婚約者の森下慎也(もりした しんや)がずっと想い続けている初恋の相手、桜井玲奈(さくらい れいな)。彼女と私――松下千代子(まつした ちよこ)は、建物の二階にある吹き抜けの階段から一緒に転落した。優秀な外科医でもある慎也は、真っ先に玲奈のもとへ駆け寄った。大量に出血して動けない私には目もくれず、「お前は救急車でも待っていろ」と冷たく言い捨てて。命の灯火が消えゆく中、私は必死に手を伸ばし、彼の服の裾を掴んだ。だが、慎也はその手を汚いものでも見るかのように振り払った。「千代子、お前は本当に血も涙もないのか!玲奈が意識を失っているのが見えないのか?お前が彼女を突き落としたんだろ。あとで必ず、その責任は取らせてやるからな!」――でも、彼が私を責め立てる機会は、もう永遠にやってこない。意識のない玲奈を大切そうに抱きかかえ、慎也が背を向けて立ち去った後。私は、お腹に宿した彼の子とともに、冷たいアスファルトの上で孤独に息を引き取ったのだから。……息絶えた私の亡骸は、自分でも目を背けたくなるほど凄惨な状態だった。全身の骨が砕け、折れた肋骨がお腹の子宮を深く突き破っている。処置台のシーツは絶え間なく溢れ出す血で真っ赤に染まり、ベテランの医師や看護師たちでさえ、あまりの惨状に口元を覆って吐き気をこらえるほどだった。あまりにも理不尽な死だったからだろうか。魂だけになった私は、成仏することもできず、宙に浮いたまま変わり果てた自分の身体を呆然と見下ろしていた。その時、ふいに壁の向こうから聞き慣れた声が響いてきた。引き寄せられるようにすり抜けた先は、隣の緊急手術室。「玲奈、しっかりしろ!俺がついている、すぐに助けるからな!」大急ぎで手術着に袖を通しながら、慎也が愛しい人を必死に励ましている。執刀に向かう彼の横顔は、私と一緒にいた時には一度も見せたことのないような、張り詰めた緊張と焦燥感に満ちていた。やがて手術は無事に終わり、玲奈のバイタルが安定したのを確認して、慎也は深く安堵の息を吐き出した。「彼女を一般病棟へ」そう助手の医師に指示を出す。しかし、助手は何か言いたげな様子で、ひどく言葉を濁していた。「どうした?」怪訝そうに眉をひそめる慎也に、助手はおずおずと口を開く。「先ほど、こちらの患者と一緒に搬送されてきたもうひとりの女性のことですが……先
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