All Chapters of 契約終了、霜村様に手放して欲しい: Chapter 881 - Chapter 890

霜村冷司は長い足で素早く書斎に戻ると、携帯を取り出し、電話をかけた。すでに就寝していた大叔母は、電話の音で目を覚まし、霜村冷司からの着信を見て驚いた。霜村冷司が自分から電話をかけてくることなど一度もなかったのに、こんな遅くに何の用だろうか？彼女はしわだらけの指で応答ボタンを押した。「もしもし、冷司……」霜村冷司は挨拶もせず、冷たい声で言った。「霜村氏の株式を10%に戻す。さらに息子に5%のストックオプションを与える。その代わり、あの秘密は永遠にお前の腹の中にしまっておけ。それから、霜村家の人間を扇動して私の妻に敵対させることもやめろ。さもなければ、お前と息子は跡形もなく消えることになる」大叔母は株式を取り戻し、息子にストックオプションが増えると聞いて、口元が上がりかけたが、「跡形もなく消える」という言葉に表情が凍りついた。「あなたは……」霜村冷司は遮った。「考える時間は5秒やる」これは明らかな強制だった！大叔母は「やれるものならやってみろ」と罵ったが、カウントダウンの中で頷いた。「いいわ、承知した」彼女の夫はもう亡くなって久しい。長い年月が経ち、恨みの感情もそれほど深くはなくなっていた。この秘密と引き換えに株式を取り戻し、息子の余生から孫世代に至るまで、衣食住の心配ない生活を保証できれば十分だ。目的は達成された。大叔母は当然受け入れる。彼女に扇動されたのに株式を取り戻せなかった霜村家の傍系親族のことなど、彼女に何の関係があるだろうか？もし傍系が彼女になぜ株式を取り戻せたのか問いただせば、すべてを霜村爺さんのせいにして、霜村爺さんに対処させればいい。大叔母の計算は巧みだったが、霜村冷司がこれほど賢く、傍系を扇動した人物が彼女だと素早く見抜くとは思っていなかった。さすが権力者だ。しかし……霜村冷司から有利な条件を引き出すのは難しい。この機会に更に一手加えてみよう。「冷司、この大叔母にはね、娘もいるんだよ。彼女にも5%のストックオプションを増やしてほしい。別の秘密と交換するけど、どうかしら？」電話を切ろうとしていた霜村冷司は、この言葉を聞いて指をゆっくりと下ろした。「もし取るに足らない話なら、私との取引に持ち出すことの結末を知っているだろう」脅しの言葉だったが、大叔母は恐れなかった。「あなたの父親と兄に関することよ。

和泉夕子は杏奈から聞いていた。霜村冷司は幼い頃から九条夜空に鞭打たれ、大切にしていたもの、人までもすべて九条夜空に壊されたことを。彼女が初めて霜村冷司に触れた時、彼の背中に細かな傷跡があることに気づいた。社会で揉まれる中で負った傷だと思っていたが、実は自分の母親によって鞭で打たれてできた傷だった。彼女には霜村冷司がどんな環境で育ったのか想像すらできなかった。ただ、彼の経験を聞いた後は、心が痛むだけだった。杏奈の言葉を借りれば、霜村冷司はかろうじて生き延びてきたのだ。彼にとって、生きていることだけが大切で、他のことは何も気にしていなかった。今では、和泉夕子は霜村冷司の冷淡さを受け入れていた。自分がこんな母親を持っていたら、きっと彼以上に冷淡になっていただろう。しかし、理屈で言えば霜村冷司は九条夜空を憎んでいるはずなのに、霜村爺さんと話した後に母を見に行くというのは、なぜだろう？霜村冷司は語りたがらなかったので、和泉夕子も詳しく尋ねなかった。使用人から上着を受け取り、彼に着せてあげ、さらに優しくネクタイを結んであげた。以前、八番目の館にいた頃も、和泉夕子は彼が出かける前にスーツの上着を着せ、ネクタイを結んでやっていた。まるで本物の妻のように。あの頃の霜村冷司は、彼女が自分の妻だったらと空想していたが、留まりたいという衝動を抑え、自分に常に警告していた。彼女の愛する人は桐生志越だけだ。そして九条夜空に見つかるのを恐れ、彼女と結婚に踏み切れなかった。二人の間に許されたのは、儚い時間だけ互いを抱きしめる、過ぎ去りし日の縁だけだった。誰が想像しただろうか。彼の諦めない気持ちが、最終的に彼女を彼の妻にしたことを。今や彼女のこうした行為は、なんて美しく、なんて心温まるものになったことか。「はい、できた」和泉夕子はシャツの襟を整えた後、顔を上げ、男を見つめて微笑んだ。「行っていらっしゃい。家で待ってるわ」霜村冷司は彼女に自分の汚れた過去を知らせたくなかった。しかし昨日も会社に行っただけで、お爺さんが彼女を傷つけ、彼女一人を家に残すのが心配で、彼は彼女の下ろした手を掴み、「一緒に来てくれ」と言った。醜く、血なまぐさい過去よりも、和泉夕子の安全の方がずっと大切だった。和泉夕子は彼が一緒に行きたいと言うのを見て、拒まず、うなず

霜村冷司は警告を終えると、九条夜空との無駄話をする気持ちはなく、直接目的を明かした。「二つのことを聞きに来た。正直に答えれば、お前の弟の減刑申請に対して、私はそれ以上の証拠を提出しない。嘘をつけば、さらに罪状を追加して、死刑にしてやる」九条夜空の弟は、彼が5歳の時にプールで溺れさせようとした。霜村冷司が彼を見逃すはずがなかった。今、彼女の弟の命を脅しに使い、九条夜空から真実を引き出すのは、割の良い取引だった。九条夜空は弱みがないようでも、幼い頃から自分のために尽くしてきた実の弟のことは、やはり気にかけていた。彼女はこの取引を黙認し、「どんなこと？」と尋ねた。霜村冷司は冷たく尋ねた。「一つ目は、父が命を落とした火事はお前が仕掛けたのか？」彼の質問を聞いて、九条夜空はすぐに反応した。「あなたは実の母親が誰か知ったのね？」和泉夕子はその言葉を聞いて驚き、九条夜空を見てから霜村冷司を見た。なるほど、だから九条夜空が彼をあんなに虐待したのか、九条夜空は彼の実の母ではなかったのだ。そして霜村爺さんと話した後に霜村冷司が刑務所に九条夜空を訪ねたのも、こういうことだったのか……和泉夕子はこの点を理解したが、九条夜空が実の母でないなら、彼の実の母は誰なのだろう？霜村冷司は和泉夕子を連れてきたため、彼の実の母について多くを語ることはなく、ただ冷たく言った。「答えろ。そうかそうでないか？」しかし九条夜空は彼に答えず、ただ唇の端を上げ、霜村冷司を見て邪悪に笑った。「あなたが知ったからには、評価してみて。あなたの父が結婚後にあなたの母と不倫したのは、正しいか間違っているか？」和泉夕子は再び驚いて霜村冷司を見た。彼の父が結婚後に彼の母と不倫した？それなら彼は「私生児」という罪名を背負うことになるのでは？そのような恥ずべき出自を和泉夕子の前でさらけ出すのは、霜村冷司の本意ではなかった。しかし、この因果関係から逃れられないことも分かっていた。ただ……明らかに前世代が作った「因」なのに、何も知らない彼がその「果」を背負わなければならないとは。そして彼が幼い頃から受けた鞭打ちや、大切にしていた人や物がすべて破壊されたのは、両親が残した借りを返し終えたということなのだろうか。だとしたら、誰が彼のために公平に判断してくれるのだろうか。九条夜空は彼の沈

いくら冷酷な霜村冷司でも、薬を替えた人物が九条夜空だとは思いもよらなかった。彼はしばらく呆然として、やっと信じられないという様子で我に返った。「虎でさえ子を食わないというのに、よくも実の息子に手をかけるほど残酷になれたものだ」九条夜空は目を赤くして、狂ったように首を振った。「違う、そうじゃないの、あの薬はあなたに飲ませるために替えたのよ。でも何故かあなたの兄が飲んでしまった。私はちゃんとあなたの薬を替えたのに、どうして彼が飲んだの、どうしてこんなことになったの……」和泉夕子はその言葉を聞き、少し心配そうに霜村冷司の腕をしっかりと掴んだ。「彼女が殺そうとしていたのはあなただったのね……」「ふざけるな！」九条夜空は怒鳴り、霜村冷司を指差した。「誰が彼を殺そうとしたって？あの薬は彼の知能を低下させるだけで、命を奪うものじゃない。彼は私の飼いならしたおもちゃよ、一生苦しめておくつもりだったの、殺すはずがないの……」彼女の息子は、やっと権力者の座に就いたというのに、過労のせいで、若くして脳の病にかかった。一方、霜村冷司は幼い頃から霜村爺さんに最も賢い子として見られ、密かに育てられていた。それは将来権力者の代わりにするためではないのか？九条夜空はどうして、あのクソ男女の子供に息子のものを奪われるのを甘んじるだろうか？だから霜村冷司が病気のとき、彼の薬を替えたのだ。誰が想像しただろう、脳の衰退を早める薬が、彼女自身の息子に飲まれるとは！霜村冷司はやっと理解した、九条夜空が彼を殺したいと思いながらも、完全に殺さなかった理由を。彼女は彼を飼っておいて、一生苦しめるつもりだったのだ……彼女のこの考えが、霜村冷司の心の奥底に残っていた最後の道徳感を消し去った。彼は和泉夕子の手を取り、一歩前に進み、ガラス越しに苦しむ九条夜空を冷たく見つめた。「本当に哀れだ」彼を害しようとして、自分の息子を手ずから殺してしまった九条夜空は、一体どうやってこの世界で顔向けて生きているのだろう？九条夜空は自分の過ちを反省するどころか、心を引き裂くように彼に向かって怒鳴った。「霜村冷司、あの薬を替えたのはあなたなの？そうなの？！」すでに狂乱状態に陥った九条夜空を見て、霜村冷司は無表情で言った。「一生賢かったあなたが、誰が薬を替えたかさえ知らないなんて、哀れだ」九条夜空の歪んだ表情

和泉夕子は彼がまた以前のようにこめかみを押さえているのを見て、緊張して前に進み、彼の腕をつかんだ。「冷司、頭痛がまた出たの？」霜村冷司の頭は確かにとても痛かったが、彼女を心配させないようにすぐに指を下ろし、何でもないふりをした。「痛くない、ちょっと疲れただけだよ。気にしないで」彼は脳腫瘍を患ったことがあるのだから、和泉夕子が心配しないはずがない。「どこか具合が悪いなら、必ず私に言って、隠さないで」霜村冷司は軽く頷き、和泉夕子を見る目が少し複雑で迷いがちだった。彼女に隠すのは良くないと思いながらも、真実を告げたくないようだった。和泉夕子は霜村冷司と長い間一緒にいたので、彼の表情の変化から何を考えているかある程度推測できた。今、彼の実の母親が誰かと尋ねただけで、彼は頭を痛め、彼女と向き合うことさえできない。これは彼の実の母親が彼女と何らかの関係があることを意味している……和泉夕子は思い返してみた。霜村爺さんが彼女が春日家の人間だと知った後、彼らが必ず離婚しなければならないと強調し、絶対に一緒にいられないと言った。彼女はそれが宿敵同士だから一緒になれないと思っていたが、今改めて考えると、それだけではなさそうだ……霜村冷司が爺さんと書斎で話をした後、彼は絶望の淵に沈み、彼女に触れることさえ躊躇していた。最終的には障壁を乗り越えて彼女に触れたが、以前の霜村冷司なら、彼女を求める時に少しの躊躇もなかった……そして今、彼の実の母親について尋ねただけで、彼はすぐに彼女から手を放し、もう触れる勇気もないようだった……これらの兆候から、和泉夕子は思った。まさか彼女の言ったとおり、彼らは兄妹なのではないだろうか？和泉夕子がそう考えたのは、以前彼女が霜村冷司に、どんな理由があっても離婚しないと言ったが、兄妹であれば別だと言ったことがあった。その時、霜村冷司の体は明らかに一瞬硬直し、彼女に言い当てられたかのように、無意識に視線をそらし、彼女を見ることさえ恐れているようだった……和泉夕子はこれらの疑問点をつなぎ合わせ、まつげを伏せ、複雑な感情を隠している男性の方を見た。「あなたの実の母親、まさか春日家の人間じゃないでしょうね？」この言葉を聞いて、霜村冷司の全身の血液が冷たくなった。彼の目に浮かんだ表情は、先ほど九条夜空が自分で霜村郁斗の薬