陽はすぐに縮こまって母親の後ろに隠れてしまった。唯月は後ろを振り返って息子を抱き上げ言った。「陽ちゃん、この人は東おじさんよ、会ったことあるでしょ」陽は隼翔を見て、いつもなら礼儀正しく挨拶できる彼が、どうしても東おじさんとは呼ばなかった。「この子、とっても可愛いですわね」東夫人は褒めて言った。詩乃の姪は良家のお嬢様といった感じだが、少し太り過ぎだ。しかし、息子のほうはとても格好良く育っている。「隼翔、あなた強面に見えるんだから、小さい子はびっくりするでしょ。だから触られたくないのよ」東夫人は息子に不満をこぼした。隼翔は若い頃いろいろあって、顔に傷を作ってしまい、東夫人は息子に整形手術でもさせて顔に残る切り傷を消してしまいたかった。そうすれば彼は元のイケメン顔に戻るからだ。しかし、この人の言うことを聞かない道楽息子は、顔に傷を負った当時、心臓が飛び出してしまうほど母親を驚かせ、一体何度泣いたかわからないが、彼女がいくら彼を説得しようとしても、絶対に手術などしないと言い張っていた。それから何年も時が過ぎたが、あの顔の傷はいまだにはっきりと残っている。もともと端正な顔だったのに、それが台無しになってしまい、三十五歳、いやもうすぐ三十六歳になるというのに、ずっと独身なのだった。他所の家の息子は三十六歳なら結婚してもう二人か三人の子供がいるのだ。彼女のこの息子は三十六でも独り身だ。そんな隼翔が珍しく一人の子供を気に入っている様子を見て、東夫人はこれは良い機会だと、わざと嫌味を言って反省させようとしたのだ。隼翔は笑って言った。「陽君と会ったのは何回かしかないから、これからたくさん会えば、きっと俺のことを怖がらなくなるさ」東夫人は眉をしかめた。「これからたくさん会えば?」「内海さんに俺の店舗を貸してるからな。彼女はそこで弁当屋を開くんだ。毎日出勤する時にはそこを通るから、毎日陽君を見られるだろう」隼翔はそう説明した。「神崎夫人、私は神崎社長にご挨拶しに行きます」神崎玲凰夫妻は来客の接待をしているので、母親と一緒にいなかった。詩乃は微笑んで頷き、隼翔は玲凰がいるほうへと向かった。東夫人は唯月をまたチラリと見た。その眼差しはあまり友好的なものではなかったが、何も言わず詩乃とおしゃべりをしながら中へと入
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