の仕業だということに気づいていた。その後ろ盾とは神崎姫華であると思っていたのだが、今考えてみると、神崎姫華以外にもっと力のあるすごい人物が姉妹の後ろにいるようだ。その人物とは一体?彼が星城で仕事が見つけられなくなるほどの力がある人物とは。智文はあまりのショックで自信を失い、おばあさんが退院してから、祖父母を田舎に連れて帰って、年が明けてからまた策を練ろうと思っていた。「じゃあ、どうするんだ?」智明の父親はうろたえていた。「唯花姉妹の後ろ盾になっている人物はこんなにすごいのか?お前らが仕事を失い、商売してるやつも赤字続き、お前はそもそもそんなに大きなビジネスじゃなくそこそこの大きさだったのに、影響を受けちまうだなんて。智明、ばあさんが退院して田舎に戻ったら、みんなで話し合おう。唯花の要求通りにしっかりと謝罪して、関係を良くできないかやってみようじゃないか」唯花が言うには、彼らが当初どう彼女たちを陥れて、名誉を傷つけ、世間の目に晒してネット暴力を受けたか、それを考慮してどう謝罪すべきか考えろということだった。智明は迷っていた。「もうここまで来たんだ。ネットで謝罪文を公開するんだよ、そんなに難しいことか?その後、何か謝罪の品でも持ってあの二人のところにまた謝りに行けばいい話だろう。今回ばかりは、俺らもそれぞれ大人しく、しっかり謝罪するんだ。彼女たちがもうあの件にこだわらなくなれば、もう大丈夫かもしれないじゃないか」智明は恨めしそうに言った。「あの姉妹二人も度を越してんだろ。確かに俺らが先に騒ぎを起こしたとはいえ、ただツイッターに書いて、サクラ雇ってちょっと炎上させただけじゃねぇか。あいつらだって俺らに反撃してきたろ、それからここ二カ月はこっちもひどい目に遭って、大損したんだぜ。これであおいこってもんだろ。なのにあいつらときたら、噛みついて放そうとしない。なにがなんでも俺らをどん底に叩き落とす気だ」智明はどうしても納得いかないようだった。彼は引き続き話した。「あいつらの心の中には俺らへの恨みが根を張ってるんだ。昔の恨みが深い根になってるんだよ。父さん、俺らとあの姉妹は一生
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第685話

姫華は唯月と智明の会話をはじめから最後まで聞いていて、怒って言った。「あの人たち、まだ唯月さんにお金の要求をしてくるんですか」「商売がうまくいかなくて資金繰りが危ういから、お金を貸してほしいって。二千万円を借りてそれを元手にまた稼ぎたいようね」「本当に厚かましい奴らね、星城では私以上に恥を捨ててる人間なんていないと思っていたんですけど。周りからは、私が面子もなにもかも捨てて結城社長を追いかけ回してるって。どうやら面の皮が厚いのは、私ではなく唯月さんの親戚のほうだったみたいですね、私なんてまだまだ可愛いものだわ」唯月は逆に姫華を諭して言った。「姫華ちゃん、あなたがあんなクズ人間たちに腹を立てる必要なんてないわ。私たち姉妹とあいつらは一生をかけても和解することなんてない、あいつらが死のうがどうなろうが関係ないし」田舎の内海家がひどい暮らしをするようになったのは、それは因果応報というやつなのだ。「さ、行きましょう。美味しい物を食べて、ぱぁーっとお酒を飲みましょうよ。姫華、あなたのおうちにいるパティシエが作ったデザートはとっても美味しいよね、今日は胃袋を最大にして思う存分食べてやるわよ」明凛は話題を変えた。姫華は彼女に笑って言った。「そんなに甘い物ばっかり食べちゃ、太っちゃうわよ……唯月さん、あなたのことを言ってるわけじゃないですからね」唯月は特に気にせず言った。「甘い物を食べて太るのは当然のことだわ。私はもう甘い物は制限しているから大丈夫よ」「私は怖くないわ、毎日走って体も鍛えているし、たくさん食べても太ったりしないよ」明凛は姫華を引っ張りながら唯月親子と一緒に家の中へと入っていった。唯月は本気で甘い物は食べなかった。パーティーにどんなに美味しい物や飲み物があっても、彼女は我慢して一切触れなかった。食事制限をして、しっかり運動してこそ彼女はダイエットに成功できるのだ。悟が来た頃には、明凛はすでにお腹いっぱい食べて飲んで、酔っぱらっていた。涼太が一緒に来たのはこの姉を無事家まで送り届けるためなのだ。彼が酔いつぶれた姉を支えながら外に出てきた時、ちょうど悟と遭遇した。悟みんなから取り巻かれて迎え入れられた。悟はわざと遅れて到着し、みんなから注目されようとしたのだ。しかし、まさかこの時、明凛がもう帰るところだとは思
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第686話

唯月は詩乃に言った。「伯母さん、私も唯花もまだまだ働ける年齢だし、健康ですから伯母さんに助けていただかなくても大丈夫ですよ。あまり心配なさらないでください、私たちもっと良い生活ができるように努力していきますから。一つだけお願いしたいことがあるんです。私と唯花が伯母さんの姪だということはできるだけあまり多くの人に知られないようにしてもらえませんか。私も唯花も今までの人生でいろいろな人に出会ってきました。優しい人にも出会いましたが、中には冷たく悪い人間もいました。私たちが伯母さんの姪だということを知って、それを利用する人が伯母さんや神崎グループにご迷惑をかけないか心配なんです」詩乃は暫くの間黙った後、口を開いた。「唯月さん、あなたがそのように私たちを心配して考えてくれているのはとても嬉しいわ。あなた達の強さは私自身によく似ているの。伯母さんの助けが必要ないというのであれば、私から何かしようとは思わないわ。だけどね、もし今後何か困ったことがあれば、必ず伯母さんに教えてちょうだい。他の人が私たちの関係を知っているかどうかは関係ないのだけれど、あなた達田舎の親戚たちには知ってもらいたいわ。あの人たちがいつもあなた達姉妹にお金を要求してこないようにね」神崎グループという名前はやはり役に立つのだ。「あの人たちはもう私たちの後ろに姫華ちゃんがついているというのを知っているんです」姫華は唯花の本屋で内海家と衝突したことがあるのだ。「こちらから故意に教えるつもりはないんです。年が明けてから裁判を起こして両親の家を取り返す時に、伯母さんのお名前をお借りして心理的に圧力をかけることで私たちに有利になるかもしれません」「あなた達が訴えを起こす時は伯母さんに教えてちょうだいね。私が一番腕の良い弁護士を雇ってあげますから。相続法に照らし合わせれば、あなた達が裁判で勝つのは目に見えているわ」唯月も裁判を起こせば、姉妹は家の権利が得られるというのはわかっていた。ただ、あの一族は相当な恥知らずどもで、かなりしつこい。裁判が終わったとしてもやはり付き纏ってくるだろう。その時には神崎夫人の身分に頼ることでかなり有利になるはずだ。詩乃と長く話し合った後、詩乃は本当に言ったことを実行した。ただ表立っては動かなかったが、常に姪の二人には関心を向けていて、何か手助けをするよ
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第687話

この好きな女性は自分の妻で、毎日自分の目の前に現れるというのに、キスの一つもできなかったのだ。理仁も我慢の限界で発狂しそうだった。それが今や、ようやく我慢をする必要がなくなり、彼は遠慮なく唯花に絡みつき、激しいキスを繰り返した。暫く熱いキスを交わし、唯花は彼の胸にもたれかかり、乱れた呼吸を整えていた。「唯花さん」唯花は顔をあげて彼を見つめた。彼が真剣な顔つきで自分を見つめているのを見て、彼女は目をぱちぱちとさせた。この男、表情の切り替えが本当に速いじゃないか。「どうしたの?また教頭先生みたいな顔して。あなたがはじめて私の店で手伝ってくれた時、本屋に入ろうとしてた高校生があなたを見かけて入るのをためらっていたのを思い出すわ」理仁の大きな手が彼女の顔に触れた。彼は親指で何度も彼女の頬を撫で、少し微笑んで言った。「あの時は、会社に戻れって急かされたからイラついたんだよ。俺が手伝おうと思って君がそれを断るだけならまだしも、さっさと出て行けって言われたもんだからね」以前の彼は、彼女の前では本当に偉そうにしていて、気性も悪かった。一日中氷のように冷たく凍った顔をしていたのだから。まるでみんなが彼に巨額の借金をしていて、返せと借金の取り立てにきているような感じだ。「理仁さん、何か私に言いたいことがある?」理仁が彼女の顔をひたすら撫で続けるのを止めさせることはせず、唯花も彼から親しげに優しく撫でられるのを心地よく思っていた。なんだか、彼女が彼の瞳に非常に貴重な宝物のように映っているかのようだった。「あることをずっと君に隠しているんだ」「なんのこと?」理仁は少し黙ってから言った。「唯花さん、怒らないって約束してくれないか。約束したら絶対それを撤回しないって」唯花は彼を見つめ、理仁も彼女を見つめた。二人はお互いに暫く見つめ合った後、唯花が彼の体を押して、距離を作った。「理仁さん、またそんなふうに私の退路を絶つような言い方をして。あなたが一体何を隠しているのか教えてくれてないのに、先に私に怒らないよう約束させようって?そしてその約束をしたら、それを撤回しないようにしろと言うのね。もしあなたが言うことが私をすごく怒らせるような内容だったら、我慢しろって言うわけ?無理やり平気な顔でいろっていうの?言っときますけど
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第688話

理仁がそんな高級別荘地に一棟の別荘を持っているとは。しかも、山のてっぺんに位置する別荘なのだ、街並みが全て見渡せる眺めの良いあれだ。携帯をコートのポケットに戻し、唯花はソファのほうへと体の向きを変えてソファに腰かけ、まっすぐにじっと理仁を見つめていた。理仁のほうも彼女を見つめていた。彼女は一体怒っているのか、それとも喜んでいるのだろうか?喜んでいることは、まずなさそうだが。「唯花さん、俺、俺たちはスピード結婚だったから、俺は……」理仁は唯花のほうへとやって来て、彼女の傍に座った。彼が座った瞬間彼女は横へずれて彼との距離を開けて言った。「そこに座って、そんなに私に近づかないでちょうだい」彼女は厳しい表情で腹を立てた様子で言った。「あなたがこのことをどうして私に隠していたかはわかるわ。もし私が別荘を持っていることを知ったら、あなたのお金に欲を出すって警戒していたんでしょ。結城グループで管理職してて、年収はいくらあるの?数千万くらいあるんでしょ?あなたは普段から仕事も忙しいし、残業か接待ばかりで、そこにかかる費用は全部会社持ちよね?それに彼女もいなくて、未婚だったし、家庭のプレッシャーもないって言ってたよね。ご両親もあなたから仕送りはしてもらわなくていいって言ってたし。だから結構な金額を貯金していたんでしょ?数億する別荘を持っていても、それはおかしくないはずよ。私だって、まだ結婚したばかりの頃、あなたが私に警戒していたことはわかってるわ。私のことを腹黒女だと思って、あなたのお金を狙っていると疑っていたわよね」唯花はそう言いながら、我慢できずソファの上にあったクッションを手に取り、それで理仁を叩き始めた。「理仁さん、あなたはずっと別荘を持っていることを私に隠していたでしょ。自分だって何でもかんでも全て正直に話してくれてなかったっていうのに、あの日の夜、よくも私に腹を立てることができたものね。私があなたに隠し事をしていて、家族だと思ってくれてないとかなんとか言ってさ。自分自身のことは棚に上げておいて、周りには要求ばっかりしてきてさ、不公平だと思わないの?」理仁は彼女のやりたいように、黙ってクッションで殴られておいた。どうせ対して痛くないし。彼は唯花にその自分名義の別荘があることをまず告白することにしたが、別荘はその一棟に
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第689話

理仁は少し黙ってから言った。「別荘を買って、またフラワーガーデンにも部屋を購入したから、貯金はもうあまりないんだ。車はただ足代わりに使うものだろう。使えるだけで十分だ。別に高級車なんか買う必要はないよ」そう言うと、理仁はにじむ汗を拭きとりたかった。彼は今まだ嘘に嘘を重ねていくしかないのだ。唯花はまた彼の体を押して「ちょっと私から少し離れて」と言った。「逃げたりしない?」「どこに逃げるっていうのよ?逃げたいと思ってたら、あなたにひとことだって言わずにさっさと荷物を持って逃げるわよ。逃げるために大騒ぎするなんてまずないよ。それはただわざとそんなことをしてあなたを脅かそうとするためよ。もし本気であなたから離れようとするなら、こっそりいなくなるに決まってるでしょ、一切迷うことなくね。あなたが私を見つけようと思ったって見つけられないわよ」理仁はその言葉を聞いて、心臓が飛び出してしまいそうなほど焦り、言葉に気をつけながら尋ねた。「唯花さん、それなら一体どんなことがあったら俺から離れようと思うの?」「あなたが私に申し開きのできないような大きなことをしでかしたらじゃないの。なにかやましいことでもあるのね、そんな質問をしてくるなんて」理仁はそれを否定した。「ただ俺はしっかり確認しておきたいだけだよ。今後は絶対に君を傷つけるような大きな過ちなんか犯したりしない。だから、君が俺から離れたくなるような機会すら訪れないから」唯花は淡々とした表情の彼を見つめ、彼の顔をがっしりと手で挟んで固定し、お互いに目を合わせ、暫くの間じいっと彼を見つめた。彼のその瞳からは何か後ろめたいような色は感じ取れなかった。彼が本当に何もないから平然としているだけなのか、それともかなりの経験を積み悟られないように誤魔化しているだけなのか、彼女にはわからなかった。「私が一番許せないのは不倫よ。それから家庭内暴力に、何度も人を騙すような行為ね」「俺は不倫も家庭内暴力だってしないよ」理仁は急いでそう保証した。唯花は彼の顔を触った。「その言葉通りにしてくれればいいけどね」「時間がそれを証明してくれるから」理仁はあまりに動揺していて「何度も人を騙すような行為」という言葉を完全に無視してしまった。彼はただ一度だけ彼女を騙しているだけのように見えて、実はその一つの嘘は多く
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第690話

「心からの言葉じゃなさそうだけど」彼は荷物をまとめに行った。唯花は座って、引き続きお金を数え始めた。結城グループはさすが星城でトップの大企業だ。資金も多く、子会社であってもこんな気前よく彼女が理仁を数日世話をしただけで何万円もくれるのだから。子会社の島田はもっと多めにお金を渡したいと思っていたのだが、あまり多すぎると社長夫人に怪しまれると思ってやめたのだった。お金を何回か数え終わると、唯花は立ち上がりいつも出かける時に使っているお気に入りの財布を取りに行った。布製で、ネットで買えば数百円で買えるくらいの安いものだが、とても使い勝手が良いのだ。意外と中にはたくさん入る。彼女はそのお金を財布の中になおし、理仁が荷物をまとめているのを見た。物は多くなかった。それらは彼が出張する前に彼女が彼のためにまとめてあげた荷物だ。彼女がここに来るときは急いでいたので、ただ二日分の着替えだけで、日用品は来てからこっちで買った物だった。そしてすぐに理仁は荷物片付けてしまい、スーツケースを持って唯花のほうまでやって来ると「悟が俺らのためにプライベートジェットを用意してくれたから、もうパイロットたちには連絡しておいた。帰ろうか」と言った。唯花は手を彼のほうへさし出した。彼は片手でスーツケースを引き、もう片方の手は彼女と繋いだ。「理仁さん、九条さんって本当に良い人ね。あなたどうやって彼のような人とコネを作ることに成功したのよ。彼と明凛は相性が良いかしら?こんなにハイスペックな男性が、ずっと独身だったなんてもったいないわよね」唯花は心の底から親友と悟がうまくいくことを望んでいた。理仁はにやりと笑った。「俺と悟は長いこと一緒に仕事してきて、関係も良好だ。だから、別に彼の機嫌を取る必要なんてないんだよ。あの二人がうまくいなかなったとしても、友人関係にはなれると思うぞ」唯花はそれにただひとこと「うん」と返事して、親友の恋話はそこまでにした。愛に対する考えは人それぞれ、千差万別なのだから。彼女と理仁はただ赤い糸を引っ張ってきただけで、その恋が実るかどうかは、本人たち次第なのだ。それから数時間後。星城に戻ってきた夫婦は、まず結城グループに行った。理仁は唯花を一階にある待合室で暫く待たせて、上司に仕事の報告に行ってから彼女を家に連れ
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