All Chapters of 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています: Chapter 821 - Chapter 830

「あいつは今内海さんを失うことを怖がっているのではなく、自分が彼女を騙し続けていたことに面と向き合うことにしたんです。ただ、今は少し臆病になって、ちょっと間違った方向に行ってるだけで」明凛はふうっとため息をついた。「私たちが理解を示せるのは、当事者じゃないからですよ。私たちには唯花の辛さや、怒りがわかるわけないでしょう。どちらにせよ、私は唯花を説得するつもりはありません。説得するにしても今じゃなくて後からです。今、彼女は押しつぶされそうになるくらい辛い思いをしているんですよ。どうして私が結城さんの味方をしないといけないんです？そんなことしたら、唯花はもっと追いつめられちゃいますよ。あの子は一番近くにいた夫からここまで騙されたんですよ。彼女の味方じゃなくて、結城さんを許すよう説得するなんてこと、私にはできません。もしできるものなら、唯花に代わって結城さんを殴ってやりたいくらいですよ。神崎社長はご存じなんですかね？今や親戚のお兄さんなんですから、彼に出て来てもらって結城さんに一発お見舞いしてもらいたいですね。それが見られたらスッキリできそう」悟「……」理仁はたった一人で多くの人間を怒らせてしまったようだ。「ああ、それと姫華。あの子はあと二日したら帰ってくるって言ってました。彼女が帰ってきたら、結城さんが結城社長だったってことを知るでしょう。彼女は以前結城社長に相当熱を上げていたし、彼が唯花のスピード婚相手だって知ったら、あの子はどうすると思います？」明凛はこのことを考えただけで頭が痛くなってきた。「これって一体どういうことなの。小説の中のストーリーが現実に起こるなんて。なんと小説の元ネタって現実世界のことだったんですね」悟は急いで尋ねた。「どの小説にこのような話が出てきたんですか？主人公は最終的にどうやってヒロインから許してもらったんです？理仁に教えて勉強させます」明凛は正直に話した。「連載中の小説ですけど、作者はまだ書いてる途中ですから、ヒロインが最終的にどう主人公を許すのかわかりませんよ」悟はがくりと頭を落とし、彼女を見つめ言葉に詰まってしまった。「そんなふうに私を見つめても意味ないですよ。私が書いた小説じゃないし。私を見たって顔に答えは書いてないでしょう？結城さんのためを思うんだったら、私が言ったように彼に唯花を自由

あの頃の彼女はまだ彼のことを好きになっていなかったので、どうでもよかった。それが今、彼のことを愛してしまい、真実を知ってしまうと、どうでもいいなどとは言えなくなった。心がズキズキと痛かった。特にここ暫くの間は、彼がいつも一緒にいて溺愛してきていたので、唯花はさらにつらく、怒りも倍になっていた。彼からの愛も実は偽物で、騙しているだけではないのか？首の後ろもまだ少し痛む。あのバカ野郎！結城理仁は大馬鹿者だ！大川たちは返事に困っていた。若旦那様が初めから若奥様を騙していたことは、彼らも知っていたからだ。「どなたかアップルの充電器持っていませんか？私の携帯切れてしまって、ちょっとお借りしたいんですけど」大川は返事をしようとしたが、隣にいた同僚に突かれて、彼女はハッとし急いで言った。「若旦那様がアップルの携帯をお使いです。若奥様、彼に言って借りられたら良いかと思いますよ」唯花は彼女たちのちょっとした動作に気づいていた。心の中で、結城理仁の同意がなければ、彼女は携帯の充電器すら貸してもらえないのだとわかった。あの男は完全に彼女をこの屋敷に閉じ込め、外とは連絡を取れないようにするつもりか？あいつはこのようにすれば、彼女をここに留めておけるとでも思っているのか？空間的に人を留めておくことはできるだろうが、彼女の心まで留めることはできないのだぞ！唯花はそれ以上使用人たちと話をすることはなく、あの書き終えた離婚協議書を手に下へとおりていった。まだ階段の上にいる時に、下でソファに座っている理仁が見えた。彼は携帯を使い、誰かに連絡をしているようだった。そして彼女の足音が聞こえると、彼はすぐに携帯をズボンのポケットへと戻し、急いで立ち上がり彼女を迎えにいった。「唯花」「私を馴れ馴れしく呼ばないで！」唯花の表情はまた真っ暗闇の夜空のように暗くなった。今の彼女はこの某結城氏を一目でも見てしまうと、耐えられず不機嫌になってしまうのだからどうしようもない。「唯花さん」理仁はそう言い直した。「お腹が空いたでしょう、食事にしよう」彼は彼女の機嫌をうかがいながら、手を伸ばし唯花の手を引こうとしたが、それを拒否されてしまった。唯花は彼を素通りし、まっすぐにソファの前まで来ると、書き終えた離婚協議書をテーブ

渡辺と使用人たちは息をのんで見守っていた。暫くして、理仁は声のトーンを少し高くし渡辺に命令した。「俺のアップルの充電器を若奥様に渡してやってくれ」「かしこまりました」渡辺は急いで唯花のために充電器を取りに行った。若旦那様が若奥様に携帯の充電をさせるということは、家にお帰しになるということだろうか？実のところ渡辺自身も若旦那様は若奥様をここに軟禁しておくべきではないと思っていた。彼女を家に帰らせて、お互いに暫く気持ちを整理し冷静になるべきだと思うのだ。しかし、彼はそんなこと口が裂けても若旦那様に言うことなどできない。若旦那様は若奥様がいなければ生きていけないほど彼女が重要な存在になっていて、彼女がここを離れると、二度と会えなくなるのではないかと恐れているのだ。それで若奥様を強制的に自分の近くに置いているのだ。ただ、このような強硬手段を取れば、夫婦の仲はますます溝が深まっていくだけなのに。そしてすぐ、渡辺は充電器を持ってやってきた。彼はそれを理仁に渡した。理仁はそれをまた唯花へと渡した。唯花がそれを受け取る時、彼は耐えられず彼女の手を取って懇願した。「唯花さん、これから先離婚しようだなんて言わないくれ、お願いだ」唯花はその手を引っ込め、充電器を受け取った。彼女は彼に背を向けると、携帯の充電に向かった。理仁は彼女から聞きたい言葉をもらえず、彼女が彼の元から離れたいと思っているのだと理解し、また焦りをつのらせた。彼は理解できなかった。彼は確かに彼女を騙していたことに間違いないが、しかし、彼の本当の身分は彼女に相応しくないのだろうか？彼女はどうして彼の正体を知ってから、すぐに離婚をしたいなどと言うのだろうか？もし普通の人なら、突然自分の夫が億万長者の大富豪であると知れば、きっと飛び跳ねて大喜びするはずだ。彼はそのことばかりに気を取られていて、唯花が怒っているのは彼が彼女を騙し続けて、彼女のことを信じてくれていなかったからだということに、全く気づいていなかった。唯花が怒った時、理仁のそれに対する行動は彼女を特に苦しめていた。彼は確かに彼女にどういうわけなのか説明はしたが、彼は彼女に手刀を加えて気絶させてしまったのだ。彼女が離れたいとわかると、わざと鍵と梯子を捨ててしまった。彼のこの行いはつまり彼女がここを離

唯花は姉が入ってきたのにとても驚き、すぐに箸とお椀を置いて立ち上がり、姉のほうへとやって来た。しかしあの結城氏はすぐに彼女の腕を掴んだ。唯花は冷ややかな瞳で彼を睨みつけた。「唯花さん……」理仁は彼女からこのような目つきで睨まれて、ナイフで刺されたように心がズキッとした。夫婦の関係が一夜にしてお互いを知らなかった頃のように冷めてしまったようだった。いや、スピード結婚したばかりの時よりも悪化している。彼は結局はその手を放し、彼女を姉の元へと行かせてあげた。「唯花」唯月は駆け足で妹のほうへとやって来た。姉妹が向かいあった時、唯花は辛そうな声で姉を呼び、懐の中へと飛び込んでいった。「唯花」唯月はとても心を痛め、妹をきつく抱きしめてあげた。「泣きたいなら、泣きなさい。お姉ちゃんがここにいるからね」「お姉ちゃん……」唯花は懸命に抑えつけていた気持ちを、姉の胸の中で吐き出した。彼女はあまりの辛さに大泣きしてしまった。理仁はそれを遠くで見守り、最愛の妻が辛そうに泣く姿を見て、心が張り裂けてしまいそうになった。しかし、彼は彼女を慰めることも、その涙を拭いてあげることなどできない。彼女がこのように涙をこぼすのは、全部彼のせいなのだから。十分後。唯月姉妹は一緒に座り、それに向かい合う形で理仁が姉妹の前に座った。「結城さん、私は唯花を迎えに来ました」唯月は率直にそう伝えた。理仁はその言葉を聞くと、顔をこわばらせて低く沈んだ声を出した。「義姉さん、ここが唯花さんの家です。私たちは夫婦だから、私が住んでいるところが彼女の家でもあります」それを聞いて唯月は「私はただ、暫くの間妹をうちに連れて帰ろうと思っているだけですよ」と言い直した。「だったら、義姉さんと陽君がここに引っ越して一緒に暮らしたらどうでしょう」唯月「……」「結城さん、それってどういうことですか？」唯月は表情を冷たくさせて言った。「つまり、唯花をこの家から出すつもりはないということですか？あなた、今自分が何をやっているのかわかっていますか？このようにして唯花を繋ぎとめておくことができると思っているんです？今のままでは、あなた達夫婦の関係はさらに悪化していくだけですよ」「唯花さんがここから出て行けば、二度と俺のところには帰ってこない。だか

陽は東おじさんが抱っこしようとしてきたが、それを拒み、ベッドからスルリとおりて、泣きながら部屋中、母親の姿を探し回った。部屋の中を全部探してみても、母親の姿がなかったので、陽はさらに大声で泣き喚き始めた。「陽君、お菓子でも食べるかい？泣かないで、おじさんが食べさせてあげるから」隼翔は陽をあやしていた。「おかしなんかいらない、ママがいいの……」「おじさんが風車買いに連れてってあげようか？」「かざぐるまなんかいらない、ママがいい……」陽はさらに泣き叫び始めた。隼翔がどうあやそうとしてもできなかった。彼は子供をあやしたことなどないから、わからないのだ。結局、彼は携帯を取り出しロックを解除すると、それを陽の前に持って来てまたあやしてみた。「いい子だね、泣かないで。ほら、おじさんの携帯でアニメでも見よう、どう？」陽はその携帯を片手でパシンッと払いのけた。「けいたいもいらない」隼翔はどうしようもなく髪の毛を掻きむしった。「現代の子供は携帯があれば、すぐにおとなしくなるんじゃないのか？」陽は携帯では喜ばなかった。しかし、携帯を使うのはあまり良くない。陽はまだ小さいので、確かに携帯は相応しくないだろう。するとこの時、玄関のドアが開く音がした。その音を聞き、隼翔は急いで携帯をズボンのポケットへ戻した。唯月に彼が携帯で陽をあやそうとしているところなど見られてはならない。これは子供にとって良くないことだからだ。唯月は階段のところで、息子の泣き喚く声を聞いていたのだ。彼女は急いで上までやって来ると、慌てて玄関を開けて入ってきた。「ママ」陽は母親が帰ってきたのを見ると、顔をくしゃくしゃにして泣きながら彼女のほうへと飛んでいった。唯月は腰を屈めて息子を抱き上げ、顔中涙と鼻水だらけにさせている息子の顔をまずはティッシュで綺麗に拭いてあげた。「陽ちゃん、ママが帰ってきたから、もう泣かないでね」彼女は息子の頭を自分の肩にもたれかけさせ、優しい声で慰めた。「泣かないの、ママはちょっとお外で用事を済ませていただけよ。陽ちゃんのこと置いていったわけじゃないの。東おじさんもいるでしょ、そんなに怖がらなくていいのよ」東おじさんがいるから彼は怖がっていたのだが。隼翔は申し訳なさそうに言った。「内海さん、俺では陽君